4-1-5(第259話) 新たな魔法のイメージ
旅を始めてさらに数日が経過した。あれからというもの、
(暇だ)
すっかりやることが無く、暇を持て余すようになった。いや、本当はもっとやるべきことがあるのかもしれないが、それから目を逸らしているだけなのかもしれない。例えば、対話能力の向上、とかな!…なるほど。ボッチだから人と話す機会がほとんどないため、このような能力向上を要する。こういうことだな?さっすがは俺!細かいところにも気が付くぜ!・・・そろそろ自虐を終了しよう。一人で思っていてむなしくなる。
さて、こんな自虐はどうでもいいとして、今後はどのような課題を自分に課すとするか。今後の事を踏まえ、紫魔法、毒系の魔法のレパートリーを増やそうかな。
今俺が使える紫魔法は、【毒霧】、【毒玉】、後は・・・あれ?この二つしかない、だと!?そんな馬鹿な!?だってあんなに…!
(あ)
そういえば、毒の種類を変えていたな。
麻痺毒、致死毒、中毒。それと変わったところで、環境を汚染させる毒。これらを多用してたおかげで、今まで切り抜けた場面も数多くだ。数多く…
(そういえば、カイーガは元気、なのかね)
カオーガは、俺が殺してしまったようなものなのであまり言えないが、カイーガは少しばかり心配だ。何せ、実の兄を殺されたのだからな。そう考えると、カイーガの境遇って、イブに似ているよな。だが、カイーガは何とかするだろう。いい妻がいるみたいだし。…リア充は全員死すべし。慈悲は無い。
話を戻そう。
今後の課題としては、毒をもっと戦術に織り込めるよう昇華させたい。例えば、
(ええっと・・・)
とりあえず、【毒霧】と【毒玉】を比べてみるか。
まず、【毒霧】は効果範囲が広く、一対多の時に使いやすい魔法だ。もちろん、一の方が俺だな。
次に【毒玉】は、【毒霧】に比べて効果範囲が狭まるが、毒を濃縮しているので、毒の効き目は、【毒霧】よりかなりある。
(ふむ)
どちらも、接近戦にはあまり向かないな。【毒霧】は、強風ですぐに吹き飛ばせるし、【毒玉】は、当たらなければ意味がない。こうして考えてみると、俺は毒を攻撃手段にしか用いていないが、防衛手段にも用いることが出来るのではないか?ま、攻撃は最大の防御、なんことわざがあるくらいだし。
少し、試してみるか。
「…クロミル。少し休憩しよう」
ここで俺は脳内から現実へと戻される。そういえば今、俺は牛車に乗っていたんだった。乗り物酔いがまったくなかったな。
「承知しました」
そして牛車は止まり、
「わ~い♪」
止まった瞬間、ルリはこの時を待ち望んだかのように牛車から飛び出す。
「あ!ま、待って、ルリさん!」
モミジも遅れながら牛車から降りる。
「さて、外で軽く腕立て伏せをやってから、私もこの牛車を引きますか!」
「…相変わらず、筋肉お化けは単純」
「まぁまぁ。少し休憩がてら、私達は周囲の様子を見て回りましょうか?」
どうやらみんな、周囲の様子を探ってきてくれるらしい。
「それじゃあ俺はここで魔法の練習をするから」
俺の発言に、みんな揃って首を縦に振る。…なんか、俺を除いた全員で動きをシンクロさせるって凄いことなんだけど、ちょっと複雑だな。俺がいない6人は息ピッタリなんだな。そんなことを陰で思いながら、俺は6人を見送った。
「さて、」
魔法の練習を始めますか。
まず俺が準備したのは、
「準備のためにこれを拾って、と」
木の枝である。
「しっかし、懐かしいなー」
確か幼少期、俺は木の枝を剣みたいにブンブン振り回し、ヒーローに憧れていたな。テレビを見ていた影響で、剣に憧れの感情を抱いていたし。
「っと、この思い出は後でっと」
今は思い出に耽っている場合ではない。今は魔法の練習に集中しないとな。
「さて、イメージイメージっと」
イメージするのは、剣。この木の枝に毒を纏わせて・・・出来、
「たぁ!?」
俺がた、と言い終える前に、木の枝が折れた。それはもうポキリと、である。
「一体何が原因…」
言い終える前に気付いた。
「木の枝が腐食している」
