3-3-11(第235話) 祝杯後の依頼遂行
あの祝杯から・・・何日経過したっけ?まぁいいか。ともあれ、あれから俺達が何をしているのかというと、
「ルリ!そっち行ったぞ!」
「うん!」
魔獣の退治依頼を受け、対応していた。
今日受けている依頼は、クマグマンの討伐である。クマグマン討伐のため、俺とルリは王都シンペキから少し離れ、ある森内を散策している。その散策途中でクマグマンに遭遇したのだ。運がいいやら悪いやら…。ま、ここは素直に、お目当ての魔獣を見つけられた、という点で運がいいと思うようにしよう。
そして今、俺がクマグマンを上手く挑発させ、ルリが待ち構えている場所へと誘導している真っ最中なのだ。今回、俺が囮役で、ルリがとどめをさす役となっている。
「はぁ!」
「!!??」
瞬間、ルリの青魔法が発動し、クマグマンは凍った。相変わらず容赦ないな。それにしても、
(囮役にしても、今日の俺は頑張ったなぁ)
まさか昼前にお目当てのクマグマンに会えるとはな。こんなにあっさりと倒すことが出来たのだから、運が良かったと考えるべきだろうな。後は新設したギルドに討伐部位を渡し、報酬をもらうとしよう。
「グオオオォォォ!」
「「!!??」」
な、なんだ!?誰かの雄叫びか!?声の感じからすると、さきほど捕まえたクマグマンにかなり似ていたな。だが、目的のクマグマンはすでに確保済み。どんな風に調理しようか考察をまとめていたというのに。俺とルリは、声がした方角を向いてみると、
「グオオオォォォ!!」
さっきより大きなクマグマンがいた。それに、額にはひっかき傷の様なものが見られる。そのひっかき傷が何だか三日月みたいで、思わず、「あ、あれはもしかして…!?」と、リアクションを取りたくなってしまう、なんてことはないな。よく考えてみたら、熊の種類なんて知らないからな。さて、ここは俺が、
「【蛇睨み】!」
…男らしいところを見せようとしたところで、ルリが2体目のクマグマンの動きを封じてしまった。ま、俺達の被害が一切ないからいいんですけどね。けど、
「さて、後は、」
そう言うと、ルリは一瞬でクマグマンの頭と胴体を切り離す。どうやったんだ?
「ふぅ。こんなものかな?大丈夫だよね、お兄ちゃん?」
「…ん?あ、ああ。問題ないと思うぞ」
(本音を言えば、俺にも手柄が欲しかった…)
と、ちょっとだけ遠い目をしつつ、生気がないクマグマン2体を、俺のアイテムブレスレットにしまい、この場を後にする。
「あのクマ、ここらへんに2体いたんだね」
「そうだな。だからクマグマンの被害がいつも以上にあったのかもな」
この依頼を受けるきっかけになったのは、クマグマンに関連する被害がいつも以上に大きかったらしく、その調査が依頼としてあったため、俺達はその依頼を受けることにしたのだ。決め手となったのは、俺が以前戦ったことがあったからである。その経験を生かせば、他の依頼に比べ、依頼が達成しやすいのでは?と考えたのだ。確か、クリムと一緒に戦ったんだっけか?
