2-3-5(第130話) ”埋め合わせ”2日目 ~クリム編~
埋め合わせ二日目。
「きょ、今日は私の番です!」
クリムの番、らしい。
俺には当日の朝まで分からない。
本人達が言うには、
「「「ビックリしたアヤトの顔が見たい!!!」」」
だ、そうだ。
俺は驚きの連続で、驚き顔なんて常に晒していた気がするけど。
そして、
「さ、今日は張り切っていきましょう!」
クリムに連れられて、俺達二人は別荘を後にする。
出来れば別荘の中でゴロゴロしたかったなと思ったのは心の内にしまっておこう。
「なぁ。一つ聞いていいか?」
「?何でしょう?」
「俺達は何しにここに来たんだ?」
「何しにって、もちろん魔獣討伐です!さっきギルドの受付で済ませたじゃないですか!?」
俺達は今、青の国から少し離れた場所にある荒れ地に来ている。
ここに時折出没する【モグドリ】と【クマグマン】という魔獣を討伐するためである。
モグドリは一言で言えば、大きなモグラである。
この季節になると、農地の土を荒らしまくり、作物を台無しにさせるらしい。
そして、クリムが言うには、鋭い爪と目の良さに気をつけろ、とのことであった。
一方、クマグマンは、これまた巨大な熊である。
クマグマンはその大きい体を使い、木の皮や木の実を主食としているが、人を襲って食すこともあるらしい。
いわゆる、雑食ってやつだろうか。
そして、どれほど大きいかというと、モグドリ―が俺達青少年の平均身長くらいなのに対し、クマグマンはその二倍、さらにでかければ三倍ある種もあるらしい。
そしてクリム曰く、
“どちらも、目を潰せば楽勝です!”
と、自身満々に語った。
…いや、聞きたいことは他にもあるのだが…。
「さ、来ます!」
「お、おお!」
こうして、俺とクリムの二人での戦闘が始まる。
「モグモグぅー!」
「ぐおおぉーー!!」
なんか、目が赤く血走っているのがこっちに向かって来ているんだけど。
ちなみに、モグモグ言っているのがモグドリで、雄叫びを挙げているのがクマグマンである。
並んで俺達に向かって来ているのは偶然か?
それとも、実はあの二体は血の繋がった兄弟、とか?
…そんなことはさておき、
「…それで、作戦はどうする?」
「一人一体、でどうです?」
「了解」
俺は目の前にいるクマグマンと対峙する。
やっぱでかいな。
「さぁアヤト!私の実力、見ていてください、【赤色装】!」
瞬間、クリムの全身を、赤いオーラが包み込む。
あれ?
クリムって【赤色装】、出来たっけ?
ま、ここは俺も合わせて、
「ああ!こっちも行くぞ、【赤色装】!」
俺もクリムに合わせて、【赤色装】を発動する。
「「はぁぁぁー!!」」
そして、クリムとモグドリ、俺とクマグマンの拳がそれぞれぶつかりあう。
この音が、戦闘開始の合図となった。
私はモグドリとの戦いで、【赤色装】だけでは不安が残るので、
「【炎拳!】」
さらに魔法を重ね掛けし、万全な体制を形成する。
そして、
「はぁぁ!」
モグドリの腹目掛けて拳を入れようとする。
だが、
「モッグぅぅ!!」
それをあっさりと躱され、
「ううぅ…」
置き土産と言わんばかりに、砂を巻き上げ、地中に潜ってしまう。
そう。
これがモグドリの厄介な点の一つである。
モグドリは危険を察知すると、地中に潜り、相手が油断したところで、地中から攻撃するのだ。
なので、本来はモグドリ対策を色々講じるところなのだが、私は
(集中するんだ。集中…)
私は訓練の一環として、相手の気配を感じとる訓練を、このモグドリでしているのだ。
ま、最初は受付の人にこの依頼は向いていませんよ?と言われてしまったが、私にとってはいい特訓相手なので、それでも受注した。
それに、
(アヤトが、守ってくれますし…)
いざという時はアヤトが守ってくれる。
そう考えるだけで、いつも以上の力が出せる。
「グモぉ!」
「!?しま…!」
ズバ。
モグドリの鋭い爪が掠ってしまう。
しまった。
少し、油断してしまった。
「!??【結界】!!!」
瞬間、私達と魔獣達との間に大きくて見えない壁が現れる。
ああ。また、助けられたのですね。
アヤトは私の傷を白魔法で回復させながら、
「クリム!大丈夫か!??」
と、真剣な顔で聞かれた。
私は、
「え、ええ。かすり傷程度でしたが。それでも助けていただき、ありがとうございます」
「…いいってことよ。それより、行けるか?」
魔獣達は今も、アヤトが作った見えない壁に体当たりし、壁を壊そうと奮闘する。
私だって、一度は拳を向けた身。
向けられる覚悟もあるのですから。
「はい!もう大丈夫です!」
それに、本当にあの傷はかすり傷でした。
なので、本当に大したことなんてないのです。
…ま、今更こんなことを述べても、言い訳にしか聞こえないと思いますけど。
ですが、これで目が覚めました。
次は、次こそは、
(絶対に、モグドリの気配を掴んで見せる!)
