2-3-30(第155話) 青天の霹戦 ~帰還~
今週も投稿しようと思います。
「・・・は!??」
俺は目を皿にしながら覚醒する。
あれ?なんで俺、こんなところで横に…?
・・・。
ああ!!全部、思い出した!
確か、メイキンジャー・ヌルと戦って、勝っていたところにセントミアさんが乱入してきてウヤムヤにされたのか。とどめをさしたかったが、それ以上にセントミアさんの底知れぬ強さにビビってしまい、結局二人とも逃がしてしまったのか。なんとも情けないことか。
だが、結果としては、元凶を追い払えたわけだし、よしとしよう。
さて、
「あれからどれくらいたったんだ?」
俺が寝ていた?気絶していた?時間はどれくらいだ?
空を見てみると、まだ日は落ちていない。感覚的にも数時間、てことはないだろう。俺の勘だと1時間くらい、かな?自分の勘を当てにしてもしょうがないけど。
「そうだ!腕の検索機能でみんなの居場所を見つけよう!」
まずはみんなの安否を確認しなくては!
俺はみんなの居場所を検索した。
…ふむふむ。みんな無事に生きているな。場所は…それほど離れてはいないけど、今の俺にはちょっときついな。でも、頑張るか。
「…シャ~?シャ~?」
…なんか聞き覚えのある声が聞こえた。
俺はその音の元凶を探していると、
「シャ!?シャッシャッシャ♪」
と、その音の元凶は俺にすり寄ってきた。
もしかして、
「お前、ルリが使役している蛇か?」
「シャン!」
と、音の元凶である蛇は首を縦に振る。それよりシャッシャシャッシャうるさいな。
「とりあえず、事の元凶は追い払えた。だから、俺もすぐに合流するよ。と、ルリに伝えてきてくれるか?」
「シャ!シャ~シャ」
蛇は首を縦に振ってから、俺の頭の上に乗り、とある方向を尻尾で示す。
確か、そっちの方角にはルリとクロミルがいたな。つまり、この蛇は道案内してくれている、というわけか。
俺は悲鳴をあげ続けている体を無視し、ルリとクロミルの元へ向かう。
「あ!お兄ちゃん!無事だったの!??」
「おい。俺を勝手に殺すなよ。俺は平気だ」
「ご、ごじゅじんざま~」
ルリは俺の生存に驚き、クロミルは泣き崩れていた。
おいおい、そこまで感情を表に出さなくてもいいだろ?
「と、とにかく俺は無事だから。元凶も無事に追い払ったし。お前らは大丈夫か?」
「うん!後はこれと話をつけるだけだよ、お兄ちゃん!」
「これって、うわ!??」
今まで気づかなかった俺もどうかと思うが、ルリとクロミルの後ろには、巨大な氷と、そこに手や足が埋まっている状態の牛人達がいた。何だこれ?一体何が?
「私が氷で動けなくして、その後、クロミルお姉ちゃんが眠らしたんだよ~」
「え?眠らしたってどうやって…?」
氷漬けに近い状態だから、寒さで目が覚ましそうな気がするが?
「それは、相手が眠るツボを強めに押したので、大丈夫です」
と、クロミルは淡々と答えた。…生死の境目をさまよってなければいいが…。山が吹雪いている中、ブルブル震える登山家が頭をよぎる。
「それじゃあ、俺はみんなに報告してくるから、お前らは二人で大丈夫か?なんなら応援を呼ぼうか?」
少し考えれば、何十人もの牛人達をたった二人で相手していたのだ。俺より戦い疲れているだろう。
「顔が青くなっているお兄ちゃんに言われたくないよ?」
「ご主人様こそ、大丈夫ですか?」
「いや、俺は問題ない。それより二人は大丈夫か?」
「う、うん」
「は、はい」
なんか歯切れが悪いな。そんなにひどい顔色なのか?
