1-1-18(第22話) ホットケーキ
庭に着いた俺は、調理器具と食材をアイテムボックスから出し、料理を始めた。決してこの国の料理は不味くはないのだが、食材を切っただけだったり、焼いただけだったりと、日本で生まれ育った俺としてはもっと手間暇かかった料理が食いたいのだ。
まず始めに作るのはもちろんホットケーキだ。あのギルド職員に渡した後でも、ちょくちょく自分で食べる用として作っているので、もはや得意料理と言えよう、エッヘン。
あっという間にホットケーキを焼き上げる。見た目は絶妙なきつね色、味はっと。もぐもぐもぐ。ふむ、美味いな。次はチャーハンでも作ろうとしたとき、不意に声をかけられた。
「………アヤト。それ何?」
「ん。ホットケーキだよ」
「ホットケーキ?」
お。珍しく間がなかったな。
「よかったら、食べる?」
「………いいの?」
そんなもの欲しそうな顔で見られたらねぇ。あ、涎垂れそうだよ。
「はい」
「………ん。………美味しい。もっとちょうだい♪」
「はいよ」
こうして俺はまたホットケーキ作りを再開した。イブが食べ始めると、見慣れた二人組がやってきた。
「おぉアヤトか。こんなところでなにやっているんだ?」
「あらあらアヤトさん。それは一体…?」
「あぁこれはホットケーキだよ」
「「ホットケーキ??」」
お。やっぱり親子だな。反応がそっくりだ。
「………とっても美味しい♪もぐもぐ父様も母様も食べるべきもぐもぐもぐ」
イブサン。喋るか食べるかどっちかにしなさいな。
「どれどれ……」
「では、頂きますわ」
さてさて、どんな反応をするのか楽しみだな。やっぱ作ったものは美味しいって言ってもらえる方が嬉しいよね。
「「う、美味い!!」」
うん。やっぱつくってよか、
「こんな美味いものを作るとなるとやはり…」
「えぇ。絶対に勝負に勝ってくださいあなた!」
「うむ!我が娘とこのホットケーキのために!!」
うん、前言撤回。ぜんっぜんうれしくねぇ!なんだその動機!不純すぎるだろ!これは絶対に負けられねぇぞ!
その後、彩人は魔王城に仕えている多くの使用人に追われていた。理由は、
「アヤト様!ぜひ、ぜひ私に!」
「あ!抜け駆けはずるいわよ!アヤト様!一枚!一枚だけでいいですので。」
「ばか!一枚だけじゃ足りないわよ!なんたって」
「そうよ!あの魔王様が何枚も食べ、その上美味しいといったものを一枚だけなんて我慢できるわけないじゃない!」
「そうよ!だから…。」
「「「アヤト様!!!私達にもホットケーキを下さい!!!!!!」」」
ホットケーキである。あの後、魔王が、「ホットケーキうま!」と叫び、すぐにシェフに食わせ、再現できるかどうか聞いたところ、「無理です」と言われ、魔王はがっかりしていた。それを見た使用人達はなんとか彩人にその作り方を聞き、そして彩人に作ってもらおうとしたのだが、「さすがにこの人数のホットケーキを焼くのは無理」と言って逃げたのだ。使用人達はそれでもあきらめず、彩人を追いかけるが、途中で見失っていたのだ。まるで、瞬間移動したかのように。その場はあきらめたのだが、皆はある決意をする。彩人の作るホットケーキを食べたいがために。
その後、魔国でホットケーキが流行るのだが、それはまた別のお話で。