3-1-1(第159話) 異端の者
今週から投稿しようかと思います。
ここからまた新たな物語が始まります。
そして、今回は第三者視点です。
ほとんどの人間は、一種類の色魔法しか適性がない。
複数の色魔法を使用できる人間は限られていて、この世界の全人口の数%しかいない。
つまり、複数の色魔法を使えることはそれだけで珍しがられ、後々どこの国も欲する貴重な戦力となるだろう。そして、複数の色魔法を扱えることは大変名誉なことでもある。
だが、必ずしも、この価値観が世界共通、というわけではない。
時には、複数の色魔法に適性があることで苦しむ者もいる。
それは、言葉としてその者を罵り、理不尽な力で黙らせる。
まるで、小学生や中学生でのいじめのように純粋な悪意を向けられる。
時には高校生のいじめのように、陰湿に、徐々に心を壊していくように。
そんな苦しみを味わう者もいる。
そんな恐怖に打ち勝てず、すぐ自殺をしてしまう者が多発してしまう。
だが、その理不尽な仕打ちに抗う者も、耐える者も極わずかだが存在する。それは周りの人、環境が良く、強く信頼出来る者がいたからこそ出来たのだろう。
そして、ここ、緑の国にも複数の色魔法に適性を持つ者がいた。
「だから!なんであんたみたいな“森災”がまだここにいるの!?いい加減、私達の視界から消えてくれる!?」
「そうよ、そうよ!」
「森災なんかがいていい場所じゃないのよ!」
森災と呼ばれ、罵倒されている者は目をうつむく。
そもそも、森災とは何か。
森災とは、森に災いをもたらす者のことである。
では、何故この者がそう呼ばれているのか。
それは、2種類の色魔法、緑魔法と赤魔法に適正があったからである。普通の人間なら、2種類の色魔法に適性をもって生まれたことは喜ばしいことだっただろう。だが、自分は違う。自分は、
「【フォレード】のくせに!森を守る私達が森を焼き払ってどうするのよ!」
そう。自分は【フォレード】。
森に暮らし、森を守護する生物の総称で、私もその仲間だった。
それなのに、赤魔法の適性をもってしまったのだ。
だから、私は森を焼き払うのではないかと疑われ始め、しまいには“森災”と仲間から言われるようになってしまったのだ。私にはそんな気は一切ない。森を焼く気もないし、度胸もない。けど、
「どうせ、口先だけの嘘でしょ?この森災」
と、私を信じてくれない。
そして、突然覚えのない暴力や暴言を理由に、私に暴言を吐き、暴力をはたらき始める。
何故自分は、緑魔法と赤魔法の2種類に適性があってしまったのか。
もし、緑魔法だけならこれほどの誹謗中傷はなかっただろう。
それに、この髪の色も誹謗中傷される一因となっているだろう。
他の者達は綺麗な緑色なのに対し、自分はバーントシェンナ色、茶色の髪だった。それに赤い箇所や緑の箇所がまばらに混在していた。ようするに、他の者の髪に少なからず嫉妬し、自分の髪がコンプレックスだった。自分だけがこんな冴えない色で、周りが眩しくて…。
「…もう飽きたから、私達の前から消えて。【樹縛】」
そして、伸びてきた樹木が自分を縛り、魔力が吸い取られていく。
「う…うう。ううぅ…」
「けっ。なんでのこいつだけ魔力量が多いのかしら?」
「不公平よ!」
「だったらその分、私達がその魔力を盗っちゃいましょうよ?」
「「「賛成!!!」」」
「え?」
体内の魔力が消費していくこと。
これは少なからず、体の調子に大きく影響してくる。極論を言ってしまえば、魔力が全部無くなっても死にはしない。だが、身体的にも精神的にも大きな負の影響を運んでくる。なので、魔法を主として戦う者達は常に自分の魔力残量をこまめに確認しながら戦闘しているし、普段から魔力が底をつかないよう注意している。魔力が空になると、数日は動けなくなってしまうからだ。他にも何かしら効果が出るらしいが、実践した人が少ないうえ、情報が錯そうしているため、今も詳しいことが分かっていない。
つまり、何かしらの危険がある、ということ。
それは絶対に避けたいと意思を固めるが、時すでに遅し。
「それじゃ、どうなるか分からないけど、私達の糧になってね♪」
そういって、私の魔力が吸われ、空になる。
「…あら?今日は何もないの?つまんなーい。行きましょ?」
こんなことを毎日のようにやられている。
逃げようにも、逃げる場所も当てもない。
やり返そうにも、相手の数が多く、返り討ちにあう。
それなら、我慢して魔力を空にされ続けるしか方法はないのか?
そんなことをされ続ければ、きっとよくないことが起こる。
目まいや気怠さは毎回襲い、嘔吐や空虚感にも襲われる。
もう嫌だ。
こんな毎日は送りたくない。
どうして、自分がこんな目に遭っているの?
どうして、私にだけ色魔法の適性が2種類もあるの?
どうして、私をこんなにするまで辛く当たるの?
どうして…?
魔力を吸収したフォレード達は艶やかだった髪がさらに綺麗になる。
それとは反対に、自分は横になり、そのまま地面を濡らし、目を閉じる。
まるで、栄養を根こそぎ取られ、伐採された枯れ木のようだった。
そんな状況になっても、
「…あら?もしかして、まだ死んでいないの?」
「えー。こいつ、意外としぶといのね」
「次こそは亡き者にしてやろうぜ」
「「「賛成!!!」」」
そう言いながら、フォレード達は自分の前から姿を消す。
あれから、どれくらい時間がたったのだろうか?
1日?2日?それとも、3日?
そんなことを考えながら、自分は重い体を起こす。
なるほど。今回は体がだるいだけで済んだのかな?
この前は吐き気や、全身に痺れがあったからまだましな方かな?
…。
ほんと、なんで私がこんな目にあっているのかな?
ただ、2種類の色魔法に適性があっただけだというのに。
その内の一つが、赤魔法だっただけだというのに。
なんで、なんで!?
意識が朦朧としている中、赤魔法に対する憎悪が膨れ上がる。だが、それはほんのひと時。すぐに思考は切り替わる。
“もう、死んでしまいたい…”
と。そして、その思考はまた切り替わり、赤魔法に対する憎悪がまたひと時膨れ上がる。
そんなことを延々と、木の成長を観察するかのように繰り返す。
出口の無い迷路へと、思考は入り始めていた。
今週はこの1話だけにしようと思います。
続きは来週、ということでお楽しみください。
なお、来週は彩人視点です。