しかも、ちょうど折れたところが、である。もしかしなくとも、俺の毒を的ませたことにより、毒による腐敗が進み、木の枝が自然に折れるまでに至った、ということか。あれ?だが、【毒霧】や【毒玉】を俺は直接吸ったり触ったりしているのにまったく腐敗していないぞ?な~ぜ~?・・・魔法を発動した張本人だから効かなかった、とか?となると、
「あれ?」
確か、カオーガとの戦いの時、ルリに【毒玉】を渡していたな。先ほどの理論で言えば、ルリの手は毒で犯されているはず。…そういえば、ルリは毒のブレスを吐くことが出来たんだっけ?つまり、毒にはかなり耐性があるのか。だから、俺の毒がルリに効かなかったのかもしれない。まぁ、全部憶測でしか言えないので、この予測が正解だと考えられないのだが。もしこれが正解だった時の場合を考えると・・・あれ?結構リーフ達に危険な目に遭わせていないか?というか、俺の【毒霧】を吸っていたような・・・?ま、気のせいか。それか、俺が無意識に、リーフ達の周囲にだけ無害な【毒霧】を発生させていたのかも。無害な【毒霧】ってもはや単なる霧だな。
「って、何を考えているんだ、俺!」
思考が逸れすぎだろ!俺は自身にカツを入れ直し、もう一度木の枝を拾い、同じことを繰り返す。結果は…
「やっぱ同じ、か」
変化なし、であった。やはり、武器に毒を纏わすと、この木の枝達みたいに腐敗し、壊れていくのかもな。これじゃあ毒を武器に纏わすことも出来ないな。いや、もしかしたら防具にも身に付けることが不可能なのかも。となると、俺の新たな攻撃手段、防衛手段は未完成になってしまうのか?だが、これで諦めたら、いつまで経っても先に進まない気がする。
「とはいえ、どうするか・・・」
俺は折れた部分の木の枝を見て、独り呟く。腐らず、毒にかなり、出来れば絶対的耐性を誇る何かに毒を纏わせれば・・・。
「そういえば、これってどうなの?」
俺はふと、腰にぶら下げている神色剣を見る。
修復、修理等一切しておらず、かなり酷使しているというのに、いつの間にか勝手に新品同様に修復されている剣。もしこれに、毒の絶対的耐性があれば、いけるんじゃないか?俺は望みを持って、
「頼むから成功してくれよ」
神色剣に毒を纏わせる。要領は簡単だ。というのも、俺は前々からこの神色剣に炎を纏わせていたからな。その炎を毒に置き換えるだけ。
・・・。
「よし。取り敢えずは纏わせることに成功した」
後は時間経過による急速な劣化が見られるかどうか、だが、果たして…?そういえば、もしこの実験が失敗し、この神色剣を使えなくしたらどうなるんだろう?どうにもならないか。俺はそんなことを考えながら、毒を纏わせた状態の神色剣の様子を観察する。
数分経過。
「・・・大丈夫、みたいだな」
戦いの中で数分あればいいと思う。個人的見解だが、数分もかかる戦闘って、長期戦なのではないのかと思う。もちろん、戦いの種類にもよるけどな。例えば・・・将棋とかはかなり長丁場なんじゃないか?下手したら将棋一局だけで一日潰れる、なんて話を聞いたことがある。もちろん、プロ同士の対局の話だけどな。
因みに俺は、年下の子に将棋でズタボロにされた貴重な経験を持っている。これは自己PRに活か…せるわけないか。ちょっとした小話に向いているのでは?なんて思ったが、人への評価を下げるだけだな。
「さて、こんな自虐より今は魔法の練習だ」
次は新たな防御手段だ。
毒を使った新たな防御手段。・・・どうしよう、何も思いつかない。いや、分かっていたよ?こんなお馬鹿な人間がそうポンポン新たなアイデアを思いつくなんて早々ないことくらい。とはいえ、何も考えないのは良くないので、少しは考えるとしよう。
「さっきのことを防御に活かせないか?」
確か、普通に毒を木の枝に纏わせると、木の枝が腐食したんだよな。あれ?俺、毒を木の枝に纏わせた時、どんな毒をイメージしたんだ?いつも通りに考えていたから、腐敗とかそんな感じ、でいいのか?ならいっか。もし他の毒をイメージしていたらどうまって…どうなって?
