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色を司りし者  作者: 彩 豊
第3色 緑の国 第一章 赤と緑が混在するフォレード
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3-1-9(第167話) ボッチを繋ぐ料理

 リーフの不意打ちによってなんとか逃げ切れた俺達。

 だが、奴らが俺達に幻を見せていたのだろう。俺達はいつの間にか緑の国の領土内に入っていたらしく、なんとか、緑の国と青の国の国境まで戻ることが出来た。

 なぜ、国境が分かったかというと、ここから見える木、色樹は緑の国の領土内でしか生えてこないらしいのだ。

 とりあえず俺達はここで休憩することにした。

 体力を回復させることが目的だけど、どっちかというと、

「・・・」

 この、目が死にかけ、いや、もう死んでいるドライヤドのことだ。

 正直、勢いで助けた形になってしまったが、後悔はしていない。

 何せ、

「…それでアヤト。これからどうする?」

「ん?あ、ああ。まずはここでご飯を食べてから決めるとしようか?」

「…ん」

「「「「賛成!!!!」」」」

「…」

 こいつを助けたいと思ってしまったのだから。

 俺は辺りを警戒しながら昼食の用意をする。と言っても、前にたくさん作ってもらったホットケーキを出すだけなのだが。今回は緊急事態だし、仕方ないよな。

「「「「「「いただきます!!!!!!」」」」」」

 最早恒例となっていった食事の挨拶を行い、食事を食べ始める。

 う~ん。このホットケーキ、出来立ての様にフカフカで美味い!

 実は、このアイテムブレスレットで収納した時、アイテムブレスレット内の時間は停止しているらしく、昨日入れていたお湯入りの湯呑みもまるで魔法瓶に入れていたかのように湯気を漂わせていた。…そういえば、何で昨日、アイテムブレスレットにお湯入り湯呑みなんて入れたのだろうか。

 つまり、いつでも出来立てホヤホヤのホットケーキを食すことが出来る、というわけだ。

 俺達が楽しく食べているなか、

「・・・」

 ドライヤドは一切手をつけず、ただホットケーキを見つめるだけ。

 どうしたんだ?何故食おうとしない?

 ・・・あ。そうか。逆の立場で考えてみたら一目瞭然だ。

 いきなり、“食え”と食べ物を出されても疑うのは必然だろう。

 毒が入っているかもしれない。

 これを食えば、体を求められるかもしれない。(これは女性だけだと思うが)

 金を要求されるかもしれない。

 殴られるかもしれない。

 そんな考えが、時間の許す限り湧いてくるのだろう。

「…ほら。これ、美味しいよ?」

 せっかくルリが薦めてくれたのに、

「…い、いいです」

 断る始末。

 みんなはちょっと不安な表情を顔に出しているが、俺には分かる。

 あれは、俺らが敵かどうか見定めているのだ。

 敵かどうか分からないから、与えられた物を食べていいのか分からない。

 敵かどうか分からないから、どう行動すればいいのか分からない。

 こいつの行動を見れば見るほど、過去の出来事を思い出していく。

 だから、あんな辛い過去とはおさらばだ。

 ここで今、

「…なぁ?お前に選択肢をやるよ」

「!!?な、なんでしょうか?」

 けじめをつけよう。

 俺の自己満足のため、俺の我が儘を聞いてくれたみんなのためにも。


 俺は立ち上がり、左右の手にそれぞれ球を出現させる。

「どうしても今すぐ死にたいというなら、この右手に触れろ。そしたら、俺がお前を殺す」

 それを言った後、俺は右手に出現させていた黒い球を揺らす。

「ちょ!?おにいちゃ…!」

「ルリ様。ここはしばらく様子見した方がいいかと」

「なんで…!?」

「…クリムはちょっと黙る」

「アヤト…」

 ありがとう、クロミル、イブ。

 でも、これは俺自身がけじめをつけなくちゃいけないことなんだ。

「だが、お前が少しでも行きたいと願うなら、この左手に触れろ。そしたら、お前を回復させるし、お前の愚痴も、願いも、頼みも全て聞くよ」

 それを言った後、俺は左手に出現させていた白い球を揺らす。

 これで聞いてくれると嬉しいのだが。

「…」

 …返事なしか。なら、

「それでどうする?今すぐ死ぬか、幸せを手にするか?」

「…幸せ?」

 よし!食いついた!

