3-1-15(第173話) ドライヤドの名前、決定!そして、ロウカンへ
今週の投稿はこの1話で終了したいと思います。
来週から少しの間、1話ずつの投稿となりますので、ご了承下さい。
後書きに、次回予告を記しておきますので、読んでみてください。
さらに数日が経った。
途中、クリム、イブ、リーフが用いた魔法の名前をどうするか聞かれたので、
「だったら、【殲滅熱光線嵐】とかいいんじゃね?」
と、冗談めかして言ってみたら、
「それ、良いかもしれませんね」
「…いいと思う」
「私達だけの魔法ですから、多少長くても…うん」
「お、おい。冗談だぞ?冗談で言ったやつなんだぞ?」
と必死に言ってみたものの、既に決意は固まっていたらしく、俺が何を言っても、
「いいえ。もうそれに決めました!ね、イブ?」
「…ん。クリムに同意」
「私もいいと思います」
糠に釘状態だった。
こうして、俺の黒歴史が一つ生産されて落ち込んだが、3人が笑顔になったので、前を向くことにした。ま、いつまでも黒歴史について考えたくないしな。
名前ついでにもう一つ。
新たに仲間になったドライヤドの名前を考えることになった。発端は、
「お兄ちゃん?ドライヤドのお姉ちゃんの名前は?」
ルリである。
確かに、ドライヤドは種族名であって名前ではないな。みんなで名前を考えようとしたとき、
「あ、あの。名前はその、アヤトさんにお願いしたいなって、駄目、ですか?」
と、上目遣いからの目うるうる攻撃。
俺には効果抜群で、
「わ、分かった」
と、二つ返事してしまった。
俺は夕暮れ時にドライヤドを見て、
「【モミジ】、かな?」
ぽつりと呟いた。
夕暮れ時にみるドライヤドの髪の赤がより一層映えた。そして、似たような光景をテレビの中で見たことがあるなと俺は自分の思い出ボックスを総動員して、行きついた先が、
(ああ。紅葉か)
そう。秋に見られるあれである。リア充カップルの秋のデートスポットとして有名だろう。確か、紅葉狩り、だったか。俺としては秋だろうが冬だろうがお構いなしに家でゲームしていたが。
そんなことを考えながらぽつりと呟いたはずだが、
「それがドライヤドのお姉ちゃんの名前なの?」
「ええ!!?」
「んわ!?」
ルリに聞かれていたらしく、思わず大声を上げてしまった。ルリも驚き、
「な、何?」
「…今の声は、アヤトとルリのものだった」
「何かあったんでしょうか?」
「もしや、ご主人様の身に…!」
「もしかして、私に何か用ですか?」
と、全員集合の事態に。
「ドライヤドのお姉ちゃんの名前が決まったんだよ!ね、お兄ちゃん♪」
さらに逃げ場を無くす自称妹。確かに候補はあるが、それでいいかは別問題だろう。
「いや、まだ…」
と、言いかけたところで、
「え!?決まったのですか!!??」
と、期待一杯胸一杯の声や同様の目。
クリム、イブ、リーフ、クロミルもそわそわしているようだった。
(年貢の納め時っていうのは、こういうことなのか)
と、勝手に解釈し、
「えっと…、も、モミジって言うのはどうだろうか?」
頬を軽くかきながら言った。なんかこれ、思った以上に恥ずかしいな。何度も名付けをしているわけだが、どうも慣れない。
「モミジ…」
と、左右前後に激しく動き始め、ついに泣き始めてしまうドライヤド。もしかして、そんなに名前が気に入らなかったのか!??と、俺はオロオロし始める。そんな俺に、
「大丈夫だよ、お兄ちゃん」
「そうです、ご主人様」
ルリとクロミルは声をかけてくれた。オロオロしている俺を情けなく思ったのだろうか。
「ほら、あれを見てよ」
と、ルリが指差した方向を見ると、泣いているドライヤドと、それを慰めるクリム、イブ、リーフの姿が見える。やはり、いいと言っていたのは口先だけで本当は泣くほど嫌だったのでは?
