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色を司りし者  作者: 彩 豊
第三章 赤茶色くなり始める世界樹
230/546

3-3-5(第229話) チーズケーキ作り~ベイクドチーズケーキ~

 あれから一日経過。

 俺はというと、

「・・・なんか、いざ作るとなると怠いな。」

 独り、ため息をついていた。ま、もとを辿れば自分が発した言葉に原因があるわけなんですけど。それでも面倒くさい。

 あれからチーズケーキについて軽く調べてみて、俺は3種類のチーズケーキを作ろうと考えている。今日は、その試作を作りに来たのだ。そのため、カーナに話を通し、この厨房を貸してもらっている。

「・・・材料よし。道具よし」

 一番簡単、だと思いたいベイクドチーズケーキを作ろうとしている。

「やる気皆無。なので、作りません」

 どんなにいい人材でも、いいものを使ったとしても、やる気がなければ、全てを台無しにしてしまうだろう。なので、やる気皆無の俺が今作る行為は、材料を無駄に捨てることと同意義と言えよう。よって、作りません!

「そんなの駄目だよ、お兄ちゃん!」

「そうです!ちゃんと作らないと!」

「…ところで、なんでここにルリとクリムがいるの?」

 俺独りでさぼろうと…ごほん!精神的休息を取ろうと思っていたのに。これでは出来ないではないか!

「イブが、“…アヤトは一人になった途端、作ろうとしなくなるから、みんなで監視をしよう”て、提案したんです」

「それで、今日はルリとクリムお姉ちゃんが監視当番だよ」

 監視当番、だと?

 そんな当番制度なんて、廃止すればいいのに!というか、俺の思考がイブにお見通しだったのか。く、無念!

「それじゃあお兄ちゃん。頑張って作ろうね!」

「一緒に美味しいチーズケーキ?を作りましょう!」

 と、二人はやる気をだしていた。

 …やる気を出すことは悪いことでは無い。俺みたいな、常に怠けようと思考を巡らす人間よりよほどいい。いいんだが、

(今、この二人が料理を手伝う、そう言ったのか?)

 片方は、味覚がぶっ壊れている…じゃなかった。辛味大好き王女。

 もう片方は、人に説明が全然出来ず、全て感覚で物事をこなす元ヒュドラ。

 この二人がホットケーキを作れただけでも奇跡なのに、次はチーズケーキを作ろうとしているのか?

 これは、やる気だけで出来るものなのか?

 やる気があれば、不可能なんてない!と、どこかの熱血教師っぽい人物は言っていた気がするが、やる気で全ての事を解決できると思ったら大間違いだぞ?

 とはいえ、

(あんなにやる気に満ちた目をされるとな…)

 根拠は一切不明だが、「自分は出来る!」という自信しかない眼差しをしていた。この二人が料理作りを手伝うことは、未発見物質発見の貢献に繋がるのではなかろうか?そんな不安を持ちつつ、

「そ、それじゃあ、一緒にやる、のか?」

 自身の身を案じながら、二人に聞く。

「うん!」

「もちろんです!」

(…もしかしたら、今日で俺の味覚が壊れるかも)

 クリムの辛味好きに警戒しつつ、チーズケーキづくりが始まる。


 ベイクドチーズケーキ。

 簡単に手順を言うと、


・材料に魔力を込める

・用意した材料を混ぜる

・事前に温めておいた型に流し込み、焼く

・完成品に祈りを捧げる


 以上。

 簡素過ぎたか。だが、これ以上は説明のしようがない。様々な料理サイトを参考にした結果、こんな工程となってしまった。

 材料も、生クリーム、卵、クリームチーズ、砂糖、薄力粉。

 生クリームやクリームチーズは、リーフが買ってきてしまった。まことに!残念である。

 これで、

「あ、生クリームとクリームチーズないの?じゃあ無理だね」

 と、断ることができないからである。

 ちなみに、材料に魔力を込めるのは、込めた方が美味しくなると、どこかの文献で読んだことがあるからで、最後に祈りを捧げるのは何となくだ。意味は特に考えていない。


「さて、」

 今、材料を眺めている俺の後ろで、

「「♪♪♪」」

 若干、鼻歌を歌いながら楽しそうに待っているクリムとルリ。後ろで見られていると、さぼれないのだが?ま、そのための人員、なんだろうな。無駄なところに人件費さきやがって。とはいえ、このまま一人でベイクドチーズケーキを作るのも腹がた…非効率だろう。なら、

