2-3-28(第153話) 青天の霹戦 ~語られない戦いその6~
まだちょっと忙しいので、直しはまだ出来ませんが、今週も投稿しようと思います。
「…もういい。遊びはもう終いだ。さっさと、…」
ヒュン。
来た!
俺は後ろも向かずに、
ヒュン!
剣を横なぎに振る。
ドン。
そんな音がしたと同時に、
「ぐっ…」
そんなくぐもった声が聞こえた。
俺のその声が聞こえたところに思いっきり、
「はあああ!!」
剣を振り下ろす。
だが、思った以上に大ぶりになってしまったらしく、
ドゴン!
剣はメイキンジャー・ヌルに当たることなく地面と接触する。
「!?一体何が…!?」
メイキンジャー・ヌルは驚愕の表情を顔に示していた。
今回、俺がやったことは簡単だ。
ただ、メイキンジャー・ヌルの今までの行動からこれからどういう攻撃をするか予測し、そこに攻撃する。
それだけだ。
言うことは簡単だが、実戦ともなれば訳が違う。
今までの奴の攻撃パターンを知る必要があるし、性格、気分によっても攻撃パターンは変化する。もちろん、他にも考えるべきことはあるだろう。地形による身体能力の影響、空気や魔力の動き、相手の表情…。
それらを全て踏まえた上で相手が次にどういう攻撃をするのか読まなくてはならないのだ。
俺は出来るだけ奴の情報を頭で整理し、それらをまとめてから予測したのだ。
そして結果は、俺の攻撃が見事、メイキンジャー・ヌルに直撃した。
つまり、分析成功ということだ。
俺の長年のゲーム漬け生活もここで役に立ったというものである。
だから具体的な解決案が浮かび上がったのだと断言出来る。
今回ばかりは、過去の自分に感謝だな。
「…ふ。たかが一度当てただけでいい気になるな!屑風情が!」
メイキンジャー・ヌルは俺にそう怒鳴り散らした後、また俺の視界から消える。
(何度やったって…)
俺はすぐに後ろを向き、剣を突こうと構える。
「やはり屑は屑です」
だが、後ろから勝ち誇ったような感じの声が聞こえた。
そう。
奴は俺が後ろに攻撃すると踏んでフェイントをかけたのだ。
だが、
(そんな小細工、俺に通用すると思うなよ!)
俺は剣を持ち替え、後ろも振り向かず、手を後ろに思いっきり引く。
ズサ。
「な!?」
何かに当たったような感触とともにそんな声が俺の耳に届く。
まったく。俺も舐められたものだ。
たかが一度のフェイントだけで不意をつき、勝てると思われていたのか。
ここでようやく俺は後ろを振り向く。
すると、
「き、貴様!どうやって私の位置を!?」
激昂しているメイキンジャー・ヌルが脇腹を押さえている姿を目撃した。
なるほど、脇腹に当たったのか。
俺は心臓を狙ったつもりだったが、狙いが下にずれていたのか。
俺が冷静に分析をしていると、
「もういい!!何度も!何度も殺してやる!もう生き返られないほどにな!!」
メイキンジャー・ヌルの言葉に違和感を覚えたが、それでも、
(さぁ、ここからが正念場だ!)
俺は呼吸を整え、奴の攻撃に備える。
俺の周りに風が立ち込め始め、いつの間にか風に囲まれる。
さぁ、気を引き締めるぞ!!
いくら相手の動きを予測出来るとしても、あの嵐のような連続攻撃を全てさばききるのは不可能だ。
俺の分析も完璧にではないし、俺の体も既にボロボロ。
さらに、身体能力は圧倒的に相手の方が上。
相手の攻撃の手数が非常に多いのだ。
こっちも何か対策を講じないと…。
「さぁ!血反吐吐きながら死になさい!死ねぇ!」
こうして、俺を苦しめた攻撃の嵐が始まる。
メイキンジャー・ヌルの嵐のような連続攻撃に対し俺は、
(はあああぁぁぁ!!!)
