3-3-2(第226話) 忘却された約束
ある日俺が、
「…はぁ~。やっぱ、横になるって最高だな」
休息を楽しんでいると、
「お兄ちゃん!今日はルリと遊ぼ―♪」
邪魔者がやってきた。俺は速やかに排除すべく、
「ルリ。今日俺は忙しいんだ。またの機会に、な?」
俺は優しく言う。
「え~?ルリはお兄ちゃんと遊びた~い!」
と、幼少期ならではの我が儘を言ってのける。ち。
「…そうか。そういえば、クロミルに新作のお菓子を…、」
「今すぐクロミルお姉ちゃんのところに行ってくる!!!」
そう言って、ルリは俺の前から消えた。
「渡したような、渡してないような…、」
と、続きの言葉を独り呟く。もちろん、さっき言った言葉は嘘ではない。だが、最後まで俺の話を聞いていなかったルリは間違い無いなく、勘違いしただろう。俺の平穏のために、クロミルよ、ルリの面倒を見ておいてくれ。
「さて、俺は寝るか」
こうして、平穏を無事に取り戻せた。
なんて思っていたが、
「・・・!?」
俺が貼っておいた【結界】外で、ルリがなにやらお怒りのようだ。ちなみに、この結界には【遮音】を付与している。だから、音は遮断され、俺の耳に聞こえないのだ。こっから見ると、ルリが必死に口パクしているようにしか見えない。
「・・・!?」
口パクしていたルリは俺の【結界】に近づき、
「・・・!」
拳を振り下ろす。結果、【結界】は破られてしまった。ま、1枚だけだったからね。しょうがないと言えばしょうがないな。
「お兄ちゃん!クロミルお姉ちゃんに聞いてみたら、クロミルお姉ちゃんも“どういうこと?”って聞き返されたよ!どういうこと!?」
あ~あ。こんなことになるんだったら、もっとばれにくい嘘をつくべきだった。今更な後悔をしつつ、
「いや、あの話には続きがあってな、それを最後まで聞いていたら、ルリも思いとどまったかもしれなかったのにな~」
と、俺は思いっきり開き直り、ルリのせいにする。まるで道化だな。
「ふ~ん?そういうこと、言っちゃうんだ~?」
ルリは腕を組み、若干呆れ顔をしている。
「それで、そんなことを言うとどうなるんだ?」
経験則から言わせてもらえば、俺が危ないと自覚しているが、強がりを言ってみる。俺だって強がりたいお年頃なのだ。
「あれからお兄ちゃん、全然動いていないよね?」
「そうだな」
あのバンダドとの戦いから数日経過しているが、俺は運ばれた数日前からこの部屋をほとんどでていない。出ていく用があった時は確か…ようをたすくらいだったか。
「全く何もしていないよね?」
「そうだな」
俺は暇になればネットサーフィンをし、眠くなれば難しそうな情報を読み漁り、いつも途中で寝落ちする。そんなサイクルを不定期に繰り返していたな。
「ということは、あれを全く作っていない、ということだよね?」
「ん?あれ?あれって何だ?」
正直、嫌な予感がした。一瞬、とてつもなく寒い風が背中に走るが、俺は気のせいだろうと心の中で断言し、話を続ける。
「…チーズケーキ」
ルリのはっきりとした声。そして、その声で、
(チーズケーキ?・・・あ。ああ!!??)
俺は今まで記憶の奥底にしまい込んでいた情報を引っ張り出す。そういえば約束していたんだっけ?すっかりうっかり忘れていた。
「…もしかして、本気で忘れていたの?」
ルリは一気に悲壮感溢れる顔になり、
「作って、くれないの?」
泣きそうな顔をしていた。
・・・はぁ。俺もまだまだだな。
「…すまん。少しゴタゴタしていて忘れかけていた」
俺はルリの頭の上に手を置き、
「だが、必要な材料の調達が出来なくてな。ここ数日どうしようかと悩んでいたんだ」
よし!とりあえず、咄嗟に考えたにしてはかなり良い言い訳だな。言い訳に関してはかなり上達した。…嫌な上達だ。
「ほんと?」
「本当だ」
ルリの問いに俺は即答した。こういう時は即答し、相手に考える時間を与えないようにしないとな。少し考えれば嘘だと見抜かれる可能性があるからな。
「…ほんとのほんと?」
「そんなに俺のことを信じられないのか?」
「うん」
・・・。
ま、現在進行形で嘘ついているわけだし、疑う気持ちも分かるけどさ。本人目の前にして言う事ですか?俺、結構傷ついていますよ。
「…分かった。必要になったらルリを呼ぶから、また後で来い」
「…絶対、絶対につくってよ」
「おう」
「忘れないでね!」
そう言って、ルリは去っていった。
・・・。
「よし!時間稼ぎ成功!」
罪悪感は多少あるが、仕方がない。さて、
「とりあえず、必要な材料と時間、作り方を調べておくか」
俺は検索機能を用いて、チーズケーキの事について調べ始めた。
次回予告
『3-3-3(第227話) 大人なひと時』
チーズケーキの作り方を、検索エンジンを用いて調べていると、リーフ、イブ、クリムが部屋にやってくる。3人が来たきっかけは、彩人のあの言葉であった。
こんな感じの次回予告となりましたが、どうでしょうか。
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