4-1-10(第264話) 角犬達の襲撃
今のところ、敵対しているのか味方になってくれるのかが不明だ。俺自身、犬を食う習慣がないから、無暗な殺生をするのもな。
「それで、どうします?」
リーフはか弱いながらもはっきりとした声で話しかける。そうだな・・・。
「リーフ。まずは相手の視界を一時的にでもいいから奪ってくれないか?」
「分かりました」
リーフは俺達の前に出て、
「【葉吹雪】!」
魔法を発動させる。魔法が発動されたことにより、角犬から俺達が見えなくなった。逆もまた然りだが、
(位置はさっき把握した)
俺はアイテムブレスレットからあの沼出現スイッチを複数取り出す。そのスイッチを、角犬達がいるだろう方角に向け、一斉に押す。これで大岩に隠れ潜んでいる角犬達も動けないはず。
(一応、念のためだ)
「【結界】」
俺達の周囲に【結界】を張り、角犬達の襲撃に備える。もちろん、イブ達も戦闘態勢をとっているので心配はないが、念には念だ。【葉吹雪】の効果が切れ始めると、
「「「ニャニャーン!!!」」」
俺達に襲い掛かってきた。というか、本当に鳴き声がニャン、なんだな。
「「「!!!???」」」
だが、俺の設置した【結界】にぶつかり、角犬達はひるむ。
「今だ!」
俺は【結界】を解く。
「行きます!」
リーフは魔銀製のレイピアを持って向かい、
「はああ!」
クリムは魔銀製のガントレットをつけて走り、
「…ん!」
イブは魔力形成した腕で角犬達を捕まえ、
「【蛇睨み】!」
ルリは蛇達と共に睨みを効かせ、
「【牛蜂突き】!」
クロミルはなにかしらのツボを突き、
「少しの間、失礼します」
モミジは蔦を使って角犬達を拘束する。
「ニャーニャー」
「ニャニャニャ!」
「ニャンニャニャンニャ」
どうやら、俺の沼出現スイッチで捕まった角犬達もいるらしく、そいつらは泥まみれとなっていた。口まで浸かっていないことが救いだろう。浸かっていたら呼吸困難で死ぬ恐れがあるからな。
「さて、これで全員…!?」
俺は瞬時に後ろを向き、神色剣で角犬の角を防ぎ、
「ふん!」
薙ぎ払い、角犬を吹っ飛ばす。
「ニャイーン」
俺にとっては違和感しかない声をだし、角犬は吹っ飛んでいく。さて、これで全員動けなくなったか?
「ご主人様!お気を付けください!」
クロミルの警戒する声に、俺は警戒をさらに強める。何故ここまで優勢で更なる警戒を求めるのかは不明だが、クロミルには何か考えがあるのだろう。俺はさきほど吹っ飛ばした角犬を見てみると、すぐに起き上がり、俺を睨みつけていた。
(獰猛犬、か)
普段の角犬は賢いのかもしれないが、今の角犬からはそんな賢智な感じはしなかった。というより、俺を殺そうと睨みつけていた。
「おい。何でこいつらはこんなに俺を睨んでいるんだ?」
「どうやらアヤトだけじゃなく、私達にも同様の視線を向けて来ています」
俺達は背を預けるようにして、お互いの顔を見ずに話し合う。ちなみに、
(今の内に牛車は回収しておくか)
牛車は俺のアイテムブレスレットに収納している。これにより身一つで逃げられるな。
「さて、あいつらもまだやる気みたいだ」
行動不能になっているやつらを除いても、まだ数匹残っている。その数匹も半分に別れ、一方は俺達に威嚇、もう一方は行動不能な角犬達の救出を行っている。なるほど。角犬が賢いことは間違いではなさそうだ。
「ど、ど、どうしましょう!?」
モミジは動揺しているらしく、心ここにあらずであった。…なんか、近くに挙動不審な奴がいると、周囲の人間って自然と落ち着く気がする。自分を冷静に見られる、といえばいいのだろうか。
「…モミジ。とりあえず落ち着く」
イブの優しき慰めに、
「は、はひいぃ」