そう意気込んだ。
さっきの一回で大体の感じは掴めた。
今までのピースを埋めるような感覚だ。
後は、残りのワンピースをはめるだけ。
そして、再びモグドリは地中に潜る。
(後はこれまでのことを活かして…!)
私は思い出す。
これまで戦ってきた人達との模擬戦を。
楽に勝てたこともあったし、お父様にはボコボコにされた。
そして、お父様と私にないもの。
それらを走馬燈の様に脳内を駆け巡る。
(アヤト…)
今度は油断なんて馬鹿なことはしない。
今までの集大成として、成功させる!
「見えた!」
瞬間、モグドリの姿が見える。
目で見るのとは違い、全体像しか見えていないが、どの場所にいるのかが分かる。
そして、
「そこだ!」
私は地面に向かって思いっきり地面を殴りつける。
「グモォ!??」
よし!
やっと!やっと出来た!
これが、【気配察知】。
お父様でも、習得するのに数年かかったという。
私は習得でき喜びに浸る前に、
「これで、とどめです!」
【炎拳】で思いっきりモグドリを殴り飛ばす。
殴り飛ばされたモグドリはそのまま地面を転がり、倒れた。
「やった!これで依頼完了です!」
私はモグドリが倒せて嬉しい、というより、【気配察知】が使えるようになって嬉しい!
「…お?そっちも終わったのか?」
「あ?もしかして、アヤトもクマグマン、討伐完了ですか?」
「おお」
…確かに、アヤトの後ろに寝転がって泡を吹いているクマグマンがいた。
「…ちなみに、どうやって倒したのですか?」
「ああ。それはだな、必死に避けた後、あのクマグマンの隙をついて、目いっぱい腹に拳を叩きこんだ」
「どんな倒し方をしているのですか…」
まったく。
今回の魔獣は、目を潰せば楽だったというのに…。
「…そういうクリムは、ちゃんと目を潰して倒したんだろうな?」
「…あ」
そういえば、私も腹を殴って倒したんでしたっけ?
「ほら見ろ。お前だって自分の言ったこと無視して倒していたじゃないか」
「わ、私はいいんです!やっと、【気配察知】が使えるようになったのですから!」
「【気配察知】?何それ?技なのか?」
「え~とですね。それは…」
あ。
そういえば、今の私達って、依頼の最中でしたっけ。
「…とりあえず、まずは依頼完了の報告でもして、それから話しませんか?」
「そうだな」
そして私達は、依頼の報告のため、この場を後にした。
報告が終わり、ちょうど昼頃だったのでついでに昼飯も済ませ、俺達は、
「さぁアヤト!ここ!ここに入りましょう!」
「…うん。分かった。分かったから少し落ち着こう、な?」
買い物に来ていた。
店は…内装を見る限り、アクセサリー店、かな。
これはヘアピン、か?こっちはベルトか。
実に幅広い物が売られている店である。
「今回、アヤトにどんな小物が似合うのか選ぼうと思いまして、昨日の内にこの店を見つけておいたのです!」
「お、おお。なんかすまんな」
そこまで張り切らなくても…。
幼稚園の時、段ボールの腕輪でも嬉しかったくらいだし。
最近だと…ないな。
そもそも、自分の誕生日もだんだん思いだせなくなってきているし。
ま、別にいいんだけどさ。
「それでですね。今回は片っ端からアヤトに実際に全部つけてほしいのです!」
「全部って、全部!?」
おい!?
ここにある品だけでも五十はあるぞ!?
そりゃ、服を実際に五十着試着するよりはましだと思うけどさ…。
「わ、分かったよ…」
「それじゃ、まずはこれからお願いしますね?」
だってさ。
あんなキラキラした顔で言われたら、ね?
分かるでしょ?