「あんな幸せそうにしているドライヤド様を見るのは初めてです」
幸せそう、だと?
俺は改めてドライヤドの方向を見る。
「ううぅ…。う、ううぅ…」
「良かったです」
「…ん。その気持ち、よく分かる」
「いいですよ。思いっきり泣いても」
そんな会話が聞こえてきた。
もしかして、嬉し泣きだったのか?
「それに、名前をもらって嬉しくないはずがないよ。ね、クロミルお姉ちゃん♪」
「そうです。ルリ様の言う通りです」
と、ルリはあるようなないような胸をはり、クロミルは首を上下に振る。
「…そう、だったのか。ありがとう、二人とも」
俺は二人の肩を軽くたたき、ドライヤドの元へ行く。
クリム、イブ、リーフの3人は俺が近づいてくることに気付き、ドライヤドをよいしょよいしょと背中を押し、俺との距離を近づけていく。俺は軽く呼吸を整え、
「お前の名前は今日からモミジでいいか?」
改めて聞いた。答えはさっき聞いたはずなのに、胸の鼓動が早くなっていく。
「は、はいぃ。どっでも、どっでもうれじいでずぅ~」
涙声で、返事に聞こえない返事が返ってきた。
…なんか、愛の告白をしている気分だ。だったら、このあとは新婚初夜で…。ま、そんなわけ、ないんですけど~。
そんなことがあり、ドライヤド改め、モミジと一緒に旅を続け、とうとう、
「み、見えました!」
リーフの声を皮切りに、みんな身を乗り出し、前方を見ようとする。俺は長年のボッチ生活の賜物により、みんなの後ろから息を潜めて外を見る。
そこには、自然と一体化しているような町が見えた。
町、というより村に近いのか?高層マンションみたいな建物は見えない。木製の塀?みたいなものが視界に広がる。おそらく、村全体を囲っているのだろう。【赤色装】で強化した視力で確認した。ちなみに、みんなの髪の毛からいい香りがしたので、ちょっとだけ、ほんのちょっとだけかいでしまった。このことは心の奥底にしまっておこう。ばれたら軽蔑されること間違いなしなので。
そういえば…?
「今回行く町の名前は何て言うんだ?」
俺の発言に、
「「「・・・」」」
クリム、イブ、リーフは呆れた顔で俺を見ていた。
あれ?もしかして、やっちまった?
「…あの町は【ロウカン】。自然とエルフが共存し、支え合う町です。前に説明したはずですけど」
リーフが説明してくれた。嫌味を追加で言われてしまったが。
「モミジお姉ちゃん。ロウカンって町、楽しみだね~」
「はい。とても楽しみです」
「…」
ルリとモミジは楽しそうに話をし、クロミルは黙って牛車を引いているが、耳や尻尾が絶えず動いていた。
さぁて。どんな町なのか、楽しみだな!
どんな町、どんな国でも同じようなことをしているなと実感する箇所がある。それは、
(門番って、どこにでもいるよな)
門番である。門あるところに門番あり、というところか。門番は門付近にいるのが当たり前だけど。
「!!?お、女ぁ!??」
「「「「「「え??????」」」」」」
門番が何か変なリアクションをしてきた。
女性に特別な何かでもあったのだろうか。謎である。
「えっと…」
「あ、すいません!つい、その…。あ、入国ですか?通行証をお見せください」
「あ。他国から来たもので。出来たら発行とかしてもらえると助かるのだが」
「はい、かしこまりました。一人二千円となります」
あれ?
青の国では一人千円だったような…?これも国によって差が出るのだろうか。ま、郷に入ったし、郷に従うとしよう。一人二千円だから、六人で一万二千円だな。
「はい。これで六人分頼む」
「分かりました。後、お名前の方をお願いできますか?」
「アヤトだ」
「クリムです」
「…イブ」
「リーフです」
「ルリだよ~」
「クロミル」
「分かりました。・・・はい。これが通行証です。無くさないでくださいね?再発行は面倒くさいので」
「は、はぁ…」
再発行を面倒くさいって…。でも、してくれるだけありがたいっていうものなのか?