「そうだ。お前が自身の幸せを願うなら、俺達はそれを出来る限り叶えるつもりだし、手伝うつもりだ」

 あれ?なんかルリ達も既に賛成した、みたいな返答になってしまったけど、まぁいいや。後で謝ろう。

「…でも、幸せにさせるためには対価が必要なんじゃ?」

「対価、ねぇ…」

 確かに、俺だってただ働きは御免だ。

 今回は俺の我が儘で助けちまったが、今後はそうはいかない。

 …そう考えると、後でルリ達に何かお礼をしないとな。

「今のお前に対価を要求するほど、俺は落ちぶれた訳じゃねぇよ」

「じゃ、じゃあ…」

 俺はドライヤドの言いたいことを遮って、

「でも、未来のお前に、対価を要求するかもな」

 そう言って、俺は左手を少しドライヤドに近づける。

「だから、どうする?今すぐ死ぬか?それとも、俺達と来るか?」

「で、でも…」

 ドライヤドは周囲をキョロキョロ見渡し始める。

 …もしかして、ルリ達の事を疑っているのか?

 俺もルリ達のことを見てみる。

「もう!お兄ちゃん一人で先走るなんて!でも、この子は歓迎するよ!この子からは悪いもの、感じないもん」

 悪いものについて聞きたくはなったが、それでもありがとう、ルリ。

「私はご主人様に従います」

 クロミル。俺みたいやつに従ってくれるなんて。嬉しいじゃねぇか。

「わ、私ももちろん大丈夫です。ばっちこいです!」

 …嬉しいこと言ってくれているのに、最後の一言がな~。

「…ん。私も賛成。見たところ、私達に一度も悪意を向けてこなかったから、大丈夫だと思う」

 え?そんなところまで見てくれていたのか!?相変わらず俺の見ていないところを見てくれているよな。

「私も、あの人面樹の言っていたことが気になっていますし、賛成ですよ?」

 と、リーフは優しく答えてくれた。この優しさをくれるだけでも、元気になるってものだ。

 さて、

「…どうやらみんなも賛成みたいだ。さ、お前はどうする?」

 俺は再びドライヤドに選択を迫る。

 さっきよりも左手をドライヤドに近づける。…これ、新手のいじめ、じゃないよな?

「で、でも、私は…」

「…あのさ。そんなに迷っているなら、取り敢えず生きてみたら?」

「え?」

 俺は言う。

「どうしようもないほど辛いことはある。自分では出来ないこともある。自分で自分を許せなくなる時がある。けどさ、」

 一呼吸おいてから、

「生きなきゃ駄目だ。生きて幸せを捕まえて、それを離さないようにすれば、きっと大丈夫だ」

 俺は自分に言い聞かせるように言う。

 そうだ。俺がこうして異世界に来られるのもあの時、あのひどいいじめにも心を折らずに堪えた結果なんだ。思い出すだけで胸に、体にあの冷たい感覚が走るが、それでも今は別の場所にいる。そう思うだけでいくらかましってものだ。

 …あれ?もしかして俺、恥ずかしいこと、言ったのか?

 言ってないよな?

「生きて、私は何をすればよろしいのでしょう?」

「え?そんなの俺だって知らんよ」

「え?でも…」

「今回は俺達と一緒に来てもらうけど、その後は自由にすればいい。例えば果樹園を開いたり、料理屋を開いたり、色々だ」

「りょう、り?」

「え?まさか料理も知らないのか?」

 こいつ、今までどうやって生きてきたのだろうか。

 いや、こいつは植物なのだから、光合成して栄養を補給していたのかもしれないな。。

「え?す、すいません!!」

「いや、俺こそ配慮が足りんかった。すまん」

 と、何故か互いに頭を下げる始末。

 この無言の時間、辛いんだよなぁ…。

「と、とにかく!これが料理の一つ、ホットケーキだ」

 と、俺の分のホットケーキをドライヤドに見せる。

「こ、これが?」

「そうだ。一口、食ってみるか?」

「…」

 え?何故ここで口を閉じる?

