2-2-16(第109話) 異常の上を行く異常
今週も投稿しようと思います。
王都、コンバールの入り口からちょっと離れた場所に俺達は立ち止まっている。
理由は、
「…なぁ、俺の目がおかしくなっちまったみたいだ。門番の服装が全く分からないのだが?」
そう。
俺達は門番が見える場所で立ち止まっているのだが、どうにも肌色が多く見えるのだ。
俺も最近、リーフのハードトレーニングで色々疲れていたからな。目にも疲れがいっているのだろう。いやぁ~、癒しが欲しいですなぁ~。
…なんて現実逃避している場合じゃないな。
俺は改めて現実と向き合うために、門番らしき人を見てみる。
・・・うん。やっぱり全身肌色に見えるな。
【色装】を使って、視力を上昇させて見ることも考えてみたが、全裸をはっきり見ちゃうとさ、その、なんというか、ね?
色々やばそうなのでやめておこう。
とにかく、ミナハダの時は、上半身だけが裸だったのだが、どうやら王都では全裸で門番しているらしい。
…嫌だ―。
こんな町、入りたくねー。
「…イブ、もしかしたら門番、全裸かもしれないけど、どうする?」
「………この依頼、受けたくない」
「ちょっと!?僕からの依頼を放棄するつもり!??」
「確かに、門番が全裸の国というのはさすがに…」
「…ん?お兄ちゃん、あの人、下に赤いパンツ?みたいなの穿いているよー?」
「…何?」
俺は【色装】で視力を強化し、門番の股間を凝視してみる。
…確かに、赤い…パンツなのか?
あれは、
「ブーメランパンツだ」
「え?」
「あの門番、赤いブーメランパンツを穿いているぞ」
「ほら!やっぱり全裸じゃなかたんだよ!これで依頼続行してくれるよね、ねぇ!??」
「「「「…………」」」」
「なんで無言!??」
「いやだってさ、門番がパンツ一丁だけって、国としてはどうなの?」
「うっ。それは…」
「…かなりの大問題」
「うっ!」
「確かに、赤の国にもそんな人はいませんよ?」
「ぐっ!!」
「…私がいた村にも、全裸で見張りする者はいなかったかと…」
「うっうう……」
ラピスは崩れ落ち、すすり泣いていた。
…この状況、どうしよう?
「ご主人様、これからどうしますか?」
「・・・覚悟を決めるか」
「ということは…」
「ああ、行くぞ」
さぁ、まずは第一関門だ。
リーフを起こし、牛車をアイテムボックスにしまう。
そして、クロミルが用意してくれた黒いフード付きコートで顔を隠す。
見た目は不審者感満載だが、ばれるよりましだろう。
クロミルも自分の分のローブを羽織る。
…うん。特徴的な尻尾や耳が隠れているな。
さて、これで準備完了だ。
俺達は門に向かって歩き始める。
そして、
「…お?旅の者か?一応、何しに来たのか、話してもらうぞ?」
門番が話しかけてくるが、その言葉が、音が一切入ってこなかった。
何故なら、
(最初は自分の目を疑っていたけど、やっぱりパンツ一丁だったか…)
そう。
門番がパンツ一丁で堂々と俺達に話しかけてきたからだ。
…もうこの国は色々と手遅れかもしれないな。
「…なぁ?聞いていたか?この町に来た目的は何だと言っているのだが?」
「…あ、ああ。悪い。目的は、食料調達だ」
「そうか。一応、入国料として、一人千円もらうぞ?」
「あ、これ、使えますか?」
俺はミナハダでもらったパスポートのような紙を見せる。
「これは…うん。問題ない。これがあれば無料で通れるぞ。だが、なくさないようにな」
「あ、はい」
こうして、俺達全員、その紙を門番に見せ、門を通過する。
門を見事に通過し、内心、自分に拍手を送りながら、今後のことを話し合うことにした。
俺達はすぐに門から町を出た
門番から不思議な顔をされたが、適当な理由をつけて、納得させた。
「…それで、今後どうするよ?」
「どうするって言ったって、ルリ、そういうことは全然分からないよ?」
「私も残念ながらお役に立てないかと、すみません」
「…すいません。まだあの門番の姿が脳裏から離れなくて…」
「ま、いいよ。そこまで気にすることはないよ」
「す、すいません…」
さて。
となると、残りは王女組か。
「…さて、イブ達は何かいい案ないか?」
「それなら、ラピスがお世話になっている人達に助けを求める、というのはどうでしょう?」
「…ふ。さすが脳筋娘。考えることもお馬鹿」
「な、なんですって!?」
「…大体、頼れる人がこの町にいるなら、そもそもラピスはこの国から逃亡したりしない」
「うっ。それは、そうですけど…」
「…そんなことにも気付けないなんて、さすが脳筋。脳も筋肉で出来ているだけある」
「なっ!?なんですってぇーーー!!??」
「…ふっ。望むところ」
ということで、クリムとイブのキャットファイトの開始。
残るは、
「それで、ラピスは何かいい案、あるか?」
「う~ん…」
数分悩み、
「…ごめん。今の僕じゃ、どうすればいいのかわからないよう…」
「そ、そうか…」
さて、どうしたものか。
このままだと、この国は一生淫らな国として、俺の脳に保存されてしまうだろう。
ま、別にいいんだけど。
それだと、ラピスからの依頼を放棄するしかなくなるんだけどなぁ…。
俺達が困っていると、
「…あの。もしかして、シオン様、いや、ラピス様ではありませんか?」
なんと!
