2-3-8(第133話) ”埋め合わせ”4日目→依頼受諾
今週も投稿したいと思います。
大体の事情は把握した。
簡単にまとめると、
・数日前、とあるパーティーが調査に行って帰ってきたのだが、一人だけで、しかもボロボロだった
・なんでも、牛人族がそのパーティー、【青牙】?を襲い、その一人以外、全滅したとのこと
・そして、牛人族の後ろに大量の魔獣が目を血走らせていたとのこと
・冒険者ギルドで話を聞いたところ、何とか魔獣の方は対処出来るらしいが、牛人族の方は無理、とのこと
・そこで、「アヤトに任せてみれば?」と、提案し、相談に来たとのこと
・もし応じてくれなければ、王都が滅ぶ可能性があるとのこと
ふむふむ。
まずは一言。
これ、脅しじゃね?
口を悪くして言えば、
「てめぇが助けてくれねぇと、この町が消えちまうから、助けろ!」
て感じか。
これでこのまま俺達がいなくなったら、この王都、無くなるのか。
…う~む。
確かにここは別荘としては素晴らしいし、出来ることなら無くなってほしくない。
だが、命を懸けてまで守りたいかと言われれば、微妙である。
ルリやイブ達なら、確かに大切な存在だから、必ず守り抜きたいとは思うが、家にまでそんな感情は抱けないなぁ…。
と、ここで、
「ご主人様!」
「うわ!?な、何だ?」
急にクロミルから話しかけられる。
「私のことは好きにして構いません!ですからこの事態を解決へと導いてください!」
と、クロミルが土下座で懇願してきた。
…そういえば、これって牛人族絡みだよな。
つまり、クロミルにも関わりがあり、放っておけない、ということなのか?
あれ?
でも確か、
「あいつらは人を襲わないんじゃ…?」
「そう。問題はそこなんだよ」
「!?そ、そことは…?」
こいつ…。
急に話に割り込んでくるなよ。
びっくりするじゃないか。
「牛人族は本来、人を襲うことなんかしない。つまり…」
「つまり…?」
「何で襲ったのか、まだ分かっていないんだよね…」
「…」
「そ、そんな目で見ないでほしいな。さっきもみんなにそんな目で見られたばっかりなんだ」
ま、それは仕方ないだろう。
答えが分からない問題を出された気分だもんな。
そりゃあ、冷めた目で見たくもなるさ。
「それで、クロミルはどうしたいんだ?」
俺はクロミルに聞く。
「もちろん、助けたいです。助けられるのであれば、この身がどうなろうと構いません」
はっきりと迷わずに行った。
これはすごい。
自分が死んでも助けたいと思っているのだろう。
俺自身、そんな覚悟なんて持ち合わせていないのに。
「…分かった。俺も行くよ」
「ほんとですか!?」
一瞬で顔色を変えるクロミル。
そして、またも顔色を悪くさせる。
そんなに顔色を変えて忙しそうだな。
「で、ですが!本当によろしいのでしょうか?私一人では…」
「だ…」
「大丈夫だよ!ルリ達がいるから!」
「…ん。その通り」
「そうです!魔獣なんて、ボコボコにしてやります!」
「私も、このレイピアで頑張ります」
みんなでクロミルを励ます。
…ルリ、出来れば最後まで言わせてほしかったよ…。
「…とにかく、大切なクロミルからのお願いだからな」
それに、大変お世話になっているし。
「みな様…。ほんとに、本当にありがとうございます…」
「うんうん。だからクロミルお姉ちゃん、泣かないで?」
「は、はいぃ…」
ま、ここはルリに任せるとしよう。
「それで、他に何か情報はないか?」
「情報、と言いますと?」
「…何かあるだろ?相手はどんなやつだ~とか。どんだけいた~とか、色々」
「…」
「お前、まさか…!」
「いえいえ。私のちょっとした冗談です」
こ、こいつ…。
「分かりました。ちゃんと話しますからそんな目で見ないでください」
「分かった」
そして、俺達はカイーガの話を聞く。
それにしても、こいつってこんな冗談を言う奴だったのか。
まったく知らなかったな。
「…以上が今回見た牛人族の情報でございます」
「…これ、ほんとに合っているのか?嘘の情報を掴まされたんじゃ…?」
「いえ。一応、私兵にも偵察させましたので、問題ないかと」
「な、なるほど」
つまり、この情報は本当、ということか。
しかし、
「カラー種の牛人族、ねぇ…。ほんとにいるのか?」
「私の村ではみんな白黒でした。私達牛人族にもカラー種が存在するなんて初めて聞きました」
「…と、本人が言っているわけだが?」
「…こればっかりは俺にも分からない。けど、確かに見たんだ。様々な色をした牛人族を」
と、頑なに意見を曲げないカイーガ。
まぁ、俺もこいつのことをまるっきり信用していないわけじゃないけど…。
色んな色をした牛人、ねぇ。
つまり、白黒ではなく、赤黒、青黒の牛人がいたり、赤白、青白の牛人がいたりした、というわけか。
…なんか気持ち悪いな。
牛と言えば白黒を想像するから、生理的に受け付けないのか。
「…後一つ、確証のない情報がありますが、聞きますか?」
「ん?それはなんだ?」
「それは、胸のあたりに見たことのない紋章を付けた魔獣を見かけた、との情報です」
「「!!??」」
俺とルリはつい見つめ合ってしまう。
「…もしかして、こんなマークだったか?」
と、俺は見覚えのあるマークを描く。
確か…、六色のドーナツ型の円形、だったか?
