3-2-32(第221話) シンペキへの乗り込み戦~その9~
場所は少し変わり、
「さて、僕の相手は君、ですか」
「うん」
2人が向かい合っていた。
片方は、剣と盾をもっている男性。
もう片方は、腕に銀色に輝くブレスレットをつけている少女。
体格的に考えれば、勝敗は誰の目を見ても明らかだろう。
だが、
「ん~…?ねぇ、それでほんとに勝つ気でいるの?」
「…そちらこそ、武器も持たず、僕に勝つ気でいるのかい?」
「うん。だってルリには、」
少女、ルリは腕に付けているものを指でなで、
「これがあるから。だから、大丈夫」
と言った。もし彩人が聞いていたら、「お、おう。ありがとな。」と、彩人の顔を赤く染めさせただろう。
「そんなもので私に勝つ気でいるのかい?」
「大丈夫。あなたみたいな人には負けないから」
ルリは感情の起伏もなしに、相手を挑発する。だが、この発言はルリの確信をえての発言である。
もっとも、
「…ほぉ。今の攻撃を躱すとは」
「ほら。こういうことを仕掛けてくるってことは、自分の力に自信がないんでしょ?」
言われた側が素直に納得するかは別問題である。
こうして、ルリと3闘士のリーダー、ソルド=パーフェンとの闘いが始まる。
最初、ルリはソルドの攻撃を徹底的に躱していた。これは、一緒に訓練していたクロミルからの教えである。だから、クロミルと戦い方が似ているのだ。それに、ルリにはある疑問があった。
(あの剣がルリの体に当たったら、折れちゃうんじゃないかなぁ…)
相手の剣の強度と、自身の鱗の強度についてである。自身の鱗でソルドの攻撃を受けたら、相手の剣は折れる、そんな確信をしていた。その理由は、
(でも、もしかしたらってこともあるしな~)
元魔獣としての勘である。元々ルリは野性の動物。そういった勘には自信があるのだろう。訓練の時、その自信はクロミルとの模擬戦によって砕け散ったわけなのだが。
その結果、クロミルの教えを実行することにした。それは、
“まず、相手の攻撃パターンを探ります。そのためにまず、相手の攻撃を徹底的に避けることです”
付け加えて、出来れば紙一重がいいとか言っていたが、ルリはへぇ~、と聞き流していた。
それを今、実行していた。紙一重で避けて、である。
(ん~…。なんだかなぁ~)
不安と疑惑を持って、
(なんだ、この少女は?)
ソルドは少女の様子に疑惑を抱いていた。
それは、自身の攻撃を今もこうして躱し続けている事である。それでいて攻撃するそぶりもなく、ただ淡々と躱している。
(後もう少しで当たりそうなのだが…)
だが、ソルドは自身の攻撃がもう少しで当たりそうなので、体力が続く限り攻撃を続ける。だが、
(何故だ?こんなにも偶然が続くものなのか?)
何度も避けられていく内に、
(まさか、わざと…!?)
そう思った瞬間、ルリの表情にも納得した。わざと避けているから、攻撃による恐怖を感じていないのだと。避けられるという確信があるから、避け続けているのだと。
(ちぃ!)
そう考えたソルドは、ルリから距離を取り、策を練り直す。
「あれ?どうしたの?かかってこないの?」
ルリは急に距離をとったソルドに声をかける。
「…悪いな。出来れば剣でケリを付けたかったのだがね」
「?どういう…」
ルリが最後まで言い終えることは無かった。
「やはり、不可視の魔法ですら躱すか」
「あっぶな。クロミルお姉ちゃんのおかげで助かった~」
クロミルの教えの一つで、常に油断しないよう言われていた。簡単に言うが、自分が優勢だと思っている時は特に注意するようにと、クロミルはルリに教えていた。だからルリは、ソルドの攻撃を躱すことが出来たのだ。
「次はそうはいかんぞ。【空気の刃】!」
ソルドから不可視の刃、【空気の刃】が複数、ルリに向かっていく。それを、
「・・・」
ルリは躱していく。まるで、見えているかのように。
「ば、馬鹿な!?どうやって…!?」
「そんなこと、言う必要がある?」
ごもっともな意見を言い、今もなお、躱し続けている。今も躱し続けることが出来る理由は、
(こっちにも来そうだな~。でも、こっちに避けると…)
…ルリ自慢の勘であった。やはり、野生の勘は侮れないのだろう。
「こうなったら…!」
ソルドはルリに背を向け、走りだそうとする。
瞬間、
「な、何だこれは!?」
ソルドの目の間に巨大な物体が出現し、周辺の気温も下がる。
「どこへ行く気?」
「!??」
「ルリの相手、するんでしょ?」
ソルドの後ろに、ゆっくりと近づいてくる恐怖。
「き、貴様みたいな小物となんか相手している暇なんてない!」
ソルドは必死に脳を回転させ、
「あの男と森災を殺しに行かなくてはいけないんだ!」
解を導き出す。
その解は、
「それって、お兄ちゃんとモミジお姉ちゃんのこと?」
その少女にとって、
「!?な、なんだこの威圧は!?」
「ゆる、さない!」
最も出してはならない解であった。
次回予告
『3-2-33(第222話) シンペキへの乗り込み戦~その10~』
ガルドの言葉により、ルリは隠し切れない怒りを威圧として放出する。それからルリは徹底的な力をガルドに見せつける。ガルドはそんなルリに対し、言葉を並べ始める。
こんな感じの次回予告となりましたが、どうでしょうか。
感想、評価、ブックマーク等、よろしくお願いいたします。




