2-2-24(第117話) 異常な罠による戦闘 VSカオーガ
場所は王都、コンバールの王城の玉座。
時間はアヤト達が別の空間に飛ばされた直後まで遡る。
そこでは、二人の男が剣を合わせていた。
「おらおらおら!」
「くっ!」
「どうしたぁ!?その程度か!?なさけねぇなぁおい!」
今優勢なのはカオーガ=グラント。
弟、カイーガ=グラントを剣技で圧倒していた。
「…兄さん。どうしてそこまで…」
「貴様には一生わからなねぇよ!」
ここで、カオーガはカイーガに氷の塊を大量に精製する。
そして、
「どうせここで死ぬんだからな!!」
大量の氷の塊が、カイーガを襲う。
カイーガはそれら全て剣で受け流そうとするが、
ドン!
「ぐ…」
受け流しきれず、腹にもらってしまう。
その隙を見逃すほど、カオーガは甘くない。
続けざまに、氷の槍をカイーガに当てようと発射する。
「そのまま死ねぇ!」
一気に何本もの槍が、カイーガの体を貫かんと迫ってくる。
「うおおおぉぉぉ!」
だが、さすが弟、というべきか。
カイーガは兄の性格上、ここで必ず畳みかけるとふんでいた。
だから、慌てず騒がずに対処した。
「ちっ」
「…兄さん。兄さんの魔法ってその程度なの?情けなくない?」
「!??!!てめぇ!!」
さっき、自分が言ったっことと似たようなことを言われ、思わず逆上するカオーガ。
この兄弟の戦いは始まったばかりである。
自分、カイーガ=グラントは今、この状況をどうしようか考えていた。
事前に考えていた作戦は、兄によって滅茶苦茶。
そして戦力は分担され、兄と一対一を強いられることとなっている。
だが、今まで一度も兄に勝ったことがない。
一番良くて、不意打ちをついた引き分けだった。
それから、自分の不意打ちを警戒されて、不意打ちどころかろくに剣を当てることも出来なかった。
ピキピキピキ!
「!!???」
し、しまった!??
足元が凍らされている!??
自分がちょっと考えている隙に…!
顔を上げると、口角があがり、いやらしい笑みを浮かべた兄が、
「へっ!相変わらず貴様は変わっていないな!!」
氷の槍と塊を自分に向けて発射する。
くそ!
この状態じゃ、躱すことも出来ない!
考えた結果、
「はぁ!!」
剣で全て撃ち落とすことにした。
ガンガンガンガンガンガン!
必死に撃ち落とすことだけに専念する。
そして、
「よし!」
全て撃ち落とせた!
そんな喜びもつかの間、視線を上げると、
「え?」
さっきまでいた場所に、兄はいなかった。
「ここだよ、馬鹿が」
「は!??」
ズバン!
自分が気付いた時には、もう手遅れだった。
とっさの判断で直撃は免れたが、右手に深手を負ってしまう。
「う…」
何とか、右手を切り落とされることは避けたが、この戦いではもう使い物にならないだろう。
つまり、この左手だけで、兄を倒さなくてはならない、というわけだ。
「はっ!相変わらず貴様は大馬鹿のようだな、カイーガ!」
そう。
自分には癖、というか苦手な事がある。
それは、一つの物事に集中出来ない、というものだ。
その癖のせいで、兄と模擬試合の最中でも空の様子が気になったり、本を読もうにも、すぐに読むことが面倒くさくなってしまったりする。
飽きっぽい、といえばいいのだろうか。
自分でもこの短所を直そうと試みるが、改善はしたものの、直るまでには至っていない。
その癖が、この戦いでも出てしまったということだ。
そして、右手が使えなくなってしまった。
本当に自分が情けない。
「おっと?また隙を見せたな?」
「!??」
瞬間、また兄が自分を切りかかろうと接近する。
ガキイイィィン!
「…ちっ。運のいいやつめ」
今のはなんとか防げたが、次はもうないだろう。
どうする?
「…ふ。もう貴様には未来なんてない!今、この場で死ね!!」
兄はさっきよりも大量の氷の槍を精製していた。
狙いは十中八九、自分だろう。
あの槍を全て受け流せるか?
右手が使えない状態では、受け流しきれずに、またあの槍をくらってしまう。
かといって、あの大量の槍を全て躱すこともかなわないだろう。
どうすれば…?
