2-3-9(第134話) 依頼2日前
まだまだ投稿します。
外に出た俺達は、
「それじゃ、私達は向こうでやっていますので、何か用があったら来てください」
「分かった」
俺がコテージの前で魔道具を制作。
そして、残りのメンツは少し離れたところで訓練するとのこと。
俺も残り少ない時間であの魔道具を作らないとな。
そうして、俺は独りで黙々と作業を続けた。
時間が経過し、時はもう夕方になっていた。
「あ、ああ~」
伸びをしながら、今まで作った魔道具を見てみる。
前は一個作るのに一日かかったけど、今では三、四個作れるまでに成長した。
おそらく、前作ったとき、赤の国と青の国の時よりしっかりイメージができ、魔力量も増えたからだろう。
まさかこんなところで自分の成長を実感できるとはな。
こんな時なのに、ちょっと嬉しく思う。
そして、地面に寝っ転がる。
やっぱり、横になるって素晴らしい。
「…お兄ちゃん、横になって何しているの?」
なんと、間の悪いことに、ルリとバッタリ出くわしてしまう。
「おう、お疲れ。俺の方も一段落ついたから休憩していたところだったんだ」
と、本音を隠しつつ、ルリに言い訳をする。
「なんだ~。お兄ちゃんが無意味に横になっているだけかと思ったよ。疑ってごめんね?」
「いや、別にいいよ。俺も疑う原因を作ったわけだし」
ちょっと心が痛むな。
「それより、お兄ちゃんの方はどうなの?出来たの?」
「ああ」
といい、完成品を見せる。
「…ほんとにこれなの?」
「ん?そうだが?」
確かに、見た目からして信じろ、という方が無理かもしれない。
見た目は、一つのスイッチを取り付けたただの箱にしか見えないわけだし。
「それなら、試しに一つ使ってみるか?」
「いいの!?」
「…まぁいいだろ」
これはちゃんとこの魔道具が機能するかの実験だし、一つ消費することで、この魔道具の有能性を理解してもらえるのなら、お得ってものだろう。
性能審査、だったか?
そういうことも商品開発の上で重要だって聞いたことあるし。
「それじゃあ押すよ!ポチっとな♪」
…おい。
なんでお前がそのネタを知っている。
ま、そんなことより、魔道具がちゃんと機能しているかの確認だな。
どれどれ。
「え?な、何ですかこの沼!?」
「し、沈む~」
「…た、助け…」
「「…」」
…うん。
ちゃんと機能しているな。
だからこそ、リーフ、クリム、イブの三人が犠牲になっているわけだし。
ちなみに、俺が今回自作した魔道具は、相手の動きを封じるだけなので、はまったところで死ぬ、なんてことはない。
ま、しばらく動けなくなるが。
「…お兄ちゃん、どうしたらいい?」
「…まずはあの三人を全力で助けて、全力で土下座。そして、全力で許しを請う。これぐらいじゃないか?」
あの三人だって、理不尽に怒鳴り散らすほど怒りっぽい性格ではない。
むしろ、気は優しく、思いやりのある、性格美人と言っても過言ではない三人だろう。
だが、一度怒らせればその怒りは天井知らず。
それこそ、触らぬ神に祟りなし、といったところである。
いや、この場合、触らぬヒュドラに祟りなし、だったかな。
「わ、分かった!!」
と、ルリは猛烈な勢いで三人を救出する。
「はぁ、はぁ、はぁ…」
「た、助かった~」
「…死ぬかと思った」
三人を救出したルリ(俺も手伝った)は必死に、
「ごめんなさい!もうこんなことしないから許してください!」
と、全力で土下座かましていた。
ちなみに俺は三人に事情を話し、なんとかルリへの怒りを抑えるよう話している。
…俺もまだまだ甘いのかもしれないな。
ルリのあの生気の無い顔を見たくはないし。
俺もあの顔を見て、トラウマになりそうだったし。
…思い出しただけで寒気が…。