「それでお兄ちゃん。これからどうする?」
「そうだな~…」
今回の依頼は、被害を拡大させている元凶、クマグマンの調査、及び討伐だ。だから、依頼は既に完了しているだろう。
となると、とることができる選択肢は2つ。
1つは、ギルドに戻り、依頼完了の報告をする事。
もう1つは、このまま周辺の森の調査を引き続き行う事だ。
ギルドに戻れば、依頼完了の報告を行い、そのまま次の依頼をこなすことが出来る、という利点だ。もしくはそれから王城に戻り、そのまま次の日まで引き篭もることが出来る、という利点がある。なんとも素敵な利点な事。
一方、クマグマンはリーフの話によると、一切群れをなさない、と聞いたことがある。つまり、俺と同じボッチ行動をとっている、ということになる。だが今回、クマグマンは2体出てきた。つまり、森に何かしら異変が起き始めている、もしくは既に起きている可能性を考慮する必要がある、ということだ。つまり、冒険者な俺としては、森の異変について調査しなくてはならないのだ。面倒くさい。
だが、森の調査をする上で、重要なデータが俺の手元にない。それは、
「このまま調査してもいいけど、俺、正常な森の様子とか知らないんだけど」
そう。異変があったとしても、何が異変なのかまったく見分けがつかないのだ。正常な森の定義を誰か俺に教えて欲しいものだ。ま、そんなことを愚痴ったところでしょうがない。さらにいえば、このままどうすればいいのか迷っている俺がいるので、
「ルリはどっちがいいと思う?」
素直に聞いてみるとしよう。もしかしたら、ルリの野性的勘による今回の最適解を導き出してくれるかもしれないからな。
「ん~・・・」
ルリは少し悩んだ後、
「このまま森を歩こうよ!」
ルリは森の調査を続行することに決めたらしい。
「なんでそう決めたんだ?」
「美味しい食べ物があるかもしれないから!」
「・・・そうか」
そうだなー・・・。食べられる野草、薬草を色々採取し、それらを見せることで、ギルド職員、もしくは森に詳しい女エルフ達なら何か分かるかもしれないしな。…だいぶ見苦しい言い訳な気がするが、気にしないでおこう。元はと言えば、地球では森の中をほとんど歩いたことが無い家っ子な俺がいけないのだろう。そういう意味では、日本には俺みたいな家っ子がほとんどではなかろうか。どうでもいいな。
しかし、美味しい食べ物、か。俺からすれば、この森で採れるものは…野草と、茸?ぽい何かぐらいだな。緑魔法で毒があるかないか検知してみよう。
・・・。
うん。毒は無かったな。毒は無いけど、
(これ、美味いのか?そもそも食えるのか?)
色がすごかった。この茸?の色が紫だった。いかにも、「私、毒キノコです!」と、自己主張しているようだ。これ、食卓に出されたら固まるレベルだ。後目に付くものは、
「赤と緑の縞々模様か」
この2色って確か補色の関係じゃなかったか?それに、この2つの色を見てみると、なんだかクリスマスを思い出す。俺は毎年ボッチだから、リア充共を常々ぶち殺そうと、脳内で何度も殺していたっけ。…こう考えると、俺は随分物騒なクリスマスを過ごしたものだ。クリスマスついでに、クリスマス仕様のケーキが食いたくなってきたな。ここらへんに売っている訳が…ないか。はぁ~…。俺は補色関係の茸?を採りながら、少し地球のことを考えていた。
数分経過。
「ふんふーん♪」
ルリは機嫌よく茸もどきを採取していた。相変わらず色合いがおかしい茸だこと。そんなことを、ルリの手元にある茸もどきを見ながら思った。そして俺達は、森での探索を終え、王都へと足を向かせる。それにしても、依頼とはいえ、のんきに茸なんて採っていてよかったのだろうか。ま、既に多くの茸もどきを採取済みなので、そのことについて議論するのは遅いのだが。
「これはモミジお姉ちゃんと食べて、これはクロミルお姉ちゃんとかな?後、」
一方、ルリは自身で採ってきた茸を見ながら、誰と食べるか考えているらしい。その顔はとても楽しそうで、
(なんか、いいな。)
言葉には出来ないが、微笑ましいことだと、俺は思う。こんな光景を見られたのなら、まぁいいか、と思ってしまう。依頼よりルリの笑顔だ。
王都に戻ってくると、
「!?あ、アヤト様!?みなの者、敬礼!」
「「「は!!!」」」
…門番全員がこちらを見ると、全員一斉に敬礼を始めた。
・・・なんか、青の国のあいつら、コンバール一家を彷彿とさせる。気のせいだと思いたい。気のせい、だよな?
「おつ~♪」
ルリは俺の戸惑いに関係なく、この異常な状況に早くも適応していた。…さすがは元魔獣。環境適応能力は人間より高いみたいだ。
「えっと、お疲れさま?」
一応、労いの声をかけることにした。会社でのあいさつ、「お疲れ様です」みたいな感じに、である。軽く、本当に軽く言っただけなのだが、
「「「ありがとうございます!!!」」」
全力敬礼の後、全力で頭を下げてきた。
「じゃあね~♪」
俺が唖然としている一方で、ルリはマイペースに行動を始めた。
「さぁお兄ちゃん。早く依頼の完了報告をしようよ」
「あ、ああ」
気まずい空気の中、俺達は王都に入り、ギルドに向かう。
『3-3-12(第236話) 依頼遂行後の合流』
ギルドでの依頼を終え、彩人達はモミジやイブ達と合流するため、足を動かしていく。
こんな感じの次回予告となりましたが、どうでしょうか。
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