それを描き、カイーガに見せる。
「あ!そうそうこれです!確かこんな紋章だったかと!」
「お兄ちゃん。もしかして…」
「ああ。だろうな」
おそらく、あいつが関わっていると思う。
無論、そんな証拠はない。
ただの勘だ。
「…あの。お二人だけで話を進めるのは…」
「もしかして、その模様って前に言っていた…?」
「あの魔獣についていたというやつですか?」
「…?そうなの?」
「ああ」
そうだ。
あのメイキンジャーが今回、何かしらの形で絡んでいる可能性がある。
いや、高確率で絡んでいるか。
そういえば、あいつはあんなことを言っていたな。
確か、
“それでは、私はそろそろ次の実験をするので、これで失礼します”
だったか。
実験ってなんだ?
それに、メイキンジャーはあのカラー種の爪牙狼は処分して、別の魔獣を使役しようとしていたな。
カラー種っていうだけでも強いのにな。
「…アヤト?」
「ん?あ、ああ。大丈夫だ。それより情報はこれで全部か?」
「え?あ、はい。そうですけど…」
「けど?」
何だ?
俺にけちでもつけよう、という気なのか?
「さきほどの話の意図をご説明頂けるとその、ありがたいのですが…」
「さきほどの?」
…ああ。
あの紋章のことか。
「悪いがそのことは教えられない。こっちのことなんでな」
あのことは俺達だけの秘密にしておこう。
そうすれば、少なくともこいつは無関係となり、狙われる、なんてことにはならないだろう。
「…教えてくれる気は、ないのですね?」
「ああ」
俺はまっすぐカイーガを見つめて答える。
こればっかりは、な。
「…分かりました。今回はこちらが引き下がるとします。元々、私がお願いする立場ですし、深入りするのは失礼でしょうし」
「そうだな」
「そこは謙遜して否定してくれないのですね」
「当たり前だ」
下手すれば、命に係わる案件だし。
「…それで、あなたはこの事態をどうするつもりですか?」
「そうだな…」
俺としては考えがない、というわけではない。
だけど、
「みんなは何かないか?」
「いえ」
「私も特に良い案が思いつきません…」
「…アヤトに任せる」
「ルリも!」
「私はご主人様に着いて行きますので」
「僕は、この事態を何とか出来るのなら、任せてもいいと思っているよ」
なるほど。
要するに俺任せ、ということか。
別にいいけど。
「それじゃ、イブ、クリム、リーフ、ラピスは冒険者達と一緒に魔獣の討伐を頼む」
「「「「はい!!!」」」」
「そして俺、クロミル、ルリで牛人族の所へ向かう。倒すか説得するかはそいつらを見てから決める。それでいいか?」
「「はい(うん)!!」」
これで問題はないかな。
…うん、ないな。
「…それで、俺はどうすればいいのかな?」
「ん?」
なんでカイーガも俺の意見を聞こうとしているんだ?
「お前はお前のやることをやればいいだろ」
例えば、市民の避難とか、兵を増やして守りを固めるとか、色々あると思うけど…。
そんな感じで話すと、
「それが、もうほとんど残っていなくて。立場上、下手に戦う訳にはいかないし、後出来ることはみんなの士気をあげること、かな」
「そ、そうなんだ」
なんか急に俯きながら愚痴るように言ったな。
そんなに戦いたかったのか。
いや、違うな。
みんなを護れなくて悔しいのだろう。
自分が戦力になれず、申し訳ない気持ちで一杯なのだろう。
そんな気持ちで自分が押し潰されそうになっているのか。
ま、後で妻に思いっきり慰めてもらえばいいさ。
こいつ、どうせ結婚しているんだし。
そう思ってくると腹が立ってくるな。
見た目同年代なのに結婚してやがって。
「…あの、何か?」
「ん?…いや、何も」
もしかして、俺が嫉妬しているのがばれたか。
いや違う。
これは醜い男の嫉妬じゃない。
これは…そう!
この男、カイーガを尊敬の眼差しで見ていただけだ。
うん!
…だいぶ考えが逸れたな。
「…とにかく、冒険者達が動き出すのは今日から何日後だ?」
「確か…、二、三日後だったと思います」
「二、三日ってすぐじゃないか!?」
これじゃあ、一から作戦を練ることも魔道具を一から作る時間もないじゃないか!
