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新たな旅立ちと、やってきた盗賊


 翌日、一行は宿屋に併設された大衆食堂で朝飯を食べていた。

 ここのステーキ、臭みが強くて昔は好きじゃなかったんだが、今となっては懐かしさがスパイスとなってご馳走だ。とはいえ毎日は勘弁かな?

 隣のジェラルディンも同じものを食べている。朝から肉は辛いんじゃないかと言われがちだが、肉を食べて体力をつけなければ魔物とは戦えない。体が資本だ。


 対面のエドも同じものを食べているが、表情は優れない。昨日の勝ち負けを引きずっているのかもしれない。

 結構卑怯な勝ち方をした自覚はあるが、エドはその辺りに文句はつけなかった。身よりもなくストリートチルドレンとして生きて来たエドは、勝てばよかろうなのだの精神が骨身に刻まれている。

 不機嫌なのは自分に対してのむかつきだ。この向上心があるからこそ、パーティに加えたと言っても過言ではない。


 とはいえ俺が気に食わないというのもあるのだろう。さっきから目を合わせてくれない。俺のやり直しはおおむね好調だが、エドとの関係性に関してはホットスタートと言わざるを得ない。

 ……少し寂しい。俺の世界では兄貴と慕ってくれていたのだ。できれば仲良くなりたいところなのだが……


「ひ、一切れやろうか?」


「いらん!」


 ステーキで餌付けしようとしたが拒否されてしまった。つらい。

 気を取りなおしてジェラルディンに今後の予定を聞く。


「クエスト・リガでの滞在は休息が目的なんだろ?次はどこに向かうんだ?」


「ジークフリード王国に行くわ。ネズミ退治の報告と、飛空船の建造進捗を聞きにね。」


 飛空船か!俺が旅立つ事が決定してから建造が始まったが、完成するまでにやたら時間がかかった覚えがある。

 王国に七隻ある大型飛空船だが、勇者が使う事は許されない。既に王国の重要なインフラに携わっているからだ。

 そのため、勇者が自由に使える飛空船を新造することが決定したのだが……。


「ワイバーンの被膜にランドタートルの甲殻。次は何を取りに行かされるのやら。」


 そう、飛空船完成のためには多くのお使いをこなさなければならなかった。ジェラルディンの予想通り、王国に帰還したら次の依頼が待っている。

 次は外装に使う木材を採取するため、森に住む魔物を退治してほしい、だったかな……。その依頼で飛空船は完成だったはずだ。

 王国は勇者一行を積極的に支援してくれているが、その見返りとして色々と便利に扱われている。かといって断れば、勇者の心証を悪くしてしまうし……。


 俺の世界では、勇者一人になってしまったせいで依頼をこなせるほどの余裕が無くなり、結果的に見放されてしまったのだ。この世界ではそんなことが無いように努めなくては。


 ……それよりも、飛空船が完成する直前が問題だ。ジークフリード王国へと魔族が侵攻してくるはずだ。王国に滞在していた勇者は、当然の様に撃退に駆り出される。

 勇者の力もあって、王国軍は善戦し、敵将を打ち取る寸前までいく。しかし敵の奥の手、幻獣ヘルハウンド相手に苦戦を強いられる。何とか倒す事は出来るが……

 俺に出来た隙を狙って、最後の力を振り絞った敵将が特攻を仕掛けてくる。凶刃から庇って、エドは相討ちとなった。


 ――そうだ、初めて仲間を失ってしまう、あの出来事だ。


「……ロジャー?」


 黙ってしまった俺の顔を見て、ジェラルディンが心配そうに声を掛けてきた。

 まだ言う必要はないだろう。いつかは相談しなければならないが。


「何でもないさ。準備が出来次第出発しよう。」


 ◇ ◇ ◇


 魔物とは、闇の瘴気を受けて堕落してしまった動物達の事を指す。世界の狭間から漏れ出したと言われる闇の瘴気に触れてしまった生物は、狂暴化し動くもの全てに襲いかかるようになる。

