4-1-15(第269話) 角犬の卵捜索開始~その5~
「ていやー!」
「…邪魔」
クリム、イブは角猫達複数を相手に奮闘を始めていた。
「ワンワン!」
「ガ、ガウ!」
角猫達の噛みつき攻撃に対し、
「あぶ、ない!」
クリムは向上させた身体能力で躱し、
「…」
魔力で形成した腕に噛ませ、直接的な痛みを無くす。そして、噛まれた瞬間に、もう片方の魔力の腕ではたき、角猫達を吹っ飛ばす。
「やっぱ、そんな攻撃では倒れてくれませんか」
「…クリムは攻撃すらしていないくせに」
「はいはい。それじゃあ私も攻撃するので、援護お願いしますね!」
そう言い、クリムは駆け出す。
「…あ」
ちなみに、このクリムの提案に、イブは許可をだしていない。それどころか、言葉を発していない。
「…まったく」
呆れつつ、イブは近づいてくる角猫達を巨大な魔力の腕で追い払う。クリムは拳に炎を纏わせ始める。
「【炎拳】!」
その炎を怖がってか、角猫達は後ろに下がり始める。その様子を見たクリムは、ニヤリと笑みを浮かべ、
「もっと、燃えろ!」
【炎拳】の炎を大きくする。角猫達は目に見えるように怯え、さらに後ろに引き戻る。
「「「・・・」」」
角猫達は収縮しながら少しずつ後ろに引きさがり、引き下がる。
そして、
「「「ガウアー!!!」」」
クリムではなく、イブに向かって一斉に攻撃を始めた。本能的にイブなら勝てると思ったのか。
「イブ!」
クリムはイブに駆け寄ってサポートを試みようとするが、
「…いい」
淡々と言い、
「…【滅拳】」
黒く染まった拳を周囲に叩きつける。
「「「!!!???」」」
瞬間、地面が消えた。一部ではあったものの、その現象に角猫達は恐れを抱き、イブから離れる。
「やりますね、イブ」
「…当然」
イブの口角は若干上がっている。
そして、次に狙いを定めたのは、
「「「ガー!!!」」」
地面であった。
「?」
クリムは何をしているのか分からず、拍子抜けとばかりに体から力を抜く。
「!?…クリム、駄目!」
その様子を見ていたイブは声をあげて警戒を促すが、時は既に遅かった。
「「!!??」」
地面から大量の砂ぼこりが舞い、二人の視界を奪う。
「ケホッケホ。まさか角猫達はこれを狙って…?」
クリムは【炎拳】を発動させたままである。大量の砂ぼこりが舞っている中、煌々と燃えている火はその存在感を砂ぼこりの中でも表している。そのさまを角猫達は見逃さない。
「「「ガー!!!」」」
角猫達は目視可能なクリムを狙う。今度は、火にあたらないよう、頭や足を狙って。
「クリム!」
イブが声を挙げて近況を知らせようとする。
「心配ないよ!」
だが、クリムはイブの心配をはねのけ、炎をさらに大きくしていく。
「これはまだ調整中だったけど、いいか」
そんな諦めの言葉と共に、
「【炎装】」
クリムは炎を身に纏う。
「「「!!!???」」」
さすがの角猫達も、炎を身に纏った人間を噛めず、直前で行動を止める。そして、クリムの【炎装】の炎が空気の流れる方向を変更させ、砂ぼこりがクリム周辺から離れていく。
「「「ガルル…!!!」」」
何かしようと角猫達は考えるが、殴っても蹴っても噛みついても燃やされてしまうと考え、
「「「ガー・・・」」」
今度は角に魔力を集中し始める。
「ふぅ。これでなんとかなったかな?」
角猫達が角に魔力を集中させていることも知らずに呑気に額の汗を拭う。
「…このお馬鹿。もっと今の状況に危機感を持つ」
「へ?」
このイブの警戒に驚きつつ、クリムは周囲を見渡す。そして、
「…なるほど。そういうことですか」
クリムは現状を理解する。
「…それで、私は【破滅光線】で対抗するけど、クリムはどうする気?」
「私ですか?私は・・・、」
クリムは少し考えた後、
「イブを応援します♪」
と、笑顔で言った。
「・・・」
イブは何も言わず、自身の魔法の発動に集中する。
「冗談よ、冗談」
クリムは慌てて先ほど言った言葉を訂正する。
「…なら早くする」
「言われるまでもありません」
クリムは魔力を高め、
「【炎獄】」
「「「!!!???」」」
角猫達を一方だけ開かせ、後の方向は閉じ込め、逃げ場を無くす。
「これで狙いやすくなったはずです」
このクリムの魔法に、
「…クリムにしては上出来」
イブは少しだけ笑う。
「ガウ!」
「「「ガウアー!!!」」」
そして、
「…【破滅光線】」
角猫達とイブ、それぞれの攻撃がぶつかり合う。
「…クリム」
イブは撃った直後、背中から圧力を覚える。
「今の私にはこれしか出来ません。ですので、後はイブの頑張りしだいです」
そう言い終えると、さらに体が安定する。
「…上等」
イブはクリムに体を預け、【破滅光線】に集中する。
「「「ガ―――!!!」」」
「・・・」
「いっけぇぇぇーーー!!!」
角猫達、イブ、クリム、それぞれの思いが衝突し、せめぎあう。
勝ったのは、
「「「がーーー!!!」」」
「や、やった」
「…ん」
クリムとイブであった。クリムがルンルン気分で角猫達に近づこうとする、
「…待った」
