3-1-13(第171話) 再びのフォレード~その3~
「待って、待って!もういい!もういいの!」
と、これまで聞いたことのない大きな声を上げ始めるドライヤド。
なんだ?何が“もういい”なんだ?まだこいつらは今もこうして生きている。だから、元凶は始末しないと。
「これは私の問題なんだよ!確かに手伝ってもらったのはすごく感謝しているよ。けど、あなた一人でやる必要はないはずだよ!」
「…そう、なのか?」
言われてみれば、確かにそうかもしれない。
目の前にいるこいつらは、確かに過去の記憶に出てくるいじめっこ達の行動、悪意まで似ていた。だから、俺一人でけじめをつけようと思った。だが、それは間違いだったのか?
「だから、アヤトさん一人でかたをつける必要なんてないんだよ?本当は私が…」
「…そう、かもな」
そうだよな。
俺は、いじめられているドライヤドが、過去の俺と重なって助けようと思っただけだが、ドライヤドはいじめられていた本人だ。ドライヤドがどうするのかを決めるべきであって、俺、いや、俺達は口を挟むべきではないだろう。
ここまできたら、俺も少しは口を挟ませてもらいますけど。改めて冷静になると、俺はかなり暴走していたんだな。
ここで、
「お兄ちゃん。とりあえず、ドライヤドのお姉ちゃんの話を聞いてからでもいいんじゃない?」
「…勝手ながら、私からもお願いいたします」
「ルリ。それにクロミルまで…」
面と向かって二人は言ってくる。
確かに、そうかもしれない。けど、
「…迷っているなら、あのドライヤドに任せよう」
「そうです!私もその方がいいと思いますよ?」
「アヤト。とりあえず落ち着いて下さい。それから決めても遅くはないと思いますよ?」
「イブ、クリム、リーフ…」
もしかして?
「今の俺って、そんなにおかしいのか?」
「「「「「うん」」」」」
「そ、そうか」
俺、おかしかったのか。
だが、反論は出来ない。自分でもおかしいと、今、認知し始めたから。
「分かった。ひとまず俺はこれ以上、手を出すのはやめる」
「「「ほっ」」」
あからさまに安堵するフォレード達。
「お前自身はどうしたいんだ?」
俺はドライヤドに問いかける。みんなもドライヤドを見る。
「わ、私は…」
ドライヤドがどもっていると、
「わ、我々の命だけは!」
「そうよ!私達の命を奪えば、どうなるか分かっているでしょうね?」
「あなた達に裁きがくだるわ!」
フォレード達が命乞いを始めてきた。
こいつら…!
だが、
ズドン!!
「「「!!!???」」」
「やかましいですよ?」
あるフォレードの周りに火が灯り始める。
「もう少し、静かに出来ませんか?」
あるフォレードには、レイピアが突きつけられ、今にも貫かんと構えている。
「…うるさい」
魔力で形成された拳で殴りかかろうとしている。
「あの方の邪魔はさせません」
あるフォレードには、首元に指を突き付けていた。
「黙れ」
あるフォレードの足元が氷で埋め尽くされ、身動きできない状態となった。
そんな絶体絶命の状況に陥ったことで、フォレード達はようやく理解する。
こいつらに歯向かってはいけない、と。
この者達は、我々より強者である、と。
そして、下手に抵抗すると、自分の命が危うい、と。
そこからはもう、僅かに残っていた敵対心もなくなり、我が身の心配しか出来なくなっていた。
「みんな…」
みんなにも思うところがあったのだろうか。フォレード達がドライヤドの話に横槍を入れてきたので、力ずくで黙らせた。その光景を見るだけで、ちょっとスカッとする。
「さ、やかましい者は黙りましたよ?」
「これで静かになりましたね」
「…ん。今度はあなたの番」
と、クリム、イブ、リーフがドライヤドの右肩に手を置く。
「後はあなた様の頑張りしだいです」
「応援、しているからね!」
と、クロミル、ルリはドライヤドの左肩に手を置く。
「み、みなさん…」
ドライヤドの目にまた涙が流れていく。さっきから流していたというのに、まだ流れるのか。ドライヤドは目に力を入れ、
「…もう、私に関わらないでください。もし、このことを守ってくれるのでしたら、私はあなた方に復讐を行いませんし、あなた方には何もしません」
と、ゆっくりと、そしてはっきりと伝えた。その言葉の意味を理会したフォレード達は、
「ほ、本当にそれでいいのか?」
「復讐、報復は一切しない、ということでいいのですか?」
「それってつまり、私達には何もしない、ということだよね?」
こ、こいつら…!
なんで、なんでこうも自分勝手なんだ!
自分だけ助かればいいと思いやがって!
このドライヤドの温情がなければ、俺が燃やし尽くしていたものを。
「はい。その代わり、もう私達に関わらないでください。そのことを守ってくれるのでしたら、私はもう、あなた方に何もしません」
「ほ、ほんと?」
「はい、ほんとです」
とフォレード同士の会話が続く。これ以上関わらないのであれば、俺としてもありがたい。
「私からはそれだけです。それじゃあみなさん、これまでありがとうございました」
と、ドライヤドはあのフォレード達に頭を下げる。
親しき仲にもならぬ、険悪な仲にも礼儀は存在している、ということなのだろうか。
これであいつらに付きまとわれないようになるのだと思うと気が楽である。
俺達は、フォレード達の視線にさらされながらも牛車に乗り、クロミルに引っ張ってもらい、この場を後にしようとした時、
「…あんなの、いつでも破ってやるんだから」
その言葉を聞いた時、俺はいつの間にか、牛車から降りていた。
「「「アヤト(さん)(お兄ちゃん)?????」」」
牛車に乗っていた5人は俺に意味深な視線を送り、
「ご主人様?」
そんな雰囲気を察したのか、クロミルは牛車を止めてくれた。
俺は腰に差していた神色剣を抜き、フォレード達に向ける。
「な!?何する気!?」
「そうよ!もう許したんじゃないの!?」
「…さっきのつぶやき、聞いちまったんだよ」
「「!!??」」
そうだ。
こいつらが約束を守る保証なんてどこにもない。どうして当たり前のことに気付かなったのか。
だがな、それはこっちも同じなんだよ。
こいつら加害者の命は、こっちが握っているようなものなんだよ。俺だって、気分が悪いからって人殺しするような屑ではない。人殺しを趣味や娯楽感覚にするつもりは毛頭ない。が、約束事を平気で破ろうとしたり、大事な仲間を殺そうとしたりする奴らに、手加減なんか必要ない。
神色剣に炎を纏わせ、剣先をフォレード達に向ける。
お。剣に炎を纏わすなんて初めてだったが、意外とうまくいくもんだ。
「これ以上、てめぇらに好き好んで関わりたくないけどな、」
一呼吸おいてから、
「そっちが約束を違えようとするなら、こっちは武力で応戦させてもらうぞ?」
冷たく、淡々と言ってやった。
「「「ひ、ヒィ!???」」」
フォレード達は震え始め、なかには気絶する者もいたほどだった。
俺の言葉って、そんなにやばいものなのか?ま、これで俺達に手を出さないようにしてくれるのなら、それでいいか。
俺は言い終えた後、牛車に乗りこみ、
「足を止めて悪かった。クロミル、頼む」
「…は!?は、はい!」
クロミルは牛車を引き始める。
「「「「「・・・」」」」」
みんな、暗い空気を纏って。
「…」
一方、俺は最後までフォレード達を見ていた。下手な行動をしないか、監視するためである。その監視は、フォレード達が見えなくなるまで行った。




