2-3-3(第128話) 忘れてくれなかった”埋め合わせ”
今日の夜、風呂から出て、ソファーで寝ようとリビングに行ったら、
「あれ?なんでみんながいるの?」
俺は今日からソファーで寝るつもりだったのに。
もう、あんな不眠な夜は過ごしたくない。
色々我慢できなくなるからな。
ま、女の子とこうして共同生活しているだけで色々と溜まるのだが。
「…今日のこと、ラピスから話聞いた」
「その、私達にも多少の非があった事、ここに詫びます」
「すいません。早とちりした上に勘違いしてしまって」
三人がぺこりと謝る。
良かった。
誤解は解けた、のか?
そもそもあの状況を、三人はどう誤解したのだろうか。
まぁいい。
これで俺の埋め合わせも考える必要もなくなったことだし。
「そうか。それじゃ、お休み」
そう言って、俺はソファーに寝転ぶ。
このソファー、相変わらずすさまじいフカフカ感だ。
俺の意識を奪い取ろうとする。
はぁ、おやす…、
「待って下さい」
「そうです。今日も一緒に寝ましょうよ」
「…ん」
出来なかった。
なん、だと!??
あの状況をもう一度味わえ、だと!??
こうなったら、
「スー。ピー」
俺は狸寝入りを実行する。
ふっ。こうなれば、諦めて寝てくれるだろう。
さぁ、俺をここに残し、さっさと寝室に行くがいい!
…ちょっとテンションが高い気がするが、気のせいだろう。
「あ。お兄ちゃん、なんで狸寝入りなんてしているの?こんなこところで寝ていないで、さっさと寝室にいって、みんなで寝ようよ~♪」
「「「「んなぁ!!!!????」」」」
あ、やっば!!
思わず声が出ちまった。
くそ~。
ルリのやつ、狙ったんじゃないだろうな。
「…今、声が多くなかった?」
「え?それじゃ、アヤトが起きているってこと?」
みんなの視線が俺に集まる。
もちろん俺は、
「スー。ピー」
引き続き、狸寝入りを実行する。
どうか、この見事な狸寝入りに騙されて欲しい。
「…ちょっと、試してみましょう」
ん?
リーフ、試すって一体何を…?
瞬間、
ビュン!
「危ね!」
ズドン!
俺がさきほどまでいた場所に、大きなくぼみが出来る。
おそらく、リーフがやったのだろう。
「「「・・・」」」
「ほらね♪」
避けることは出来ても、俺の説教は避けられなかったのか。
だが、ここで諦める俺ではない。
俺は、
「スー。ピー」
立ったまま狸寝入りを始める。
確か、立ったまま眠れる人もいるというのだから、これでも騙せるはず!
「「「そんなので騙せると思う???」」」
「…」
そうですよねー。
無理ですよねー。
俺は諦めて目を開け、
「だって、みんなと寝るの、恥ずかしいんだもん!みんなもそうだろ!?」
と、駄々っ子の様に言い訳する。
そして、その言い訳に俯く三人。
心当たりがあるのだろう。
ふっ。このまま泣き寝入りして、さっさと寝室に行き、俺を除いたみんなで寝るがいい!
