4-1-6(第260話) 角犬
・・・。
うん。何もよくないよな!?俺は無言でクロミルを見、詳細な説明を求める。
「どうやら数日前、この周辺にある魔獣の群れがいた形跡を発見いたしました」
「ある魔獣?その魔獣が一体どこのどいつか分かるか?」
俺の問いに、クロミルは、
「分かりません。足跡から判断するに、4足歩行している魔獣かと推測出来ますが、それ以外は・・・」
「そうか」
4足歩行する魔獣、か。確か熊も4足歩行するよな。てことは、あの熊、クマグマンが近くにいるかもしれないってことか!?倒せなくはないかもしれんが、あいつら、群れで行動しているのか?熊が群れで行動するなんて聞いたことが無いのだが…?
「アヤト。多分ですが、アヤトが今考えていることは間違っていると思いますよ?」
「え?」
リーフからの指摘に俺は思わず驚く。
「それと、これを見て下さい」
と、どこから取り出したのか、リーフは・・・何あれ?何か細長いようなものを見せてきたな。
「それは?」
俺は見ても分からなかったので、リーフに直接聞く。
「これは毛です」
「毛?」
確かに、毛と言われれば毛に見えなくもない。というか、毛にしか見えなくなってきた。
「はい。私達もクロミルちゃん達も同じ足跡を見、その近くにこの抜け毛を見つけました」
リーフはよく見ているな。
「それと、あの足跡の歩幅、この抜け毛の色、4足歩行であることを踏まえると・・・」
そう言いながら、リーフは懐からあのぶあっつい本を取り出し、めくり始める。
「ええっと・・・」
ページ数が多すぎるのか、ページをめくるのにも一苦労している気がする。というか、この分厚い本、一体誰が書いたのだろうか。
「あ、ありました!私としては、この魔獣ではないかと」
と、リーフはある1ページを指差す。そのページにみな、視線を集中させる。
「つ、【角犬】?」
そこには、またも俺の知らない魔獣の名が記されていた。
「…なるほど」
どうやらイブは納得したらしく、一人首を縦に振っていた。
「えっと・・・俺に説明してくれない?」
なんか俺だけ分かっていない感じが、懐かしさあふれる疎外感を思い出させる。
「角犬。それは、」
「それは・・・?」
「角が生えた犬です」
「・・・」
「・・・」
「・・・?」
「・・・?どうしました?」
「え?説明それだけ!?」
いやまぁ、簡単に説明してくれたことで理解はできたけども!それ以外には何かないの!?
「簡単に一言で言えば、さきほどの説明で全て片付きます」
「うん、それは分かった。だから次はもっと詳細な説明をお願いしてもいいかな!?」
「ええ。もちろんそのつもりです」
その割にはさきほど、結構な間を空けていたと思うんですけどね!
「まず、角犬は群れで行動し、このような毛を全身に生やしています」
「へぇ」
イメージ的には柴犬、をイメージすればいいのか。そこに角を付け加える、と。
「そして、従魔にした魔獣ランキングでナンバー1をとり続けています」
「…それは一体どこ情報なんだ?」
情報源がまったく不明な事と、一体どうやってアンケートをとったのやら。
「これは国でも公式に発表されていて、角犬にチョーカーを付けている人がかなりいるんですよね?」
リーフは王女2人に聞く。
「…ん。それでもって角犬は賢く飼い主に従順だから、飼いやすくて安全で有能」
「へぇ。そんな話があったんですね。私、知りませんでした♪」
「・・・これだから脳筋は困る。もっと勉強すべき」
「な、何ですって!?」
確かさっき、リーフは国でも公式に発表されている、て言っていたよな。つまりクリムは国の事情を把握しきれていなかったと。・・・これはまぁ、クリムの勉強不足だと思う。他人事だから言うが、頑張れ、クリム!
「後、角犬の角は本来1本なのですが、稀に複数生えることも確認されています」
「へぇ~。複数生えるとなんかいいことあんの?」
「さぁ?そこまでは詳しく明かされていません。ですが、複数角が生えた角犬は強く、複数の色魔法を使える、という情報があります」
「マジで!?」
それって、クロミルやモミジみたいなやつが他にもいるってことか!?魔法のハイブリッド、てやつかも。
「あくまで噂ですので、あまりあてにはできませんが」
と、リーフは付け足していた。
「そっか」
俺は今まで話してもらった情報を頭の中で整理し始める。
「…リーフ。まだあれ、言っていない」
「あれ?…ああ、そういえばそうでした」
「ん?何だ?」
「ちなみに鳴き声はニャーで、卵から産まれるらしいですよ」
「・・・は?え?ほ?」
俺はいきなりの情報に驚く。
あれ?犬ってニャーって鳴くっけ?