目を閉じながら、奴の攻撃をさばいていた。
奴の攻撃は、今の俺には不可視である。
なら、目を開けていても無意味である。
そう判断し、俺は目を閉じ、視覚からくる先入観にとらわれることなく反撃している。
だが、俺が一撃加えるたびに、奴は五、六撃加えているのだ、
だから、すべての攻撃に反応することは不可能だ。
そのことを踏まえ、俺は反撃のチャンスを待ちながら、最小限のダメージで済むよう、相手の攻撃を予測して躱す。
もちろん、全てを完璧に躱すことは今の俺には出来ない。俺が未熟なのはしょうがないが、今回ばかりは自分の未熟さを恨んだ。自分が未熟なせいで…!
それでも、
(まだだ…。まだ…)
反撃をするため、メイキンジャー・ヌルの攻撃を受け続ける。
「ほらほらほらぁ!!どうしたのですか!?さっきまでの威勢はあああぁぁぁ!!??」
嵐のような連続攻撃。
だが、動き自体は、昔俺が操作していたゲームキャラの動きに似ていることは分かる。
そして、
「…おやおや?そんなにボロボロになっているのに、目がまだ死んでいませんねぇ?」
奴のあの嵐のような連続攻撃は時間制限があることが分かった。
俺は3、4回くらったが、いずれも数分、もって5分しか継続出来ていないことが分かった。
だから、次は必ず防いでやる!そんな意気込みを持ちつつ、俺はアイテムボックスから魔力池を取り出す。
「…おや?それは一体…?」
「これが勝利へのカギだ」
魔力を回復させてから、白魔法であるていど体力を回復させる。
そんなに回復させなくていい。相手を視認出来れば十分だ。
さぁ、
「…貴様。その背中に生えているものは何だ!?」
「さぁな?少なくとも、お前に教えてやる義理はないぞ?」
これで、決着をつけようぞ!!
背中から手を生やしながら、俺はそう言ってやった。
元はといえば、簡単なことだった。
相手の嵐のような連続攻撃を防ぎきるには、圧倒的に手数が足りない。
ならどうするか?
答えは簡単。
それは、手数を増やせばいいのである。俺は魔力で腕を何本も形成し、攻撃の手数を増やしたのだ。
いやー。赤の国でイブに聞いといて正解だったな。おかげでこいつと対等にやりあえるのだから。
魔力で形成した腕を刀みたいに細くする。イメージ的には手刀、といったところか。
俺はしっかりとメイキンジャー・ヌルをロックオンし、構える。そして、
「これで、これで貴様も粉々だ!」
あの最悪の時間が始まる。
俺は目を閉じ、全身の力を抜く。同時に耳を澄ましながら相手の音を探す。
・・・・・・。
見つけた!!
ガキイィィンン!
「なっ!!??」
メイキンジャー・ヌルは微塵も思わなかっただろう。
今まで散々、この技には苦労させられたからな。
さて、次はこっちの番だ。
何もかも自分の思い通りにならない。そんな苦しみ、辛さを味あわせてやる!
それから、二人の周辺に絶えず、風と血が舞っていた。
一方的に蹂躙されているように見える彩人だが、実はそうではない。彩人は自分の手と魔力で形成した腕を上手く使ってメイキンジャー・ヌルの攻撃を受け流しているのだ。
その様子は、激務に追われてろくに寝ていないサラリーマンのように、手元をほとんど見ずに彩人はメイキンジャー・ヌルの攻撃をさばいていた。
だが、彩人にはメイキンジャー・ヌルの姿は見えていない。それどころか、今自分がどこを向いているのかでさえ分からないだろう。それぐらい一心不乱、、一心一向になっているのだ。そんな彩人が必死にメイキンジャー・ヌルの攻撃をさばく。
一分経たずにメイキンジャー・ヌルは気付く。
“もしかして、私の攻撃が全て読まれているのか?”
と。
だが、そんな考えはすぐに塵とかした。
確かに、メイキンジャー・ヌルの攻撃は単調である。だが、攻撃を繰り出す速度は尋常ではない。普通の人なら攻撃をもらったことにも気付かずにいただろう。
だが、そんな音速に近いメイキンジャー・ヌルの攻撃を、彩人は全て受け流していた。
一分半経過したところで、
(こいつ!間違いない!私の攻撃を読んで受け流している!!)
メイキンジャー・ヌルはそう考え、
(ふ。これならどうだ!)
フェイントも入れ始め、攻撃のリズムも変える。
これでこいつはお終いだ!