「そうか。それじゃ、俺は報告した後、また戻ってくるから、それまで二人で待っていてくれ」
「「うん(はい)!!」」
俺は金のように重く動かしづらい体を引きずるように、この場を後にする。
「…お兄ちゃん。どうか途中で死んじゃったりしないでね?」
「…ルリ様。ご主人様について行ってあげてください」
「え?でも…」
「これでご主人様が死んでしまったら、私は一生後悔します。それに、今のご主人様は見ていられません」
「でも…」
「私なら大丈夫です。ですから、早くご主人様の元へ!」
クロミルはここで大声をあげる。
さすがのルリも、
「…クロミルお姉ちゃん、死なないでね。死んだら絶対許さないから!」
と、悪役の捨て台詞のように吐き捨てながら、ルリはクロミルの元を後にする。
「…ルリ?一体何しに…?」
「もう!お兄ちゃんが心配だからだよ!」
そんな会話を聞きながら、クロミルは二人に背を向ける。
「さて、それでは教育を施しましょうか?」
クロミルの目が据わった瞬間だった。
あれから俺はルリに肩を借り、五人の元へ向かっていた。
「あ、ああ。そういえば…」
「お兄ちゃん。今は喋らないで。ただ歩くことだけ集中して」
「…はい」
これは俺でも分かる。ルリは俺の身を案じ、そう言っていた。
これ以上喋ったら、死ぬのではないか?
ルリの中にそんな疑念が頭をよぎっているのだろう。ここで俺が反論しても、
「そんなゾンビみたいな顔で言っても意味ないよ?」
と、返されてしまうだろう。
なので、
「「・・・・・・」」
静寂な時間が続き、歩くときに生じる音しか、俺の耳に入ってこなかった。
…どれほど歩いてきたのだろう。
しっかり、一歩一歩着実に歩いてきているが、もはや視界が定まらない。
少し明るくなってきたな。
そんなことを考えていたら、
「…おや?あの姿は?」
「間違いない!あれはアヤトだ!」
「アヤトさんですって!??」
何か声が聞こえてくる。
もしかして、俺を呼んでいるのだろうか?
なんか、人影がこっちに向かって来ている。
「おい!返事しろよ!おい!!」
「アヤトさん!アヤトさん!」
とりあえず、これで事態は収束した、ということか?
その考えに至った瞬間、
(あ、もう無理)
途絶え途絶えに保っていた意識が切れた。
「お、お兄ちゃん?お兄ちゃん!??」
そんな声も聞こえずに。
とある城跡。
ここには、仮面の者、セントミア・ヌルとメイキンジャー・ヌルがいた。
「こ、この度は申し訳ありませんでした!!!」
メイキンジャー・ヌルはセントミアに風を巻き超すくらいの速さで頭を下げた。
それほどまでに、今回の事態、あの少年にやられたことを反省していた。
「うむ。それはもうよい。それより、これからが楽しみだ」
メイキンジャーは顔を上げ、
「これから、とは?」
恐る恐る聞いた。
「あやつ、【無色装】を使ったお前と同等、もしくはそれ以上の力をだしていたぞ?」
「馬鹿な!?そんなはずありません!現に私は…」
「そうだ。お前は途中まで勝っていた。だが、あやつは最後に【六色装】を使っていた」
「!!?そんな!?その技は…!!??」
「そうだ。その言葉の意味だけでも。十分に理解できるはずだ」
「…」
「それに、各国に紛れ込ませた我が眷属も順調に力をつけている。いずれ…」
ここで、セントミアは言葉を止めた。
「いずれ、とは?」
「…いや、何でもない。それよりまたお主に頼みごとがあるのだが?」
セントミアはメイキンジャーに耳打ちをする。
「はっ!お任せを!」
そして、メイキンジャーはすぐにセントミアの元から姿を消した。
「出来れば、あやつとはやりたくないものだ」
誰にも聞かれないよう、セントミアはポツリと呟いた。




