4-2-10(第284話) カンゾウでの別々行動~彩人編~
さて、みんながそれぞれ買いたいものを買いに行ったことだし、俺も何か買いたいものを探しに行こう。だが、闇雲に探しても、無駄に時間が過ぎるだけだと思うので、買いたいものをある程度絞る必要があるな。
「やっぱり食い物、か」
今の俺が必要としている物は食い物とは別かもしれないが、今の俺が欲しているのはこの国ならではの食い物だ。赤の国、青の国、緑の国でも新たな食べ物を見つけてきたからな。どれも結構偶然に近いタイミングで知りえ、食していた気がする。
「この国では新たな料理探求のため、食べ歩きするのも悪くないな」
きっと、こういう出店が数多くあるんだ。食べ歩きしやすくするために箸やスプーンを使わずに食える・・・携帯食?みたいなものを数多く取り揃えているはず。
「だが、それだけだとなぁ・・・」
なんだか、俺が食欲を満たすためだけにこの国に来たような感じを覚えてしまう。俺ってもしかして、食い道楽?いや、それはない。俺は日々の生活を豊かにするために日夜、食の研究をしているだけだ、うん。
「ルリ達はあのトランプモドキを探して買ってくるって言っていたし、俺は別のモノを買うか」
トランプみたいな遊び道具と食材以外となると・・・、
「魔道具、か」
俺は近場にある店を見ながらそう口を動かす。
「それじゃあ、何か珍しい魔道具でも探すか」
俺は魔道具探しに足を向かせ、
「人ごみは出来るだけ避けるか」
ボッチの性かどうかは分からないが、俺は人ごみを避けながら店を探す。
店を探し、人気の少ない箇所へとだんだん進んでいく。その間、俺は何を考えていたのかというと、
(やはり、人が少ない方へ行くのは、俺がまだ人に慣れていないからではないだろうか?だが・・・、)
自分の習性に関して考察しているところであった。やはりボッチというのは、自然と独りになることを義務付けられているのだろうか。どうしても人ごみに強い拒否反応を起こしてしまう時がある。人の視線が慣れていないのだろうか。それとも、人ごみに酔ってしまうからなのだろうか。
(でもまぁ、一番ひどかったあの時期よりはましか)
一番ひどかったときは、声をかけられたら条件反射で数メートル離れて拒絶反応を示す、なんてことが日常茶飯事だったな。あの時は、本当に家族も誰も信じられなかったからな。そういう意味で、人、という生き物が信じられなかったのかもな。今では真相は闇の中だし、もう気にしていないけど。そういえば、うちの親は、俺が急にいなくなって悲しんでいないだろうか。この世界に来てからいく月が経過しても、親の事を忘れた日はない。ま、考えなかった日はあるけどな!
・・・無理に明るく振る舞うと調子狂うな。俺はやっぱ、自虐してなんぼだな、うん。自虐してこそらしさが出るって、俺の個性とは何ぞや?
て、今は買い物のことについて考えないと!考えが逸れすぎだ!まったく、これだから俺は駄目なんだ。と、俺はまた自虐しつつ、よさそうな魔道具を探しに、人気のない店に入る。
「・・・」
どうやら人気の店からは挨拶の言葉もないらしい。この店の店員もボッチをこじらせたのだろうか。俺みたいな奴、そうそういないか。これはきっと・・・そう!俺が店内に入る時、挨拶していなかったから声をかけてこなかったのだろうな!きっとそうだ。そうに違いない!
「ごめんください」
俺は入店した際の挨拶をする。これで間違っていなければいいが。さて、店の反応は?それと、どんな商品が置かれているのやら。
「・・・」
どうやら、入店時の挨拶は、この店ではないらしい。いや、もしかしたらこの世界では、「いらっしゃいませ」なんて言葉を言わないのかもしれないな。
「それじゃあ勝手に見ますねー」
俺はどこに誰がいるか分からない店員に言葉を届けるよう、何回か言った後、商品である魔道具を見ていく。
「これは・・・」
俺はある魔道具に目がいった。その魔道具を手に取ろうと手をのばすと、
「その魔道具が気になるのか?」
「!!??」
どこからか声が聞こえ、伸ばしていた手をひっこませ、
(え!?ど、どこにいるんだ!!??)
俺は周囲の様子を目視で確認しようと必死になる。
「どこを見ておる。ここじゃよ、ここ」
「ここ?」
俺は、声が聞こえてきた方角へ目を向ける。そこには、
「え?」
それは、俺より小さな人間?であった。いや、見た目は俺と同じ人型っぽいが、こんなに小さい人間が俺と同じ人間だと思えない。こいつ、本当に人間か?