モミジの動揺は収束へと向かっていく。
「ところで、あの角犬達はどうします?私としては一発ぶん殴りたいけど。ほら、拳を交われば、互いに思っていることが分かりますし」
「「「「「「・・・」」」」」」
さすがはクリム。脳筋を探求したからこそ出来る思考をお持ちだ。
(結果的には、話すより戦闘になりそうな気はするけどな)
別にクリム理論を推すわけではないが、戦いにはなりそうだ。相手には話す気が一切無さそうだし。あるとすれば俺達に対する恨み、か。あくまで推測だけど。
と、いつまでもこの状況の原因について考えている時間はないか。とりあえずこの角犬達の拘束をしないと。あいつら、同族を着々と救っているし。。
「【空縛】!」
俺は角犬達を空中に拘束し、動けなくさせる。
「みんな、角犬達から離れろ!」
俺の掛け声により、全員が一時期、角犬達から距離をとる。この魔法で巻き添えを食らわないようにするためにも必要なことだからな。
「【毒霧】」
俺は【毒霧】を発動させる。今回イメージした毒は、体が動かせない麻痺毒である。今回の麻痺毒は、長時間体が動けなくなるような強めの毒をイメージしたので、一呼吸でも吸えば終いだ。
(よし!)
今のこの状況を見るに、既に何匹かは吸ったらしく、体を動かせずに倒れこむ。
「!?ニャン!!??」
「にゃ、にゃーん…」
「ニャニャン!ニャニャン!!」
…何を言っているのかは分からないが、
「ニャー・・・!」
俺達に対する怒りが強まった事は確かだな。ま、さすがにこの【毒霧】では全員の動きを封じることは出来なかったか。
「…イブ。その腕で動けなくなった角犬達を一か所に集めてくれ」
「…分かった。どこに集める?」
「せっかくだから、その角犬達を人質、犬質にして話を聞きたい」
やり方はかなり無茶苦茶だが、これで少しでも情報を聞けると嬉しい。俺、こんなに怒られることをした覚えなんて無いし。もちろん、角犬達に対しての話だが。
「…分かった」
イブは魔力で形成した腕をさらに大きくし、角犬達を掴み、一か所に集めようとする。
「ニャニャ!??」
「ニャニャーン!」
そんなことはさせない!なんて言っているのだろうか?角犬達は、イブに集中攻撃しようと、イブに向かって走ってくる。
「イブの邪魔はさせないよ!」
クリムが角犬を殴り、
「イブ!今の内に!」
リーフがレイピアで角犬の攻撃を受け流す。
「…ん。ありがとう」
イブの小言に、クリムとリーフは小さく笑顔を作り、角犬達と対面する。
一方、ルリとクロミルはというと、
「ねぇねぇ、クロミルお姉ちゃん?これでこの…何だっけ?」
「角犬です、ルリ様」
「そうそう!この角犬、もう動かないよね!」
「そうですね。私が一時的に体を動けなくなるよう、強めにツボを押しましたので」
「ルリも【蛇睨み】を効かせたし、大丈夫だよね?お兄ちゃん、これもよろしく~」
「はいよ」
そして、俺とモミジはというと、
「ほ、本当にこんなことをしていいのでしょうか?」
「ま、一時的だからいいだろう。それに、先に仕掛けてきたのはこいつらだし」
「そ、そうですよね。これが自然界での掟、ですもんね」
蔦を用いて一匹一匹拘束していた。モミジはもちろんのこと、俺も体の一部は植物だからな。ちょっと練習すれば、自由自在に蔦を操る事くらい、訳ないぜ。これもひとえに、モミジが俺の事を助けてくれたからだろう。
まず、クリムとリーフが角犬達を無力化し、イブが一か所に集め、ルリとクロミルが角犬達の動きを完全に封じ、俺とモミジでしっかりと拘束する。
こんな工程を何度も繰り返し、
「これで最後の一匹、と」
俺は最後の角犬を拘束する。これで全角犬の拘束が完了した。
