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色を司りし者  作者: 彩 豊
第三章 表面化で蠢く浅葱色の陰謀
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2-3-4(第129話) ”埋め合わせ”1日目 ~ルリ編~

今週も投稿していきます。

 埋め合わせ一日目。

「えへへ。今日はルリの番だよー!」

 とのことだ。

 ちなみに、それ以外の人達は全員、あの王都で時間を潰しているらしい。

 …もしかして、時間潰しに最適な娯楽でもあるのだろうか?

 是非、体験したい!

「…えっと、今日は何をするんだ?」

 正直、埋め合わせに何をしようかまったく考えていない。

 ぶっちゃけ、ここでルリに無茶ぶりされる覚悟もある!

 そして、それを断るために全力で土下座謝罪する覚悟もある!

 さぁ、どんな無茶ぶりをしてくるのか!?

「別に特別なことはしなくていいよ。ただ一緒にいてくれればいいよ」

 だった。

 なん、だと!?

 あのルリが、あの能天気でなにしでかすか分かったものじゃないあのルリが、何もしなくていい、だと!?

「…何もそこまで驚く必要ないんじゃないかな?」

「いや、だってさ…」

 いつもなら、なにかしら無茶ぶりをかましてくるお前がそんな優しいことを言ってくるなんて…!

「だったらもっと難しい…」

「是非とも一緒にいさせてもらいます!」

 俺は喜んでルリの提案を受け入れ、ルリの隣に座る。

 すると、

「えへへー♪」

 と、ルリが俺の膝に頭をのせる。

(ま、これぐらいで文句言うのもな)

 と思い、俺はルリの行動を受け入れ、俺もゆったりし始めた。


 俺とルリがゆったりと過ごしている間、俺も暇だったので、

「…お兄ちゃん?何しているの?」

「ん?ちょっとな」

 あれから折れてしまった、魔銀製の剣を作っていた。

 ま、魔銀を魔法で、俺のイメージした形に形成するだけだけど。

 鍛冶のやり方なんて知らないので、適当に魔銀を溶かし、剣の形に形成する。

 なお、これらの工程は全て空中で行っているので、火花が飛び散る心配もさほどない。

「よし!こんなものかな?」

 出来た剣を見てみる。

 …うん。前よりずっと形が滑らかでいい出来だと思う。

 自画自賛だが、これぐらいは許してほしい。

 これくらいしか、俺にいいところなんて無いのだから。

 …なんか自分で言っていて悲しくなるな。

「…ねぇ?」

「ん?」

「そんなに剣作ってどうするの?」

「ああ。何本かは予備として取っておくけど、残りは魔力池にしておくよ」

「ふーん…」

 あ。そういえば、

「ルリ、そういえばあれ、使ったか?」

「あ!ご、ごめん。いくつか使っちゃった…」

「いや。別にいいよ。元をたどれば全部お前の物なんだからな。それじゃあ、あれをこっちによこしてくれ」

「うん…」

 ルリが俺に渡してきたのは、俺がかつて作ったアイテムボックスである。

 俺は、ルリにもしものことがあったら困るので、ルリにアイテムボックスを渡しておいたのだ。

 だが、俺が今持っているボックス型ではなく、簡単に付けられるポーチ型に改良したのだ。

 ま、簡単に付けるといっても、俺の白魔法でアイテムボックスに【接着】を付与し、ルリにくっつけただけなんですけど。これを外すには、俺が付与を解除するしかないのだ。なので、俺は解除した後、ルリから手渡しでアイテムボックスを受け取る。

 というか、ポーチ型のアイテムボックスだから、名づけるならアイテムポーチだよな?

 …ま、そんなことはどうでもいいか。

 俺はポーチ型のアイテムボックス改め、アイテムポーチに入っているもの全てを出す。

 …確かに、魔力池が結構減っているな。

 これは今作ったやつを補充しておこう。

 後は…瓶?

 何の瓶だ、これ?

 それに、この瓶の中に小さな物が入っているな。

 これって…?

「なぁルリ。この瓶は何?」

「ん?その瓶は思い出なの」

「思い出?」

「そ。この湖の近くで拾った砂を入れてあるの」

「…なんでそんな物を?」

 俺だったら、そこいらにある砂なんて見向きもしないといのに。

「私ってさ、お兄ちゃん達と比べると、思い出がまったくないの。いつ生まれたとか、何していたとか、まったく思い出せないの。だから、今だけでもこうして楽しい思い出を形に残しておこうと思って、ね?ちょっと安易だったかな?」