ま、そんな面倒くさいことはどうでもいいとして、
「と、通れた~」
「ちょっとヒヤヒヤしたね、お兄ちゃん?」
「そうだな」
何故俺達がヒヤヒヤしたかというと、理由は二つ。
一つは、クロミルが牛人族だとばれないよう、特徴的な耳や尻尾を隠したこと。
牛人族は非常に珍しい種族らしく、どこにいても注目されてしまうので、隠蔽工作を施したのだ。成功してよかった。
もう一つはというと、
「…あの。本当にばれずに済んだのでしょうか?なんだか不安で不安で…」
「大丈夫ですよ!ばれなかったですから!」
「…筋肉お馬鹿。そんな発言を大声でしたら、ばれる」
「はっ!?」
「…ばれては、ないようですね」
モミジの隠蔽工作である。
実はモミジには、ある能力があった。
それは、植物に寄生することが出来る、というものだ。それと、木製の物ならなんにでも寄生できるらしく、試しに木刀に寄生出来るかどうか聞いてみたら、
「や、やってみます」
と、不安げな声をだしていたが、ものの見事に成功した。なので、俺は木刀を腰に差し、その木刀にモミジを寄生させ、ばれないようにしたのだ。
はたからみれば、木刀と会話する俺達。変人に見られること確定だろうな。
ちなみに、牛車は俺のアイテムブレスレットに収納済みである。ほんと、アイテムブレスレットさまさまだな。
「そういえば、リーフも俺達と一緒で良かったのか?」
リーフはこの国の住人のはず。なら、この国の通行許可証やらなんやら持っていると思うのだが?
「それが、道中に無くしてしまいまして…。再発行をお願いしてもらうのもなんですし、みんなと一緒に新しく作った方がいいかな、と思いまして」
無くしたのか…。これ、けっこう重要な物だと思うけど。ま、そんなことはどうでもいいや。まずは、
「みんなで泊まれる宿でも探すか」
「「「「「はい!!!!!」」」」」
俺達は町の中に入っていく。
最初、この町をリーフに案内してもらおうと思ったのだが、
「すいません。私もこの町に来たのは初めてですので…」
とのことだったので、みんなで宿探しをすることになった。
イブ、クリム、リーフとクロミル、ルリ、俺、そしてモミジの二手に分かれて探していたところ、『木々のせせらぎ』亭という宿に決めた。もう一つ、あるにはあったのだが、
「あの宿、本当にやっているの?」
と、ルリが愚痴るくらいオンボロなのだ。どこぞの幽霊屋敷と同じくらい、人の気配が感じられないのだ。そんな宿に泊まろうとは思わないよな。ホラー好きを除いて。
というわけで、木々のせせらぎ亭で受付を済ませ、無事に3部屋借りることになった。割り振りは、
「えぇー!?私もアヤトと一緒がいいです!」
「…クリム。我が儘言わない」
「ですが、そちらは大丈夫ですか?」
クリム、ルリ、リーフの3人と
「うん!今夜もクロミルお姉ちゃんと一緒だね!」
「私もルリ様と一緒で嬉しいです」
「ほ、ほんとに私がこの部屋にいていいのでしょうか?」
ルリ、クロミル、モミジの3人と、
「ま、当然と言えば当然か」
俺1人、という振り分けである。
さすがに女の子だらけの部屋に男一人は不味いよな。不満げな顔を見せられても困るけどな。
俺達は部屋の予約をしておいて、今日は自由行動にした。
宿を探している途中、ちょっとした本屋を見つけたので、そこに行きたい口実をつけたわけである。みんなは、自由行動に賛成してくれ、夕飯頃、またここに集合、ということで一時解散となった。
次回予告
『3-1-16(第174話) ロウカンでの自由行動 ~彩人編~』
自由行動することになった彩人は、宿を探している途中、気になるお店があったので、その店に入店する。その店で彩人は、大量に置かれた本を数冊手に取ってから読み始め、注文した料理を食べてつつ、知識を深めていった。




