2-3-21(第146話) 青天の霹戦 ~後に語られる英雄達その5~
今週も投稿しようと思います。
一方、魔獣の軍勢に向かった二人、ラピスとカイーガは、
「それじゃあカイーガさん!手筈通りに」
「ええ!分かりました!」
三人が話し合っている間、二人もこの作戦について話し合っていた。
作戦というのは、ラピスが魔獣の注意を引きつけ、その間にカイーガが魔獣を倒す、というシンプルなものである。
だが、一人一人の負担は尋常じゃない。
攻撃の手数はもちろん、ラピスが注意を引きつけても、どうしてもカイーガに注意を向く魔獣もいる。
カイーガが倒しきれない魔獣も数多くいる。
そんな圧倒的なに不利な状況の中、
「「食らえ!!」」
ラピスは槍を、カイーガは剣を向ける。
こうして、絶望的な状況の中、戦いは始まった。
最初は、
「【氷壁】!」
ラピスが壁を作り、
「【氷槍】!」
壁の上から、カイーガは氷の槍を相手に向ける。
カイーガの攻撃で数体は殺られるが、数体だけ。
それに、ラピスの作った氷の壁も、多くの魔獣の一斉攻撃により、すぐに壊れる。
その魔獣達を、
「はぁ!」
ラピスが引きつけ、
「ふん!」
その隙にカイーガが剣で切りつける。
一見、良好に見えるが、
シュパ!
「う!?」
ゴブリン、スケルトン等の魔獣達は攻撃をしかけ、足や腕に掠る。
だが、掠り傷程度で憶する余裕はない。
カイーガは【氷槍】で敵を掃討しようと試みるが、倒せても数十匹程度。
何千、何万もの軍勢からすれば、ビビるほどではない。
それどころか、
「グオオオォォォ!!!」
雄叫びを上げ、鼓舞してくるほどだ。
その雄叫びに怯えることなく、
「はあああぁぁぁ!!」
「うおおおぉぉぉ!」
二人は戦場を闊歩する。
だが、物事は常に移り変わるように、
「う!」
「ちぃ!」
ラピス、カイーガも少しずつ変わっていく。
魔法を使いながら相手をけん制、掃討しようとするが、数の暴力により、どうしても隙ができてしまい、魔獣はその隙をつき、二人に攻撃を仕掛けてくる。
今はなんとか掠り傷程度済ませているが、今後どうなるか分からない。
致命傷になるような一撃を食らう可能性もある。
そんな危険が隣り合わせの戦いの中、二人は武器を降ろさなかった。
むしろ、危険だと分かれば分かるほど、
「【氷壁】!」
「【氷槍】!」
二人の魔法の威力は高まり、闘争心が大きくなる。
二人の動きはより速く、より正確になる。
それでも、一向に状況は変わらない。
だが、二人は信じている。
この状況を打破してくれると。
あの三人ならきっと!
だから二人は、全身に鞭を入れて、120%以上の力で魔獣達と戦闘を行う。
来るべき時を期待して。
「「「はあああぁぁぁ!!!」」」
一方、リーフ、イブ、クリムの三人は、魔力を混ぜ合わせていた。
さっきみたいに少量ではない。
自分達が現在持っている魔力の9割をこの魔法につぎ込んでいる。
なので、
(((ちょっときついかな?)))
体調が悪い方向に変化していた。
それでも、あの二人が無茶を承知で囮役を買って出たため、こちらもその期待に応えなくてはならない。
三人の額に汗が出てこようと、立ち眩みしても。必死に魔力を混ぜ合わせる。
魔力を混ぜ合わせてから少し経ち、
(…もうそろそろ、かな?)