「待てよ」
他の毒?・・・もしかしたら、いい案が思いついたかも。
「物は試しだ」
やってみるとするか。
俺は再び、木の枝を用意する。そして、
「いけるか?」
自分でもいけるか不安なまま、思い付きを行動に移す。
「・・・」
俺は集中する。それはもう、家庭科初心者が針の小さな穴に太い糸を通すかのように繊細な作業のつもりで魔力操作を行う。
結果は、
「・・・よし!か、完成だ!」
無事、成功した。
俺が今回木の枝に施したのは、木の枝全体に毒を纏わせるのではなく、毒と木の枝に厚めの魔力の層を入れ、直接的に木の枝と毒を接触させないようにしたのだ。それにしても、魔力が毒に触れても溶けないんだな。魔力から毒を精製しているわけだし、分からなくもないが。あれ?魔力を毒に変換しているのか?一体どっちなんだ?・・・どっちでもいいか。
とにかく、
「これで新しい攻撃手段を手に入れた訳だ!」
攻撃手段は諦めていたつもりだったんだがな。それでも諦めず考え抜いた結果がこれだ。俺って結構、やればできる子?
「さて、この新しい魔法に名をつけないとな」
この魔法を応用すれば、
「…やっぱり、か」
魔力で覆う部分を増やせば、このように剣や槍とかの武器の攻撃範囲も広くなるって訳だ。それと、
「・・・うん。やっぱり出来ている」
防御面でも上手く活用出来ているな。
ちなみに、今俺が何をしたのかというと、自身の体に毒を纏っている。もちろん、俺の体と毒の間には魔力の層が顕在している。これで相手も下手に攻撃できないだろう。例え攻撃されても・・・もしされたとしたら、この毒にどれほどの守備力があるのだろうか。
そういえば、この毒の強度の事はまったく考えていなかった。強力なけん制にはなると思うが、もしこれでけん制できなかったら?相手が普通に突っ込んで来たら?
「・・・」
うん。俺ってやっぱ馬鹿だわ。この毒に防具以上の強度なんてあるわけがないよな。
「はぁ」
無駄な事をしたとは思っていないが、なんだか気分が暗くなってしまった。
「とりあえず、防御手段については保留だな」
新しい攻撃手段を獲得しただけでもよしとしよう。
「さて、次に名前を付けるか」
名前はそれなりに大切だと思うから、聞いて分かるようにしたいな。今回の魔法は、毒を装備させる魔法だから、
「【毒装】、かな」
…うん。悪くは、ないんじゃないか。独創的だな、【毒装】。
・・・俺って本当、どうしてこんな人間なのでしょうか?俺はきっと、人間の全短所を濃縮した人間なのだろう。この劣性遺伝子しかない人間がこの先生きていけるのだろうか。
「お兄ちゃーん!」
俺が自身の遺伝子構成について悩んでいると、ふと、俺を呼ぶ声が聞こえた。振り返ってみると、
「あー!やっぱ体を動かすっていいね!スッキリしたわ♪」
「…赤の国の未来はもう終わった。脳筋のせいで」
「何ですって!?」
相変わらずクリムとイブはキャットファイトを始め、
「まぁまぁ。少しは落ち着いて・・・」
「「うっさい!!このおっぱいお化け!!!!」」
「な、なんですって!?」
リーフは二人のキャットファイトに参加。
「お姉ちゃん達、相変わらず仲良しさんだねー」
「そ、そうなんですか?私には口げんかしているように見えたのですが…?」
「問題ありません。あのやりとりがあの御三方の話し合いの方法なので」
「へ、へぇ。そうだったんですか」
ルリ、モミジ、クロミルは3人のキャットファイトを微笑ましく見ていた。あれって微笑ましいものだっけ?
「それで、この周辺に異常はなかったか?」
俺の問いかけに、
「うん!なんかいたみたいだったけど、問題ないと思うよー!」
と、ルリは元気よく答えた。
『4-1-6(第260話) 角犬』
ルリの言葉により、魔獣が近くにいる可能性を見出した彩人達は、その魔獣の候補を推理し、その場から立ち去ろうとする。
こんな感じの次回予告となりましたが、どうでしょうか。
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