「やぁ」
その小人は、俺に気さくに話しかけてくれた。この人、少なくとも俺みたいなボッチではなさそうだ。コミュ力高そうだし。
「ど、どうも」
俺はこの小人の未知なコミュニケーション能力に恐怖し、声が震える。
「それよりその魔道具が気になるのかね?」
「え?あ、ああ」
この魔道具、初めて見るはずなのに、この形自体はよく見たことがあるんだよな。
「なら実際に使ってみるかい?」
「え?い、いいのか?」
「うむ。この魔道具の良さを知ってもらうためには、やはり実際に使ってもらった方がいいからのう」
どうやらここの店員は気前がよろしいらしい。
「それじゃあ、言葉に甘えさせてもらおうかな」
俺もちょっと乗り気で店員の言葉に賛同する。
「うむ。それじゃあ専用の道具を出してくるから、少し待っておれ」
そういい、小人の店員は奥にいった。
「これ、どう見てもあれ、だよな・・・?」
俺は再び気になった魔道具の形を見る。
「駒、ねぇ。久々に見たぞ」
それは、かつて日本で流行った遊具、駒であった。
その後、俺と小人の店員は、駒を使って遊び、楽しいひと時を得た。それにしても、まさか駒がこの世界にもあるなんてな。一応小さい時、独りでも出来る遊びをある程度出来るようにしようと、駒回しの練習をしておいてよかった。だけど、すぐに辞めたんだよね。え?その理由は何故って?そりゃあもちろん、駒を回す練習は独りでできたが、遊ぶには独りじゃ物足りなかったからなんだよね。やっぱり時代は駒より電子ゲームだな。
そう思っていたのだが、今久々に遊んでみたら、少し楽しいと感じていた。それに、この駒は地球にあった駒とは少し違う。
「は!ほ!ていや!」
それは、魔力を通して、駒をある程度遠隔操作できることである。何か、この駒の中心には特別な装置があるらしく、それを専用の棒?ぽい何かで操作するのだとか。そのおかげで、俺は駒になった気持ちで、相手の駒を止めようと必死になっていたのである。正直、ちょっと楽しいです。
「ふぅ」
結局5回対戦したものの、5回とも負けてしまった。この小人、やりよる。
「どうやら、楽しめたようだな。」
俺の満足げな顔を見て、小人の店員は満足したようだ。・・・これはもう、俺の負けだな。いや、別に勝負していたわけではないが。
「これら、買うよ。いくらだ?」
俺はこの魔道具、もといおもちゃを買うことにした。後でルリにプレゼントしてやろう。
「ほいよ。ありがとさん。それでいくつ買うつもりだ?」
小人の店員は感謝の言葉を言いつつ、購入個数を聞いてきた。そうだな・・・。
「7…、いや、8個で」
最初、俺達7人分だけ買えばいいと思ったが、あの角犬の卵の分も買っておこうと思い、追加で1つ買うことにした。こんなに駒買って、俺はこれから駒で大乱闘でもするつもりなのだろうか。
「・・・随分多いな。ま、こっちとしてはありがたいけどな」
そう言いながら小人の店員はまた奥に向かい、
「よっと」
残り6つの駒を持ってきてくれた。それにしても、その小さな体でよくそこまで力があるよな。どこにそんな力があるのだろうか。
「ありがと。お金払うよ」
俺は値札に書いてあったお金を払い、買い物を済ませる。
「さて、他におすすめの魔道具はないか?」
俺は小人の店員におすすめの魔道具の有無を聞く。
「・・・それは、魔道具の用途にもよるな。一体、どのようなことに魔道具を用いたいのだ?」
「う~ん・・・」
魔道具の用途、か。魔道具って便利だから、色々なことに使えそうなんだよな。
「とりあえず、生活に役立ちそうな魔道具は何かないか?」
俺はとりあえず、料理、お風呂等、生活関連の魔道具を欲した。ま、今以上に生活水準を上げても問題はないよな。かかる費用は食費と魔力費?ぐらいだし。…自分で言うのもなんだが魔力費ってなんだ?
「生活に役立ちそうな魔道具ねぇ・・・。ちょっと待ちな」
小人の店員は店の奥に入った。それにしてもこの店、俺以外誰も入店していないな。この店、何か欠陥でもあるのだろうか。だが、俺が見たところ、店員が小さい以外、どこも欠陥らしい欠陥が見当たらないのだが?そもそも、店員が小人、という点も欠点ではないか。
俺が少し考えこんでいると、
「おっとっと」
「!?」
小人の店員が何やら色々持ってきてくれた。
見たところ、半円状の物や円錐状のもの、後は・・・何これ?薄っぺらい・・・紙?いや、見たところ、材質は明らかに紙ではないな。もしかしたら、俺が無意識の内に、髪は白い、という色の固定概念が邪魔をしているのか?だが、触っている感じはかなりザラザラだ。やっぱ紙じゃないな。あ、そういえば、勝手に触ってしまった。
「わりぃ。勝手に触っちまった」
俺は小人の店員に謝る。最悪、この紙みたいな魔道具は買い取りか。別にいいけど。
「・・・別に構わないさ。見たところ、使われた形跡はないみたいだしな」
と、小人の店員は笑って言った。使われた形跡がない?
