2-3-2(第127話) ラピスから予想外の提案
今週も投稿します。
「何でって、もしかして聞いていないの?」
「?誰からだ?」
「みんなから」
みんな、だと…!?
まさか、
「…もしかして、俺以外の全員は知っているのか?」
「うん。確か、三、四日前に話したかな?覚えていない?」
三、四日前か。
確か、あの時の傷も十分に癒えはじめ、寝転びながら過ごす自堕落な生活を楽しんでいた時だ。
その時は、誰も俺のテントに近づかないように言っていたっけ?
だから俺だけ知らなかったのね。
…ここにきて、またボッチによる弊害が…。
「…覚えていないな。そこから頼む」
「分かった。それじゃあ話すね」
こうして、ラピスは話し始める。
「僕はもう一生、女として過ごさなくちゃいけないんだ」
「は?え?でも、だって…」
あのカイーガが教わった方法でこの国の洗脳を解いたんだぞ?
そういえば、その魔法を解いた時も、ラピスは女のままだったな。
「…これはあくまで推測なんだけど、魔法を発動させる順番に原因があったんじゃないかって。カイーガさんが教えてくれたんだ」
「魔法を発動させる順番って?」
「おそらく、私の性転換の魔法を掛けてから、あの洗脳の魔法を掛けたのではないか。だから…」
「洗脳の魔法を解いても無駄、というわけってことか?」
「うん…」
「「…」」
き、気まずい…。
こういう時は、話題を変えないとな!
「そ、そういえば、カイーガのやつはどうしたんだ?」
「カイーガさん、ですか?」
「ああ」
そういえば、俺が療養中、いったい何をしていたのだろうか。
まさか、俺と同じ…。
「カイーガさんはギルドへ事情を話に行き、ギルドのシステムをギルドマスターの方と再検討しているとのことです。他にも、青の国の貴族達にも軽く話を通しているとか、多忙の日々を過ごしていますよ」
ま、そうだよね。
俺と同じ怠け者のわけないよね。
あの人、なんかイケメンだし、仕事できそうだし。
…なんか、異世界の男の人って、イケメン、多過ぎない?
俺なんかフツメン以下で、常に最底辺の住人だったというのに。
あ、こんな性格だから駄目なのか。
…いいんだ。どうせ俺なんて…。
「あの、大丈夫ですか?」
「…ん?あ、大丈夫だ、うん」
ちょっと、この世の理不尽を嘆いたところだ。
天は我に二物どころか何も与えなかったのか。
「…目がすわって見えるのは僕の気のせいなの?」
「…気のせいだ」
「「…」」
ま、またもや気まずい空気が…。
「…あのさ」
「ん?」
急にラピスが口を開く。
「ぼ、僕!どうせ一生女として生きていくのだしさ!この際、女としての心構えとか、教えてもらおうかなって…」
…正直、どうでもいい。
そんな覚悟を口にされても困るレベルだ。
「…誰に?」
「アヤトさんに」
「は?」
なんで、ここで俺が出てくるんだ?
俺は女装趣味もないし、ましてや、女になった記憶もない。
以上の事から導き出される結論は、
「…馬鹿にしているのか?」
「!??違うよ、違う!」
何が違うというのだ。
俺をラピスと同類、つまり、俺には女装癖があると思っての発言だろうが。
ふざけやがって。
「それじゃあどういう意味だ?納得いく説明をしてもらおうか?」
「うん。その、イブさんやクリムさん、リーフさんもその、綺麗じゃん?」
「…まぁ少なくともお前よりはな」
これは本心だ。
確かに三人とも、女の子らしいかと言われれば…微妙だろう。
だが、長いこと一緒にいると、時折、短所が長所に見えたり、何気ないしぐさにドキッとしたりする。
だが、見た目だけ言えば、ラピスも負けていない…と思う。
所作や動きも育ちのいいお嬢様感がすごく出ている。
まさに理想のお姫様、と言ったところだろう。
だが、中身がなぁ…。
「…ねぇ?元男とは言え、今の僕は女の子なんだよ?そんなこと言われたら傷つくんだけど?」
「そんなことは知らない。さっさと用件を言え」
「…それでね。みんな、恋、していると思うんだよ」
「…へぇ」
俺は若干、上ずった声で返す。
だ、誰に恋しているのかなんてどうでもいいし。
気にならないし。
気にならないし!
「だから、僕も恋、してみようかなと、思いまして…」
「…そうか。ま、お前がいいならそれでいいんじゃないか?」
こいつがやることにいちいち俺が口を挟むのもどうかと思うが、こいつの恋愛にはちょっと興味がある。
誰を好きになるのか、とか。
そして、好きになったやつをからかってやろう。
あ、そうだ。
「あの人とか、いいんじゃないか?」
「あの人?」
「ほら、え~っと、カイーガ=グラントって人!」
確か、貴族で金持っていそうだし、イケメンだし、まともだし。
まさに、彼氏にしたい人ランキングで上位に君臨できる逸材だろう。
だが、ラピスの顔色は優れない。
というより、ちょっと悪くなった気が…?
「…あの人、もう子持ちなんだよ」
「ふぁ!?」
な、なんだと!??
見た目、俺と同年代、もしくはちょっと上ぐらいだと思っていたのに…!
さすが異世界。
あんな優良物件は既に確保されていた、という訳か。
となると…、
「は!?お前まさか、不倫する気じゃ…!??」
「ち、違うよ!??もう!アヤトさんはさっきから何を言っているの!??」
「違うのか?」
俺はてっきり不倫するつもりかと思っていたのだが?
