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王宮の中でのお子様事情   作者: さつき けい


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3/4

子供たちの技


 どうやら事前にそれぞれの家に通達はあったらしい。


仕事で忙しかったギードが知らなかったのは、子供たちがいる王都の店のほうに連絡があったからなのだろう。


すでに何組かの親子が準備を始めていた。


 小さな子供たちは眠そうにしており、除外されている。ナティリアも眷属の従者であるロキッドに抱かれて、すやすやと眠っていた。


希望者の中から年長の順に披露することになった。


タミリアのほうを見るとにやにやと笑っている。もう何か仕込んでいる顔だった。


(目立つなって言っても無理か。タミちゃんなら全力でやれって教えていそうだし)


ギードは国王の意図的なものを感じるが、これも人族の慣習なのかなと諦めた。





 湖を背にし、子供たちが立つ舞台が準備された。


正面に国王を始めとする王族の席がしつらえられ、その両側に保護者たちの席が横に広がっている。


 ようやく子供たちの演技が始まる。 


わざわざ衣装を替えて歌や踊りを披露する女の子や、難しい文学の一部をそらんじる男の子など、やはり上流階級の子弟らしい文化的なものが続いた。


 しかしギードやハクレイたちは少し離れた場所に椅子を移動し、少々苦い顔でそれを見守っている。


「こんなお遊戯で子供の何がわかるっていうんだ」


ハクレイが呟く。


「皆、自分の子供を売り込みたいのだろう」


勇者の姿をしたサガンが笑う。


「まあ、国王陛下の前ですからねえ」


ギードは他の親たちには聞こえないよう小声で話す。


国王の目に留まれば子供だけでなく、親の出世もあるかも知れない。


気合いの入っている親子も見受けられた。




 ギードたちと違い、他の親たちは大いに盛り上がっている。


「まあ、なんてかわいらしい」だの「そちらのお嬢様のドレスはどちらで?」


などとお世辞の嵐に加え、子供に向かって「がんばって」と叱咤激励している。


 さて、双子の出番になった。


ミキリアは子供用の剣ではわかりずらいと判断して、近衛兵から大人用の木剣を借りた。


少々重いがミキリアは炎の精霊魔法で腕力が上がるので、心配する兵士に「大丈夫です」と笑顔を見せた。


ユイリは自分の荷物から短弓と矢を取り出す。彼はギードよりはだいぶ弓矢の腕は良いらしい。弓に最適な風の最上位精霊も付いている。


舞台の上で国王に向かって最敬礼をした後、舞台を降りて開けた場所で左右に分かれた。


そしてゆっくりと向かい合い、武器を構えた。お互いに真剣な顔はしているが、相手を倒すというより、失敗しないようにという緊張した顔だ。




「炎よ!」


ミキリアが声を上げる。炎の精霊の祝福で、木剣が熱くはない炎に包まれる。タミリアの魔法剣を真似ているようだ。


おおっとどよめきが起こり、国王たちも身を乗り出す。


まさか子供が魔法剣を使うのかと驚かれたが、「精霊魔法の一種です」と説明しておいた。


 炎の剣を持ったミキリアがユイリに向かって走り、ユイリはエルフの身軽さで空中を回転しながら避ける。


ギードは子供たちの演出の過剰さに頭を抱える。


(絶対、タミちゃんと眷属精霊たちの入れ知恵だよね、これ)


精霊魔法はそんなに大きな声で叫ばないし、エルフは剣を避けるために空中回転などしない。




 タミリアの魔法剣は、剣による物理攻撃に魔法攻撃を上乗せするが、ミキリアのは精霊の祝福によって腕力を上げるという補助魔法である。


ミキリアの剣が魔法剣のように燃え続けているのは、精霊がずっと祝福をかけ続けているからだ。


精霊魔法は一定の魔力を守護精霊に渡し、本人に代わって精霊が魔法を行使する。本来なら炎の精霊の祝福で剣が炎を纏うのは一瞬だけだ。


一瞬で消えるはずの炎を燃やし続けるミキリアは、やはり魔力量も半端ないということになる。





 ユイリの放った矢はミキリアの頭上に掲げた剣をかすめて飛び、木剣の炎が消える。


的を外したと思われた矢はそのまま会場の外まで飛び、庭園の森に吸い込まれた。


とたんに風が巻き起こり、宴の中まで強風に煽られる。女性や子供たちの小さな悲鳴があがった。


しばらくして、森の木からぼたぼたと何かが落ちる音がした。


イヴォンが素早く子供たちの前に立ち、王族の周りにはスレヴィをはじめとする警護の者が集まっていた。




 どうも子供たちの様子を木の上で見ていたエルフ兵が大勢いたらしい。


頭を掻きながら隊長格らしい弓兵のエルフがやって来て、国王の前で最敬礼をとった。


彼らが木から落ちたのも無理はない。ユイリの放った矢は短弓だったが、風の精霊の加護で強化されていた。


おまけに矢が刺さった場所で衝撃波を発する魔法がかかっていたのだ。


命を奪うような魔法ではない。一時的に行動を阻害する精霊魔法である。


同じ精霊魔法を使うエルフである彼らにはそれがわかったようで、国王に説明している。


弓兵は国王と話した後、ギードたちのところへやって来た。




「エルフの子供が来ていると聞いて、皆で見ていました。さすがギードさんのご子息だ」


にこやかに褒めてくるが、どうもその裏には将来は王宮の弓兵にという思惑が透けている。


「あー、どうも」


邪魔くさそうにギードは答える。


「申し訳ありません。子供ながら敵がいると勘違いをしたようで」


ギードの子供時代の話はエルフの森の民なら知っている者も多い。


今でも王都の劇場では『魔王と呼ばれた男』としてギードの子供時代を彷彿とさせる演目が時々かかっている。


『魔物の子』と言われ、迫害されていたエルフの孤児。ギードの心の傷は、無意識の中で今でも他のエルフを信用出来ない。


ギードの皮肉に気づいたエルフの兵士は、苦笑いを浮かべながら王宮の森の中の兵舎へ引き揚げて行った。


 


 ギードは心配そうに見上げる息子の頭を撫でる。


「よくやった」


ギードが小声で褒めると双子に複雑そうな顔をされた。


「ギドちゃん。それ褒めてない」


タミリアが残念そうな顔でギードを見ている。どうもエルフの兵士に向けた笑顔が少し黒かったらしい。


双子は自分たちの演技より、エルフ兵を木から落としたことを喜ばれたと思ったようだ。


「えー、そうじゃないよ。ふたりともすごかったよ」


ギードが大袈裟に両手を広げて抱き締めると、ユイリとミキリアはやっとうれしそうに笑った。




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