4-2-5(第279話) 6並べ
あれからさらに数日経過し、訓練の成果もあり、【反射障壁】を展開する速度がだいぶ上がった。
【反射障壁】は、【魔力障壁】に反射を【付与】した魔法である。だからどうしても【魔力障壁】より展開する速度が遅くなってしまうのだ。そのタイムラグを出来るだけなくすため、俺は訓練し、タイムラグを縮めていった。これも訓練の賜物である。
(よし)
俺は心の中でガッツポーズしながら、
「【反射障壁】」
【反射障壁】を展開し、【反射障壁】を展開することに慣れていく。
さらに時が過ぎ、夕飯時。俺は夕飯を食べながら、今向かっている町のことについて聞いた。
「と言っても、私も人づてでしか聞いたことが無いので、詳しいことは分かりませんよ?」
「それでも教えてくれ」
「分かりました。では・・・、」
リーフから、これから向かう黄の国の街について聞いた。
まず、今向かっている街は、【カンゾウ】という街らしい。その街は、商業がかなり盛んで、多くの商人が売買のため、日夜街や国の中を駆けずりまわっているのだとか。そんな商魂たくましい人が多くいる国であり、カンゾウもその国に属する街の一つである。そして、そんな商魂たくましい商人が数多くいるからか、数多くの商品が今も大量に取引されているのだとか。
「でも、赤の国、青の国でも店はあったぞ?それ以上なのか?」
青の国も赤の国も店はあったと思う。なんなら、赤の国は朝市なんてやっていたから、かなり商業が盛んになっていると思ったが。
「私が聞いた限りですと、黄の国が最も盛んだと聞きましたね。ですので、赤の国以上に活発かと」
「へぇ~」
赤の国では香辛料を売っていたので、黄の国ではそれ以上の物を売っているとなると、ちょっと楽しみだな。
「…そういえば、黄の国は様々な魔道具の取引がされている、という話を聞いたことがある」
「へぇ」
ここでイブは、面白いことを言ってきた。様々な魔道具、ねぇ。
「どんな魔道具があるんだ?」
「…魔法鞄」
「魔法鞄?」
そういえば、前も誰かが言っていた気がするな。どんな効果のある鞄かは知らないが。
「それってどんな鞄なんだ?」
そう聞くと、イブは俺の腕を指差してきた。腕というより・・・このアイテムブレスレットを指差しているのか?
「これがどうかしたのか?」
「…アヤトが身に付けている魔銀のブレスレットのように、物を収納することが出来る魔道具」
「へぇ」
このアイテムブレスレットと似たようなものがあるんだな。やはり、手荷物はできるだけ少なくしたいよな。それで、多くの荷物を持ち運びたい。この矛盾していることを解決するのがこれ、アイテムブレスレットなんだよな。これに収納すれば、手荷物を少なくしつつ、荷物を多く持ち運ぶことが出来るのである。
「そんな便利な魔道具があるなら、他にも便利な魔道具があるかもしれないな」
「…後、遊びに使われる魔道具もある」
「ほぉ?それは是非とも聞きたいものだ」
遊び目的で作られた魔道具か。きっと、俺の堕落した将来に必須な魔道具だな。これは是非ともカンゾウに寄ったら買わなくてはな。
「…確か・・・カードの一種、だったと思う」
「カード?」
カードで遊び?もしかして、
「それを使って、“俺のターン、ドロー!“とか言わないか?」
「…?言わないけど?」
「あ、そう。いや、何でもないです。続けて下さい」
うん、つい某トレーディングカードゲームを想像していたんだが、違うみたいだ。
「…確か、6並べに使う魔道具、だったと思う」
「・・・」
6並べ?7並べ、じゃないのか?聞きたい意欲を抑えないと、さっきみたいに変なことを聞きかねないからな。
「イブお姉ちゃん、6並べって何?」
ここで、俺が疑問になっていたことをルリが聞いてくれた。ルリ、ナイス!
「…簡単に言うと、」
ここでルリは地面に、1から12までの数字を書き記す。
「6を基準に、1から12までの数字を順番に並べる遊び」
「「「へぇ~」」」
ここでルリだけでなく、モミジとクリムまで感心していた。モミジは知らなそうだが、クリムは知っていてもおかしくないと思うのだが・・・?ま、そんな個人的見解はどうでもいいか。どうせ日中訓練しまくって、遊びなんかしなかったのだろう。多分、だけどな。
というか、遊びが完全に7並べと酷似しているのだが?