あれ?犬って卵生だっけ?
「?どうしました?」
「えっと・・・角犬って、、ワンって鳴かないの?」
「鳴きませんが?」
「角犬ってお母さんのお腹の中ら産まれないの?」
「産まれませんが?」
「…そうか」
さすがは異世界。こういう時、俺は異世界に来たんだと実感するな。
「・・・あ!?」
「「「「「「!!!!!!??????」」」」」」
リーフの突然の叫びに、リーフ以外の6人は体を緊急に震わす。
「ど、どうした!?」
俺はリーフの異変に言葉をかける。
「今思い出しました!先日見た卵、あれは確か、角犬の卵です!」
「そ、そうなのか」
それを思い出したから何だというのだ?
「それってこれのこと?」
「そうそうそれですそれぇ!?」
と、リーフは途中で声を大きくする。
「というかルリ、それって先日見つけた例の卵か?」
いつの間に持ってきたんだよ・・・。
「うん!なんかこの辺でコロコロ転がっていたから、拾ってきた♪」
そんな捨て猫を拾ってきた、みたいに言うなよ。
「…ちょっと面倒なことになるかも」
イブも真剣な顔をし、リーフと顔を見合わせる。えっと、マジでどういう事?
「もしですよ?もし、角犬の群れがこの卵を探しているとしたら?」
「…俺達の事を、卵を保護してくれた恩人に思ってくれたり、くれなかったり?」
「間違いなく角犬達は私達の事を、卵を奪った敵、と認識するでしょうね」
「だよなぁ」
少なくとも角犬達は今のこの状況を見て、俺達の事を快くは思ってくれないだろう。
「ご主人様、如何なさいましょう?」
クロミルが今後の予定について聞いてくる。そうだな・・・。
「クロミル、至急準備を頼む。今回は俺も引くから、早めにこの地から離れるぞ」
「かしこまりました」
クロミルはそう言い、準備を始める。
「それじゃあ行くか!」
俺のこの声に、
「「「「「はい!!!!!」」」」」
5人は肯定する。残り一人はというと、
「お兄ちゃん。この卵、持っていっていい?」
相変わらず呑気というか、人の話を聞いていないというか、はぁ。思わずため息をついてしまうな。
「駄目。もしかしたら角犬達がこの卵を探しているかもしれないだろ?」
「でも・・・」
ルリは持っていきたそうにしていた。だが、
「・・・・・・分かった」
渋々、それはもう赤ん坊が見ても分かるくらい渋々諦めてくれた。後で美味しいデザートでも作ってやろうかね。それで少しくらいは気が紛れてくれると嬉しいが。
「それじゃあルリも…、」
「ちょっと待って!」
ルリは乗ろうとしたものの、直前で足を止め、角犬の卵に近づく。おい!何をしようと…!
「ごめんね。これで我慢してね」
俺は叱れなくなってしまった。何故なら、あの大食いのルリが、自身のホットケーキを卵に分け与えていたのだから。といっても、卵の上にホットケーキを乗せているだけだけど。それにしても、あの卵の状態で、どうやってあのホットケーキを食べるつもりなのだろうか。
「お兄ちゃん、いいよ」
「お、おう」
いかんいかん。ついルリの優しさに見惚れていた。少し気合いを入れ直さないと。
「それじゃあ行くぞ、クロミル!」
「はい!」
こうして俺とクロミルは、慣れた手つきで牛車を引っ張り、この場を後にした。
「・・・」
残された卵はというと、
「・・・」
殻の上に置かれたホットケーキを吸収し、
「・・・」
またゆっくりと転がり始める。その方向はまたも、彩人達と同方向であった。
次回予告
『4-1-7(第261話) 休憩からの夢』
まだ見ぬ角犬という脅威から逃げ出した彩人達のうち、彩人とクロミルは牛車を引いたため、みんなが頑張っている中、次の日の英気を養うため、夢の中に向かう。
こんな感じの次回予告となりましたが、どうでしょうか。
感想、評価、ブックマーク等、よろしくお願いいたします