…一つ、案を思いついてしまった。
だがこれは、本当に一か八かの賭けである。
上手くいけば、自分は兄を倒せる、かもしれない。
だが、失敗すれば必ず死ぬ。
そして、この賭けが携行しようが失敗しようが、この右手は今後一生、使い物にならなくなるだろう。
どうする!?
「ほうらぁ?さっさと避けないと、死んじゃうぞぉ?」
死ぬなんてごめんだ!
私は決断した!
もう、迷わない!
自分は兄、カオーガの元へ駆け出す。
様々な思いを持って。
そして、戦況は大きく動き出す。
自分はカオーガの元へ走る。
脇目もふらずに懸命に、だ。
その様子を見て、
「おいおい。自殺したいならそう言えよ?ちゃんと殺してやるから、さ!」
兄は笑いながら、自分に向けて、大量の氷の槍を発射する。
…うん。やっぱりそう来るよね。
兄さんは知っていたかい?
本当は兄さんのこと、凄く尊敬していたんだよ?
兄さんのように、剣技も、魔法も極めたかったんだよ?
そんな兄さんをずっと見ていたからこそ、自分は…。
だから今度は、自分が誇れるような兄さんに、戻してみせる!
「うおおおぉぉぉ!!!」
自分は、自分の右腕を盾代わりに使う。
ズブズブズブズブ!!
「うう!」
何本も、自分の右腕に氷の槍が刺さる。
「おいおいおい!ほんとに頭わいてんじゃねぇのかぁ?」
右腕に激痛が走るなか、自分は兄の元へ走り続ける。
この戦いを終わらせるために。
「うおおお!!!」
自分は叫びだす。
もちろん、ただむやみに叫んでいるわけではない。
とある音を隠すためである。
「…お前はほんっと馬鹿だよな。この俺様に真正面から来るなんてな!」
と、剣を構える兄さん。
…いいんだ。むしろ、真正面からじゃないと、これをやる意味がない!
「うおおお!!!」
行くぞ、兄さん!
「どりゃ!」
と、自分はある物を兄さんに向かって投げる。
視界に出来るだけ入り続けるように。
「はぁあぁ!!???」
兄さんは驚愕し、固まった。
それは当然だよね。
だってそれは、自分、カイーガ=グラントの右腕だもの。
だからさっき、あんなに叫んでいたんだ。
自分の右腕を切り落とす、その音を隠すために。
自分は、知っていたよ。
兄さんはこういうホラーは苦手だって。
だからこの作戦にしたんだ。
自分の思った通り、兄さんは固まったまま、動かない。
今だ!
自分はさらに距離を詰め、
「うおおお!!!」
「し、しまっ…!??」
「遅い!」
これで終わりだ、兄さん!
ズバアァン!!!
「ぐわあああああ!!!」
自分は、兄さんを思いっきり横なぎに振るった。
鮮血が飛び散り、自分も返り血をもらう。
といっても、すでに右腕から血が流れているので、今更な感じはするが。
そして、この国がおかしくなった元凶、カオーガ=グラントは倒れた。
「…ふぅ!??いってて…」
息をするだけで、右腕だけでなく全身の傷が痛みだす。
(…もう、騎士としては無理かもな)
そんなことを考えていた。
(っていかん、いかん!今はこの国をなんとかしないと…!)
そうだ!
今後の自分の人生を考えるのも悪くないが、この状況を何とかしない限り、この国に未来はない。
あるのは、破滅への片道である。
なので、そこから立て直すことは出来ない。
今しか、この状況を変えることが出来ないのだ!
そのためにもカイーガは、
「まずはこれを…」
ぴくっ。
ピクピク。
瞬間、カイーガにとって、信じられない光景を目にする。
「て…、めぇ…。もう…、ゆ…、さん…!」
カオーガが目を覚ましたのだ!
そして、
「ま、まさか!??」
カオーガの右手には【魔法石】が握られていた。
カイーガの脳内にはすでに、これから起こる、最悪のビジョンが見えていた。
カイーガはその最悪の事態を阻止するため、止めにかかるが、
「!??だ、駄目だ、兄さ…!」
「も…、お…、い…」
時はすでに遅かった。
カオーガはその【魔法石】を体に取り込んだ。