「…なるほど。確かにルリちゃんには悪気はなかったみたいですし、私達は別に構いません」
「そうです!人間だれしも、間違いあってこその成長です!」
「…おつむは一向に成長しないくせに」
「何ですって!?」
と、最早お決まりのイブとクリムによるキャットファイトが始まる。
「…ところでアヤト?この沼みたいものが今回試作していた魔道具ですか?」
「ん?ああ、そうだが?」
何か問題でもあったのだろうか。
性能審査、という点だけで言えば、三人は身をもって協力してくれたのでぜひとも意見が聞きたい。
ま、三人の前では言えないけど。
「…それって、私達にもいくつか分けてもらえないですか?」
「え?」
どうしよう。
確かに、故障したときのためにいくつか予備は作ってある。
だが、予備といっても数個。
明日は一日使って体を動かしておきたいし、どうすべきか…。
「あ!すいません!無茶、ですよね?私達だけでなく、他の冒険者の方々もいるというのに、我が儘ですよね?」
と、リーフは自分で聞いておきながら、勝手に自己解決し、俺の前から去ろうとする。
…ああ、もう!
「…ルリ。まだ魔銀、出せるか?」
「ん?まだ出せるけど?もしかして…?」
「ああ」
「え?」
リーフは驚愕の顔で俺を見る。
「ま、死ぬ確率が少しでも下がるなら、それぐらいは頑張らないとな」
まったく。
今日は徹夜確定コースだな。
「あ、ありがとうございます!」
リーフは俺に向かって頭を下げる。
「いいって。俺もリーフ達が死なれるのは困るから」
今回の戦いで、俺は知人誰一人も死んでほしくないと思っている。
これは俺の我が儘だ。
だから、この我が儘を貫き通すために、多少の無茶は覚悟するか。
「それじゃ、夜食を作って持っていきますね!楽しみにしていてください!」
と言って、リーフはあのキャットファイトしている二人の後を追う。
「…お兄ちゃん、大丈夫?」
「…ああ、大丈夫。ちゃんと乗り越えてやるさ。それより、今日の夕飯、楽しみだな」
「うん!」
こうして俺達は、いつの間にか夕飯を準備しているクロミルとラピスの元へ向かう。
「ご主人様。いつでもご飯の用意が出来ておりますが、どうなされますか?」
「いつでも出せるけど?」
「…今すぐ食うか?」
“それでいいか?”という意味を込めながらルリを見る。
「うん!」
「それじゃ、今すぐ用意出来るか?」
「かしこまりました」
「分かった。それじゃあ少し待っててね」
こうして俺達は美味しい夕飯を食べ、風呂も済ませ、俺以外の全員は床についた。
ま、俺が、
「今日はちょっとやることがあるから、先に寝ていてくれ」
と言ったら、何か意図をくんでくれたらしく、
「…分かった。お休み」
と、イブの一言をかわきりに、みんなが、
“お休み”
と、言われたことに驚いた。
俺は、
“ああ、お休み”
と、返し、魔道具作成に精を出した。
ちなみに、真夜中にリーフが起きだし、夜食を作ってくれたのは嬉しかったな。
それもあの温かい味噌汁(の味がする緑色のスープ)。
それに、黒い棒?っぽいものもだされた。
“イブとクリムからの差し入れです”
…なんか、とても嬉しくなった。
こんなの、受験勉強中の時以来だ。
親ですら、コンビニで買ってきたおにぎり二つだけだったのに。
俺はリーフにお礼を伝え、ベッドまで送った。
…もちろん、性的なことは一切していない。
本当に、ベッドまで送っただけである。
本当だからね?
俺は夜食を飲み食いしながら、引き続き魔道具を作り始める。
この話を読んでいると、受験勉強していた自分を思い出します。
といっても、落ちたのですが。
…。
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