3-3-30(第254話) 森災の襲来戦~その後と旅立ち~
あれから、俺達の戦いは昼前に終わったらしい。らしい、というのは、パラサイダー・ヌルとの闘いの後を詳しく覚えていないためである。そして、俺は数日間眠っていたという。俺がこの闘いで最もひどい怪我をしていたんだとか。他の女エルフ達は、ひどくても骨にひびが入っているくらいだった。対して俺は、全身血まみれの魔力枯渇。それはもう大変だったと、クロミルから報告を受けた。俺は一番聞きたいことを聞いた。
「死人はいるか?」
と。結果、
「いません」
簡素だが、今の俺には十分過ぎる回答だった。俺はその現実に満足し、再び意識を手放した。
そしてさらに一日経過。
「ふぅー。何とか生き返ったぜ!」
俺は復活した。別に今の今まで死んでいたわけじゃないが、今まで寝ていたからな。まるで病人だ。いや、正確に言えば、完治しているわけではないので今も病人なのだが。
「それにしても、本当にこの国を出ていかれるのですか?」
「ん?そんなの当然だが?」
俺達は今、出国するための準備をしているのだ。もうそろそろ別の国に行って、どの国に別荘を建てるか決めないとな!…なんか、他の理由があったようななかったような気がするが、気のせいか。
「それにしても、こんなに無料で食材をもらっていいの?」
「…ん。経済とかもっと回すべき」
「ですね。ま、難しいことは分からないですけど」
リーフ、イブ、クリム達の言う通り、食材を大量にもらってしまったのだ。何人分かといえば・・・成人男性の十日分の食料を十人分、といったところかな。それぐらい大量にもらってしまった。俺のアイテムブレスレットにもまだ食料は入っているし。一回断ったんだけど、結局何回も頼まれてしまって最終的に流されてしまった。それとクリム、少しは経済について勉強でもしてみたらどうだ?王族なのにそんな調子では父親に呆れられてしまうぞ?あ、父親も同じ感じだったか。
「うわーい♪食べ物、食べ物♪」
ルリは大量の食べ物にはしゃぎ、
「ご主人様、牛車の点検を行いましたところ、異常ありません」
「おう、いつもサンキューな」
クロミルは牛車の点検をしてくれ、
「それでね~、これから私はこの地を離れるから、しばらくはお別れだね。え、寂しいって?あ、ありがとう」
モミジは…独り言?いや、植物と話しているのか。一瞬、俺以上に惨めな事をしているのかと思ったよ。例えば、一人複数役の会話をしているのかと。俺も結構大概だな。いや、こういう時ぐらいは明るくいこう。自虐は、今はしないでいこう。出来るだけ。
「それにしても、復興の目処が立ってよかったな」
「いえいえ。アヤト様方が尽力して下さったおかげです」
因みに、主に尽力してくれたのは、俺以外の6人である。
イブとリーフは、カーナ、エーガンと共に都市の復興計画を話し合い、様々な社会基盤の見当。
クリムはタンカ達兵団と共に資材の確保、搬入。
ルリは子供エルフ達の遊び相手。
クロミルは疲弊した女エルフ達の手当て及び治療。
モミジは、フォレードのウッドピクシー達とともに植物と会話し、場所を友好的に使えるか交渉。
俺は・・・何かしたっけ?実にこんな感じである。自覚していたけど、俺ってかなりの屑だな。もちろん手伝いはしていたが、何をしていたのか思い出せんな。まぁ何かしたの手伝いはしていたから良しとしよう。
あ、そうそう。フォレードの件で大きな進展があったんだったな。
「そういえば、あれからフォレード達と上手くいくようになったんだってな」
「はい。これも、この国に来てくれたウッドピクシーの方々のおかげです」
そう。ウッドピクシー達はこの復興中、仲間を呼び、率先して手伝ってくれていたのだ。そのウッドピクシー達の力で、木はグングン成長し、大きな実を数多く実らせた。畑も、地面一色が実り一色へと変色し、女エルフ達はバンザイした。女エルフ達とウッドピクシー達を繋げてくれた本人にコンタクトをとり、ありがとうと言葉を伝えようとするが、
「私達はこれから、この緑の国と共同し、今後もこの国の繁栄を誓わせていただきます!」
・・・まぁ、国の繁栄を願うことは、緑の国の民としては嬉しいことだろう。
「「「・・・」」」
後ろで震えているウッドピクシー達を見なければ、素直に喜べたんだろうな。もしかしなくとも、俺の人外的行動のせいだな。
「こら!!この方に粗相があってはなりません!あった場合、死にますよ!!??」
「「「!!!???し、失礼しました!!!」」」
「・・・」
ねぇ、泣いていい?全部俺のせいとはいえ、俺ってここまで恐怖の対象なの?俺に癒しを分けてくれよ!
