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勇者と仲間、その実力


「で、この街で偶然出会ったのだけれど、彼は、えーと。」


「剣士だ、回復魔法も少しだけ使える。」


「だから、これからの旅についてきてくれたら助かると思って勧誘したのよ!」


 回復魔法が使えるというのは嘘ではない。だが正確にいえばもっと様々な魔法が使える。その中で俺が回復魔法を上げた理由はいくつかある。


 一つは、ハッキリ言って今の俺は強すぎるという事だ。自惚れでは無い。人族の希望である勇者よりも(現時点では)強いのだから。

 そんな強い人間が、今まで何処で何をして来たんだ?という話になると困る。だが剣術だけならば厳しい修行を積んだ剣士で話が通るし、回復魔法は正直本職には及ばない。


 もう一つは、今現在、このパーティには回復魔法を使える人間がいないという事だ。しばらく後にパーティに加入する白魔道士のリンデンバウムが来るまで回復はポーション頼みだったはずだ。つまり回復要員ならば必要とされる可能性が高い。


 最後に、勇者しか使えない魔法は使うわけにはいかない。国々が争わず勇者を支援するのは、勇者が唯一の存在であるからだ。二人目の勇者がいると分かれば、独占しようとする国家が現れてもおかしくは無い。

 浮遊魔法や特殊な障壁魔法。神より加護を受けた勇者には、様々な特権がある。それをこの世界で――少なくとも、緊急時以外で晒すわけにはいかない。


 以上の理由から、俺は『回復魔法も嗜んだ流浪の剣士』ということで話を通すことにした。


「俺としては是非とも加入したいのだが、どうだろうか?」


「いいんじゃないか?このパーティ前衛ばっかだけどな。」


 それはちょっと思った。この頃はこんなに偏ってたんだなぁ。

 ともかく、エプロムートは賛成のようだ。まあ、このおっさんは面倒くさがりな部分があるので、野宿の雑用でも押しつけるつもりなのだろう。

 かつては憎たらしいおっさんだと思っていたが、妹家族を溺愛し、義理の弟の出征を肩代わりしたという裏事情を知ると、少しほっこりする。


「私も、いいと思うわぁ~。ポーション代浮くしぃ。」


 フランメリーも賛成。フランメリーはおっとりに見えて一番しっかりしているので、パーティ資産の管理を任されている。そうか……この頃はポーションのやりくりに苦労していたのか。それなのにギャンブルで金をスッてくれば、そりゃ怒るだろう。

 ギャンブルに溺れる勇者、酒代をせびる魔法騎士、乱暴に扱うせいで、道具を壊す戦士……。いかんな、相当不憫だ。

 この世界ではギャンブルを控え……られたらいいなぁ。


「俺は反対です!いくら姉貴の親戚だからって、崇高な勇者の旅に軽はずみに加わろうとするなんて!」


 反対したのはエドだった。テーブルから飛び降りて地団太を踏んで抗議する。

いやエドよ。そう言うお前は最初、勝手についてきただけだったような?ていうか、宿屋の人に迷惑だから止めなさいな。

 エドは元不良少年なだけあって相当に生意気だ。同じパーティのエプロムートやフランメリーの言う事にだって反発をする。

 だけど姉貴――俺の時は兄貴だった――と呼んで慕う勇者の言う事は素直に聞いた。

 だからジェラルディンに任せれば上手くとりなしてくれるはずだ。

 俺の意を酌んだのか、ジェラルディンがエドを宥める。


「ほら、これからの旅はもっと過酷になるだろうし、味方は多い方がいいでしょう?」


「でも実力も知れませんし、剣で姉貴やエプロムートに敵うわけ無い!」


 随分な言いようだな。

 とはいえエドの言い分も分かる。エドの剣の師でもあるエプロムートは王宮に勤めていたこともある凄腕の剣士だ。

 勇者であるジェラルディンも、剣聖の下で修業した為そこらの兵士相手なら剣術だけで五人まとめて圧倒出来るぐらいの実力はある。

 早急に魔王を打倒しなければいけない都合上、半年しか修行出来なかったんだよなぁ、もっとやっとけば魔王に勝てたかも知れん。

 そんなことを考えていた俺の耳に、フランメリーの発した言葉が届く。


「そうね……なら腕試しすればいいんじゃない?」


 は?


