2-3-6(第131話) ”埋め合わせ”3日目 ~イブ編~
今週も投稿したいと思います。
埋め合わせ三日目。
「…今日は私」
「…あ、そうですか」
今日はイブと一日過ごすらしい。
今日は一体、何をするのやら…。
「…今日は私と一緒に出店、周ろう?」
「出店、ね…」
確かに、この青の国の出店は気になる。
赤の国では、あの辛さと甘さが一緒になった餅もどきを食っていたからな。
しかも、美味しい魚介類がたくさんあると聞く。
これは自然と涎がでてしまうな。
「…それじゃあアヤト、一緒に行こ?」
「おう」
こうして、俺とイブは出店回りに行くこととなった。
ここ、大通りには多くの出店がある。
大半は水上に店に構えている。
何でも、魚の鮮度を保つため、とのことらしい。
スーパーや高級料亭等でよく見るいけす、みたいなものだろうか。
美味しい匂い、というより、魚の匂いが充満している。
悪くない感じだ。
…そういえば、魚のさばき方等もここで勉強しておいた方がいいかもしれない。
魚の下処理は全部、イブやクリムに任せていたんだけど、自分でも出来るようになりたいな。
「…まずはあそこ。生の美味しい魚が食べられる」
「よし、そこに行こう」
「…ん」
最初に食べるのは生魚である。
どんな魚が出てくるかな。
やっぱ最初は烏賊かな?
いや、烏賊じゃなくて、いきなり鯖とかアジとかが出てくるかな。
「らっしゃい!おや?昨日の嬢ちゃんじゃないか。今日はどれを食べるかい?」
イブ、昨日も来ていたのか。
さすが、食いしん坊夫婦の娘。
「…今日も店長のおすすめで」
「はいよ!」
と、イブは手慣れた感じで注文する。
「…ほい。【サバン】の刺身だ」
サバン?
サバじゃなくて?
「おっさん。その、サバン?っていう魚は…?」
「ん?サバンつうのは、これのことよ」
と、店長のおっさんはある魚を持ち上げ、俺に見せてくれた。
…あれ?なんかサバに似ていないか?
確か、俺がネットサーフィンで見ていたサバと見た目がそっくりなのだが?
「…それって、サバじゃないのか?」
「あ?何言っているんだ、おめぇ?」
「…いや、何でもないです」
「ま、とにかく食っていけよ。ぜってーうめぇからよ」
…とにかく食べてみよう。
…。
うん、確かに美味しい。
刺身って鮮度が重要だけど、ちゃんと鮮度が保たれていたのか、身が引き締まっていて美味い。
いや、これは店長の腕か。
こんな美味しい刺身を作れるなんて…。
「…アヤト、美味しい?」
「ん?あ、ああ。すごく美味しいぞ」
「…よかった」
めっちゃうめぇ。
もう三切れ目だが、まだまだ食える。
まだ出店回りは始まったばかりなのに、このままじゃ三件目には満腹になってしまうな。
「…それじゃ、次行こう?」
「分かった。おっさん、この刺身をくれ」
「はいよ。今後もごひいきに!」
そう言って、俺は一件目を後にする。
次の店は、
「いらっしゃ~い♪…お?昨日の嬢ちゃんじゃないか?今日は何を買いに?」
…ここも昨日、イブが寄った店なのか。
この店、なんか他の店とは違うような…?
「…二日前のやつ、まだある?」
「二日前?ああ!?確か…あるよ。それにするかい?」
「…ん」
「そっちのお兄さんも同じでいいかい?」
「ああ。それで頼む」
肝っ玉母さん風の女店長が俺に話を振ってきたので、無難に返す。
ところで、二日前も来ていたのか。
ほんと、食いしん坊だよな…。
待つこと約数分。
「よし!はい、【マグロンの赤身ロール】、二つ」
「…ん、ありがと。後、これはお金」
「…はい、ちょうどぴったりだね。またのご来店を~♪」
…。
「…はい。これはアヤトの分」
と、イブはマグロン?の赤身ロールを一つ、俺に渡す。
それはありがたいのだが、
「マグロ、じゃないのか?」
「?…マグロ?違う。これはマグロン」
「そ、そうか…」
どうやら俺の思い違いだったらしい。
最初はマグロかと思っていたが、別の魚とのこと。
…それにしても、この赤身、絶対マグロだと思うんだけどなぁ…。
「…それじゃ、食べよう?」
「おう」
俺とイブはこのマグロンの赤身ロールにかぶりつく。
…見た目はパンだ。
パンに細長くて赤い何か、これがマグロンの赤身か。
なんか、手巻きずしのパンバージョン?みたいな感じだ。
パンも、チョココロネで使われているあの形に少し似ている気がする。
では実食。
!?
か、硬!?
あのいつも食べているフワフワ食感のロールパンを想像しながら食べたから、思った以上に硬くてびっくりした。
だが、味は悪くない。
このさっぱり?素っ気ない?感じがこの赤身の濃厚な味とマッチしている、と思う。
それにしても美味い。
見た目的にも、あの赤身が目立つような配色だったし。
このパンの色からして、もしかして黒パン?
黒パンってたしか、俺達が普段食っていたもちもち食感のパンより硬めだって聞いたことが…、
「…アヤト、美味しい?」
「ん?ああ、美味いぞ」
色々思考がずれた気がするが、それでもこれだけは言える。
これは美味い!
