3-2-19(第208話) 男エルフ達の追っ手
翌日。
俺は馬車を引きながら、
(…俺って実は、もう人間辞めていたんだなぁ…)
昨晩のことを想い出していた。昨晩のあのモミジの話。あの話を頭の中で反復させていた。俺は人間ではなく、非人間であること。分類は…なんだろう?昨日は植物人間と言ったが、俺の体の半分は植物みたいだし、植物人間、ということでいいのか?それにしても、見た目には一切変わっている箇所はない、けどな。ないよな?風呂には出来るだけ行って、体のあらゆるところを見てはいるが、どこも地球にいた時と変わらないしな。…つまり、俺はこの異世界に来てからまったく成長していないという事か。ま、体は成長しなくてもいいが、心や頭の方は一向に成長しないことがな~…。
…さて、ここで気分を変えて、別のことを考えるとしよう。
「!!??」
「?どうしましたか、クリム?」
「ルリちゃん!」
「分かっているよ。右、だよね?」
「うん!イブ!左を警戒して!」
「…分かった」
…ん?何か、馬車内が急に騒がしくなったな。
「…ご主人様。馬車を止めて下さい」
「?おう」
クロミルもかなり緊迫しているみたいだな。なんだ?
「ルリちゃん!一緒に挟み込むよ!」
「うん!」
そう言い、クリムとルリは馬車から降り、
「【炎獄】!」
自身とルリを炎で作られた檻?みたいなものに閉じ込めた。なんだ?本当に何をしている?
「ねぇ?そんなところに隠れてないででてきなよ?氷漬けにされたくないでしょ?」
ルリが訳の分からないことを木に言っていると、
「…ち。ばれていたのか」
男が木の後ろから出てきた。え?あの2人はあの男に気付いていたのか?いや、クリムとルリだけじゃないな。クロミルも戦闘態勢に入っているから、計3人か。
「あなたは緑の国の者ですか?」
「そうだ。俺は偵察でお前らの事を見つけ、たった今、報告を終えたところだ」
え?あいつが?
「そうですか。では、」
「おおっと」
「ち」
後ろからルリが殴りにかかるが、男はそれを華麗に躱す。
「それぐらい読めなきゃ偵察隊の…」
「はぁ~…。あれぐらいで油断しているようじゃ、クロミルお姉ちゃんに一生敵わないよ?」
男の発言を最後まで聞くことなく終わった。ルリは、男が自分の攻撃を躱すと読み、わざと攻撃をし、躱したところで魔法の追加攻撃を食らわせたみたいだ。男は全身氷漬けになり、寒そうに氷が少し震えている。こいつ、まだ死んでいなかったのか。氷を木端微塵にすればこいつも死ぬのかね。いや、今はこいつから有力な情報を吐き出させた方が良かったか?ま、やってしまったものはしょうがないし、こればっかりはルリ、クリム、イブのお手柄だろう。クロミルも気づいていたようだし。
「ありがとな。俺、全く気付かなかったよ」
馬車を引いているのに一切気づかなかった俺もどうかと思うが、こればっかりは仲間に救われた、としか言いようがない。今は自分の無力さをなじることより、
「…おそらく、私達を捕縛するため、本格的に動き始めたのでしょう」
「ですね」
「…ん」
これはリーフとイブと同意見だ。やつも自身のことを偵察隊の~とかほざいていたし。となると、この場所もすぐにばれる可能性があるな。
「あ、あの!」
「ん?どうした、モミジ?」
いつの間にか外に出ているモミジに話しかける。
「この木に話を聞いてみたところ、ここから約2キロ先に多くの人を見たと言っています」
「「「!!!???」」」
な、なんだと!?それじゃあこんなところでのんびり考えている暇はないな!
「い、急いでこの場を離れるぞ!」
「「「はい!!!」」」
全員、馬車に飛び乗り、俺とクロミルで急いでこの場を後にした。あの氷漬けの男は見世物にしておこう。
次回予告
『3-2-20(第209話) チーズケーキな結束』
追っ手を撒いた後、彩人達はルリの提案により、お昼休憩をとることとなる。そして、彩人は男エルフ達の執念に戸惑い、保身に走ろうとしていた。だが、女エルフ達は死の覚悟を決めていた。彩人はそんな女エルフ達の覚悟に拒否の意を示し、生きて帰ってほしいため、あるものを駆け引きの道具にした。
こんな感じの次回予告となりましたが、どうでしょうか。
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