「…なぁ?」

「何、お兄ちゃん?」

「さぼりの提案なら受け付けておりませんよ?」

 クリムのやつ。俺の言いたいことを先読みしやがって…!ま、正直さぼりたかったが、今回は別件だ。

「違う。今回作る料理を手伝ってほしくてな。手伝ってくれるか?」

 ま、こうすれば、時間の節約になるし、クリムとルリも、新しい料理を覚えるだろう。…本音を言えば、俺の負担が3分の1に減少するから、なのだが。それは二人に言わないでおこう。

「それはいいけど、ルリにも作れるの?」

「私は構いませんが…、」

 と、二人はベイクドチーズケーキ作りに消極的であった。どうして?かと思ったが、心当たりがあった。

(もしかして…?)

 それは、新しいことに対するちょっとした恐怖心である。

 それは、ボッチな俺はもちろんのこと、みんなも経験したことがあるだろう。新しいことをやろうとするには、いつだって恐怖がつきものだ。

 料理なら、包丁という刃物を持つ怖さ。火を扱うときの怖さ。

 テストなら、これで正解なのだろうかという葛藤、という名の恐怖。それが成績となり、自分で拝見するときのドキドキ。…これは違うか。

 未知のものを触るときに感じる恐怖。

 どんな世界、どんな人にも恐怖はつきものだ。また、恐怖にも色々な種類があり、中にも死の恐怖を味わった者もいるかもしれない。

 そういった恐怖心を乗り越えた時こそ、次の段階へと進めるチャンスとも言えよう。そして、その恐怖を乗り越える方法は未確定だが、そこまで難しいことではない、と俺は思う。だから、ちょっとした、をつけたのだ。

 なかには例外も存在するだろうが、今回は新しい料理。

 別に臨死体験をしろだの、自身の体にナイフを刺せだの、そんな物騒なことは一つもない。だから、今回は比較的楽だろう。

 …そういえば、この恐怖心って、ボッチ関係あるのだろうか?

 …あるな。

 それは、常にボッチでい続けることに対する恐怖。孤独に打ち勝つ恐怖だな。ま、俺はもう慣れたが。慣れればボッチも悪くないし。…こんな人格だから友達をろくに…、

「っといけない、いけない」

 余計な思考を行ってしまった。

「とにかく、今回は簡単な料理だからな。お前らでも簡単に作れるさ」

「「でも??」」

 あ。口が滑ってしまった。ついうっかり。

「い、いや、何でもないぞ!何でも!とにかに三人で頑張るぞー!わはははー!!」

 俺は、自身のミスをあやふやにするため、声を大にして言った。

「「・・・」」

 二人の視線が痛いが、そんなことは知らない。気にしない、気にしない。…出来れば一休みしたい。

 そんな思いを心中に秘め、ベイクドチーズケーキ作りを開始させる。


 ケーキ作りを始め、いよいよ、

「・・・ふぅ」

「おー。これが前に見た…」

「チーズケーキ、ですね!」

 そう。ベイクドチーズケーキの完成である。と言っても、これは試作用に小さく作った一品である。だが、手は抜いていない。けど、

(まさか、あそこまでてこずるとは…、)

 まさか、あそこまで料理が下手だったとは…。いや、初めて作る料理だからあそこまでてこずったのかもしれないな。ケーキ作りで大切なことは、正確に分量を量って使うことだ。そこを説明し、理解してもらうことが一番大変だった。何度言っても、

「?ちょっとぐらい多くても問題ないでしょう?」

「そうだよね~」

 と、袋の底に残っていた薄力粉をたたき売りのように、

「これだけ残しても意味ないから入れちゃえ~」

 と、袋を逆さまにしてボウルに入れてしまうのだ。こんな大雑把な性格、一体誰に似たんでしょうね。…まさか、俺?・・・。なら、しょうがないな、うん…。とはいえ、このまま放置するわけにもいかないので、何度も、何度も同じ説明をし、

