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色を司りし者  作者: 彩 豊
第二章 鮮緑と老緑混じり合うエルフ達
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3-2-20(第209話) チーズケーキな結束

 あれから1時間かけ、遠くまで来た、と思う。俺もクロミルも懸命に走っていたからな。クロミルやイブ、リーフの話を聞き、ただ真っすぐに逃げるのではなく、入り組んだ迷路を制覇するようには森の中を走り回っていたからな。俺もどんな道を走っていたのかは正確には覚えていないんだよな。

「あ~面白かった♪」

 ルリはなんとも能天気だこと。まったく、誰に似たのやら。…俺、じゃないよな?

「それにしても、追手の心配はしなくていいのか?」

 俺はリーフに話を振る。

「…こればっかりは多分、としかいいようが…」

「いえ。やつらは確実に追いかけます。一生」

「え?」

 急にカーナが話に割り込み、話を始める。

「やつらは自分のためなら、どんなに汚いことも率先してやります。人殺しだろうと生贄だろうとなんだってやりますし、やらせますよ。やつらはそういう者達なのです。なんせ、隠れていた私達を探すためにわざわざ王都を出たのですから」

 カーナが言うと説得力があるな。だが、あやふやなリーフの意見より、実体験があるカーナの発言の方が信頼度は高いな。リーフも間違っていないが、ここはやはり、最悪のことも踏まえて行動するべきだろう。つまり、いつまでもここにいるのは危険、ということだ。…なんか、ブーメランを食らったような気がするが、気のせいだろう。とにかく、近いうちに場所を変えないと。次はどこに向かえば…?

「お兄ちゃん、お兄ちゃん」

「どうした?何か案でも…」

 グー。

「お腹空いた。お昼にしよう♪」

「お前な~…」

 相変わらずの能天気ぶりに怒るどころか、

「はぁ~」

 俺は呆れてしまった。まったくこいつは。緊張感を少しはもてっての!

「交代で見張り、お昼を済ませるぞ」

 俺のこの発言で、

「「「はい!!!」」」

 しわが寄っていた顔に一時期、笑顔が戻る。…女性の真剣な顔もいいけど、やっぱり笑顔が一番だと思うな。こんな時なのに、そんなことを考えてしまう俺であった。


 ご飯を食べている間、今の状況をまとめてみた、



・緑の国の偵察隊に俺達の存在がばれた

・時期に、俺達の居場所もばれる

・やつらはどんな手を使ってでも、俺達を見つけ、捕縛するつもり



 こんな感じか?

 改めて考えてみると、結構ピンチじゃねぇか?どこに逃げても見つけ出し、俺達を捕縛しようとする。一か所にとどまることは愚策で、こっちは移動するだけで音がかなりするので、移動にも細心の注意を払う必要がある。となると、今までの俺は能天気すぎ、ということになる。俺もルリのことは強く言えないな。今はそんなことより今後のことだ。

「それで、今後はどうする?」

 俺の質問に、

「「「え???」」」

 全員、何を言っているの、という顔を見せる。なんだ?なにかおかしなことを俺は言ったのか?

「いや、今後のことをどうしようかと相談をだな…」

「そんなの、最初から決まっているじゃん。ね?」

 女エルフの一人が俺の発言を途中で打ち消す。

「…そうですね。当初の目的のままでよいかと」

 当初の目的のまま?

「どういうことだ?」

「アヤト様こそ、何を言っているのですか?」

 と、別の女エルフから俺に言ってきた。

「…最初から決まっている」

 最初からどういうことだ?

「あの王都に直接乗り込むんですよ」

 カーナの発言に、

「え?え?」

 俺は思わず驚いてしまう。だって、

「そんなことをすれば、お前らが捕まる恐れが…!」

 俺の発言を、

「構いません」

 カーナの発言に、女エルフ達は一斉に頷く。

「…怖く、ないのか?」

 俺だったら、必死に保身に走っているだろう。自分の命が、みんなの命が危険にさらされないよう、普通は注意する者じゃないのか?

「私達はもう汚れた身です。これまでの無念を晴らせるのでしたら、私の命なんて惜しくありません」

 そう言われた。

 何の感情もなく、いわれた。

 必死に保身に走ろうとしていた俺が馬鹿だと思えるほどだった。怒りや悲しみにとらわれることなく淡々と言った。そこまで、自分のことに関心がないのか?それとも、自分の命以上に大切なことなのか?