ま、本人の俺が一番分からない訳なのだが。
世の中って理不尽だなぁ…。
そんなことを考えながら、俺はクリムの指示に従い、無心で行動した。
…。
……。
………。
「…アヤト。顔が死んでいますけど、大丈夫ですか?」
「…死んでいない。だから大丈夫…」
あれから長い時間、アクセサリー、そしてついでと言わんばかりに多くの服を試着させられ、俺の精神はすり減り、後は燃え尽きるだけである。
「これでようやく、アヤトに似合うアクセサリーが買えたのですが…」
「…ふふ。やったぜ。後は、死ぬだけだ」
「…何をやっているのです?さ、次の店に行きますよ?」
「ええ!?」
ちなみに今、俺のために、近くにあったベンチに座り休憩中である。
は~。
座ることって、何て幸せなのだろう。
そう思えるほど、女性との買い物は疲れるのである。
ある意味では、リーフとの超ハードトレーニングといい勝負だ。
「…なんでそんなに驚いているのですか?まだ買い物は終わっていませんよ?」
「そ、そんな馬鹿な!?」
もうアクセサリーは買ったはず!
それなのに、何故!??
「…そんなこの世が終わったかのような顔をしなくても…」
「だって、ねぇ?」
あんな地獄の業火に焼かれるより辛く長いひと時をまた味わえだなんて!
「それに、次はアヤトの番です!」
「は?俺の、番?」
何の番だ?
掃除当番か?
それとも給食当番?
「次はアヤトが!私に似合うアクセサリーを選んでください!」
「な、なんだとぅ!?」
こうして俺は、最重要ミッションを強制的に受けることになった。
…まじでどうしよう?
場所はまたあの小物売り店。
さっきまでは、俺がクリムに贈られる側だった。
だが、最重要ミッションにより、今度は俺がクリムに贈らなければならないのだ。
クリムに一番ふさわしい何かを!
これはプレッシャーがかかる。
そして何より、
「…ふふ♪楽しみです。アヤトが私のために贈り物を選んでくれているなんて…」
と、クリムが物凄く楽しみにしているのだ。
これでもし、クリムの期待を裏切ってしまうと、
「…何ですかこれは?ふざけているのですか?」
と、マジ切れされながら説教されること間違いなしだろう。
そんなことは絶対に避けたい!
というわけで、さっそくアクセサリーを拝見してみるが、
「…女の子ってどれが喜ぶんだ?」
そういえば、女の子の今の流行とか、クリムの好きな物とか、ほとんど知らない。
考えてみれば、会って数か月の男に何を期待しているのだろうか?
ましてや俺は、地球でも最底辺の下を這いつくばっていた男だぞ!?
女の子との接点はもちろん、男の子との接点もなかっとというのに。
…ここはヒントを得よう。
具体的には、
「…クリムはどんなアクセサリーが好きなんだ?」
本人に直接聞く。
これが一番いいだろう。
これで参考程度には、
「私はアヤトが選んだものなら何でも♪」
と返される。
…最悪なパターンだ。
これで結局、自分一人で答えを出さなくてはならない。
さて、どうするか?
いっそのこと、ルーレットで決めるか?
「…♪」
…やっぱやめよう。
あんな楽しそうなクリムを見たら、なんか申し訳ないし。
ここはボッチの実力を見せてやるとしよう!
困った。
開始早々五分でもう降参だ。
やはり、万年ボッチ道を歩んできた俺にとって、リア充イベントの一つ、彼女へのプレゼント選びなんて、到底無理だったんだ!
ま、クリムは彼女でも何でもないのですけど。
だが、候補は一つある。
あるのはあるのだが…これでいいのだろうか?
これで本当に喜んでくれるのだろうか?
それを考えると、別の物の方がいい気がする。
だがな~。
これ以上の品を、今の俺に見つけることが出来るのかと考えると、無理だ。
だったらこれでいいんじゃ、と思うかもしれないが、ほんとにこれでいいのだろうかと葛藤してしまう。
だが、これ以上のいい品を見つけられる品が…。
思考が完全にループしながらも、俺は懸命に考える。
クリムに似合うアクセサリーを見つけるために。
「だ、大丈夫ですか?」
「大丈夫だ、大丈夫だ、大丈夫だ、大丈夫だ…」
俺は一品一品、睨み付けるように商品を観察する。
これは…カーブが気に入らない。
これは…なんか色が荒んでいるな。
これは…。
「あ、アヤト?」
「これは…ん?なんだ?」
俺は一生懸命選んでいる最中なのだぞ。
ここで声をかけられたら、集中力が乱れてしまうではないか。
「あ、あの。そんなにこだわりがあるのなら、いっそ自分で作ってしまわれたら、なんて」
「それだ!!!」
そうだよ!