さきほどみたいにきれいに混ざりあえばいいのだが、未だにその兆候が見えない。
だが、決してあせることはしてはいけない。
それは魔力の混ぜ合わせに失敗し、死を意味するからである。
だから三人は冷静に、ただ魔力を混ぜ合わせることだけに集中する。
そして、
「これってもしかして…?」
「ど、どうですか、イブ?」
「…ん。完成」
そこには渦巻き状の、黒、赤、緑の三色の渦である。
その渦はイブの胸の前できれいに渦巻いている。
「これで後は…」
「…ん。後は溜めて撃つだけ」
「分かりました!」
三人は魔力を三色渦の中に溜める。
その渦はだんだん大きくなっていく。
そして、イブと同じくらいの大きさになり、
「…これ以上はちょっと無理」
「分かりました」
「これならいけるんじゃ…?」
「…油断は駄目」
「…はい」
額の汗をぬぐい、
「…リーフ。今の内に二人を呼んで」
「はい!ラピス!カイーガさん!急いでその場から離れて!」
リーフは出来るだけ二人に声が届くよう、声を大きく、はっきりと言った。
「「はぃ…」」
小鳥がさえずんでいるかのような弱々しい声が返ってくる。
三人は、それほどまでに二人は消耗しているのだと察する。
「「「…」」」
三人は無言で互いの顔を見た後、首を縦に振る。
言いたいことは三人とも同じだったらしく、魔法を放つ準備をする。
「「「はあああぁぁぁ!!!」」」
三色の渦がゆっくりと膨張し、光始める。
黒く光ったり、紅く光ったり、緑色に光ったりしながら、渦は心臓の鼓動のようにドクンドクンと動き出す。
そして、二人があの魔獣の軍勢から離れたところを目視してから、
「「「いっけえええぇぇぇ!!!」」」
瞬間、渦から放たれる。
それは熱を帯びた【殲滅光線】が、空気ごと切り裂くように渦を巻きながら魔獣の軍勢へと向かっていく。
この魔法は、【殲滅光線】を使えるイブと、イブの魔力に反発するかのように力が強いクリム、そして、二人の魔力を潤滑油の様に繋いでくれるリーフがいたからこそ出来た魔法である。
そして、三人の強い信頼関係が無ければ出来なかった魔法だろう。
これが後に、【殲滅熱光線嵐】と呼ばれる魔法の初試運転となった。
この魔法、【殲滅熱光線嵐】が魔獣の軍勢に直撃し、大きな爆風を見た時、
「「「やった!!!」」」
三人は確信していた。
これであの大量の魔獣は掃討出来たのだと。
これで依頼達成だと。
「ふぅ、ふぅ、ふぅ~」
「はぁ、はぁ、はぁ…」
二人もフラフラな状況の中、三人の元へたどり着く。
そんな倒れそうな状況でも、さっきの光景を目の当たりにして、
「や、やったぁ…」
「こ、これでぇ…」
二人に笑顔が宿る。
まるで、勝利を確信したかのような笑み。
三人もこれで終わったと確信している。
「おっと…」
「あらら」
「…むむ」
体内の魔力量が少ないことにも気付かないほどである。
そして、三人で軽く談笑し始める。
時に笑い、時には怒る。
だがそこには必ず笑顔がある。
もう完全に油断しきっている。
そんなポワポワした空間が生まれていた。
だが、それは一時の幻想に過ぎなかった。
「あはは…は?」
「…?どうかした?」
突然クリムの様子がおかしくなったことに気付き、声をかけるイブ。
クリムからは、
「み、見て下さい」
震えた声で魔獣の軍勢がいた方向を指差す。
「…嘘」
イブも顔を青くし始める。
「もう、何がどうし、た?」
リーフも今の状況を理解し、動きを止める。
「え?え?ええ!??」
「もうこれは無理だよ…」
五人の目に映ったものは、
「なんでまだ魔獣がこっちに向かって来ているのですか!??」
【殲滅熱光線嵐】で倒したと思っていた魔獣の軍勢だった。
次回で、『青天の霹戦 ~後に語られる英雄達~』編は終わりです。