「だからね、アヤトさんに恋人役をやってもらおうかと、ね?」
と、モジモジしながら答えるラピス。
俺はというと、
「・・・」
固まっていた。
こいつの言っている事が理解出来なかった。
は?
俺がこいつと、恋人、だと?
「ぷっ」
「ああ!今笑った!なんで笑うの!??」
「なんでって、そりゃあ笑うだろ」
「だからなんで!?」
「俺とお前じゃ、色々釣り合わないからな」
「…ふ~ん」
「あれ?いつもみたいに怒らないのか?」
「いや。そっちがいつもみたいに、“お前みたいな変態と付き合えるか!”って言われると思ったから。思っていた以上にまともな返事が返ってきてちょっと感心しちゃった」
「ま、こんな変態と付き合えないのもある」
「あるのぉ!?」
「当たり前だ」
まったく。
俺は聖人じゃないからな。
多少の偏見はあるし、好き嫌いもある。
だから、仕方のないことなのだ。
多分だけど。
「…それで、釣り合わないっていうのは何?」
「…何、とは?」
「だから!何が僕と釣り合わないのか説明して!」
「説明するのは構わないが、なんでそんな切れているんだ?」
「アヤトが僕の事を変態扱いばっかするからでしょ!?」
「だってお前、変態じゃん?」
「僕は変態じゃない!ただ、昔にちょ~っと女装して、女の子になっただけだもん!」
確かに、こいつは変態じゃないかもしれないが、俺には重過ぎるよ…。
「分かった、分かった。ちゃんと説明するから。まず…、」
そして、俺は説明を始めた。
まず、俺は結婚する気は一切なく、それも一国の王女を養えるほどの財力もないという事。
そして、俺自身、お前と付き合えるほど、度胸も力もないという事。
結婚できるほど、俺はできた人間ではないという事。
そんなことを長々と話した。
結果、
「だからなんなの?」
という返しが来た。
は?
「だから、何度も言ったように、俺には魅力が一切…」
「そういうのって、周りの人が決めるのであって、本人がどうこう言っても意味ないと思うよ?」
「そ、それに、俺には今のお前らを養えるほどの財力なんて…」
「今回、アヤトさんは僕の依頼を受けて解決してくれたから、これとは別に、報酬のお金が渡されると思うよ?もちろん、大金だよ?一人の冒険者が一生かかっても稼げないほどの大金だと思うけど、そこんとこ、どうなの?」
「だ、だったら、俺には何の力も取り柄もないし…」
「先日、街を崩壊させるほどの脅威から街を救ったのはアヤトさんだよね?それに、何の取り柄も無かったら、みんなアヤトさんにあそこまで信頼しないと思うよ?」
「信頼?何のことだ?」
「あ。いや、なんでもない」
「…」
すごく怪しい。
だが、ここでこいつを追い込んで意味がないと思うのでやめておこう。
「とにかく!僕とアヤトさんが恋人ごっこするだけでもいいからさ!ね?」
「ね、と言われても、お前と…」
ゾクゥ!
!???
言い終える前に、急に俺の背中にかつて感じたことが無いほどの悪寒を感じる。
ゆっくり後ろを振り向いてみると、
「…何話しているかこっそり行ってみたら、なにやら面白い話をしていますね、アヤト?」
「ヒィ!???」
ラピスは全身震えだし、使い物にならない。
こうなったら、一刻も早く、
「逃げな…!」
ガシ。
急に、俺の肩に圧力がかかる。
まさか、
「ふふふ。急にどうしたのですか、アヤト?」
「…話の続きでも何でもしていたらいい」
もう、遅かったのか。
そこには、三人の阿修羅がいた。
俺とラピスはその阿修羅に捕まり。
「さぁ、どうしたのですか?早く話の続きをしてください」
「恋人ごっこ、でしたっけ?」
「…ふふふ」
「「…」」
俺ら二人は精神的拷問を受けていた。
この場ですることはただ一つ、
「後で埋め合わせは絶対に致しますので、どうか暴力沙汰は勘弁してください!」
土下座である。
土下座をすれば、ある程度のことは許される、と信じたい。
さぁ、俺の土下座謝罪にどう出る!??
「「「埋め合わせって???」」」
三人とも、俺の言った“埋め合わせ”の方に興味があったらしく、俺の土下座謝罪が意味を成していなかった。
俺の土下座って…。
だが、これはこれでチャンス!
「はい!必ず皆様の満足のいく埋め合わせをしたいと思います!」
俺は土下座しながら言う。
そして、三人の話声が聞こえた後、
「「「分かった。今回はそれで許す」」」
阿修羅は去った。
あれ?
よく考えたら、俺、悪いことしていなくね?
なんで俺、怒られていたんだ?
「おいラピス。なんで俺は…」
と、ラピスの方を向くがラピスはいなかった。
「あ!助けてアヤ…!」
三人がラピスを連れ去っていった。
何かありそうだが、頑張れ!
俺はラピスにエールを送り、
「さて、どんな埋め合わせをすべきなのだろうか?」
正直、俺にはまったく非が無いと思うのだが、言ってしまったものはしょうがない。
どんな埋め合わせをするか考えないと。
俺はそんなことを考えながら、今日の休日を過ごした。
最近、誤字をちょくちょく直しているのですが、思った以上に数が多くてびっくりです。
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