そうメイキンジャー・ヌルは確信していた。
だが、現実は違った。
(!??何故だ!??何故奴は私の動きに反応出来る!??)
そう。
彩人は、メイキンジャー・ヌルの不規則な攻撃、フェイントすらも読んで攻撃を受け流し、反撃したのだ。
(だったら、こうしてやる!)
メイキンジャー・ヌルはまた攻撃のリズムを変える。
彩人は即座に適応し、メイキンジャー・ヌルを圧倒する。
そんな5分の攻防が続いた。
・・・。
は!??
あれ?俺は何を…?
あ、思い出した。確か、あのメイキンジャー・ヌルの攻撃を耐えていたんだっけ?
俺は今の状況を目視する。
そこには、
「な、何故私の攻撃が…!?」
驚きを隠せていない奴がいた。
そうか。あの嵐のような連続攻撃を防ぎ切ったのか。
だが、これで終わりじゃない。むしろ、これで終わりにさせるわけにはいかない。
俺は体に力を入れ直し、
「これで終わりだ、メイキンジャー・ヌル!」
俺は、
「食らえ!【六色装】!!」
今俺が出せる最大の技で決着をつけに行った。
【六色装】。
それは六種類の【色装】をいっぺんに纏う魔法だ。
【四色装・赤青黄緑】よりも強力だが、制御が格段に難しいのだ。
特に【黒色装】と【白色装】を併用するのが非常に難しいのだ。
これが何度やっても失敗してしまい、魔力が霧散してしまうのだ。
だが、俺は常に成長する。
最初は失敗続きだったが、今では【二色装・黒白】を一分発動出来るくらいには成長したのだ。だが、これでは【四色装・赤青黄緑】には遠く及ばない。なので、しばらく四色装n方を練習していた。
今の俺では出来て精々三十秒くらいか?
だが、それでいい。
俺はその三十秒に、
(全てを賭ける!)
自分でも内心驚くくらい速く、メイキンジャー・ヌルの近くまで移動する。
「なぁ!?き、貴様、いつの間に!??」
俺もちょっと驚いているが、そんな余裕はどこにもない。
「うおおおぉぉぉ!!!」
俺は持っている神色剣でメイキンジャー・ヌルを思いっきり切りつけた。
「ぐおおおぉぉぉ!!」
この叫び声とともに、剣で切った感触が手に残る。
(やっぱり、人を切ることの違和感は完全にはぬぐえないな。ま、こいつはそもそも魔獣だけど)
頭の片隅でこんなことを考えていた。
メイキンジャー・ヌルの様子を確認すべく後ろを向くと、周りには液体が飛び散っていた。
(これでこいつも…)
剣を構え、いつでも動けるように態勢を整えようとする。
「!!?がっ!」
口の中から急に吐き気を催す。
(もしかして、俺の血か?)
口を抑えた自分の手を見てみると、そこには赤くヌメッとした液体が付着していた。
その液体を拭い、また剣を構えようとするが、
ガクン。
足が言うことを聞かず、地面に手をついてしまう。
(おい!一体どうしちまったんだ!?立て!そしてあいつにとどめを…!)
だが、足は言うことを聞かず、そのまま地面に座ることを強いられる。
このままでは逃げられる!
そう考えついた俺は緑魔法で俺を浮かそうとするが、
(…あれ?上手く魔力が…)
これらの不調には全て、理由がある。
少し考えれば簡単なことである。
それは、限界を超えて身体を酷使したツケが、このタイミングできてしまったのだ。
そんなこととは知らず、
「なんで!?なんで上手くいかない!?」
魔法を使おうと、魔力を制御する彩人。
だが、何度やっても上手くいかない。
結局、彩人は手に持っていた神色剣でとどめをさすことに決めた。
だが、メイキンジャー・ヌルの元に行くには這っていくしかない。
それはどうしても、歩いて近づくより時間がかかってしまう。
そんなもどかしさに、
(くそったれが!)
自分で自分に嫌悪しながら、這って奴の元へ行く。
とどめをさすために。
「・・・貴様、こんな小物相手に何をしている?」
「「え??」」
突然、見知らぬ者が俺の前に現れた。
感想、評価、ブックマーク等、よろしくお願いいたします。