「「「・・・」」」
角犬達全員が、俺達のことを憎たらしく見ていたが、まぁ無視だ。
「それにしても、よくこんな案を思いつきましたね」
クリムが話しかけてくる。
「まぁ、事前に色々考えていたからな」
どのように戦うかとか、どんな技が使えるかとか、本当に色々だ。
「それにしても、何故この角犬達はあれほど怒っていたのでしょうか?」
「だよな」
リーフの疑問は俺も思っていたことだ。確か角犬達は賢くて有能だと聞いている。そんな魔獣がむやみやたらに怒りをふりまくなんて思わない。それに、今現在、角犬達の討伐依頼を受けていないし。できれば話を聞いておきたい。俺は白魔法である一匹の角犬を最低限回復させ、口だけを動かせるようにする。もちろん、体の自由は奪取済みだ。
「それで、何でお前らはいきなり俺達を襲ってきたんだ?」
俺が話を振ると、
「ニャー!ニャンニャ!ニャニャニャンニャンニャ!」
「・・・」
・・・。
「どうして俺達の事、目の敵にしているんだ?」
「ニャン!ニャニャンニャンニャニャン!!」
「・・・」
どうしよう。話がまったく通じない。
「…アヤト」
「どうした、イブ?」
「…角犬は確かに賢い。だけど、人語を話せるわけじゃない」
「先に言っておいてくれない!?」
何だよ!?二回も話しかけてしまったじゃないか!?恥ずかしい!…よく考えてみれば、地球でも犬に話しかけることはあっても、犬と会話する奴なんてそうそういないわ。イブの話を聞いてなんだか納得したわ。
「それじゃあ、この角犬達から詳細な話が聞けないってことか?」
「…少なくとも、普通の人間は出来なかったはず」
「そうか…」
なんだよ。ここまで上手く出来たのに。角犬達との会話が出来ないとなると、この怒り狂っている角犬達はどうするかな?
「…殺処分か」
「「「!!!???」」」
どうやら俺の言葉の意味が分かったらしく、俺の一言に激しく動揺したらしい。
「どうする?」
俺は確認のため、リーフ達に意見をあおぐ。
「うーん・・・。理由があるにしろ、いきなり襲われましたし…」
「…下手に慈悲をかけないことをお勧めする」
「もしかしたら、もう一度拳をあわせることで何か分かるかもしれませんよ?」
クリムの言っていることは絶対に実践しないにしろ、比較的殺処分に賛成、て解釈でいいか。クリムの言っていることを実践するには、かなりの戦闘経験を積まないとならなそうだし。
「私は、むやみやたらに殺さない方が…」
「私は、ご主人様の意見に従います」
クロミルはどっちでもいいが、モミジはどちらかというと反対、か。
「ルリはどうだ?」
「・・・え?何?」
「おいおい。話を聞いておけよ」
まったく。人の話を聞かないなんて。俺みたいなボッチなら、そもそも話を振られているなんて考えないから仕方が無いけど、ルリはそうじゃない。ルリはいつも人に囲まれているんだから、話くらいは聞いてほしいものだ。…自分で考えておいてなんだけど、哀しくなってしまう。今夜は誰かと一緒に寝たい。
「だってこの角犬達、ルリ達が卵?を盗んだって誤解しているから」
そのルリの一言に、
「「「「「「・・・は??????」」」」」」
俺達一同、間抜けな声をだした。
次回予告
『4-1-11(第265話) 角犬の卵捜索開始』
たいした怪我もなく角犬達を拘束した彩人達は、ルリの活躍により、卵の紛失が原因で襲ってきたのだと理解する。自分たちの無罪を証明するため、彩人達の内、リーフ、クロミル、ルリが角犬1匹を連れて、角犬の卵を捜索する。
こんな感じの次回予告となりましたが、どうでしょうか。
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