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一閃、岩をも通す




 俺は巨人と対峙しながら今回の作戦を想起する。






 俺たちが立てた作戦は指揮官であるガーメイルの狙い撃ちだ。

 包囲殲滅は義勇兵を犠牲にするということに目を瞑れば高い効果を出す作戦ではあるが……

 この包囲は騎兵や魔族将軍の大魔法で簡単に崩されてしまう。

 包囲の後ろから騎兵で突撃されてしまえば、後衛である弓兵や銃兵が虐殺されてしまう。

 大魔法は言うまでも無い。下手をすれば片翼全てが吹き飛んでしまう可能性だってある。

 そのため、包囲殲滅を完遂するにはこの両者の迅速な排除が必要になるが……

 王国の、というより人類の騎兵は魔族の騎兵に対しての有効打を持っていなかった。

 今回騎兵たちが使っている一撃離脱戦法は一見有効に思えるが、実際には時間稼ぎにしか利用できない。

 最終的には追いかけっこになってしまい、互いにダメージを与えられないのだ。

 数で差をつけても元々精強な魔族兵は倒しにくい。気を抜けば多少の数の差は覆されてしまう。

 騎兵のみで魔族騎兵を打ち倒すことは、現状では不可能に近かった。

 無論魔族将軍の大魔法に関しては語ることは無い。対策は迅速な魔族将軍の討伐以外には無かった。


 そのため、本命の矢は魔族将軍の狙った降下作戦となった。

 魔族将軍を討つには勇者が一番だが、無論相手もそれを一番警戒している。バレないように近づく必要があった。

 そこで俺が思いついたのは、皇国の飛空挺、ジルシュタイン号による奇襲だった。

 騎兵で騎兵を足止めし、包囲殲滅の陣で敵の本隊を咥え込む。そうすれば魔族将軍の周囲は無防備になる。

 その瞬間を狙い飛空挺で突撃をする。

 魔族将軍を攻撃すれば包囲殲滅も完遂出来る、互いが互いに敵の足止めを担う作戦だった。


 この作戦を行うには、飛空挺を隠匿する必要があった。

 それを行ったのはフランメリーだった。

 フランメリーの氷結魔法で生み出した氷の粒を、雲に見立ててカモフラージュしたのだ。

 実際の雲も氷の粒の塊である以上、見た目に差異は無かった。

 問題点としては魔法の維持や、魔力の消耗を考えた結果、フランメリーをその後の魔族将軍戦に参加させることが出来ない点だったが、そこは割り切るしかない。


 空挺中隊は元々本作戦のような運用方法を行う部隊だそうだ。

 この作戦を実行するのに必要な装備とノウハウを予め持っていた。

 安全に降下を行うパラシュート。降下に最適な高度の割り出し。非降下経験者のフォロー等、全てが揃っていた。


 みんなの協力もあり、俺たち勇者一行は無事に魔族将軍と相対するところまでやって来た。

 ここから先は俺たちの腕前次第だ。






「オオオオォォォ!!ブッ潰すゥ!!」


「上等だ!やってみろ!」


 普通の直剣なら十本は出来るんじゃないかという巨大な大剣を、軽々と振るう巨人と俺は向かい合った。


 俺と巨人の体格差はおよそ二倍。

 巨人の中では小さい方だが、その分動きも早い。

 一対一では、大きい巨人よりやりにくいと言えるだろう。


 鉄塊のような巨人の大剣を横っ跳びで躱し、砂埃を上げて地面に着地する。

 地面に叩きつけられた大剣が引き抜かれると、まるで小規模の地割れのように荒野の地面が割れていた。

 あんなものをモロに喰らったらひとたまりも無い!盾で受け止めることすらできないだろう。


「オオォォ!ちょこまかとォ!」


 巨人が苛立ったように雄叫びを上げる。

 そのまま周囲を薙ぎ払うかのように大剣を振り回す。俺は数歩下がってそれを避け、それを見た巨人は更に怒る。

 巨人は激昂しやすい性格のようで、あまり繊細な技は使ってこない。感情に任せた大振りだけだ……それが一番恐ろしいわけだが。

 避けることは出来る。とはいえ、このままじゃ厳しい。

 俺は避けるよりも受けるタイプ――少なくとも、今の装備では――なのだ。チェインメイルやカイトシールドはその為にも頑丈なものを選んでいる。そしてその分、重い。

 相手の攻撃を受ければ即お陀仏なこの状況は、俺にとって分が悪かった。

 ……とりあえず一撃を入れてみるか。


 巨人が再び大剣を横薙ぎにブン回し、こちらに向けて叩きつけてくる。

 俺は盾を捨てて、その下に潜り込んだ。


「消え――」


 どうやら幅広の大剣のおかげで奴は俺の姿を一瞬見失ったようだ。

 そのまま相手の懐に飛び込み、擦れ違い様に剣を一閃。