 ◇ ◇ ◇


 日も暮れ始めた空の下、二人の男が対峙する。

 ここは宿屋の裏の空き地だ。もちろん宿屋の店主の許可は得ている。

 目の前に立っているエドは、剣を構えて鼻息を荒くしていた。銅板で編まれた鎧を身に纏い、木製のバックラーを構えた完全装備だ。

 一方の俺は帯剣し、空色のマントを身につけてはいるが鎧は無い。ジェラルディンと同じ鎧を装備していたら疑われると考え、森で目印を付けて埋めて来た。あとで軽い皮鎧でも買おうかと思っていたのだが、


 ――何でこんなことに……。

 これも全てフランメリーがいらんことを言ったからだ。直接対決での腕試し。それにおっさんが賛同し、エドも望むところだ、と言わんばかりに目を光らせ、挙句の果てに交渉が面倒になったジェラルディンが「じゃ、それで」とのたまいやがった。

 とはいえこれがパーティに入るための試練ならばやるしかない。俺は気を引き締めてエドを見据える。


 エドと俺以外の三人は空き地の端で観戦する構えだ。

 既にパーティ参加に賛同しているおっさんとフランメリーは見る必要は無いように思えるが……。

 おっさんは単純に俺の剣の腕に興味があるんだろう。おっさん自身の力量が高いから、ある程度俺の実力も見切りがついているのかもしれない。

 フランメリーは魔道士だが同時にパーティの司令塔だ。俺の戦力を知れば、今後の戦闘が楽になると考えているんだろう。

 ジェラルディンがいるのは、まあ当たり前の話だが。一応審判役も務めている。


「はい。両者構えて。」


 ジェラルディンの指示に従い、剣を抜く。するとそれを見たエドが目を見開いた。


「俺の剣と同じ……!?」


 あ、そうじゃん。

 俺の今持っている【王国騎士団制式長剣】は旅立ちの際、王に下賜された剣だ。聖剣を手に入れた後はエドに譲った。この世界でも既にそのイベントは行われているはずだから、当然今のエドの剣もその剣だ。

 なんで俺が既に譲ったはずの剣を持っているのか……それは俺のいた世界のエドの形見だからだ。持ち物が少なかった上、激戦でボロボロだったエドの装備の中で唯一持ち出せたのがこの剣だった。

 それを知るはずの無いエドからすれば、俺が同じ剣を持っているのは衝撃だろう。誤魔化さなければ。


「闇市で買った剣だ。大方やる気のない騎士が質にでも出したんだろ。」


 実際旅路の途中で、そういった刀剣類を見たことがある。当時パーティで唯一の騎士だった竜騎士ニパルタックは、「そのような軟弱物がいるのか!」と怒り心頭だった。

 無難な言い訳だろう、と自分を褒めていたら、エドは怒りの形相に顔を歪ませる。


「俺が姉貴に認められて貰えた剣を、金で買っただと……!」


 火に油を注いでしまった……。うーん、エドからするとそんな風に思ってくれていたのか。俺、もといジェラルディン的には、それまでエドが使っていた剣が赤銅製だったからこっちの方がマシだろう程度の考えだったんだが。横目で見ればジェラルディンも目を逸らしてるし。

 怒らせてしまったが誤魔化すことは出来た。ならばもうこのまま続行するしかない。

 ジェラルディンから開始の号令が下る。


「いざ尋常に、始め!」


 宣言と同時にエドが迫る。間合いを詰めて上段からの振り下ろし。受けるのは愚策と判断して一歩引いて避ける。

 エドの長所は怪力だ。背こそ低いが体は鍛えられており、力こぶは俺より大きかったはずだ。怪力ゆえに、渾身の一撃を当てれば大抵の場合決着が付き、そのため戦闘の最適解は『自分の最も得意とする上段斬りを当てること』である。

 正式な剣術を学んでいないエドにとっては唯一つの戦法でもあった。エプロムートは教えるのはそう上手いタチでも無かったしな。


 盾を持っていないこちらからすれば避けるの一択だ。急所に受ければお陀仏してしまう可能性がある……というかなんで当然みたいな流れで真剣での勝負しているんだ?そりゃ急に木剣は用意出来ないだろうけど。

 とにかく攻めなければ話にならない。振り下ろされた隙を狙って首狙いの横斬りを繰り出す。エドは慌てたように剣を胸の前に引き戻しこちらの攻撃を防ぐ。

 防御されたが、一度受けに回らせればこちらのものだ。斬り下ろし、腕狙い、横薙ぎと技を繋げていく。エドの技量では躱して反撃に転ずることは出来ず、剣で止める、バックラーで防ぐの二択だ。

 そしてこちらの攻撃を捌くのに夢中になった隙に、さっと足払いを掛けた。


「うわっ!」


 集中していた分、意識外からの攻撃にあっさり引っかかる。尻餅をついた瞬間を狙い、首筋に剣を当てる。無論寸止めだ。


「そこまで!」


 ジェラルディンの審判が下り、腕試しは終了した。


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