「数字って、1から12までしかないのか?」
「…確かそうだったはず」
「そうか」
俺の知っている7並べにはトランプを使用していたな。Aの1から11のJ、Q、Kまでの13枚のカードを使ったな。後、ハート、スペード、クローバー、ダイヤの4種類のマークと、赤と黒の2種類の色に分けられていた気がする。赤がハートとダイヤ、黒がスペードとクローバーだったな。これら計54枚のカードを使って7並べをしていたな。もちろん、独りで、ですが。
え?一人で7並べが出来るのかって?もちろん出来るさ。架空のプレイヤーを作ればね。だから俺は1人4役くらいやって、たまに7並べしていたものさ。あ~、あの頃が懐かしい。たまにはやろうかね。
(いや、辞めておくか)
今はルリ達がいるからな。やるとしたら、ルリ達と一緒にやるか。
「?…どうかした?」
「いや、何でもない」
俺が過去の事を思い出していると、イブが聞いてくる。まずい。ちょっと過去の事を考え過ぎて、イブの話を流しで聞いてしまっていたのかも。ちゃんと聞かなくては。
「ところで、イブはその7並べ、じゃなかった。6並べはやったことあるのか?」
「…ん。前に家族一同で何回かしたことある」
「へぇ」
きっとイブの家族は和やか、だったのだろうな。俺から見れば、あの二人は恐怖の対象なんだよな。俺を陥れるし、戦う羽目になったし。
そういえば、俺は家族とそういった遊びをした記憶はなかったな。俺の記憶の中では優しい家族だったのだが。なんでなんだろう?…ま、考えていても仕方がないな。
「ねぇねぇ、イブお姉ちゃん」
「…ん?何、ルリ?」
「その・・・6並べ?ルリもやってみたい!」
やはりルリの精神年齢は子供のようだ。そんな遊びをやってみたいなんて。俺は子供の遊びではなく、大人の遊びに興味津々である。何せ、俺は思春期の男の子なのだから!…これ、口にださなくて大正解だな。出していたら、ここにいるイブ達に引かれていたことだろう。
「…分かった。カンゾウに寄ったら買おう。そしてみんなでやろう」
「うん!ルリ、楽しみ♪」
ルリは鼻歌交じりに、
「あ~。早く着かないかな~♪」
「・・・」
「あ、卵ちゃんも楽しみにしているの?ルリもだよ~♪」
ルリは卵と雑談しに、この場を少し離れた。
「私もやりたいです」
クリムが話に入る。どうやらクリムも話を聞いて、やってみたくなったらしい。
「…いいけど、脳筋には難しい遊びだから、無理だと思う」
そんなイブの言葉に、
「大丈夫です。食べることしか興味の無さそうな胸無き王女でも出来るんですよ?私に出来ないはずがありません」
クリムは言葉で返す。
双方、薔薇の棘の如く。
「「・・・」」
そして、
「脳筋お化け」
「食欲お化け」
言い合いが始まる。二人が互いの悪口を言いながら、次第にこの一言に収束した。
「貧乳」
「貧乳」
その言葉をお互い、何十回も繰り返し言い合った後、キャットファイトが始まった。
「ほら。二人で醜い喧嘩なんて辞めなよ、ね?」
と、貧乳に天敵である巨乳の持ち主、リーフが現れる。クリムとイブはリーフの巨乳を睨みつけ、
「「うっさい!!このおっぱいお化け!!」」
二人してまったく同じ言葉でリーフを罵る。・・・あの二人、本当に仲いいよな。少なくとも、リーフを罵る言葉が同じなくらいには。
「な、なな!?」
リーフは顔を変色させ、
「私だって、好きでこんな胸に育ったわけじゃないんですよ!?肩は凝るし・・・、」
そう言い始めた時点で、クリムとイブの目は鋭さを増す。
「「ぎえぇーー!!」」
最早声になっていない声をあげ、クリムとイブはリーフに襲い掛かる。
「キャ!?」
リーフは押し倒され、仰向けになる。
「これですか!?さきほどのふざけた発言は、この無駄に育っているおっぱいが原因ですか!?」
「…こんなに大きいなんて、許さない」
「あん♪」
二人はリーフの胸を鑑定するように揉み続ける。やべぇ。なんか、いい。