 しかし闇の瘴気に触れながらも理性を保ち、ついには種族として確立した存在がいる。

 それこそが魔族であり、その頂点に立つ存在こそが魔王である。


 今俺たちの前に立ちはだかっているのは、ジャイアントバットと呼ばれる魔物だ。蝙蝠が瘴気に触れて魔物化した存在であり、通常の蝙蝠よりも巨大化し、元々の種族に拘わらず吸血能力を有する。

 

 俺は構えた【盾】でジャイアントバットの牙を受け止め、そのままはたき落とす。すかさずエドが地に落ちたジャイアントバットに止めを刺す。

 大抵の魔物は知能が高くない。そのため、盾役が受け止め、攻撃役が止めを刺すという戦術はこの世界に広く伝わっている。

 今回は俺とエド、ジェラルディンとエプロムートの二組でそれぞれ魔物たちに対処する戦法を取った。フランメリーは盾役が対処しきれない相手を牽制する役目だ。


 最後の一匹をジェラルディンが切り捨て、戦闘が終わる。準備を終えて町を出て数時間。街道に現われたジャイアントバットの群れを相手にしていた。勇者のパーティならばこれぐらい訳は無いが。


「いや~盾役が二人いると楽が出来るわ~。」


 盾にこびりついた血を軽く払いながらエプロムートが呟いた。今まで盾役が一人しかいなかった勇者一行では、王道であるこの戦術が使えなかったのだ。

 今俺は大きめの盾――通称カイトシールドと呼ばれる盾に、鎖で編まれた鎧、チェインメイルを装備していた。

 いずれもクエスト・リガで購入したものだ。平均的な身長でよかった。在庫が無かったら新造で一日潰されるところだった。

 盾と鎧を購入したのは今の様な戦法が取れるという事も大きいが、どちらかというといざという時に仲間を庇うためである。


 俺の最終目的は、仲間を全員生存させた上で、魔王を討伐することである。

 どうすれば仲間がみんな助かるのか、一応方法の目星はついているが絶対じゃない。

 力が及ばなかった場合、この世界に元々いなかった俺が代わりに死の運命を受けるべきだ。

 いざその瞬間が訪れた時、俺だけで済ませるためになるべく防御力の高い装備にしたかったというわけだ。


「盾の心得なんてあったのね。」


「ん?昔少しな。」


 ジャイアントバットから使える資材をはぎ取るジェラルディンの疑問に言葉少なに答える。

 盾の扱い方を帝国の騎士団長に指南してもらったことがあった。なにせ当時仲間は既に四人死んでいたからな……。盾役になって少しでも被害を減らそうとするのは、ある意味当たり前の考えだろう。