 もしかして、毒が入っていると思っているのか?

 まぁ分からんでもないが、どう説明したらいいものやら。

 そうだ。

 俺はホットケーキを半分に切り分け、先に半分を食べる。うん、美味い。

「これならどうだ?」

「え?えっと…いただきます」

 と、遠慮気味に一口食べる。よほどの小食なのか、一口がとても小さい。

「…美味しい」

「だろ?これだけでも美味しいけど、」

 俺はみんなに視線を向ける。

 そこには、

「やっぱりブルーベリージャムが一番美味しいよ!」

 と、ルリがブルーベリージャムによって彩られたホットケーキを見せる。

「ここはシンプルに蜂蜜かと」

 クロミルは、蜂蜜をかけたホットケーキを。

「…私はリンゴジャム。これが一番」

 イブはリンゴジャム入りの瓶と一緒にホットケーキを差し出す。

「私は桃のジャムです!」

 リーフは小分けにしておいた桃のジャムと一緒にホットケーキを。

「このソースもいい味です!」

 クリムは赤く染まったホットケーキを差し出す。

 …うん。実に個性あふれるホットケーキのトッピングだ。特にクリムのトッピングは群を抜いているな。

 ドライヤドは差し出されたホットケーキをそれぞれ一口分ずつ食べ、

「美味しい。これも。これも。これも。これも。こ!?れも」

 ドライヤドはどれも美味しそうに涙を流しながら食べる。最後のクリム作のホットケーキもきっと美味しさのあまり泣いたのだろう。他の人と反応が違ったり、唇が赤くなっていたりしていたのは気のせいだろう。

「どうだ?この世界だって捨てたもんじゃないだろ?」

「は、はい。とても甘くて、優しい味です」

「それはきっと、幸せの味だよ」

「幸せの、味?」

「そう。ほら、あいつらを見てみ」

 と言って、ルリ達の食事風景を見せる。

 それは、互いに美味しいと思うホットケーキを食べ比べ、楽しく談笑している場面だ。

 俺もボッチだったからこういう風景を見るだけで満足していたが、今では会話に入り、自分の意見を言えるまでに成長した。

「??」

「あいつらはああやって幸せに暮らしているぞ。喧嘩したり戦ったりもしたけど、今ではあんなに楽しそうに話しをしている」

「…私なんかが、あの輪に入ってもよろしいのでしょうか?」

 と、ドライヤドは声を震わせながら言ってきた。

 俺は少し笑って、

「ああ。確実にな」

 そう答える。

「ドライヤドのお姉ちゃん!どのホットケーキが美味しかった?」

 ここでルリはドライヤドに話しかける。うん、これがルリの凄いことなんだよな。誰にでも話しかけることが出来る、という点は俺も見習う必要があるな。

「わ、私は…」

「ほら、二人とも。そんなところで話していないでこっちに来て話しましょうよ?」

「そうです!今日は誰のホットケーキが一番おいしかったのか聞きたいですし」

「…少なくとも、クリムのやつが最下位なのは確実」

「な!?あんな美味しいホットケーキがどうしてイブの甘ったるいホットケーキより下何ですか!?」

「え、ええっと…」

 ドライヤドがワタワタオロオロしているので、

「ほら、呼んでいるぞ?みんなのところに行ってこい」

 背中を軽く押す。

「あ。は、はひ」

 そして、噛み噛みのままルリ達のところに行き、みんなの輪に入っていった。

 うんうん。仲良くなるっていいことだな。さて、俺はそろそろ…。

「お兄ちゃんは何をしているの!?早くこっちに来てよ!」

「ご主人様、私は、その…」

「ああ、分かったよ」

 ここでルリとクロミルが、俺も来いと言ってきた。

 まったく。俺はやることがあったんだけどな、それは後回しにするとして、今はこのホットケーキ談義を楽しむとしよう。

 こうして、ドライヤドを含めた7人で、空が赤くなるまで話し続けた。

 そういえば、俺の手には触らなかったな。でも、あの顔なら、確認しなくてもいいか。

今週の投稿はこれで終了します。

来週も、引き続き投稿したいと思います。

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