昨日、ルリにも自作のブレスレットを贈ったのに、なんでこんな簡単なことに気づかなかったんだ!
「え!??」
「よし!そうと分かったら今すぐ作ろう!行くぞ、クリム!」
「あ!ま、待ってください!ちゃんと自分一人で歩けますから!」
こうして俺は、クリムを引っ張って、あの別荘に走って戻る。
そして俺とクリムは別荘に戻り、魔銀をアクセサリーに加工するための準備を始めていた。
といっても、緑魔法で土台を形成し、雑菌消毒するくらいなのだが。
「ではこれから、三分クッキングを始めます!」
聞いたことあるようなメロディーを口ずさむ。
「…何言っているのですか?さっさと始めてください」
怒られてしまった。
でも、この最初のノリって大切だと思う。
理由は特にないが。
さて、
「それではこの魔銀を…」
俺はとある形をイメージしながら、魔銀の形を変える。
あの形だぞ、あの形。
「はぁぁぁ!!」
ピカー!
「きゃあ!??」
クリムのかわいい悲鳴を無視し、俺はそのまま魔力を注ぎ、魔銀をあの形にさせる。
…。
光が収まり、俺の手元には、
「!うっし!!」
俺は思い通りの形に形成出来たので、ついガッツポーズをとってしまう。
「それは?」
「ああ。これはベルトだ」
「ベルト、ですか」
「そ」
ベルトなら、男女問わず使う人は多いだろう。
そう考えた俺は、魔銀でベルトを作ったわけだ。
そういえば、女性はファッションにベルトを用いるのだろうか。
…。
ま、贈っておいて損はないよね。
だが、これで完成ではない。
「【付与・伸縮自在・不壊】!」
魔力を湯水のように注ぎ、作り立てのベルトに【付与】を施す。
・・・。
よし!成功だ!
「はい」
「…あの。なんか顔色が優れないようですが…?」
「ん?まぁ、大丈夫だ」
ちょっと魔力が不足しているかもしれないが、こういう時くらい見栄を張りたいものだ。
男だもの。
「はい」
俺はクリムにベルトを渡す。
「ありがとうございます」
「こっちこそ…」
俺は贈られたアクセサリーをクリムに見せながら、
「これ、ありがとな」
お礼を述べる。
「はい!」
その笑顔は太陽みたいに眩しかった。
【アンバタの森】。
ここで冒険者パーティー、【青牙】が調査を行っていた。
本来なら、口笛を吹きながら遠足気分で終わらせられるほどの簡単なクエストである。
だが今回、異常な事態に陥っていた。
「くそぉ!なんでこいつらがこんなところに!」
リーダー格の男、ガックが叫ぶ。
「そんなことぼやいていないで、あなたは相手の注意を引き付けて!私が魔法の準備をするから!」
「分かった」
と、ローブを着た女性、マーリがガックに指示を送る。
「なんで!なんでこんなところに…!」
「そんなこと言っている暇があるなら逃げる方法でも考えなさい!」
「だって!」
と、泣いている男、ダンは相手を指さし、
「あんなたくさんの牛人達に、真っ向から勝てるわけねぇだろうが!」
そう。
【青牙】は今、牛人達と戦闘していた。
その数は三桁に届くほどである。
「そんなの!私だって分かっているわよ!でも、今ここで戦わなかったら、私達は確実に死ぬよ」
「でも!」
「いざとなれば、あいつがギルドに知らせてくれているから、大丈夫よ」
「…そうだ。今の俺達に出来ることは、こいつらを足止めすることだけだ」
「マーリ、ガック。…分かった。俺、やるよ!最後まで、足掻いて見せる!」
「ふ。それでこそ、ダンだよな」
「そうね。それじゃ、最後まで行くわよ!」
「「おお!!」」
そして、三人は激闘の末、体を冷たくした。
だが、【青牙】の残りの一人、クットルは
「…急がなきゃ。絶対にこのことを伝えなくては!」
青の国の王都へと向かう。
これまで見てきたもの、起きようとしていることを伝えるため。
「このままだと、あの王都が無くなってしまう!」
そんな危機感を持って、体力が続く限り、走り続ける。
今週の投稿はこれで終了したいと思います。
続きはまた来週、ということで。
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