3-3-18(第242話) 有力だからこその都市防衛
会議を終え、俺達は森災襲来に備え、この王城で寝泊まりすることになった。カーナ達と別れ、複数の部屋を借り、そこに向かっている。
「それじゃあ今日はもう寝て、明日から本格的に対策しよう。それじゃあお休み」
「「「「「「・・・」」」」」」
「ん?どうした?」
何か不満でもあったのか?夕飯は既に食べたし、お風呂も迅速に済ましたし、今日やることは終わったはず。
「…アヤトだけ一人とかずるい」
そのイブの声を皮切りに、「そうだ、そうだ!」とか、「ずるい、ずるい!」、「お兄ちゃんと一緒に寝たい!」色々聞こえてくる。だって、
「俺、一人で色々しなくちゃいけないことがあるから個室にしてもらったんだよ」
色々対策を練るためにも、日夜調べ事をしなくてはならない。よって、日夜ネットの情報を頼りにするため、色々調べなくてはならない。だから、そういう行為をするためにみんなの眠りを邪魔にしないよう、わざわざ部屋を別々にしてもらったのに。
「「「「「「でも・・・」」」」」」
粘る気持ちは分かる。俺もこんな事態にならなければ、俺は連日連夜大人な夜を過ごしたかったさ。でもな、分かってほしい。大の男が性欲より人の命を優先したのだ。性欲を抑えているのにみんなの綺麗な寝顔、無謀な女体を見てみろ。襲ってしまう自信がある!…胸を張って言う言葉ではないが、それくらいリーフ達は魅力的な体をしているのだ。
「後で埋め合わせするから、今は我慢してくれ」
「「「「「「・・・はい」」」」」」
渋々理解はしてくれたみたいだ。
「分かってくれてよかったよ。それじゃあ明日は早いだろうしもう寝るわ。お休み」
「「「「「「・・・お休み」」」」」」
俺の言いたい事は理解してくれているみたいだが、精神的には納得いっていないみたいだな。ま、そういう気持ちの面が全てではないことは分かるけど、本当に今は我慢してほしい。俺だって、早く大人なことをしたいんだ!だって、男の子だもん♪…自分で言っておいて、自分でキモイと思ってしまった。もう二度と言わないようにしよう。
(それにしても…)
俺はある人が気になり、部屋に戻ってから作戦を練っている間もずっと気になってしまっていた。
「はぁ」
あ~あ。出来るだけ気にしないようにするつもりだったけど、これは駄目だな。
「あそこ、行ってみるか」
俺は今使わせてもらっている部屋を出て、とある場所へと向かう。
王城から出て、庭にある大きな大木に来た。普段来る人はいないし、ましてや今は深夜。みんなが寝静まっている時刻となっている。こんなところに来る人なんて物好きしかいないことだろう。
庭にある大木は本来一本だけなのだが、今俺が見てみると、大木が一本と、大木と比較して物凄い小さな何かが近くに存在していることが影から分かった。俺はその影だけで、誰がここに来ているのかが分かっていた。
「・・・!!!???だ、誰!?」
その声の主は、俺が普段から聞いているあの声と酷似していた。
「俺だよ俺、アヤトだよ」
俺は無抵抗を体現させるため、両手を上にあげる。
「な、なんだ。アヤトさん、でしたか」
と、影の正体、モミジは大きく息を吐く。
「どうしてこんな時間にここに来たんだ?」
「・・・この木、この近辺で最も大きくて長寿なんです。なので、私のちょっとした愚痴を聞いてもらっていました」
「そうか」
俺は大木の近くに腰を下ろす。
「アヤトさんこそ、どうしてこちらに?」
「俺は、今日の会議でモミジが浮かない顔をしていたからな。もしかしたら、と思ってきてみたらこうしてビンゴだった、てわけさ」
「そ、そうだったんですか。私、元気ないように見えていたのですか…」
と、今度はあからさまに落ち込む。
「それで、落ち込んでいる理由って何だ?」
「…出来れば言いたくないです」
「なら、俺をそこの大木だと思って愚痴ってくれればいい」
そう言うと、モミジも俺と同様、大木の近くに腰を下ろす。だが、大木から手を放すことはなかった。
「私って、そんなに役立たずなんですかね」
モミジは語り始める。モミジ自身が抱いていた不安を、感情を、愚痴という形にして吐き出していく。
