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色を司りし者  作者: 彩 豊
第二章 メイズのような意志を持つ商王と三姉妹
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4-2-3(第277話) 卵を迎えての歓迎会

 あれから俺は、というより俺達は卵に対して驚くべきことを聞いた。それは、

「え?この卵ちゃんも一緒に付いて行くって。聞いていなかったの?」

 なんと、俺達の旅に、この角犬の卵もついて行くそうなのだ。俺は聞いてないとルリに言おうとしたが、心当たりがあった。

(もしかして・・・?)

 先日、卵が一人一人に頭を下げていた時のルリの発言だ。確かあの時、ルリはこう言っていた。

“うん!これからもよろしくね!”

 と。あの言葉を聞いた時、ルリの言葉の意味を深く聞いておくべきだったな。それにしても、これからもって意味は、これから俺達の旅について行く、という意味だったのか。何気なく流したせいで、今こんなに驚くはめになるとは。

「・・・」

「『どうしても駄目でしたら、私はこれから一人でこの森で生きていきます』だって」

 野生に住まう生物なら当たり前な事だと思うのだが、こいつは卵。戦闘能力は皆無だろうし、採取もままならないだろう。・・・そういえばこいつ、今までどうやって生きてきたのだろうか。ここまで来るには、自身の体をクルクル回転させれば行けるかもしれないが、その間の食事はどのようにしていたんだ?そもそも、こいつはどうやって栄養を摂取しているんだ?

 色々な疑問が思いつくが、いずれにしても、不安定な生活を送っていたのだろう。少なくとも、卵が孵化するまで、誰かが面倒を見る必要があるかも。親と子は生物的に、種族的に同じではないが、親代わりにはなるかも。それに、こいつに恩を売れるチャンスだ。後でどんな恩になって返してくれるか楽しみだ。

「・・・ひとまず、こいつが孵化するまで面倒を見たい、と思っているが、どうだろうか?」

 俺の欲深い考えは言わず、平面状だけ言った。理由とか、付加したその先のことは言わなくてもいいだろう。

「「「「「「賛成!!!!!!」」」」」」

 どうやら俺の意見に賛成してくれたみたいだ。さきほど周囲を囲んでいた時に、あの卵に色々していたからな。その時に情が生まれたのかも。その感情は出来るだけ大切にしてほしいものだ。俺は普段醜い感情や考えしかないからな。後自虐も!・・・後の自虐はいらなかったな。こういう余計なことを言うのは流石だな。

 さて、

「では、卵がこの旅に参加する、ということで、いい機会だし、これを機にやってみるか?」

「「「「「「「・・・???????」」」」」」」

 俺の独り言に、俺以外の全員が?を浮かべていた。ま、俺にしか分からないよう俺だけに聞こえるよう呟いたわけなのだが、全員に聞こえていたようだ。俺の独り言もだいぶ声量が大きくなっていたみたいだ。今後はもっと小さく呟こう。

「お兄ちゃん、一体何をやってみるつもりなの?」

 ルリのこの問いに、俺は笑顔でこう答える。

「歓迎会だよ」


 歓迎会。

 言葉をよく耳にするが、俺は一度もしたことがない。その理由は歓迎される場所が自宅の一つで、俺はそれ以外、どこにも所属していないからである。所謂無所属、というやつだ。だから、歓迎会のノリとか、何を用意すればいいのか、なんてひとづてでしか知らないのだ。・・・本当に俺ってボッチだったんだな。自分でそう思ってしまった。

 で、でも!今はこんなに多くの人と旅をしているし、別にいいもんね!俺、こいつらと一生を添い遂げるもん!・・・恥ずかしい覚悟を口に出さなくてよかったと安堵しつつ、俺は歓迎会の用意を行う。といっても、本当にひとづてでしか聞いたことが無いので、ひとまず料理を用意した。大きな肉を大胆に焼いたステーキ、肉を魔法でミンチにし、つなぎを混ぜ、高さ低めの円筒状に形を整え、しっかりと焼き色をつけたハンバーグ。もちろん、野菜の添え物は必須で忘れない。そして、みんな大好きホットケーキ。これぐらいあれば大丈夫だろうか。8人いるので、8人分用意したつもりだが、これで足りるかね。いや、みんなも何かした用意してくれているから、これで足りるか。それにしても、無意識に卵まで食事する前提で数に含んでしまったが、卵はこれらの料理を食うのか?そもそも、どうやって食うのか非常に気になる。食っても食わなくてもどっちでもいいように、用意だけはしておくか。みんな食うし。本当に食うし。

