4-1-8(第262話) 神も認めるボッチ
「誰?とはなんじゃ!?我は神だぞ!」
「紙?その割には随分と立体的だな。どうやって折ったんだ?」
「折り紙の紙ではないわ!」
「なん、だと!?」
まぁ、それくらいは見て分かるけどな。けど、こんな神を自称している奴なんて俺の知っている範囲ではいないはず。まさかこいつ!?そうか。こいつはきっと、頭のおかしな中二病になってしまったのだろう。大丈夫。きっと時が解決してくれるさ。それまでは精々、恥を更新しないよう、ひっそりと暮らしていくがいいさ。
「て、お主は何を悟っているのだ!?」
「…いや、何も悟っていないっすよ?」
悟るなんてとんでもない。俺はただ、こんな痛い子が今後も平穏に暮らしていけるよう考えていただけで、断じて目の前にいる自称神を哀れんでいたり、うわ~こいつ痛いわ~なんて思っていたり、なんてことはない!
「いや、思っていなければそんな考えはないからな!?」
なんかこいつ、うるさいな。俺の夢の中なんだから、俺がどう思おうが関係ないじゃないか。そうだ!これは俺の夢の中だし、こいつが消えるように夢の内容を書き換えれば、
「それは不可能じゃ。我は貴様の夢とは異なる原理でここにいるからのう」
なるほど。それは面倒だな。
・・・あれ?俺、さっきの思考について、声を出していたか?そもそも、こいつの言っていることは本当なのか?神を自称しているくらいだし、疑った方が無難か。
「お主。もしかしなくとも、毎回夢の内容を忘れておるな?」
夢の内容?夢の内容なんて断片的にしか覚えていないな。
覚えているものといえば、世界中の人間が俺の事をボッチだと馬鹿にしたり、一人で便所飯を堪能していたり、俺だけ買い物のレジを無視されたり・・・。何か、ひどい夢の内容ばかり覚えている気がする。もう泣いていい?
「…それらはさすがに同情するが、今は我の話を聞いてくれんか?」
こいつ。もしかしなくとも、俺の思考を読めるのか?なら試してみるか。
死ね!もういっぺん死ね!何度も死ね!
この言葉をチョイスした理由は特に無い。なんとなくだ。
「…お主、そういうことを初対面の人に向けて言うんじゃないぞ?」
やはり俺の思考は読まれているみたいだ。でなければ、さっきみたいなツッコミは出来ないからな。後、余計なお世話です。
「話が進まんから先に進ませてもらうぞ」
先に進むも何も、この自称神は一体、何の用で俺の夢の中に入り込んだのやら。
「お主にやっと、伝えることが出来るのじゃ!」
と、自称神はどや顔で言ってきた。こいつ、主語の重要性を把握していないのではなかろうか。現に俺は、その主語の不在のせいで、俺の理解が不可能なのだが。
「伝えることは、お主の敵、ヌル一族についてじゃ」
「ヌル一族!?」
てことは、
「あのメイキンジャー・ヌルやパラサイダー・ヌル、それと、」
「ああ。それらを束ねているセントミア・ヌルの情報じゃ」
何ともありがたいことか!あいつらに関しては無茶苦茶な強さを持っている、ということしか分からなかったからな。そいつらの情報を少しでも知ることが出来るのはありがたい。だが、こいつの言っていることは本当に信用していいものか。ちょっと不安になるな。まだ完全に信用している訳じゃないしな。人を簡単に信用しない辺り、まだボッチの習性が消えていないのだろうか。自分以外を信用しない。信用してもすぐに裏切られる。そんな感覚を地球で何度も体験してきたからな。
「で、どんな情報なんだ?」
まずは、この自称神がどんな情報を持っているのか聞かないとな。
「うむ。それはな、」
「それは?」
「××××××××××」
「は?」
なんだこいつ?急にノイズが混ざったかのような音になった。こいつ、実は話そうと見せかけて俺に嫌がらせしようとしているんじゃないか?なんて陰湿なんだ!俺も人の事は言えないかもしれないが。
「うむ?何故だ?」
おや?何かノイズを発していた自称神も疑問を抱いたらしい。もしかして、わざと、ではないのか?