「ぐべら!?な、何するのよ、イブ!?」
だが、イブはそのクリムの行動を強制的に止める。
「…まだあいつらはやられていないかもしれない。だから、警戒を解いてはだめ」
「は!?そ、そうでした。では、さきほど消えた【炎獄】をもう一度発動させておきましょう」
そう言って、クリムは【炎獄】を発動させ、角猫達を閉じ込める。
「これで後はアヤトとあの大きな角猫だけ、ですね」
「・・・ん」
「?どうしましたか、イブ?何か心配でも?」
「…あの角猫、角が3本あった」
「さきほども言っていましたね。それが何か?」
「…確か、覚えている範囲だと、角猫に生えている角の本数が多ければ多いほど、使える色魔法の種類も多くなるって聞いた覚えがある」
「え!?そ、それってつまり…?」
クリムの考えにイブは同意する。
「…私の間違いじゃなければ、あの角猫は複数の色魔法を使える」
「ホオ?オヌシノトコモナカナカヤルデハナイカ」
「それで、用件は何か聞かせてくれないものかねぇ?」
「ソレハ、」
「!?」
こいつ!急にダッシュしてきやがった!思わず神色剣で受け流したが、一瞬の油断は一生の後悔に繋がりそうだ。
「アノイヌドモダ」
「犬?犬ってあの角犬達のことか?」
「アア。アヤツラトハイズレ、ケッチャクヲツケネバナラヌ」
「決着、ねぇ」
こいつの言う決着って、勝負の優劣のことか?勝負はおそらく、肉弾戦のことを言っているのか。
「だったらそれは後にしてくれないか?」
「ナゼダ?」
「何故って、今、俺達とある用件があって立て込んでいるんだ。だからその後にしてくれ、な?」
と、俺は提案する。先に角犬達と話していたわけだし、納得してくれることだろう。
「ダメ、ダ!」
「!?」
だから!なんでこいつは話中にいきなり不意打ちを仕掛けてくるんだ!?落ち着いて話に集中できないじゃないか!?いや、もしかしたらこいつの狙いはそこなのかもしれない。
「何で、だよ!」
俺は聞きながら神色剣で完全に受け流し終え、剣から盾へと変形させる。
「ヨワキセイハツヨキセイニクワレル。シゼンカイノオキテ、ダカラダ」
「自然界の掟、か」
要するに弱肉強食、てことなのかね。確かに、色々と強い者が優遇され、弱い者は強い者に食べられる。自然界の掟というが、俺周辺でも似たようなことは起きていたな。
「だから、どっちが強いか今決めたい。そういうこと、か!?」
だから!俺が話している最中に攻撃してくるんじゃねぇよ!!本当、空気の読めない奴だな。まるで地球で小学校に通っていた俺みたいだな。…この例えは地味にくるからもうしないでおこう。精神的に辛くなるからな。
「ソウダ。イマコソケッチャクヲツケ、ワレラノシタデエイエンニウゴイテモラウ」
「・・・」
なるほど。こいつらは奴隷、という存在が欲しいのか。それにしても、自然界の掟、という言葉は便利だよな。その言葉を言えば、どんな理不尽も強さだけで成り立たせることが可能であると言っているのだからな。
・・・その考え、ムカつくな。
確かに、優劣を決めるのは悪いことではないと思う。その優劣を決めるお題で力、というのも悪くない。だけど、そうだとしてもイラつくんだ。
なんでこんなにイラつくのかが分かった。つい最近、そんな理不尽を見てきたからだ。
具体的には、あのモミジに対する理不尽なまでの暴力。さらにその暴力を紐解くと、学校でいじめられた俺を思い出させてくれる。
本当は違う事だってわかっているはずなんだ。いじめ問題と自然界の掟を同一な問題にするのは変なのだと思う。
それでも俺は嫌だ。地球で弱者だった俺が偉そうなことを言う気は無い。言える気もしない。けど、
(そんなことを言われて、我慢できるか)
弱肉強食だけで、強さだけで全てを決められるのは違うはずだ。
だが、そんな言葉を、他人からすれば薄っぺらな言葉を言われても何も響かない。なら、
「だったら、俺がお前を倒したら、お前は俺の言う事を聞くんだよな?」
「オマエガオレヲタオス、ダト?」
「ああ。倒して、言う事を聞かしてやるよ」
こいつが提示した自然界の掟に従い、力で黙らせてやる。その上で、俺の言葉を効かせてやる。
「ダッタラ、シネ」
「!?」
瞬間、角猫の角先に魔力が溜まり始め、俺めがけて放射された。俺は迷わず神色盾を構え、やつの攻撃を防ぐ。
「この程度なら、何度でも防いでやるぞ?」
俺は挑発気味に誘う。出来るだけ憎たらしく、当時いじめていた奴らの口調を真似て。
「!?ナラ、コンナモノハドウダ?」
「は?」
俺は呆気にとられる。何せ、あの大きな角猫が空中に火、氷、雷を発生させたのだから。
「クラエ!」
「え?あ!」
俺は呆気にとられていたせいで、火はなんとか躱せたものの、氷を直撃されてしまい、雷をもらってしまう。
「あ、が・・・」
雷に打たれた俺は、声も体もろくに動かせられず、そのまま硬直してしまう。
「タンノウシタミタイダナ。ツギハシゼンカイノオソロシサ、シヲミセテヤル」
「・・・!」
角猫は俺の動けない様子にも関わらず、大きな体を機敏に動かし、俺に接近してくる。
(うご、け!)
