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邪を縛る鎖、夜空に煌めく氷雷




 氷の鎖が生きているかのように蠢く。

 魔力操作で自在に操れる鎖は、フランメリーの意のままに動かす事が出来る。

 魔法を完成させたフランメリーはホッと溜息を吐く。


「なんとか完成したわね……」


「ああ、といってもこっからが本番だけどな」


 トレントの影から空を見上げる。

 夜空には雷を轟かせる巨鳥が未だ健在だった。


「やれるか?」


「やるわぁ……じゃないとここまでの苦労が水の泡じゃない」


 氷の鎖をくねらせこちらに答えるフランメリー。

 一度吐いたおかげで魔力中毒症状も楽になったみたいだな。

 ここからは作戦通りに別れる。


「しくじらないでねぇ」


「さすがにここでへましたら戦犯だからな……」


 一生酒の肴だぜ。

 俺はトレントの陰から飛び出してエドとエプロムートに伝えた。


「魔法は成功した!次やるぞ!」


「わかった、合図する!」


 俺の言葉にエドが雷を避けながら答える。

 エドのタイミングが重要だ。


 俺は体の中の魔力をいつでも操れるように意識しながら合図を待って待機する。

 幸いサンダーバードはこちらを気にも留めていなかった。これなら作戦の成功率が上がる。


 待つこと数瞬。一日千秋の思いすら感じたその瞬間が訪れた。

 エドに向かって絶えず放っていた雷の放出が一瞬完全に止まる。

 雷光によって照らされていた森が、その時完全な闇に閉ざされた。


 サンダーバードは自身の体内で雷を生成する魔物だ。

 どんな動物でも体力は無尽蔵では無いように、サンダーバードとて雷の発生量には限りがある。

 あまりの怒りにサンダーバード自身も忘れていたようだが……

 だが恐らく、あまり時間を経たずに回復するだろう。

 魔物は体力が不足した場合闇の瘴気に蓄積した魔力を用いて回復する。

 奴は闇の瘴気の魔力を魔法によって消費しない為、魔力は有り余っているはずだ。

 だが魔力を体力に変換するためには時間――ラグが発生する。


 俺たちの狙いは、その一瞬。


「今だ!」


「【聖光クリスタ】!!」


 サンダーバードの目線の先、夜の闇に向かって光が放たれる。

 完全な闇に落ちていた森が一瞬にして明るく照らし出された。

 その光は優しいものでは無い。

 暗闇に適応しようとした目を潰す、暴力的な光だった。


「QEeeeeeeeeeeeeeeeeeeee!!」


 サンダーバードは絶叫を上げ空中でのたうち回る。

 だが飛行を止めて墜落するようなことはせず、滞空を続けていた。


 これで落ちてくれればいくらか楽だったんだが……

 だだをこねても仕方が無い。


「【照光ライト】!」


 俺は自分の頭上に光の玉を作りだす。

 さっき自分が放った光の属性魔法では無く、ランタンのように周囲を明るくする普通の光量の光だ。

 夜の闇の中、苦しむサンダーバードの姿が晒される。


 俺の仕事は一旦ここまでだ。


「フランメリー!」


 トレントの死体の陰に呼び掛ける。

 俺の合図から間髪いれずに、トレントの骸から氷の鎖が空に伸びていく。

 宙に舞い上がった鎖はサンダーバードをぐるりと取り巻き、翼に、足に、首に捲きつく。


「クエッ!?」


 突如として自分に絡まった冷たい感触に戸惑うサンダーバード。

 だがその戸惑いも束の間。

 自分を引っ張る凄まじい力に抵抗することに必死になる。

 氷の鎖を引くのはエドだった。


 今まで逃げに徹していたエドだが、その本分は怪力だ。

 今まで本領を発揮できなかった分の鬱憤を込めて、氷の鎖を引き摺り下ろす。


「だりゃああああぁぁぁぁぁぁ!!!」


 ぐん、とサンダーバードの体が傾ぎ、バランスを崩した雷鳥は無様に翼を空回りさせながら地上に落ち始める。

 一瞬の間を開き、サンダーバードの体は地面に叩きつけられた。


「しゃあ!!」


 ガッツポーズを決めるエド。まあ無理も無い……今までずっと雷を回避し続けて来たのだから。

 だが悠長にしている暇も無い。サンダーバードは足や翼を無茶苦茶に振り回し、大暴れした。