 狙いは足。ふくらはぎから腱を斬れるよう剣を奔らせるが――


「グオォォ!後ろかァ!」


 意にも介さずこちらに向けて大剣を振るう。

 またもや横薙ぎだった為しゃがんで回避し、バックステップで距離を離しながら与えたダメージを確認する。

 剣閃の跡は残っているが、血は数滴しか流れていない。どうやら薄皮一枚を切っただけのようだ。

 やはり巨人の皮膚は分厚いな……並みの攻撃じゃ通らない。

 一撃の威力を増やすか、もしくは数を打つか。……もしくは急所狙いか。


 威力を増すには魔法剣や付与剣が一番だが、生憎俺の使える魔法では大した威力が出ない。魔法が付与されているという事実が必要な敵……ようするに魔法が弱点の敵にしか大した効果は無い。巨人タイプの魔族は戦闘方法が腕っ節頼りな分、闇の瘴気はスタミナの維持や魔法への抵抗に割かれる。例えエプロムートの魔法剣でも効果は薄いだろう。

 紅蓮剣を放つ場合でも、姿勢を固める必要がある為静止しなければならない。その隙に攻撃を受けたら一瞬であの世逝きになる。


 数を打つにはこちらのスタミナが足りない。こちらの方が動いて消耗が激しい今の状況では自殺行為だ。


 眼や喉、股間等の急所狙いは、何の策も無い状態では簡単に防がれてしまうだろう。腕で庇うだけで鉄壁の如き防御が完成する。


 瞬きの間の思案に耽ていると、鉄塊の縦斬りが飛んできた。


「おっとぉ!」


 俺は兎のように飛び跳ねて躱す。

 避けたはいいが若干無理な体勢で飛んだためちゃんとした受け身が取れない。仕方なく転がって着地の隙を消した。


「ちィ!」


 巨人は俺を取り逃したことに舌打ちをする。だが本当に舌打ちをしたいのは砂まみれになった俺の方だ。

 マントに砂が付いただけでは無く、派手に転がった為に砂埃がより一層舞い視界を遮る。邪魔で仕方が無い!

 ……いや、そうか。


「砂埃か……」


 一か八か。俺は再び巨人に向かって走り出した。


「馬鹿がァ!予想済みだァ!」


 自分に向かって駆けだしてきた俺を見て、巨人はにんまりと牙を剥き出しにして笑う。そして手に持った大剣を放り投げ、こちらを捕まえようと両手を伸ばした。

 だが――


「はっ!ならこちらはその予想・・予想・・済み(・・)だ!」


 伸ばされた手を直角に曲がって退避する。普通に曲がっては逃げきれない。勢いよくスライディングすることによって姿勢を低くし、擦れ擦れで巨人の腕をすり抜けた。

 避けきった後、俺はそのまま足を滑らせスライドターンで反転する。勿論俺の足は地面を引っ掻き、大きな砂埃を上げる。

 スライディングに、スライドターンも交えれば砂漠ほどではないにしても砂は高く舞い上がる。俺の身長を越えて捲き上がり、俺の姿を完全に覆い隠した。


「グ!?どこだァ!?」


 案の定巨人は俺を見失い、ついさっきまで俺がいた場所目掛けて腕を突きだす。

 残念だが俺はすぐさま移動していた為、腕の攻撃は空振りに終わった。

 まるで水の中を泳ぐかのように、砂埃を散らさないように緩やかに、されどなるべく素早く巨人に近づき、その背後に立つ。

 巨人はまだ俺を見つけることが出来ないようで、キョロキョロと周りを見回している。

 ……紅蓮剣を打てる程の余裕は無いが、しっかりと構えられそうだ。


 右手で弓を引くように剣を持ち、左手は添えるだけ。

 剣を突きの型に構え、足に力を込める。

 紅蓮剣には及ばないものの、剣聖から伝授された技の中でも高威力の奥義。

 岩すら貫く、必殺の刺突!


「――鬼岩突きがんづき!!」


 俺は放たれた矢のように飛び上がり、巨人のうなじを突き刺す。

 皮膚ごと脊椎を切り裂き、首の半ばまで喰い込んだ。

 貫通する程の勢いは無い。俺はそう見切りをつけてずるりと剣を引き抜いた。

 濁った血が溢れ、渇いた荒野を雨のように湿らせる。


「ガ、ガアアアアァァァァァ!!」


 巨人は苦痛の叫び声を上げ、砂煙を吹き散らしながら倒れ込む。

 首からは血が流れ出し続けているが、脊椎を破壊されたため体はピクリとも動かない。

 血は止まらず溢れ続け、まるで池の如き大きさの血だまりを作ってようやく止まった。






 強靭さを誇る巨人でも、これだけの血が流れれば起き上がることは無かった。








ブックマーク、評価ありがとうございます。

これを励みにより一層の精進を重ねたいと思います。

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