2-3-19(第144話) 青天の霹戦 ~後に語られる英雄達その3~
今週も投稿しようと思います。
「え?」
カイーガ自身、冗談で言ったつもりだったので、リーフが肯定したことに驚く。
「…具体的には?」
「さきほどの軍勢の…何倍もの数の魔獣がこちらに向かっています。種類はほとんど変わらないようですが、数が…」
「つまり、さきほどよりかなり苦しい状況になる、ということかな?」
「はい」
「なら、さっきと同じように戦えばいいのでは?私はまだまだいけますよ!」
クリムの能天気な発言に、
「はぁ…」
リーフは思わずため息をついてしまう。
「ちょ!?何もため息つく必要は…!」
「確かに!私達が全快なら出来るかもしれませんが、みんながみんな、まだまだやれる、というわけではありませんよ?」
「…ん。クリムの言う通り」
「それじゃあ、このまま逃げるということですか!?」
「そんなことは言っていません」
「「「「え????」」」」
リーフの発言に、みんなが疑問を抱く。
なんせ、今自分で、
“もうこれ以上は戦えませんよ?”
と匂わせた発言をしたのに、これからどうするというのか?
四人の視線が突き刺さる中、リーフは少し考えた後、
「…イブ。さっきの魔法、まだ撃てますか?」
「…ん。だけど、さっきより威力は落ちる」
「そうですか…。となるとここであれを…」
と、リーフは懐から見慣れたものを取り出す。
それは、
「イブ。この魔力池で魔力を回復したら、さっきより高威力の魔法が撃てますか?」
彩人の作った魔力池である。
実は今朝、別荘を出る前に彩人からリーフに渡されたのだ。
「もしもの事があったら、これも使ってくれ」
と言われて。
それが今、役に立った。
(ありがとうアヤト。大切に使わせてもらいます)
姿が見えない彩人のことを考えながら、リーフはイブに魔力池を手渡す。
「…同じ威力の【殲滅光線】なら撃てる。けど、さっき以上の魔法は撃てない。ごめん」
「そうですか」
せっかく彩人がくれたチャンスを無駄にしたくない。
そう思ったリーフはさらに考える。
そして、
「なら、私達の魔力も使えばどうですか?」
リーフはそう提案した。
「…リーフ達の魔力を?」
「はい。あの赤の国での決闘時のアヤトとルリちゃんみたいな感じで…。出来ませんか?」
「…あれは純粋に、ルリが魔力の補填を行ったからこそ出来た芸当。普通の人はあんなことは出来ない」
「そ、そうですか…」
自分の案を否定され、落ち込むリーフ。
そんなリーフを見たくないと、
「…さっきより高威力の魔法を撃つ方法ならある」
「ほ、ほんとですか!?」
イブは提案する。
「…ん。それは、複数の魔力を混ぜること」
「混ぜる、ですか?そんなこと、ギルドでは聞いたことありませんが?」
「…この方法は正直おすすめしない。失敗すれば、周囲を巻き込んで大爆発する」
「だい…!?」
「!?」
二人の会話、そしてイブの言葉にビックリするラピス。
カイーガも驚きを隠せない。
「…それでも、やる?」
イブはリーフに聞く。
そして、
(どうすれば…?)
リーフは考える。
後一時間もしないうちに、さっきの数倍の魔獣が襲い掛かかってくること。
自分達は全快でなく、今その魔獣の軍勢と遭遇し、戦闘になったら誰かがやられる可能性があること。
私達にまだ出来ることはあるか。
もしこのまま逃げたら、ここは、この王都は一体どうなるか。
(今の私達に出来ることは…?)
それは、魔獣を掃討すること。
それには現段階では、イブの提案を受けることが、一番可能性がある。
リーフは、
「やります」
覚悟を決める。
イブはそのリーフの言葉、意志の強さに、
「…ん」
そう返した。
「…それで、結局どうするのですか?私が行くのですか?」
このクリムの空気を読まない発言に、
((いや、ここは空気を読もうよ!!))
ラピスとカイーガは心の中でツッコミをし、
「「…」」
イブとリーフは冷たい眼差しでクリムを見ていた。
その後、
「それで、その魔力を混ぜる、というのは…?」
「…ん。まずは…」
「ちょっと!なんで私に対してそんな冷たいの!」
「まぁまぁ。とりえず落ち着いて」
プンプン怒るクリムをラピスがなだめていた。
それから数十分後。
あれから二人はなんとか、魔力を混ぜることに成功したが、
「…これじゃあ、さっき私が撃った【殲滅光線】と同じ威力になると思う」
「え?それじゃあこれは失敗、ということですか?」
「…多分、リーフは他の人の魔力の波長?質?に合わせるのに特化している。でも…」
「…私とイブが魔力を混ぜ合わせても駄目ってこと?」
「…」
イブは無言で首を縦に振る。
「そ、そんな…!?」
「…ごめん。私が予め知っていれば…」
「!?ううん、いいの!これは非常事態なんだから」
「…でもこれで、また…」
「ええ。本当にどうしましょうか?」
ラピスもカイーガと何か話し込んでいるらしく、何か頼める状況じゃない。
となると、
「もしかしなくとも、私に用ですよね?」
クリムしかいなくなる。
「え。ちょっと魔力を混ぜ合わせで息詰まっていまして…」
「えーっと…。それじゃあ私の魔力も混ぜてみます?なんて♪」
クリムは冗談っぽく、軽い口調で言う。
その発言にリーフは、
「それだ!」
「「え?」」
目を輝かせていた。
「イブ!クリムとも魔力を混ぜ合わせたらいけるのではありませんか!!?」
リーフは興奮しながらイブに聞く。
だが、
「…リーフのこともあるし、絶対とは言えない。けど、やってみる価値はある」
希望ある返答に、
「それじゃあクリム、イブ!頑張りましょう!」
「はい!」
「…ん!」
それぞれ元気のある返答がくる。
だが、
「なんで上手く出来ないのでしょう?」
クリムとイブの二人だと、魔力を混ぜることが出来なかった。
今回はお試しで、小指程度の魔力で試しているからこそ被害はないものの、拳くらいの大きさとなれば、周囲を巻き込んだ大爆発が発生しただろう。
そんなことをさせないため、イブは被害が出ないぎりぎりで魔力を混ぜ合わせる。
「…むしろ、リーフがすごく上手かったから、余計にクリムが下手に感じる」
「むむむ…。私はこういった、緻密で繊細な魔力コントロールはそこまで得意じゃなんですよ」
「だけど、このままじゃ…」
「「…」」
三人の空気が重くなる。
このままでは私達が、王都が!
三人は自分達の力のなさを痛感する。
何故、こんなにも無力なのか。
他にもっとやるべきことはなかったのかと。
だが、今更後悔しても遅い。
今も私達の気持ち関係なしに、魔獣の軍勢は私達に向かって歩み続けている。
もう、何もかも…。
「…三人ならいけるかも」
不意に出た言葉。
何の意味もなく言った言葉。
何の根拠もない。
だが、もしかしたらと、イブはポロリと口に出す。
その言葉が、
「「ほ、ほんとですか!!??」」
二人に生気を吹き込む。
「…分からない。事例も何もない。単なる思いつきで言っただけ」
イブは必死に否定する。
だが同時に、
(…でも、もしかしたら…?)
自分が言ったことに、可能性を感じていた。
順調にPVが伸びて嬉しいです。
おかしな箇所が色々あるかもしれませんが、感想、ブックマーク、評価等よろしくお願いいたします。