つまり、今まで作ってきた物でなんとかこの事態を乗り越える必要がある、ということか。
「すいません。本当はもっと早く知らせるべきでしたのに…」
「まぁ、過ぎてしまったことはしょうがない」
後でグチグチ言わせてもらうが、今は事態の解決への糸口を探るために考えよう。
さて、どうするべきか…。
俺が悩んでいると、
「…とりあえず、今日明日でこれからの事態に備える必要があると思います」
ここでリーフが俺に救いの手を差し伸べてくれる。
…確かに、鈍り切った自分の感覚を取り戻す時間は必要だな。
「よし。それじゃあ、今日明日は徹底的に訓練しよう。その間に作戦もたてよう」
「作戦?」
「ああ。もし、カラー種の牛人族が敵になった場合の対応策を考える」
「ご主人様。それはつまり…」
クロミルは俺に怒りを向ける。
ま、確かに俺の言い方だと、最初から牛人族を倒す気満々に見えるよな。
「クロミル。これはあくまで最悪の事態に備えての作戦だ。もちろん、まずはあいつらと話が出来るような環境を作る。まずはそこからだ」
「ご主人様…」
俺の一言で、クロミルは感情をコロコロ変える。
「…それで、まずはあいつらの動きをどう止めるか、だが…」
これがまったく思いつかない。
相手の動きを止める手段って何があるんだ?
誰か参考書でも作ってくれないかな。
「…だったら、あの時の沼とか、どう?」
と、イブが案を出してくる。
あの時の沼?
あの時っていつの話だ?
それに沼、だと?
沼…沼…ああ!?
「あの戦争の時に使ったやつか!?」
「…ん。あれは相手の動きを止めるのに便利だと思う」
確かに、相手の動きを止められるし、その間に話し合いにも持ち込めそうだ。
「なるほど。それはカラー種には有効な手段かもしれませんね」
と、リーフも太鼓判を押していた。
まて。
カラー種にも有効な手段、だと?
「リーフ。今の言葉、どういう意味だ?」
「え?カラー種は元々、普通の個体より身体能力が上がっている個体のことを言います。それは知っていますよね?」
「ああ」
確か、俺が戦ってきたゴブリンや爪牙狼もカラー種だったな。
「それでですね。頭、頭脳だけは強化されていないことが分かったのです」
と、まるで自分が発見したかのように言うリーフ。
確かに、リーフの情報収集能力ならあり得ない話ではないな。
「そこに目を付けるとは、流石ですね、イブ」
「…ん。私は賢い子だから、クリムと違って」
「ちょっとそれは聞き捨てなりませんわね。私にも考えはあります」
「…何?」
「もちろん、拳で語り合う事です。歴戦の猛者であれば、拳を交えるだけで正気かどうか確認できますよ!」
と、自信満々に言うクリム。
その一言に、
「「「「「「・・・・・・」」」」」」
ルリ以外の全員がクリムをかわいそうな目で見る。
そして、
「クリムお姉ちゃん。いくらなんでもそれは無理なんじゃないかなぁ…」
なんと、ルリにツッコミをさせる始末。
すごいな。
まさか、あのルリにツッコミをさせるなんて…!
って今はそんなことはどうでもいいや。
「それじゃあ、俺は魔道具を作るから、その間、各自自主練、ということで、解散!」
「「「「「はい!!!!!」」」」」
「え?あれ?ちょっと、私の意見はどうなるのです?」
「カイーガもこれでいいか?」
「え、ええ…」
「それじゃあ二日後、またこっちに来てくれるか?」
「分かりました。それでは失礼します」
「ちょっと!私の話を聞いてよ!!」
クリムはプンプン怒っている、カイーガはこの別荘を出た。
それに合わせて、みんなも各自、いつもの服に着替えて外に出る用意をする。
「なんで!?お父様も言っていたのに!歴戦の猛者なら可能だって!」
クリムは未だに文句をたらたら言っていた。
確かに、そんなことを聞いたこと、というか、どこぞの漫画で読んだことはある。
剣を交えただけで相手の意思が分かるだの、相手の気持ちが分かるだの。
だがな、俺はボッチだぜ?
ろくにコミュニケーションもとってこなかった俺が、剣を交えただけで相手の意思が読めるとでも思うのか?
まったく、夢を見るのは夜だけにしてもらいたいぜ。
「ねぇ!イブなら分かるでしょ!?」
「…リーフ、今日はどんな訓練した方がいいと思う?」
「そうですね。まずは軽く運動してから魔力を少し放出し、それから本格的に始めましょう」
「…分かった」
「あ!ルリも一緒にやりたい!」
「リーフ様。私もご一緒していいでしょうか?」
「いいけど、いくら私でも、真っ向からルリちゃんやクロミルちゃんと勝負して勝てないわよ?」
「別にいいよ!クロミルお姉ちゃんと戦闘訓練するから!」
「…とのことですので、途中まででいいですので、ご一緒してもよろしいでしょうか?」
「もちろんいいわ」
「ありがとうございます」
「ちょっと!誰か私の話を聞いてよ!お願い!」
と、ガヤガヤ話しながら、俺を除いたみんなは外に出て行った。
さて、
「俺も魔道具を作りますか」
軽く準備をしてから、別荘を後にする。