 そのたびに氷の鎖は罅が入り、氷の維持にフランメリーが魔力を込めている。

 一刻も早い討伐が求められていた。


「エプロムート、エド!」


 俺は二人に呼び掛けて大暴れしているサンダーバードに駆けだす。

 剣を抜き、翼に向かって叩きつける。


「渾身斬り!」


 盾を捨て、両腕で剣を構えて振り下ろす力任せの一撃。

 こんな技も何もない剣でも刃をきちんと立てれば魔物の硬い皮膚に通じる。

 翼を切り裂き、血が噴き出す。

 だが斬り落とすには至らず、羽が何本か宙に舞うに過ぎなかった。


「おおお!!氷結魔法剣シュネーシュツルム!!」


 エプロムートが反対側の翼に駆けより、氷の魔法剣を叩きつける。

 氷の魔力を刃の形に纏った剣は、皮膚を裂き、肉に食い込み、そして骨を両断する。

 剣は翼を通り抜け、噴き出す血と共に翼がぼとりと地に落ちる。

 エプロムートの手によって翼は両断された。

 もう空には逃げられない!


 俺たちの立てた作戦は単純だ。

 エドが引きつけ、俺とフランメリーで氷の鎖を作り、俺が光で奴の目を眩ませて、エプロムートが翼を落とす。

 目を眩ませる必要があるのはフランメリーが鎖を巻き付け易いようにというフォローでもあるが、万が一にも翼などで鎖が砕かれる可能性を減らす為でもあった。

 とにもかくにも奴はそれに逃げる術を失った。

 これで作戦は成功だ、後はあいつに止めを指すだけ……!


「QuAAAaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!!」


 サンダーバードが苦しげな雄叫びを上げる。

 悲鳴であり、そして怒りを込めた反撃の狼煙でもあった。


 再びサンダーバードの体が雷を纏い始めた。

 魔力の体力への変換。そして雷の生成が完了したのだ。

 サンダーバードは荒々しく雷を放出する。

 矢鱈滅多らに雷撃を打ち出し、俺とエプロムートを引き剥がそうと試みる。

 俺たちも堪らずサンダーバードから離れる。


「くそっ!後少しなのに」


 悔しげに呻くエプロムートだが、背後から悲痛な声が響く。


「はあっ、はあっ!もう、持たない……鎖が維持できない……!」


 フランメリーの苦しげな声が、トレントの陰から届く。


「もういいフランメリー!翼は落とした。鎖を解いても大丈夫だ!」


 俺はフランメリーにそう答えるが、トレントの骸からよろよろと這い出てきたフランメリーが首を横に振る。


「だ、駄目……鎖を縛り付けてたから分かったけど、こいつ力も強い……反撃を貰えば疲弊した私たちじゃ……」


「くっ、ならどうすりゃいんだよ」


 サンダーバードは雷を放ち続けている。おそらく次に止む時はどちらかが力尽きる時だろう。

 だが鎖が解ければあいつは二本の足で地に立って俺たちに向かって来るはずだ。

 そうなれば奴の纏った雷を回避するのは難しい。雷をそのものが突進してくるようなものだ。

 雷の所為でサンダーバードには近づけない。どうすれば……!


 そんな俺たちの横をエドがすり抜けて行った。


「エド!?」


 エドはそのままサンダーバードに真っ直ぐに駆けだして行く。


「ここであいつを黙らせられるのは俺しかいないだろ!?」


 エドが雷を躱しながらサンダーバードに向かっていく。

 雷は無作為に迸り、何条もエドに向かって煌めくが、エドはまるで未来を予知しているかのように全て避けた。


「もうすっかり覚えたぜ!」


 腰の剣の柄に手を掛け、雷の道を駆け抜けて行く。

 やがてサンダーバードの頭へと辿りついた。

 剣を抜き、振りかざす。


「こいつは、姉貴を傷つけた罰だ!……オラァ!!」


 上段からの叩きつけ。

 最も単純だが、最も力の乗る剣の型。

 何よりも、エドが最も得意とする技。


 渾身の力が込められた剣はサンダーバードの頭蓋をかち割り、赤い血と桃色の脳髄が溢れだす。

 帯電していた雷は最後の抵抗と言わんばかりに宙に向かって輝き、その光を失った。



 サンダーバードはここに力尽きたのだった。



 


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