 もちろん、俺だけでなく、他のみんなも、歓迎会の準備をしている。

 まずはルリだが、

「ふんふ~ん♪」

 ホットケーキを大量に作っていた。

「あ、モミジお姉ちゃん。それはまだ生焼けっぽいから、もうちょっと役と美味しくなるよ♪」

「え?あ、ありがとう、ルリさん」

 モミジと一緒に。なんか、ルリがモミジに料理を教えている光景を見ると、ルリの成長を感じる。出会った当初は料理なんて無縁なヒュドラだったのに。今では料理できる少女になって。何か俺、ちょっと感動しちゃうな。…今更だが、人化って便利だよな。どんな魔獣も人化出来たら、料理でどの種族でも和解できると思う。そんな気を、ルリを見ていたら起きてしまった。え?水しか飲まない種族とかいたらどうするのか、だって?そんなもん、甘い炭酸飲料でも飲ませておけばいいだろう。あれ?炭酸ってどうやって出来ていたっけ?・・・忘れた。今度調べておくか。後々使えるかもしれないし。

「じゃあクロミルちゃん。こっちの野菜は、私が切るから、クロミルちゃんは切った野菜に下味をつけておいてくれる?」

「承りました」

 一方、クロミルとリーフは、ルリ達とは別の料理を作っていた。何の料理を作っているかは分からないが、あの二人が作る料理、きっと美味しいだろうな。

「ねぇ?どうして私達は料理じゃなくて、テーブルや皿の準備なの?」

「…筋肉お馬鹿は、隠し味とか言って、香辛料をバンバン入れたから」

「そういうイブだって、味見とかカレーをかなり食べていたくせに!この食欲お化け!」

「「・・・」」

 クリムとイブは料理、ではなく、食事に使うフォークや皿、それと簡単に野営の準備をしてくれている。料理をしていないのは・・・まぁ、さきほど二人が言っていた通りだ。一人で食べる分には、どんな味付けも、どれだけつまみ食いしてもいいんだけどね。今回は歓迎会。味を大幅に変えたり、味見と称して大量に食べたりするのは避けていただきたいものだ。ま、今回はめでたいことだし、二人とも気分が上がり過ぎてはっちゃけすぎてしまった、といったところだろう。・・・だよな?こういう時はサラリと流しておこう、うん。

「・・・」

 卵は・・・何をしているのだろうか?俺にはただ突っ立っている?座っている?じっとしている、か。じっとしているように見える。下手に動かれるより、じっとしてもらった方がいいか。

 そして俺達は、着々と歓迎会の準備を進めていく。


 歓迎会の準備兼野営の準備も完璧に終わり、俺達は今、木製のコップに飲み物を渡し、一人一人に渡している。

「・・・さて、全員にコップは行き渡ったようだな」

 ちなみに卵は、コップを持つ手がないので、卵の前に置いている。

「それじゃあ料理も揃ったことだし、乾杯の音頭を・・・卵、お前にとってもらうか?」

 と、俺は卵に話を振る。こういう無茶ぶりする先輩、いそうだよな。ちなみにいる、と言い切らない理由は、俺がこういう催しを経験していないからである。ボッチはこういう歓迎会をしないのだ。・・・なんだかボッチって、損している気がする。交流があれば、こんな風に遊ぶことも出来たのにな。今更こんなことを考えていても遅いわけなのだが。

「・・・」

「『私より、もっと相応しい人が行うべきです』だって」

 ま、そりゃあ音頭がいつでもとれる人だっているだろう。俺とは真逆のタイプだな。俺が音頭をとったら、その後の催しは暗い気分で行われてしまうことだろう。もちろん、乾杯の音頭なんてとったことがないので推測しかできないのだが。