「・・・分かった」

 と、いやいや話を理解し、行動で示してくれた。これはおそらく、俺が何度もする同じ説明を聞きたくないから、だろうな。ま、これでようやく試作品第一号が完成したわけだし、良しとしよう。

 それに、

「お、美味しそう~♪」

「こ、これを私の手で、じゅるり」

 美味しそうな見栄えになったものだ。

 これも、クリムが途中で赤い香辛料をいれそうになったところを止めた俺の活躍あってこそである。まったく。人が少しよそ見しようものなら、所かまわず入れやがって。おかげでいくつか犠牲になっちまったじゃないか。そんなことを思いながら、

「ところでお兄ちゃん、あの赤いチーズケーキはどうするの?」

「もちろん、クリムに全部食べてもらう」

 俺は赤くなってしまったベイクドチーズケーキを見る。この赤は、赤唐辛子の粉末を入れたがゆえに変色してしまったものだ。あ~あ、もったいない。

「さて、それじゃあ試食していくか」

 ともあれ、そんな失敗はしてきたが、無事にできたんだ。深く考えないようにしよう。とにかく今は完成品の味見だ。

「うん!とっても楽しみ♪」

「私も!」

 二人が楽しそうになっている姿を見、

(さ、切り口は一体どうなっているやら、と)

 俺も内心、ドキドキのワクワクでいながら、ベイクドチーズケーキに包丁を入れた。


 結果、

「「おー!!」」

 綺麗な切り口となった。

 切り口が赤く染まっていたり、生焼けになっていたりと、そんな不祥事は起きなかった。あるのは、美味そうなベイクドチーズケーキが存在感を放っていること。この1択に過ぎない。なんか、ウェディングケーキの入刀ってこんな感じ、なのだろうか?…そんなわけないか。ともあれ、それくらいの驚きだと思う。…ま、結婚式に呼べるお友達なんかいないんですけど。けどまぁ、お嫁さんにしたい人はいるかな、なんて。…すいません。単なる世間話です。是非とも忘れてください。

 ・・・さ、さて!気を取り直して、ケーキを切り分け、ルリとクリムの皿に置くとしようか!

「「ご、ごくり…」」

 二人の待つ様子はさながら、待てと言われてまだかまだかと言わんばかりの忠犬のようだ。涎は…垂らしていないようだが、垂らしそうな勢いだな。

「よいしょ、と」

 さて、これで綺麗に3等分出来たし、

「さ、食べるぞ」

「「うん!!」」

 この言葉を合図に、

「「あーん」」

 二人は口を大きく開け、大きめに切ったベイクドチーズケーキを一口で頬張る。

「!?…!??…♪」

「ふごふごふご…」

 ルリは最初、ベイクドチーズケーキの味に驚きつつ、味を堪能するかのように顎を動かす。

 一方のクリムは、ずっと何か言っていたようであった。だが、口に食べ物を含んだままだったのがいけなかったのか、何を言っているのか一切分からなかった。…クリムって王女なんだよな?なんで口に食べ物を入れたまま喋ろうとしているんだ?最低限のマナーを学ばなかったのか?今まではそんなことなかったのにな。

 さて、俺も一口いただくとするか。

 ・・・。

 うん、美味い。この美味しさの背景には、自分の手作り、という事実が関係していると思う。昔、店で買ってきてもらったベイクドチーズケーキを食べたこともあったが、その時のものより、断然美味く感じる。なんか、別の品じゃね?と、勘ぐってしまうぐらいだ。それぐらい美味しく感じる。舌触りも味も見た目も問題ないな。後は…何かあっただろうか。今思いつかないから、そう大切なことでもないのかもしれないな。なら、このベイクドチーズケーキのクオリティなら、みんなにだしても問題ないだろう。