俺は右方向に急旋回し、なんとか角猫の攻撃を受け流し、時間を稼ぐ。
(ち!)
だが、俺に安息の時間はない。角猫は旋回して横になった俺をニヤリと笑い、鋭くとがった爪で俺を攻撃しようと前足を振り下ろす。俺も負けずに神色盾を俺と角猫間に出し、角猫の攻撃を防ぐ。
「メンドウナ。タテゴトツブシテクレル」
角猫は俺を盾ごと潰そうと、前足に力をかける。俺は寝っ転がり、背中を地面に預けているため、簡単に押し潰されることは無いが、押し返すほどの力も現在発揮できず、この状況のまま均衡する。
「ウセロ!」
角猫は持て余していたもう片方の前足を使い、俺を吹っ飛ばそうと振り下ろす。
「!?」
俺は神色盾で防いでいたので、角猫の攻撃に気付かず、角猫の攻撃をくらい、吹っ飛んでしまう。
「オマケダ」
角猫はまた火、氷、雷を出現させ、いっぺんに俺の所へ発射する。爆風が放たれた後、煙が舞う。その煙が十分に晴れた後、
「!?」
「どうした?攻撃されたら防御するのは普通だろ?」
俺は【魔力障壁】を張り、角猫の攻撃を防いでいた。
「うう、ガー!」
大きな角猫はさらに追い打ちを仕掛ける。
「【赤色気】」
俺は目を赤くさせ、一瞬で角猫との間合いを詰める。
「!?」
角猫は俺の行動に驚くも、時すでに遅し。俺は神色盾で思いっきりぶん殴る。
「ガァ!?」
角猫は盾と地面の間に挟まれ、顔が細長くなっていく。
「ふん!」
俺は【赤色気】を解除し、次に【毒玉】を右手に発動させる。今回イメージした毒は、強めの麻痺毒である。
「ほい」
俺は角猫に【毒玉】を投げつけ、角猫の体を毒まみれにさせる。
「!?ナニヲスル!?」
「え?動けなくさせただけですけど何か?」
「ウゴケ・・・!?」
角猫は自身の体の変化に気付いたのか、何かしようとしているが、体を動かせないためか、何をしようとしているのかまったく分からない。
「それじゃあそのままでしばらくいてくれよ」
俺の言葉を聞き、角猫は俺を睨みつけるが、俺は無視した。その隙に受けた傷を白魔法で回復させ、全回復となった。ついでに魔力池を用いて魔力も回復させておこう。
「さて」
一応、こいつも蔦で拘束させてもらうとするか。なんかおかしなことにならないよう、今も拘束している角犬達とは少し離しておくか。
「ほい」
俺は地面から蔦を生やし、角猫を拘束する。もちろん、相手は角猫を束ねている角猫。さっきも身をもって体験したが、相当な力を持っているので、蔦を何重にも巻き付け、拘束力を強める。
「・・・」
なんか角猫が恨めしそうに見ているが、そんな視線は無視だ。ボッチは人の視線に気づかないのだ!もちろん、嘘ですけどね。そんなわけないからな。
「さて、これでひとまずは終了かな」
これで大きな角猫も無力化出来たことだし、後はクリムとイブの二人は大丈夫・・・。
「大丈夫そうだな」
なんか、火の牢屋?みたいなもので角猫達を囲っているな。角猫達は動いていない辺り、角猫達は気絶しているのかも。となると、あっちは大丈夫そうだ。
だが、
(ルリ達は大丈夫かね)
「あのー。その角猫達、どうするつもりですか?」
「モミジちゃん。そうね…このまま【炎獄】で閉じ込めておくつもりよ」
「なんなら、ここの角犬達とまとめて拘束しておきましょうか?」
「そうですね…そちらの方が魔力を使わなくて済みそうですし、お願いしようかしら?」
「はい!お願いされました」
「…私も手伝う」
そんな会話を聞きつつ、俺はルリ達のことを気にかける。
あー。早くルリ達、帰ってこないかな。
次回予告
『4-1-16(第270話) 角犬の卵捜索開始~その6~』
彩人達がルリ達の帰宅を望んでいる間、ルリ達も角猫達と戦いを繰り広げていた。
こんな感じの次回予告となりましたが、どうでしょうか。
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