「俺は、卵が来たからこの歓迎会を思いついたわけだし、きっかけをくれた卵に一言言ってもらいたいんだが、みんなはどうだろう?」

 ここで俺はみんなに意見を求める。俺もボッチじゃない自覚が芽生えてきたのかもしれないな。良い成長だ。

「…アヤトに賛成。異論はない」

「別に私は構いませんよ?そんなことで恨むほど、私の心は狭くありません」

「卵ちゃんがきっかけでこの歓迎会が開かれるわけですし、いいんじゃないですか?」

「私はご主人様の意志に従います」

「わ、私なんかが意見するなんておこがましいです!もちろん賛成ですよ!?」

「良いと思うよ~♪」

 よかった。反対の意見はないみたいだ。遠回しに反対している、なんて曲解はしなくても大丈夫そうだ。

「だって。それじゃあ卵、乾杯の音頭、よろしく。後、ルリは翻訳な」

「うん!」

 そして俺達は、卵をじっと見つめる。

「・・・。・・・」

「「「「「「「・・・」」」」」」」

 なんか、卵が自身の体をゆっくりと回しているな。何かの踊りでもしているのか?それとも別の意味でもあるのだろうか。

「・・・」

「『えっと・・・これからみな様に迷惑をかけると思いますが、よろしくおねがいします』だって」

「・・・」

「『それでは乾杯です』だって」

 このルリの翻訳を機に、

「「「「「「かんぱーい!!!!!!」」」」」」

 全員がコップの縁をぶつけ、音を鳴らし合う。コップは金属で出来ていないので、良い音は鳴らなかったが、そんなことは関係ない。こういうものはノリだ。多分、だけどな。もちろん、

「乾杯」

 卵の分のコップも、縁をぶつけて音を鳴らす。やっぱりちょっと音が鈍いかもな。

 その後は、もうちょっとしたお祭り騒ぎだったと思う。

「イブお姉ちゃんには負けないからね!」

「…望むところ」

 イブとルリが早食いで勝負をする。

「やっぱホットケーキにはこの辛味が合うね。モミジちゃんも一口どう?」

「わ、私なんかがいただくなんてお、恐れ多いですぅ!」

 クリムとモミジは、ホットケーキを和やか?に食べている。

「卵ちゃんは、どれが食べたい?」

「・・・」

「ルリ様の話によると、先日、ルリ様はホットケーキを卵様に差し上げたとのことでした。であれば、ホットケーキは如何でしょう?」

 クロミルとリーフは、卵はどんな食べ物を食べるのか、どんな食べ物が好きなのかを聞き、自身なりに解釈し、会話を繋げていた。

(やっぱり、いいな)

 俺としてはもっとこう・・・性に乱れたい、じゃなかった。こういった催しを開き、みんな楽しく飲み食いする。もちろん、普段から楽しく飲み食いしているつもりだが、このよう・・・宴会?みたいな雰囲気で食べるのはいいことだと実感した。だから宴会は無くならないんだろうな。

 俺が一人で食べていると、

「ふぅ」

 早食い勝負を済ませたルリがこちらに来て、俺の近くに座る。

「お疲れ。それで、どっちが勝ったんだ?」

 様子を見ればある程度予想できるが、それでも一応聞いておくとしよう。

「ん~。ルリの勝ちだよ~。でも、もう少しで負けるところだったから、危なかったよ~」

 と、負けて悔しがるイブを背後に、ルリは接戦アピールをした。ま、楽しめたのであればそれでいいか。

「お兄ちゃんはさっきからずっと食べているだけだけど、それでいいの?」

「別に俺はいいよ。見ているだけで満足だし」

 ボッチ慣れしている俺としては、話す方が疲れるんだよな。もちろん、独り言は別ですけど。

「ふ~ん。ルリもちょっと休憩~♪」

 と言いながら、ルリはホットケーキを食べ始める。休憩って、食休みの事じゃないのか?というか、あんなに食ったのにまだ食うとか、胃袋強すぎるだろ。

「・・・お兄ちゃんは、この光景を見て、どう思う?」

「・・・え?」

 ルリが何だかよく分からないことを聞いてきた。この光景、か。みんなが他の思考に飲み食いしている光景のことを指し示しているのであれば、俺は幸せかな。

「ルリはね、幸せ♪」

 そう言い、ホットケーキを置き、俺の胸に頭を預ける。

「だからね、この場にルリがいるきっかけをくれたお兄ちゃんには感謝しているんだよ」

「・・・そうか」

 俺は下手に言葉を飾らず、ルリの言葉に対して相槌を打つ。

「だからお兄ちゃん、こういうことはもっとやろうよ。そしてさ、」

 ルリは頭を起こし、体を立たせて、俺と対面する。

「もっと美味しいもの食べて、みんなで笑顔になろう!」

 そんなルリの素直な笑顔に、俺も思わず、

「そうだな」

 笑顔になっていた。

 今回、とんだ思い付きで歓迎会を開いたが、これからはこういった・・・飲み会?宴会?をマメにやっていこうかな。

次回予告

『4-2-4(第278話) 新たな魔法の訓練』

 卵を旅の仲間に加え、旅を続けていたある日、彩人は新たな魔法を思いつき、試しに実験してみる事にした。


 こんな感じの次回予告となりましたが、どうでしょうか。

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