3-2-3(第192話) 難民救助
「私達エルフは緑の国の住人です。そして、この国にはとある脅威が昔からあります」
「確か、森災、だったか?」
「ええ。森災は私達の国、緑の国を滅ぼそうとしていたのですが、そこに現れたのがあのにっくき世界樹だったのです」
と、声を聞いただけでも分かるほど、怒りの感情が伝わってくる。他のエルフ達も、怒りや悲しみ、そして涙を流す者までいた。涙って意外とよくでものなんだな。
「世界樹は森災を追い払い、緑の国を守ってくれました。その後、私達は世界樹を守り神として称え、像を作り、祈りを捧げていました」
なんか、急に神様のような扱いになってきたな。守り神、と言われるくらいなのだから間違っていないだろうが、なんか引っかかる。千年杉、に近い扱いでいいのかね。
「そして、その翌年から私達は様々な物を貢ぎ物として差し出していました。最初は農作物、料理だったのですが…」
女エルフは強く拳を握り、地面に叩きつけ、
「後に世界樹がこう宣告されたのです。“貢ぎ物は今後、女にせよ。それ以外だった場合、私はこの国の守護を放棄する”と」
…それ、本当のことなのか?
いや、あの世界樹の事だから言うかもしれないが、つけあがり過ぎないか?それに、成績がいいからって異性、男が女を、女が男を口頭で欲しがるって相当だぞ?
「私達も最初は反対しました。ですがそれ以降、私達は男性のエルフに捕まり、暗い牢屋のような場所で過ごしていました」
「…ちょっと待て。それじゃあ国を出たエルフ、リーフはどうなんだ?」
リーフからそういった類の話は一切出てこなかったのだが?
「無理もありません。何とか逃げ切った女エルフ達は国の端まで行き、そこでひっそりと、少数規模で暮らしていたのですから。かくいう私も、昔は数少ない家族と過ごしていました」
「・・・そう、だったのか」
最早言葉がでなかった。
俺自身、ボッチ以上の不幸はなかなか無いと自負していたが、これは相当辛いものだろう。国から逃げ、同胞は捕まり、性を貪られていたのだ。たまったものではないだろう。
「…確かに、家族も私と親の2人だったし、知り合いも5人くらいでした。最初はそういうものかと思っていたのですが。赤の国に来てみて、それは違うことが分かりました」
なんとも明るい答えが返ってきた。
だが、
「…リーフ。無理しなくていい」
「そうです!これからは私達が傍にいます!」
リーフの目にはあるもので湿り始めていた。
「もう。今はこの人達の話を聞きましょうよ」
と、湿らせていたものを拭い、話を促すリーフ。
…そうだな。今はこの女エルフ達の話だ。リーフの件は後回しにしよう。リーフには悪いけど。
「ですが、国を出ることが出来ず、捕まったエルフ達もいます」
「それがお前ら、ということなのか?」
「正確には私達の祖先、ですけどね」
と、軽い笑みを浮かべて言った。皮肉のつもりで言ったのかは分からないが、親を憎んでの発言、と言うわけではなさそうだな。
「そして、私達は年に数度、世界樹に貢ぎ物として差し出されたのです」
ここで、女エルフ達全員が下を向き、号泣し始める者までいた。…なんか、辛いことばかり思い出させて悪い気がするな。被害者に事情聴取している警察官もこんな罪悪感を抱いているのだろうか。
ちなみにこの時、ルリとクロミルとモミジはお風呂に入っている。こんな薄汚れたことなんか聞かせたくないし。あいつらはもっと伸び伸びとしてほしいしな。戦闘に関しては申し訳ないけど、少なくともこれぐらいはな。
そして泣き止むのに数分待ち、
「…すいません。取り乱してしまって…」
「いや。こっちは問題ない。むしろ、辛いことを話してくれて感謝している」
わざわざほじくりかえしたくないトラウマを離してくれているんだ。これぐらいの譲歩は当たり前だろう。
「ありがとうございます。こんなに美味しいご飯に、寝床まで与えて下さり…」
「いや、そっちは気にしないでくれ」
口には出さないが、女エルフ達の方はいわばついでだ。リーフ達はもちろん助けるつもりだったが、その場に倒れている女エルフ達を見捨てるのはさすがに気が引けたからな。世界樹の話を踏まえると、こいつらはクリム達と同じ状況だったみたいだし。ま、俺が助けたんじゃなくて、俺以外のみんなが助けたんだけどな。俺はひたすら横になっていただけだし。そう考えると、俺って結構ドライなのか?それとも…。
あ。ちなみに、今の俺はというと白魔法で治癒を行い、体を起こすことが出来るようになった。一人で歩くのはまだ難しいが、魔法を駆使すればどうってことないし、体の回復も今のところ順調である。魔力もいざという時のためにとっておいているので、回復に全部回せないのがもどかしい。早く怪我を治したいものだ。
「世界樹に捕まった時、私はこの国の仕組みに怒り、哀しみ、悔しさを覚えました。他の者達もきっとそうでしょう」
その言葉に一同が首を動かす。
「ですが、私達は勝てませんでした。というより、動けませんでした」
「?何でだ?」
勝てない、と言うのは戦ったからこそ分かるが、動けなかったというのは意味が分からない。仲間を、家族を助けるために動こうとするのではないか?