 結局一人になってしまい、盾で防ぐよりも斬り殺した方が早いというという理由で最後は使わなかったが……。

 ジェラルディンは俺の心を察したのか、はぎ取り作業に戻った。


「あら?」


 フランメリーが何かに気付いたように街道の先を見る。俺もつられて確認すると、一人の青年がこちらに走ってくるようだった。後ろには馬車を止めている。

 知っている顔だ。


「……義賊シャハーブ。」


 俺は思わず呟いてしまった。しまったと思った時には、エドが反応してしまっている。


「あん?知ってるのか?」


「ゆ、有名じゃないか。王国で。」


「あーそうだな。確かに辺境だった俺の町にも悪名が届いてきてたなぁ。」


 何とか誤魔化す事が出来た。しかしシャハーブか。ここにいる三人ほどは懐かしくないな。


 義賊シャハーブ。義賊の名の通り、庶民のために活動した正義の盗賊だ。

 俊足と、猿の様な身軽さを生かし、王都を駆け回った。

 富裕層から盗み、貧しい人々に分け与える。人々は彼の行為を褒め称え、富裕層は恐怖した。


 しかし彼の活躍は意外と短く、すぐに騎士団に捕らえられてしまった。

 貴族や商人には性根が腐った成金趣味が数多くいたが、騎士団は優秀な人間で固められていたのだ。

 哀れ捕らえられた義賊は縛り首!とはならず、王はシャハーブを処刑せずに、さらに罪人を解放する保釈金を国で払った。そしてそれを借金とし、国のための仕事を申しつけた。

 その仕事とは、勇者との連絡員。旅立つ勇者を国でサポートするために、身軽で馬の様に速く走るシャハーブを必要としたのだ。

 シャハーブは王の慈悲に感激し、喜んで従事したという。


 猿顔の青年はジェラルディンの前で立ち止まると、背筋を伸ばしてびしりと敬礼する。


「勇者様!お久しぶりです!」


「どうしたの急に改まって。」


「いや~王宮のジジババに『勇者様には礼儀正しく接しろ!』って怒られてさ~。だけどやっぱり堅苦しいのは似合わないよね!オイラはオイラらしくしなきゃ!」


「首絞められても知らないよ。」


「大丈夫!誤魔化しきって見せるさ!」


 すぐに相好を崩してジェラルディンに砕けた口調で答える。

 そう、シャハーブは別に王の慈悲に感激したわけでもなければ、喜んで従ったわけでもない。

 シャハーブは緑のマフラーで首元を隠しているが……その下には鉄製の首輪が嵌められている。


 義賊であるシャハーブは平民からの支持が厚い存在であった。処刑すれば国民に悪感情を与えかねないと判断した国の上層部は、王の特別な許しと勇者を補助する崇高な仕事を与えることにして美談とした。

 だが所詮盗賊であるシャハーブを信用はしなかった。

 そのため上層部はシャハーブに【隷属の首輪】を着用させた。

 【隷属の首輪】は、一定時間以内に専用の鍵で外されなければ自動で首が絞まる首輪型のマジックアイテムだ。王国はこれを利用してシャハーブを拘束している。

 死にたくなければ用事を済ませておとなしく帰って来い。というわけだ。


「今回は何日?」


「後十日。王都までは三日だから余裕はあるね。」


 首輪の時限は指定可能なため、遠くに送ることも出来る。そのため時折勇者とは無関係の用事も申し渡されるようだ。

 その性質のためパーティには加わらず、仲間ではあっても顔を合わせる機会は少なかった。

 戦闘にもあまり参加しなかったため、俺の世界でも長く生き残っていたが……

 俺が重傷を負って撤退する際、魔族の四天王を足止めするためもう一人の仲間と立ち向かい殺されてしまった。

 やはり、俺が強ければ回避できた死だった。


「でも丁度良かった。今から古代水路の依頼の完了報告に行くところだったのよ。あなたに報告すればそれで済むわね。」


「いやぁ~それが、王様たちはすぐに帰って来いと申しているんだよね~。」


「え?何でまた?」


「勇者たちの激励パーティーと称して各国の代表を集めようとしてるみたい。」


「うへぇ……ホント?」


 そうだった。王都に到着すればパーティーが待っている。飛空船の依頼はその後。パーティーでは後に仲間になる二人と初顔合わせになるイベントもある。

 つまり行かなければその二人が仲間になることは無い……

 いっそ仲間にならなければ死ぬことは無いのでは?という考えが脳を過ぎるが、戦乱渦巻くこの大陸ではいつ命を落としても不思議ではないし、そもそも魔王を討伐するためにも強力な仲間は必要だ。


 とはいえわざわざパーティーに行くよう念を押すまでもない。国からの支援を引き出すためにも国の上層部にはなるべく態度良くしなければならない。


「はぁ~わかったわよ。エプロムートも一度帰りたいでしょ?」


「ま、そうだねぇ。家に帰って秘蔵の酒でも飲みたいね。」


 嘯くエプロムートだが、その実は妹夫婦に会いたくて仕方がないはずだ。姪の成長も見たいだろうしな。

 ちなみにおっさんに妹がいることはパーティにはまだ知られていない。もっと後になってから、勇者だけにこっそり教えてくれるのだ。


「馬車は用意してあるよ。御者はオイラがやるから、みんなは交代で護衛よろしく!」


 俺たちは馬車に乗り込み、王都へと向かった。


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