「××××××××××。やはりか」
どうやら自称神は何かに納得したらしい。いや、俺にも説明しろよ。
「どうやら、我の提示する情報に制限がかけられたらしい」
「・・・え?」
どういうことだ?つまり、
「そのヌル一族についての情報はここでは得られない。そう言っているのか?」
「・・・うむ。お主の言う通りだな」
つっかえねー。いや、この自称神も驚いていたし、不測の事態なのだろう。だからこれはしかたがない。例え、本当にこいつ、何しに来たんだ?とか思っても口に出さないようにしよう。口に出さなければ俺の心境はこいつにはばれないはず。
「・・・お主。我には全て筒抜けなのは既に把握していたのではなかったか?」
「あ」
そういえばそうだった。
「・・・」
やべ。さっき咄嗟につっかえねーとか考えちまった。まぁ仕方がない。ここは思いっきり開き直るとしよう。
「それで結局、お前は何しに来たんだ?まさか、俺の素敵な夢をぶち壊しにきた、だけじゃないだろうな?」
そういうことなら、俺は全力でこいつをぶん殴るとしよう。さて、【赤色気】の準備でも始めますかな。
「待て待て待て!ちゃんと別口で用意してあるぞ!だから落ち着くのじゃ!」
と、自称神は慌てていた。どうやらまだ俺に何かあるらしい。ま、用があるなら聞いてやろう。
「上から目線な件は言及しないとして、話を進めるぞ」
「おう。さっさと話せ」
「まず言っておくが、お主、もしかしたら、セントミア・ヌルに親近感を覚えた、なんてことはないか?」
「!?」
確かに、一目見た時から、何か近しいものは感じた。でも、感じからするに恋心、という感じではない。どちらかというと・・・何だ?家族でも恋人でもなく、かといったら知り合い?でも、知り合って間もない奴にこんな感情を抱くのか?
「やはり、か」
自称神はため息をついていた。
おい。俺に文句があるなら直接言ってこい。そして、肉体言語で話し合おうじゃないか。
「お主も結構な脳筋じゃないか!」
「なん、だと!」
俺はクリムみたいに脳筋ではないと思っていたのに!
「それと、さきほどのため息は、お主を哀れんでいたわけではない」
「それじゃあどういうことなんだ?」
「…お主にしか、セントミア・ヌルを止めることは出来ない。そう確信したからじゃよ」
「・・・何をもってそう判断したんだ?」
俺としては、あのセントミアさんの底知れない力に勝てる訳ないと判断しているが、こいつにもそれなりの理由があってさきほどの発言をしたのかもしれない。なら、俺にその理由を聞かせてくれてもいいはず。
「・・・お主が幸か不幸か、ボッチの辛さについて、身をもって知っているからじゃ」
・・・俺に対する当てつけのつもり、で言ったわけじゃなさそうだな。
「ボッチの辛さ、だと?」
だからといって、そのボッチの辛さを知っているから何だというのだ?ボッチというなら、ルリやモミジも体感しているはず。出来ればもう体験してほしくないが。
それに、ボッチを味わっている奴なんて、この世界にも星の数ほどいるはず。俺もその星達の一つであることに変わりはない。・・・そういえば、俺が今まで見てきた中でボッチだった奴はいたっけ?ドーナツみたいな名前の冒険者も、公爵のカイーガも、カーナも、エーガンも独りではなかったな。
「うむ。この世界には、ほとんどの者が独りでいることの辛さを知らんのじゃ」
「・・・は?え?まじ?」
「うむ。もちろん例外はあるが、独りになった途端、大抵の者はすぐに自害してしまうのじゃ」
「自害、か」
分からなくもない。俺がもし、友達だけでなく家族もいなかったならば、俺は幼少期の時に自殺していたのかもしれない。
「あれ?それじゃあルリやモミジはどうなんだ?」
あいつらもかなりボッチを経験していると思うんだが?