「私、もっとみなさんの力になりたいし、みなさんに頼られたい。ですけど、今回頼まれた事は誰にでも出来るような事でした。この都市を守るだけって、私、そんなに非力ですか?リーフさん、クリムさん、イブさん、ルリさん、クロミルさん、アヤトさんはここにいるみんなのために頑張って戦っているのに、私だけ戦わせてくれない。どうして?私が非力だから?それとも、それとも・・・、」
俺はただ、大木のように体を動かさず、モミジから服を握られても、微動だにせず、何も言わない。
「私が、元フォレードだから、ですか?それで私は、アヤトさん達に気を使わせているのですか?そんなの、本当の仲間じゃないです・・・」
「・・・」
隣でモミジが愚痴をこぼしている。それでも、俺は大木のごとく、微動だにしない。してはならないのだ。
「「・・・」」
その後、無言の刻が続いた。その刻はたった数分だけだったかもしれない。だが、今の俺にとって、何時間、そして一晩中続いているかのように感じた。その長い間、俺は自身を見つめ直し、モミジになんて言葉をかけるべきか考えた。
「すいません。服を勝手に掴んでしまいました」
「これぐらい問題ないさ。それと、言っておくことがある」
「!?な、何ですか?」
声からも、そして今も掴まれている服からも分かるくらい震えていた。
「確かに、モミジが元フォレードだから、前線から遠ざけた、という理由もある」
「それじゃあ…!?」
俺は興奮するモミジを、俺の服を強く握りしめ始めているモミジの手を優しく触れる。
「でもな、それ以上に、むやみやたらに戦ってほしくないんだ」
さきほどモミジは愚痴ってくれたんだ。今度は俺も愚痴らせてもらおう。
「え?」
「もちろん、モミジだけじゃなく、ルリ、クロミルも同様だ。本当は、あいつらには戦いとは無縁の、幸せな生活を送ってほしい。けど、」
やっぱ、自分の非を認め、言葉にするのって結構メンタルに来るな。
「俺が弱いから、ルリやクロミル、そしてモミジ、お前にも戦いを強要させてしまう始末だ。情けないよな?」
見た目幼女と少女に戦いを強要させるボッチ。言葉だけでもどれほど痛い人間なのかが伝わってくるな。
「そ、そんなこと…!」
「モミジ達がそう思っていても、俺は申し訳なく感じてしまうんだ。本当は嫌々戦っているんじゃないか。俺一人で全部片を付けるべきなんじゃないかと」
「・・・」
モミジも途中から口を挟まず、ただ黙って聞いていた。
「それに、俺はモミジのこと、非力だなんて思っていない。むしろ、期待しているくらいだ」
「え?それってどういう意味、ですか?」
本当は言うつもりなんてなかったのだが、俺から行ってしまった手前、ここで秘密にするのもよくないか。
「モミジには都市の防衛をお願いしているが、もしイブ達や女エルフ達になにかあったら、モミジに任せたいと思っている」
「だったら、何故あの時言ってくれなかったのですか!?」
「これを言うということは、イブ達や女エルフ達のことを信頼して任せていない、そういう風に捉えられてしまうんじゃないか、そう考えたからだ。でも言ってしまったからには仕方がない」
俺はモミジの顔を見る。顔は今にも泣きそうになっていた。
「もしもだ。もしも、イブ達や女エルフ達になにかあったら、モミジ、お前に任せたい。頼めるか?」
「・・・これって頼られているんですよね?」
「ああ。本当は俺一人でやるべきなんだろうが、ルリ、クロミルの手を借りてもフォレロイの事まで手が回りそうにないんだ」
「…嬉しいです。私を頼ってくれて、本当に嬉しいです」
「ああ。有力なモミジだからこそお願いしているんだ」
「はい。もしもの時はお任せください!」
その笑顔は、周囲の暗さに反し、とても明るかった。
『3-3-19(第243話) 【色気】習得に向けて』
彩人達はそれぞれ森災に向け、おのおので対策を講じ始める。彩人は自身への課題として、【色気】の習得を目指し、特訓を始める。
こんな感じの次回予告となりましたが、どうでしょうか。
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