 と、乾いた笑みをこぼすルリ。

 俺はそれを見て、

「・・・」

 何も言えなくなってしまった。

 いや、何も反応できなくなった、と言った方がいいのか。

 いつもニコニコ笑っているルリが見せた悲しげな笑み。

 俺はその笑顔がいやだった。

 個人的なわがままかもしれない。

 だが、ルリにはいつもニコニコしてほしい。

 そう思い、俺は行動に移す。

「なぁルリ?これから作りたい物があるけど、一緒に作らないか?」

「ん?何を?」

「アクセサリーをさ」

 そう言って、俺は魔銀を一つ取り出す。

 さ、これから始めましょうか。


 俺達二人は外に出て、緑魔法で作業台を形成し、そこに魔銀を置く。

 さて、これからこいつをどう調理しようかね…。

「お兄ちゃん。ほんとにそれ、食べるの?」

「おい。いつからそんな話になったんだ?」

 食うわけないだろ!

 まったく。俺をどこぞの食いしん坊といっしょにするんじゃない!

「それじゃ、やります、か!」

 そして俺は、魔銀に魔法をかけ、柔らかくしていく。

 そして、

「…とりあえず、これでいいかな」

 長方形に成形した後、

「さ、これに絵を描いてくれ」

「え?」

「え?」

 俺、なんかおかしなこと言ったのか?

 …もしかしたら、いきなり絵を描けと言われても自信がないとか、どんな絵を描けばいいのか分からないのだろう。

「突然こんなことを言って悪い。まずは下書きをしてから、こっちの魔銀にその絵を写すから」

「え?絵を描くの?でも、どんな絵を描けば…?」

「別に、お前が描きたいように描けばいいさ」

 とは言ったものの、そんな漠然とした返しをしたところで、絵を描く当の本人は納得いかないだろう。

「そうだな…。例えば、お前と一緒にいる蛇の絵を描く、とかどうだ?」

「蛇の絵を?」

「そ」

 何度も見ているだろうし、描きやすいモチーフだと思うのだが、違うのか?

「…分かった。描いてみる」

 俺は、ルリの絵描き姿を黙って見続けていた。


 あれから数十分経過し、

「出来た!これだよ、これ!!」

 どうやら納得のいく絵が描けたようだな。

 さて、ルリが描いた絵を拝見、と…。

 これは蛇と…、剣?

 蛇は分かるが、何故に剣?

「ルリ。この絵は一体…?」

「え?私とお兄ちゃんのイメージを絵で描いてみたんだ!どう?」

 俺のイメージって剣、なんだ。

 俺ってそんなに剣、持っていたかな。

「あ。ちなみにこれは包丁だよ?」

 剣じゃなかったのかよ!

 いや、剣にしては刃の面積が大きいな~、とは思ったけど、まさか剣じゃなかったとは…。

 せめて、サーベルとかにしてもらいたかったな。

 だが、ここで俺がケチをつけるのもどうかと思うので、心の中に留めて置き、

「それじゃ、この絵をこの魔銀に写すぞ」

「うん!」

 俺は白魔法で、絵だけをコピー、そして、長方形に形成した魔銀にその絵を写す。

 よし!

 後はこの絵を、

「【付与】!」

 そして、

「…よし。こんなところ、かな」

「す、すごーい!ルリの描いた絵が写っている!」

 なんとか成功した。

 よかった。

 これで失敗したらたまったものではないからな。

 後は、

「はぁ~…」

 これをあの形に合わせて…!

「【付与・伸縮自在・不壊】!」

 しっかりと【付与】をしておく。

「よし!成功だ!」

「…お兄ちゃん。それ、どうするの?」

「ん?これか?」

 そう言って、ルリは出来上がったアクセサリーを指さす。

 出来たアクセサリーは底がない円筒状の物だ。

 側面には、ルリが描いた絵が見える。

 ま、蛇と包丁なんですけど…。

「さぁルリお嬢様?これをどちらの腕につけましょうか?」

 俺は執事風に聞いてみる。

 こっちの方がなんとなくだが、いい気がする。

「…急にどうしたの?」

「…なんでもない」

 …なんてことはなかった。

 俺の幻想だった。

「と、とにかく!これは、俺がお前に渡すブレスレットなの!だから、どっちにつけてもらいたいか聞いたんだけど…」

 竜頭蛇尾の様に、だんだん声が小さくなっていく俺。

 なんか急に恥ずかしくなってきた…。

「それじゃあ、右腕で…」

「あ、うん…」

 と、だんだん空気が重くなっていくなか、俺はルリにブレスレットをつける。

 …うん。

 これで大丈夫かな。

 そうしたら、ルリの目にだんだん生気?のようなものが戻り始め、

「…うれしい。すごく、すごく嬉しいよ、お兄ちゃん!」

 と、ピョンピョン飛び始めるルリ。

 どうやら、今になって実感が湧いてきたようだ。

 良かった。

 これで、

“え?こんなものを付けるの?超恥ずかしんですけど(笑)”

 なんて言われてしまったら、新たなトラウマが生まれるところだった。

 さて、

「俺はこっちに、と」

 と、もう一つのブレスレットを左腕につける。

 …こんなもの、かな?