「お主のところのヒュドラは長い間寝ていたし、ドライヤドは生後間もない」
「だから、自害するほど苦痛を味わっていなかったと?」
俺の言葉に、自称神は首を縦に振る。
「それに比べ、お主は何度も孤独な体験をし、その度に乗り越えてきたではないか」
「・・・ああ。だが、それはあくまで、家族がいたから出来た芸当だ」
俺自身、ボッチの自覚はある。だが同時に、真のボッチではないとも思っている。
ここで、俺の思っているボッチと真のボッチの違いについて話すとしよう。
ボッチとは、話す相手が身内以外にいない人の事。
それに対し、真のボッチとは、話す相手が誰もいない事。
ようするに、身内で仲が良いか悪いかの差が、ボッチと真のボッチとの違いだと、俺は思っている。俺はどちらかというと、真のボッチではない。
そして、この自称神が指し示すボッチはおそらく、俺の思う真のボッチの方だと思う。だから、
「俺はボッチだったけど、まだ幸せな方だった。だから、」
俺がセントミアさんの辛さを完全に理解できない。そう言おうとしたが、そこまで口に出来なかった。
「…大丈夫じゃ。完全に理解できることなどそうそうない。精々計算式くらいじゃ」
そう自称神は言い、とある方程式を問題として出題された。
「さて、この四角の中に入る数字は一体何かのう?」
「・・・3」
「正解じゃ♪」
馬鹿にしているか?
「何が、『1+□=4』だよ。めっちゃ簡単じゃねぇか」
だが俺はこう文句を言いながら、この自称神を本気で怒る気にはなれなかった。
「それじゃあ伝えられることは伝えたし、今回はこれで失礼するかのう」
そう言うや否や、自称神の体が薄くなっていく。
「それではお主、今後とも頑張ってくれたまえ」
「ああ」
俺は短く返事をする。
「それと、最後に1つだけ言っておくぞ」
「?何だ?」
最後に何か言うのであれば、体を薄くする前に言った方が良かったのでは?
「お主は決してボッチではない。だから、」
俺がこの自称神の言葉を最後まで聞くことは無かった。自称神は完全に消え、その光景を見て俺は一言。
「だから、何だよ・・・」
前者はよかったのに、後者の言葉が知りたかったわ。そう呆れつつ、
(ボッチではない、か)
自身のボッチだった経験を思い出す。確かに苦痛でしかなかったが、
(大丈夫だ)
リーフ、クリム、イブ、ルリ、クロミル、モミジ。少なくとも俺には、この6人がついている。だからきっと、今の俺はボッチじゃないさ。
「・・・あれぇ?」
ふと、目を覚ますと。
「おふぇ!?」
「「「「「「!!!!!!??????」」」」」」
6人全員が、俺の顔を見ていた。俺が驚いたことに、6人全員は驚いたみたいだ。
「ど、どうしたのお兄ちゃん!?」
ルリは驚いた俺に聞く。
「どうしたもこうしたも、急に人の顔が目の前にあったら驚くだろう!?」
まったく!急に6人の顔を寝起きで見ることになるとは思わなかったぜ。
「…そう、なの?」
「そうだよ!」
イブの問いかけに強く答える。
「それよりアヤト!今日の夕飯が出来ましたよ!」
「それよりって、今日の夕飯?」
そういえば、気付かぬうちに暗くなっていたな。そんな時間になっていたことを、腹の音で自覚する。
「そうです!みんなで美味しく作りましたよ!」
「みんなで踊りながら作りましたからね!」
「ご主人様のことを常に考え、栄養面も問題ないかと」
「お、美味しく出来ていたら嬉しいです」
リーフ、クリム、クロミル、モミジがそれぞれ皿を見せてくる。
「ああ。みんなで美味しく食べるか?」
俺の言葉に、
「「「「「「うん!!!!!!」」」」」」
全員が笑顔で答えてくれた。そして俺は6人の輪の中に入り、一緒に夕飯を堪能し始める。
(やっぱいいもんだな)
何か楽しいことを共有できることって。こんなこと、ボッチだったら絶対出来ないだろうな。俺はボッチだったことを思い出しながら、楽しく談笑しながら夕飯をとった。
次回予告
『4-1-9(第263話) 敵か味方かの賭博』
自称神との対話から一晩が経過し、彩人達は黄の国を目指す。だが、逃げ切ったと思っていた角犬達の気配を感じ取る。彩人達は警戒しつつ、味方であってほしいと願う。
こんな感じの次回予告となりましたが、どうでしょうか。
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