「・・・ねぇお兄ちゃん?お姉ちゃん達は一体何をしているの?」
俺は即座にルリの眼を塞ぎ、
「ん?ルリにはみせられない醜い争いだから、ルリは見なくていいからな?」
「でもさっき、おっぱいがどうとか・・・、」
「忘れろ。な?」
俺はルリの耳元で忠告する。ルリには、
「「「ふぬぬぬ・・・!!!」」」
あんな風に醜い争いをしてほしくないからな。それにしても、最近はリーフまでキャットファイトに参加しているな。
「ふ~ん。それじゃあお日様に当たっているモミジお姉ちゃんのところ、行ってくるね♪」
「お、おう」
「卵ちゃんも一緒に行こう?」
「・・・」
「うん!」
そう言って、今も日向ぼっこしているモミジの所へ行った。
・・・。
牛車内ではイブ、クリム、リーフがキャットファイト。
牛車前ではクロミル、モミジ、ルリ、卵が楽しく談笑している。
おかしい。
今。この場には卵を含め8人いるはず。それなのになぜ、俺はボッチに慣れることが出来てしまうのだろうか。
(な~ぜ~?)
・・・ま、別にいいんですけどね?普段からボッチを密かに宣言している俺としては、ボッチでいることに慣れているのでそれほど困らないし。でも、違和感は覚える。これだけ近くにいるのに、どうして俺は・・・。
(・・・なんかあの3人、エロイことをしているな)
思考をずらし、今もキャットファイトしている3人を見る。それは、女性同士とはいえ、胸を触り触られ、エロい声を出さないよう必死にこらえている顔がなんとも・・・♪
(・・・もう見るのやめよう)
これ以上見ていると、なんだか無意識に襲いたくなってしまうからな。この場で襲ってしまうと色々まずい事態になるので、今は視線をずらして自身を律するようにしよう。
(にしても、いいな)
次はルリ達4人を見る。ルリ達は楽しく談笑し、よく笑い声が聞こえる。ほとんどがルリの笑い声なのだが、全員の笑い声が聞こえてくる。和やかで、穏やかで、懐かしく感じる。
(まるで、俺の親の一幕を見ているような・・・)
自身の親の会談を思い出させてくれる。二人だけにしか分からない会話だったけど、その会話風景を見ているだけで、親が仲良しだと感じることが出来て、俺は嬉しかった。それと同時に、寂しくもあったけどな。そんな複雑な感情を抱きながら俺は4人を見、そして、
「zzz・・・」
いつの間にか寝てしまった。
「お兄ちゃん?」
「・・・んあ?」
「そろそろ見えてくるって」
「そろそろ?一体何が・・・?」
「あ、見えてきましたよ」
ここでモミジの声が聞こえてきたので、声が聞こえてきた方角に顔の正面を合わせる。その方角にはモミジがいて、モミジはある方角を指し示していた。俺はその方角を見てみると、
「おお?おお!?」
これまでの景色とは異なる景色が見え始めた。やっぱり、初めての地って少なからず興奮するな。未知のものに興味が湧くってこのことなんだろうな。
「いよいよですね、アヤト」
なんかいつの間にかリーフ、イブ、クリムの3人のキャットファイトは終わっていた。見たかった気もするが、見ると性的に興奮してしまい、後先考えられずに襲っていたかもしれないから、キャットファイトが終わっていて良かったのかも。
「ああ。楽しみだ」
さて、新たな国、新たな街でどんなことが待っているのだろうか楽しみだ。
次回予告
『4-2-6(第280話) 3姉妹が密かに受ける格差』
彩人達が黄の国の町、カンゾウに向かっている中、今日もヤヤ、ユユ、ヨヨの3姉妹はカンゾウで生活している。だがその生活はヤヤの仕事で成り立っており、その仕事はまっとうなものではなかった。そしてユユは、ヤヤの同業者と思われるもの達から非難をくらってしまう。
こんな感じの次回予告となりましたが、どうでしょうか。
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