見知らぬ騎士が話しかけてきたではありませんか。
俺はいつでも戦えるよう、戦闘準備をする。
「あ!いや!自分、怪しい物じゃありませんからぁ!」
「…いや。それ、自分で言っちゃ駄目だろ」
しかも、顔がヘルムで隠れて見えない。
怪しさ抜群だ。
「い、いえ!自分、カイーガ=グラントと申します」
「…誰?」
俺には全く心当たりがない。
俺の脳内には、人の顔や名前は全く記憶していない。
ま、二次元の人の顔や名前だったら、憶えているんですけどね!
…今はこんなことどうでもいいな。
「俺はアヤトだ」
「はい!アヤトさんですね!」
ん?
何かイブ、クリム、リーフの様子が…?
そして、三人が俺の服の裾を引っ張り、カイーガ=グラントから少し引き離す。
「…どうした?なんか顔色が…?」
「あの人、聞き間違えでなければ、あの戦争でアヤトが殺した男の子供です」
代表でリーフが俺の耳元でそう囁いてきた。
え?嘘?マジ?
俺、憶えていないんだけど?
俺はそんな疑いの視線を、クリム、イブに向ける。
二人は無言で首を縦に振る。
その小さな動きだけで、三人の様子の異変の理由が分かった。
「…そんなに辛いなら、ルリと一緒に町の外に出ているか?」
「…ん。それに賛成」
「そうですね。私達はちょっと…」
「はい。お役に立てないかと…ごめんなさい」
「大丈夫だよ。後は俺とクロミルとあれで話してくるから、四人はゆっくり外で休んでいてくれ。終わり次第、合流するよ」
「「「了解」」」
簡単な会議が終了し、
「…えと、大丈夫かな?」
「いや、ちょっと、俺の連れが体調不良で席を外す。何かすまんな」
俺は自分でもよく分からない謝罪をする。
「いや、問題ないけど、平気かい?」
「ん?まぁ、大丈夫だろ。一応護衛も付けているし」
ルリが付いているなら大丈夫だろ、
ルリに勝てる奴なんてそうそういないだろうし。
さて、四人が無事、離れたことも確認したし、
「さ、話を続けようか?」
「はい!ですが、ここではなんですので、こちらへどうぞ」
と言いつつ、カイーガ=グラントは道を先行し始める。
「…クロミル、ラピス。一応、気をつけろよ」
「「はい!!」」
こうして、俺、クロミル、ラピス、そして、カイーガ=グラントの四人は王都、コンバールの中へと入っていく。
一方、彩人達から別れ、王都、コンバールから出たルリ達はと言うと、
「…ねぇ?ほんとにこうしているだけでいいの?」
「ええ!これだけでいいのです!これだけで私達はすごく癒されます」
「そうですね。こんな癒し、滅多にお目にかかれないですし、今の内に堪能しておきましょう」
「…ん。ルリはしばらくこうしていること」
「んー?ま、べつにいっか♪なんか気持ちいいし♪」
近くに座らせたルリを、三人がひたすら愛でていた。
まるで、過去の傷を癒さんがために………。