 地球にいた時も、あんまりアクセサリーとか付けてこなかったから、実感が湧かない。

 でもまぁ、こんなものだろ。

「…それってもしかして、お揃い?」

「ああ」

 俺はルリに見せつけるようにして、

「これで、俺とルリの思い出が一つ増えたな」

「うん!」

 この後、家にあったご飯で昼を済ませ、またものんびりと過ごす。

 ルリは終始、俺がプレゼントしたブレスレットを嬉々として見ていた。

 あ、そういえばあのこと伝えなくちゃな。

「…ルリ。そのブレスレットにはいくつか機能がある」

「んー?何のー?」

「…それは、お前が持っているアイテムポーチと同じ『収納』を付与して、アイテムポーチに収納していた物全部を、そのブレスレットに移したんだ」

「…それって、このアイテムポーチはもう捨てろってこと?」

 瞬間、ルリの声が低くなる。

 しまった。

 言い方を間違えたか。

「それは違う。そのポーチはただのポーチになっただけだ。別に今すぐ捨てろなんて言っていない」

「そう?ならよかった♪」

 と、ポーチに頬をスリスリしながら言う。

「…そうまでして、そのポーチが大事か?」

 そう優しく聞く。

 今度は聞き方を間違えないように。

「…うん。だってこれ、お兄ちゃんからもらった大切な物だから」

 と、俺の目を見て言った。

 …俺自身、そこまで大切に使わなくてもいいと思っている。

 壊れたらしょうがないし、そこまで丹精込めて作ったわけではない。

 言うなれば、ゲーム感覚で作ったものだ。

 だから、そこまで言われると、逆に照れくさくなる。

「…そうか」

「うん!」

 だから、こんな素っ気ない返ししか出来なかった。

 …なんか、俺なんかにこんな素敵な笑顔を向けられるのは悪くない。

 地球ではボッチだったためか、同年代の人から笑顔を向けられたことなんて片手で数えられる程度しかなかったな。

 ま、ルリはどちらかというと年下、だけどな。

「…お兄ちゃん」

「ん?」

「お姉ちゃん達から聞いたよ。あの黒いの、かなり強いって。怪我とか、なかった?」

「…特にはなかったぞ」

 俺はこの時、嘘をついた。

 ほんとは手いっぱいだった。

 かなりピンチだったし、ルリ達が来なかったら、俺は今頃…。

 だが、そのことを馬鹿正直に言いたくない。

 俺はこれでも、ルリの兄(仮)だからな。

 少しでも見栄を張りたいのだ。

 …兄ってこういうもの、なのだろうか。

 兄弟に恵まれなかった俺には分からない。

 ま、別に恵まれても困ったと思うけど。

 家族とすら…。

「お兄ちゃんさ。嘘つくとき、必ずそっぽ向くんだよ?知らなかった?」

「…な、何のことだか分からないな」

 嘘である。

 多分、ルリは気づいたのだろう。

 俺が嘘をついたことに。

「…ルリはね、ほんとはすっごく心配だったんだよ?もしかしたら、兄ちゃんがルリの前からいなくなるんじゃないかって」

「…」

「それでも、ルリはお兄ちゃんを信じて、あの場に駆け付けたよ。そして、生きているお兄ちゃんを見て、嬉しかった」

「…」

 俺はルリの話に耳を傾ける。

「だからね。お兄ちゃんはもう、ルリの前からいなくならないで…」

 ルリの顔を見なくても分かる。

 いくら鈍感な俺でも分かる。

 ルリに寂しい思いをさせていたことが。

 だが、安易に約束は出来ない。

 俺は馬鹿だし、忘れっぽいから、いつルリの約束を破ってしまうのか心配だし、絶対なんて出来ない。

 それでも、

「…できる限り、な」

「…うん」

 俺はルリの頭を自分の胸に引き寄せ、頭を撫でる。

「こんな不器用な俺が兄でごめんな」

 本当なら、俺より優れた男なんて五億といるだろう。

 現に、俺がこの世界で出会ってきた男達はみな、イケメンで金持ちっぽかったし。

 地球での俺は…ゴミだな。

 うん。

「ううん。お兄ちゃんがお兄ちゃんでルリ、最高だよ?」

「そうか」

 嘘でも嬉しいものだ。

 俺達はお互いの中を深め合った。

 …もちろん、エッチなことは一切しておりません。

 したら捕まりそうだし。

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