「まだ捕まっていない者達のこと、緑の国のことを考えてしまい、どうしても心の底から憎めませんでした」
「・・・」
そう、だったのか。
俺としては憎さ百倍だけどな。パンチを繰り出したいというより、ミンチにしたい気分だ。そして焼いてハンバーグにして、魔獣の餌にしてやりたい。いや、あんなやつらの肉片に触りたくないから無理だな。
とにかく、情は一切湧かない。憎みこそすれ、同情の余地はない。
何せ…、
「ですが、捕まって、何度も、何度もされていくうちに、気付いてしまいました」
「?」
「あいつらは私達を売ったんだと。自分の身がかわいくて、命が惜しくて売ったんだと!」
と、情緒不安定なのか、さっきまで死相感漂うエルフに怒りの感情が表に出始める。
「ですが、この後、どうすればよいのか分かりません。このままあなた様方とともに行くべきか、他の道を模索するべきなのか」
「え?」
なんか急にとんでもないことを言ってきたぞ。
一緒に来る、だと?
この15人を連れて、今までの旅を続行しろと、言っているのか?
経済的に考えて難しいのだが?お金は多少あるが、食料は7人分を想定しているのだ。20人越えともなれば、食料の減りも早くなるし、牛車もこれまで以上に頑丈な物にしないと。
「私達はこれからどうすべきなのでしょうか?」
と、俺にすがってきた。
・・・。
なんか、難民救助って、こういう気持ちなのか?
人を救うことはいいことだが、アフターケア、つまり今後の事も考えないといけないわけで…。とにかく、今の俺では判断できないな。3人に相談だ。
「…私としては、何かしてあげたい」
「ですね!」
「同じエルフですし、出来る限りのお手伝いはしてあげたいです」
3人はエルフ達のお願いに賛成的思考だ。
確かに、俺も何か出来れば、と思っているのだが、一緒に旅をする、というのはな…。
「それにしても、あの時一緒にいたドライヤドは何ですか?」
「え?」
急に他のエルフが俺に話しかけてくる。急に話しかけてきたので、答えに戸惑ってしまった。だが、その俺の慌てる様子に何を勘違いしたのか、
「そうよね。まさか、あんなドライヤドがあなた達の仲間な訳ないよね!」
「「「「は????」」」」
俺、リーフ、クリム、イブの4人は思わず間抜けな声をだしてしまった。
何、言っているんだ、このエルフは?
そして、
「大体、フォレードなのに、あんな緑と赤が混ざったような色をしていて、恥ずかしくないのかね?みんなもそう思わない?」
その女エルフに、他の女エルフ達は、
「「「・・・」」」
何も言わなかった。
一方の俺はと言うと、
(は?え?何がどうなって、え?)
急に始まったモミジの誹謗に、頭が追い付かなかった。
「おい。急に何を言って…」
「だって。世界樹と見た目が似ているんですもの。あんなやつに助けられたかと思うと、死にたくなるわ」
この発言で、空気がお通夜状態。
しかも、最悪なことに、
「今の発言、ほんと?」
「え?」
お風呂上がりのルリ、クロミル、モミジがこの話を聞いていた。
次回予告
『3-2-4(第193話) 最凶の妹』
話を途中からとはいえ、聞いていたルリは、モミジの誹謗中傷に思わず聞き返す。そして、彩人達のフォローも間に合わず、最凶の妹が牙を向こうと敵意を向ける。
こんな感じの次回予告となりましたが、どうでしょうか?
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