「美味しいか?」

 俺は、食べ終えていても未だ惚けている二人に声をかける。

「うん!とっても、とっても美味しいよ!!!」

「最高でした~♪」

 と、ルリは幸せ満点越えの笑みで、クリムは若干、あの世にいっているかのような、気の抜けた声で返した。確かに美味いが、そこまでなのか?ま、自分でも美味しいとは思う。この味がコンビニみたいに手軽に買えたらいいが、そんな便利な店は存在しない。今になって、コンビニの有能さを思い知らされてしまった。この世界にもコンビニが欲しい…。

「さて、」

 俺は二口三口食べ終えた後、残りのベイクドチーズケーキを2等分にする。

 そして、

「ほい」

 俺はルリとクリムに残りを渡す。

「え、いいの!!??」

「本当ですか!?後でやっぱ嫌だ、とか言いませんよね!?」

「言わねぇよ」

 俺を一体何だと思っているのか。ちなみに、あげたベイクドチーズケーキには、俺の唇や唾液は、一切触れていない。なので、これはあげても気持ち悪がられない!以前、間違って口に触れたフォークで切り分け、それを他の人に…。

「…?お兄ちゃん、どうかした?」

「・・・いや、何でもない」

 急に過去の思い出が…。

「そうですか?では!」

 と、クリムは自分の分を食べ終えていたため、すぐに俺が挙げた分に手をだす。

(・・・)

 俺は、この光景に、かつての家族と景色を重ねていた。その景色は、俺が最も安らげられた時間であり、場所であり、

(そういえば、俺の親は元気だろうか?)

 地球で唯一、気になっていたことでもあった。

(ま、気にしていてもしょうがない。今は…、)

 俺は気合を入れなおし、

「さ、食い終わったら、また作るぞ!今度は22人分だからな!」

 これは試作品だからな。本番でもこのクオリティの品を作れるといいな。

「「はい!!」」

 ルリとクリムはやる気になったのか、いつも以上に熱心だった。

「お兄ちゃん!何ちんたらしているの!?」

「もう一度教えてください!こんどこそ一から自分で作れるようになって見せます!」

 さ、ベイクドチーズケーキをもっと作ろうかな。

 こうして俺達は、3人でベイクドチーズケーキ作りに集中しまくった。


 どれほど時間は経っただろうか。

「こ、これぐらいならいいでしょうか…」

「さすがにちょっと疲れたよ…」

 二人とも、かなり疲弊しているようだった。無理もない。あれからずっとベイクドチーズケーキを作るため、手を動かし続けていたからな。具体的には、材料をかき混ぜるためである。焼くのにも、かなりクリムに頼ってしまったし、冷やすことも、ルリに頼ったものだ。おかげで順調にケーキ作りは進んだわけだが。

「お疲れ。今日はもういいよ」

「きょ、今日はってことは…?」

「もしかして明日も?」

「ああ」

 後2種類ほど、作ってみたいチーズケーキがあるんだよな。美味く作れるかは分からないが、それでも作ってみたい。俺の我が儘だけどな。

「だから…、」

「も、もういいかな」

「うん。もうヘトヘトです…」

 と、二人はへたっていた。もしかしたら、肉体的疲労だけでなく、精神的疲労もかなりあったのかもしれないな。今日は新しい料理を作ったため、いつも以上に気を張り詰めていたのだろう。

「ま、今日はお疲れさん。明日は別の人が来るんだろう?」

「うん。ルリはもう疲れた」

「そうですね。これはもう、戻ったら筋トレ再開ですね」

 …クリム。それは疲れているのか?疲れている人は筋トレなんてしないと思うのだが?

「それじゃあ、今日はお疲れ様」

「うん!お休み、お兄ちゃん♪」

「お休み、アヤト」

 二人に挨拶を交わし、部屋を出ていった。それにしても、

「あの二人の体を…、」

 つい先日目撃した二人の裸体を脳内メモリーから引っ張り出す。それにしても、あんな…。って、いやいや!今は明日のことを考えよう。

「明日はあれを作るか」

 そう考え、前回開いていたウェブページを開き直し、作り方を確認する。

『3-3-6(第230話) チーズケーキ作り~スフレチーズケーキ~』

 チーズケーキ作り2日目。クロミルとイブの監視の元、第2のチーズケーキ、スフレチーズケーキを作り始める。


 こんな感じの次回予告となりましたが、どうでしょうか。

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