「そもそもこれ、どうやって使うんだ?」
俺はさっき触ってしまった紙みたいな薄っぺらな魔道具を触らないように指差す。
「もちろん説明するつもりだ。だが、言葉だけでは説明を聞いても分からないから、一お披露目するつもりだ」
「なるほど」
百聞は一見に如かず、というところか。この魔道具を使うのに、そんな難しい説明を要するのか。だが、言葉だけの説明も聞いておくか。
「二度手間になるかもしれないが、言葉での説明を先に頼む」
「分かった」
小人の店員は、俺の要望に素直に答えてくれた。
「この魔道具は【複写紙】という魔道具でな。この複写紙に記されているものを、魔力を通せばどこにでも複写できる魔道具だ」
「・・・はぁ」
なんだか、説明を聞いてもいまいちピンとこないな。
「一応ここに一枚、お披露目用の複写紙があるが、見てみるか」
「あ、ああ。頼む」
俺は小人の店員にお願いし、実際に披露してもらうことにした。
「まず、この複写紙には、この丸のマークを記してある」
「ふむふむ」
「それで、写したいもの、写したい箇所にこの複写紙を当てる」
「なるほど」
「それで、魔力を通す」
すると、小人の店員は複写紙に魔力を通し始めた。その複写紙が少し光始める。
十数秒後。
「そして、これを外すと、」
「おお!」
すると、さきほどまではなかった丸のマークがあった。
なるほど。ようするに、俺の【複写】と同じ効果を持つ紙か。
「それで、この複写紙の難点だが、この複写紙1枚に、1つしか記すことが出来ないんだ」
「つまり、最初に複写紙に丸を描いた場合、その複写紙は丸しか複写出来ない、ということか?」
「ああ、だが、チームメンバーのオリジナルシンボルを、自身の装備に付けることに便利でな、そこそこ人気がある商品だ」
「へぇ~」
要するに、白魔法に適性がないやつでも【付与】の応用、【複写】が出来るようになるのか。俺は何気なく使っているが、白魔法を使えるやつってかなり貴重だったんだな。これは持っといて損はないかも。1枚だけだと不安だし、
「それじゃあこれ、3枚ちょうだい」
2枚追加し、計3枚買うことにした。3という数字に意味は特に無い。
「ほいよ。それじゃあこれも、」
「ああ」
おれはもちろん、その分の代金を支払う。なんだか、大人買いをしている気分だ。一応所持金を確認してみるが、まだまだあるので使う時はとことん使おう。
こうして俺は、まだまだ買い物を続け、気付けば数万以上使っていた。
「ふぅー。大満足大満足♪」
いい買い物をしたおかげで、今日の俺はご機嫌だぜ♪今なら無償で誰か一人くらい救える気がする。誰かって誰?そんなものは知らん。
「さて、」
帰ろうとしたとき、奥の通路が気になり、ちょっと様子を見に行ってみた。
「なんか、だいぶ雰囲気が違うな」
最初に見たあの通りが華やかだとすれば、こちらの通りはかなり寂れているな。店もほとんどないみたいだから仕方がないかもしれないが、それにしても人通りが少ない気がする。
「こんなところでどんな店をやっているんだ?」
人通りの少ないところで経営するお店、か。なんだか、危ない香りがする。
そんなことを考えていると、ある店の看板が目に入る。
「?なんだ、あの店?」
店の看板を読んでみると、
「うほ!?」
思わず驚き、変な声をだしてしまった。何せ、
(しょ、娼館、だと!!??)
なんと、目の前にある店は娼館なのだから。
(この店に入れば、俺の性的妄想を現実に・・・!?)
い、いけない!俺には既にリーフ、クリム、イブがいるんだ。こんなところに入るわけにはいかない!だが、ああいう未知の場所には少なからず興味が・・・!?
俺はここで驚く。何せ、
「・・・」
その娼館から女性が出てきたのだ!て、当然か。娼館だもの。それにしても、
(なんか、辛そうだな)
今の俺に何が出来るか分からないが、なんか辛そうだ。もちろん、俺主観だ。傍目から見れば幸せそうな顔をしているのかもしれない。
俺がその女性を見ていると、
「・・・いらっしゃいませー♪」
「…あぁ」
女性が明るい顔、明るい声で話しかけてきた。それにしても、さっき一瞬、暗い顔をしていたのは気のせいか?
「このお店は初めてですかー?」
「あ、いや、入るつもりはないんだ」
俺が断ると、
「あ、そう、ですか…」
なんか暗そうにしていた。こいつ、娼館から出てきたってことは娼婦、という扱いでいいのか?年齢的には俺とそう変わらない気がする。それがこんなところにいて平気なのか?そんなことを思っていると、気持ちの余裕もあってか、
「なぁ?何か困っているなら手伝おうか?」
俺はスラスラと言葉に出していた。
まるで、答えが分かり、解答を書いているペンの動きのように。
次回予告
『4-2-11(第285話) ゆとりからくる人助け』
ヤヤに声をかけた彩人は、ヤヤに連れられてヤヤの自宅に招かれる。その自宅から、ヤヤは貧相な暮らしをしていたことが分かる。そして彩人は、ヤヤがやりたい仕事について聞き、ある職業のことをイメージする。
こんな感じの次回予告となりましたが、どうでしょうか。
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