 俺は自分が恥ずかしくなった。

 さっきまで必死に保身に走っていた自分に。

 だから、

「いや、それは駄目だ」

「「「え???」」」

「ちゃんと生きて、その上で生きる喜び、楽しみを体験しろ」

「ですが!それでは…!」

「そのための俺達だ。だよな?」

 俺はみんなに話をふる。

「ルリも頑張るよ!」

「私は元々、ご主人様に賛成です」

「私だって、同じ仲間として頑張りますよ!」

「…クリムに同意」

「そのための訓練でしたからね」

「私も、微力ながらお貸しします」

 ルリ、クロミル、クリム、イブ、リーフ、モミジが答える。

「みんな、お前達に力を貸してくれるんだ。だから、お前らは命がけで特攻せずにやればいい」

 という俺の発言に、

「「「・・・」」」

 まだ、不安に思っている部分があるのだろう。こういう時はどうすれば…?俺はルリ達を見る。

「「「「「「・・・」」」」」」

 目で何かを訴えられた。おそらく、

“頑張れ!!!”

 的なことを伝えたかったのだと思う。でも、生きたいと思えること、ねー…。

 ・・・。

 あ、そうだ。

「確か…あった」

 俺は最終手段を用いる準備をする。

「…お兄ちゃん?何しているの?」

「ん?いいものをだそうと思っていてな…と」

 俺は一人分の皿とフォークを出す。そして、

「この戦いが終わったら、これをみんなに分けるつもりだったんだけど、どうかな?」

 あるものを皿の上に出し、みんなに見せる。

「「「・・・???」」」

 みんなは、この物の正体が分からずに?を浮かべているようだ。

「これはな、チーズケーキというケーキの一種でな…」

「「「「「け、ケーキ!!!!!?????」」」」」

 モミジ以外の5人はひどい食いつきようである。モミジは何のことかさっぱりなようだ。そういえば、後でみんなにケーキを作って食べさせてやると言ったまま、その約束を放置していたな。

「そうだ。後でみんなと一緒に食べようと思っていてな。これは試作品で…」

「痛!?お兄ちゃん!このケーキ、食べられないよ!?」

「当たり前だ。ルリ防止に【結界】を張っているからな」

「ぶー。けち」

「それでだ。こいつがこんなになるほど美味しいもの、食べたいだろう?」

 この時の俺はいやらしい顔をしていたと思う。

「「「「「食べたい!!!!!」」」」」

「た、食べたい、です…」

 どうやら6人は食欲に正直なようだ。

「さぁ?お前らはどうする?あいつらのせいでこの一生を終えるか?それとも、この戦いを終え、みんなと一緒にこのチーズケーキを食べるか?」

「「「・・・」」」

 女エルフ達は俺のチーズケーキに夢中である。トップスターが集める視線はこのくらいなのだろうか。

「そ、そんな小さいものをみんなで分けるというの!?」

 ここでエーガンが俺に意見してくる。

 は?

「そんなわけないだろ。もっと大きいサイズを作るつもりだ。みんなが満腹になるくらい大きい奴を、な」

 複数個つくることも考えているが、それは言わなくていいか。

「「「・・・」」」

「ま、この戦いで死んでいくやつには関係ないか。じゃあここにいる7人分だけ作っておくか」

「「「!!!???」」」

 女エルフ達は再びチーズケーキを凝視する。

 そして、

「わ、私は食べたいです!」

 とある女エルフが言った。

「そうか。それじゃあ8人分だけを作ればいいのかー」

 俺は棒読み、しかも、だけを強調する。こんなにわざとらしい演技は滅多にしないな。

「わ、私も!」

「うちもー」

「そんなに美味しいなら食べてみたい!」

 続々と食べたい発言が増えていくな。

「それで、お前はどうする、カーナ?」

 ちなみに、エーガンは既にチーズケーキの虜になりつつある。食べてないから完全、とは言えないがな。

「…私も食べたいです。ですから、私の分も作ってくれますか?」

「おお!だから、みんなで行って、みんな生き残って、チーズケーキを食うぞ!」

「「「はい!!!」」」

 こうして、意志は力強く固まった。

 …チーズケーキで意志を高めるなんて、思いもよらなかったなぁ。そんなことを頭の隅っこで思う俺でもあった。


 そして俺達は、

「それじゃあ行くぞ!」

「「「はい!!!」」」

 緑の国の王都、シンペキに乗り込む。

 さぁ、貸しを返しに行こうか!

次回予告

『3-2-21(第210話) シンペキへの進行』

 数日経過し、いよいよシンペキ周辺へと到着する。それは、彩人達、女エルフ達にとっての運命をかき分ける長い一日が始まる。


 こんな感じの次回予告となりましたが、どうでしょうか。

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