俺は残りを名残惜しむかのようにじっくり味わって食べた。
「…次、行こ?」
「おお」
俺とイブはこのまま食べ歩きを始める。
「…さ、次に行こー♪」
「お、おお…」
あれからずっと俺達は食べ歩きを続けている。
もう、かれこれ数時間。
感覚的には…4時間ぐらいか?
寄った件数は十件を優に超える。
もちろん、店に向かう間ずっと歩いているので、腹ごなしはある程度出来るが、それでもある程度しか出来ない。
それじゃ、残りはどうなるか、というと、
「(うう。かなり辛くなってきたな…)」
気合いである。
世の中、気合があれば何とかなる!
「…美味美味♪」
…とはいえ、いまだ隣で美味しそうにな食べ続けているイブは本当にすごいと思う。
その胃袋、異次元にでもつながっているのですか?
俺も男の意地を見せようと、必死にイブに食らいつく。
「(もう魚は見たくないかも…)」
弱音を吐きながら。
「…アヤト、大丈夫?」
「うっぷ。だ、大丈夫だ…」
日が傾き始めたころ、イブとの食べ歩き地獄から解放される。
俺の腹はというと、パンパンに張っていた。
まるで、俺の腹の中の風船が膨らんだかのように。
こんな状態の中、食べ続ける俺ってすごいと思う。
今ぐらい自画自賛したっていいよね。
何せ、めっちゃ頑張ったんだもの。
「…アヤト。お土産買って帰ろ?」
「ちなみにお土産っていうのは…?」
「…マグロンの赤身ロール。これがお土産に大人気」
「そ、そっか…」
あれ、確かに美味しかったな。
満腹じゃなければ食べたいけど、今の俺には重すぎる食事だ。
「今日は夕飯食べなくていいや」
「…お腹一杯?」
「あ、ああ…」
ここまでくれば男の尊厳なんて関係ない。
俺はもう食べられないアピールをする。
「…残念。せっかく、お魚を使った甘味があったというのに…」
「今すぐそれを食いに行こう」
え?
お腹一杯じゃないかって?
甘いものは別腹です。
それに、魚を使った甘味、気になるし。
「…大丈夫?」
「ああ。覚悟は出来ている」
翌日、トイレに籠る覚悟、だけどな。
「…分かった。それじゃ、行こう?」
「おう!」
こうして俺とイブはお土産を買いながら、甘味処へと向かう。
さぁ、どんな甘味がでてくるかな♪
「…それで、これは何だ?」
「…ん?見て分からない?」
「見て分からないから言っているのだが?」
最後の店に入り、出てきたのは、魚の刺身と白いフワフワした物体だ。
…これのどこが甘味だ?
魚料理と言われて出された方が、まだ理解出来たぞ。
「…これは、【フワメレ・サーモンモンを添えて】、だったと思う」
「…」
なんかフランス料理みたいなのが出てきたぞ。
というより、メインはサーモンモンじゃなくて、このフワフワしているやつ、フワメレだったのか。
確かに、この白いのは確かに甘そうだが、この魚を添える理由は何だ?
「…後、この甘味にはこの甘味ならではの食べ方がある」
へぇ。
そういうところも調べ済み、というわけか。
さすが食いしん坊、といったところか。
「…まず、このフワメレを一口食べる。そして、サーモンモンの上にフワメレを乗せて食べる。これがおすすめ」
「へぇ…」
俺はイブのおすすめ通りに食べることにした。
まず、このフワフワしている物体、フワメレを一口。
…。
うん、確かに甘い。
似ているもので、綿あめ?違うな、メレンゲ、かな?
かなりフワフワしているちょっと食べづらいが、美味い。
次は、このフワメレをサーモンモンの上に乗せてっと。
…。
うん?
このサーモンモン。味がサーモンと全く同じだ。
身の色も同じだったし。
だが、さっきよりフワメレの甘みが強調されている。
それに、サーモンモンの食感がプラスされて、食べごたえのある、より美味しい甘味へと変貌している。
「…ちなみに、このサーモンモンは元から塩気がある。だから、甘みを引き立てるのに最適な魚」
「なるほど」
確かに、善哉を甘くするとき、最後に塩を入れることがある。
それと同じようなことなのだろう。
俺は甘味を味わいながら、
(そういえば、この後の予定、どうするかな…)
今後の予定を考え始めていた。
このまま旅を続けるか、それとも…、
「…アヤト?」
「んあ?」
「…なんか、上の空だったけど、平気?」
「?俺は平気だぞ?」
「…ならいい」
と、再び食を進めるイブ。
…一体どうしたんだ?
というより、
「イブ。それで何皿目だ?」
「…四皿目」
やっぱり、食いしん坊の胃袋は半端じゃないな。
そう痛感した俺であった。
だが、俺とイブは気づかない。
今、ギルドで冒険者達が集まっていることに。
この事態をどう乗り越えるか話していたことに。
そしてこの場には、
「でしたら、いい冒険者?旅人?を知っています」
カイーガ=グラントがいた。
「その人の名は何と?」
「それは、アヤト、という人です。きっと、あなた方の助けになりますよ」
「いやー!それにしても、まさかあの公爵英雄様と話せる時が来るなんて!」
「!?よ、よしてください、そんな恥ずかしい話は!それに、この事態は非常にまずいですからね」
瞬間、空気が重くなる。
「…そうですね」
「もしかしたら、この王都が滅ぶかもしれませんから」
英雄公爵、もといカイーガ=グラントは話を再開する。
今後、この事態をどう乗り切るか。