「「「べ、べっつにー???」」」
と、明らかに動揺しながらも、そんな嘘をつく三人。
俺はそこを見逃さない。
「嘘だ!俺と一緒に寝るの、恥ずかしいだろ!??」
「「「そんなことありません!!!」」」
と、大きな声で返す三人。
「し、将来の予行練習だと思えば…」
「な、何事も鍛錬ですし…」
「…ふ、夫婦は寝床を共にするもの。だから恥ずかしくない…」
と、俺に聞こえるようで聞こえない声量で三人はつぶやく。
なんて言っているのかよく聞こえない…。
「…分かった。今日は俺が折れるよ」
「「「!!?よし!!!」」」
…一体、何がよいのか聞きたい。
だが、俺にはそんなことを聞く余裕もなく。
(ああ。今日も眠れない夜を過ごすのか…)
と、俺は力なく肩を落とす。
「ねーねー?お兄ちゃん達は何をしているの?早く一緒に寝ようよ~?」
「「「はい!!!」」」
ルリを含めた四人は嬉しそうに寝室に向かう。
「…ご主人様?だ丈夫ですか?お顔が優れないようにお見受けすますが…?」
「いや、なんでもないからな。クロミルはどうする気だ?」
「?もちろん、ご主人様と寝床を共に致します」
(ですよねー)
俺は諦めて一緒のベッドで寝る。
…もちろん、やましいことは一切行っていない。
行っていないのだが、
(この空気といい、この状況といい、今の俺に耐えられるのか?)
ベッドの上が、幸せな地獄と化していた。
ああ。早く朝が訪れないかな。
「…ん?ふ。ふわぁ~。よく寝た~」
伸びをしながらゆっくり起きる。
なんか、今日はとても調子がいい。
体が軽い。
ウキウキ気分でスキップしたいくらいだ。
ま、恥ずかしいからしないけど。
ところで、
「みんなはどこだ?」
俺は巨大ベッドの周りを見る。
だが、誰もいない。
…あれ?何でだ?
「あ!お兄ちゃん!やっと起きたの!?遅いよ~♪」
と、ルリは俺によって来る。
遅い?
どういうことだ?今は朝じゃないのか?
「…もう夕方」
「え?」
イブの発言に、俺は慌てて寝室を出て、外を確認する。
「ま、まじか~」
やはりイブの言っていた通り、夕方だった。
最初は、俺が早く起きすぎて早朝なのでは?なんて思ったが、早朝の空はこんなオレンジ色ではないだろう。
「あ。やっと起きましたか。今日も日光浴、楽しかったですよ?」
「遅いよアヤト!今日は久々の鍛錬でしたのに!」
リーフ、クリムも俺より早く起き、それぞれ有意義な休日を過ごしていたようだ。
…何で俺、夕方までぐっすり寝ていたのだろうか?
あ。もしかして、一晩中、魔法を使い続けたからか。
だったらしょうがないな、うん。
それに、みんなもこの休日を楽しんでいるみたいで良かった、良かった。
「…ご主人様。それでですね。“埋め合わせ”についてのご相談なのですが、よろしいでしょうか?」
「埋め合わせ?」
何の話だ?
…あ。もしかして、先日言っていた、あれか?
「でもあれって、無かったことになっていたのでは…?」
「「「あ???」」」
「…いえ、是非聞きましょう」
もうね、あの三人の顔!
あんな顔で終始、睨まれたくないからね。
「…その“埋め合わせ”に、私達も参戦してもいいのでしょうか?」
「…達って誰と誰のことだ?」
「ルリのことだよー。ちょっとお兄ちゃんと話がしたくてね」
もしかして、埋め合わせって、お話しのことなのか。
だったら、後一人か二人増えたところでたいして変わらないかな。
「…ま、別にいいよ」
「ありがとうございます」
「うし!」
そんなにガッツポーズするほどなのか?
「それじゃ、明日からお願いいたします」
ん?明日、から…?
え?
「ちょっと待て。埋め合わせって、すぐ終わるものじゃないのか?」
「?いえ?一日かけて一人の埋め合わせをするので、計五日、ですね」
ん?んん!??
なんか、色々と話がおかしい。
埋め合わせって、一日かけるものなのか?
話だけなら十分ちょいで終わるものじゃないのか?
「それでは、私達はお風呂に入ってきますので、お先に失礼します」
「「「「それじゃ」」」」
「…ああ」
力ない返事を返す俺。
さて、明日からどうしよう?
そんな不安を残しながら、夜を過ごした。
今週の投稿はこれで終了したいと思います。
明日から12月、ということで、『小さな会社員の学校生活』を更新したいと思います。
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