「まぁ、頑張ってくれ」
俺は心から漏れ出そうな本音を抑えつつ、将来この国が安泰に繁栄することを願う。
「「「はい!!!」」」
どうやらウッドピクシー達にとって、俺への挨拶は基本敬礼から始まるらしい。もう気にするのはやめよう。
「後、本当にこれらはいただいてよろしいのですか?」
「もちろん。ルリはどうだ?」
「ん?まぁ、いいんじゃない?それよりお兄ちゃん、この芋食べていい?甘くておいしいの!」
「ああ、いいよ」
カーナが聞いてきたのは、俺が作った魔銀製の盾である。いらないと言えば嘘になるが、俺達7人は盾を持って戦わないので、そのまま置いておくことにした。このままここに置いておいた方が、あの盾達も有意義に使ってくれそうだしな。
「ありがとうございます。国宝として展示させていただきます」
「いや、そこはきちんと使ってやってくれ」
それじゃあ盾としての役割が果たせないじゃないか。
「分かりました」
やっぱ、人間誰しも笑顔が一番いいな。ま、カーナ達は人間じゃなくてエルフ、だけどな。
「それじゃあ行ってくるわ」
「…はい。行ってらっしゃいませ。私達一同は、アヤト様方をいつまでもお待ちしております」
「そうよ、いつでも来ていいんだからね」
エーガンよ。ツンデレはいらんからな。
「そうでした。後、これを受け取ってください」
カーナは懐から緑色の…玉?球?を取り出した。何か見たことあるような…?
「…これってもしかして…?」
イブは同じような物を出す。
「これを使えば、いつでも緑の国に来ることが出来ます」
だから、どうしてこう俺みたいなボッチに貴重そうな品を贈るのかね?これ、そんなに余っているの?だからといって、こっちが受け取り拒否するのは失礼だろうし、
「ありがたく受け取るよ」
ここは素直に受け取っておくとするか。いつでも緑の国に来られるのは嬉しいし。
「「「・・・」」」
…ウッドピクシー達には出来るだけ会わないようにするか。会うたびに敬礼されてはこちらの心が持たん。
「それじゃあ、本当に俺達は行くよ」
「…はい」
クロミル以外の6人は牛車に乗り、クロミルが引く準備をする。
「じゃあな」
「バイバーイ♪」
ルリの元気な声に、
「「「はい!!!」」」
カーナ達は頭を下げて見送ってくれた。
「また後で里帰りしますからねー」
「タンカー!また後で一緒に体を鍛え合いましょうねー!」
リーフ、クリムは声を挙げて、来た時の約束を宣言する。
「…え?これから門出を祝ってくれるのですか!?ど、どうやって!?」
「ん?どうした、モミジ?何かあったのか?」
「はい。植物達が私達の門出をお祝いしたいそうで…、」
「お祝い?」
それも、植物達が?一体どうやって…?
「「「!!!???」」」
おや?ウッドピクシー達の顔が急変したな。俺達を見て驚いているのか?それとろ、俺達の周囲に何か変化が…!?
俺は周囲を見て驚いた。
「「「「「「「!!!!!!!???????」」」」」」」
何せ、地面がちょくちょくむき出しになっている緑の荒野が、一面緑になり、所々に大樹が生え、桃色の花を満開に咲かせる。そして次に青、赤、黄色、緑と多くの色が空に映し出される。どこからか、
「これ、ばえるんじゃね?」
なんて言葉が聞こえそうだ。
(すっげぇ)
まるで、春、夏、秋、冬の景色を一遍に見ているようだ。ルリ達もこの景色には圧巻のようだ。
「…ん?お祝いってこれのこと?わざわざ私達のためにありがとー♪」
どうやらこれは、植物達の仕業らしい。なんともめでたいな。
俺は多くの女エルフ達、ウッドピクシー達、そして、数多くの植物達に囲まれ、緑の国を後にした。
一方。
「ただいま帰りましたパラ」
パラサイダー・ヌルは彩人との闘いの後、とある城跡に移動し、セントミア・ヌルに頭を下げる。
「うむ。こちらこそ急な用件とはいえ、任務中に呼び戻して悪かった」
「いえ、最優先事項は主の命ですので、お気遣いなくパラ」
「ありがとう。それで今回呼び戻した件だが、」
“あの者が暴走しそうになっている”
ここにいるメイキンジャーとパラサイダーは体を震わせる。
「まさか、あ奴が!?」
「そ、それはまた、厄介な事になったパラね」
「ああ。だからこの際様子を見てきて欲しい。方法は何でもいいが、出来ればお前達どちらかの目で見て確認してくれ」
二人は互いの目を見た後、
「「はっ!!」」
頭を下げ、了承の意を申す。
「それでもし、私の命に反するような事となったら、殺してくれ」
二人は一切の迷いもなく、
「「仰せのままに」」
そして二人は、セントミアの前から姿を消した。
二人は退席した後、
「そういえば奴は今、どの国にいるのでしょうか?」
「そういえばそうパラね。確かパラの記憶が確かなら、あの国にいるはずパラ」
そう言い、パラサイダー・ヌルはメイキンジャー・ヌルに告げる。
黄の国、と。
『4-1-1(第255話) 二色の景色』
ある者達は、ある忘れ物を取りに走る。
またある少女は、二人の少女を養うために今日も体を使って働く。
こんな感じの次回予告となりましたが、どうでしょうか。
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