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名前がすべてを決めるこの世界  作者: たらたらこ
第一章 春~人助け編
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五人組の冒険者

恐怖に支配された睨みあいのような静寂が続く。すぐにでも目の前の五人組の冒険者たちは殴りかかりそうなほどに神経を逆なでされている。僕の『二つ名』によって。

別に僕が悪いことをしたわけではないし、むしろ、良いことであったはずなのに、命を助けるという無条件で信頼を勝ち取れる行動だったのにも関わらず、信頼は微塵も生まれなかった。

いつもみたいに。いつも通りに。


「あー、ごめんなさい。迷惑でしたか?」

そう僕は下手に、なるべく刺激しないように弱い声音でゆっくりと話し掛ける。

いつもなら、謝るだけ謝ってその場からすぐに立ち去ってしまうのだが、土砂崩れで完全に崩壊させた道が足枷になっている。まあ、助けた方が謝って逃げ出すなんて意味不明な話ではあるけど。


「……、ッチ。お前ら戦闘態勢は絶対に解くなよ。もしかしたら、こいつがあの魔物行列(モンスターパレード)を生み出したのかもしれないしな。それにいくら何でも土砂崩れは都合が良すぎるぜ、全く」

「そうは言っても、リーさん。助けてくれたんですよ、この人は。まず、最初はどんなに怪しくてもお礼を言う方が先だと思うんですけど……」

男三人衆の中でも戦闘中に指示を出していた男が僕に噛みつきながら剣を抜く。

それと同時に、僕のことを恐れながらもか細い魔法使いの少年が正しい常識を持って肩を持ってくれる。リーダに反論するなんて勇気があるな。

……そう言えばこんなこと、初めてかもしれ、いや、久しぶりだな。絶対にそうじゃないといけない。だって、僕が故郷のことを否定しまったら、本当に何も残らないのだから。もう、何も残っていないのだから。


「……うるせぇな、ほんとに。お前は! 何かあったら責任とれんのかよ。お前も含めて五人全員の命をな。いい加減にしろよ!」

「なんで……なぜ、そんなに怒っているんですか? いつものリーさんじゃないみたいです。いつもはもっと冷静でかっこいいのに」

緊張状態から二者ともが自分の正しさを主張し合い、巡り合わせる。それを残りの三人はしっかりと噛み砕き自分なりに正しさを選び取ろうとする。そんな思考の働き合いによって、五人組の冒険者、唯一の女魔法使いが杖を下ろした。


「ありがとうございました」

杖を下ろした女魔法使いは深々と頭を下げる。そして、それを追従してか細い少年までが、

「ありがとうございました、危ないところを助けて頂いて」

ゆっくりと、全心を注ぎながら感謝の言葉を紡いでくれた。

それに舌打ちしつつも、リーと呼ばれた男は戦闘態勢を解いて剣を腰に戻しつつ、盾を肩に背負う。


「えーっと、そんなに頭は簡単に下げちゃだめですよ。リーさんが言っていたように武器を下ろすのは。頭を下げてしまったら相手の攻撃も見えませんし、もしかしたら、首を刎ねられたりもされるかもしれないですし」

「おい、馬鹿だろ。せっかく俺の仲間がお礼するっていってんだ、しっかり受け取れよ」

確かに失礼かもしれない、相手の好意に対して注意するというのは。

「そうだな、でも、ありがとよ」「ありがとな」

リーさんよりも早く男二人が爽やかに笑いかけながらお礼を送ってくる。

あれ、リーさんはなんだかんだ言って仲間に言わせて、自分はお礼を言わないのか?

ちょっとそれはいただけないけどなぁ。上から目線になってしまっているけど。


しかし、そんな気持ちは表情となってバッチリと伝わってしまったのか、

「嫌な表情してやがるぜ――――だけど、リーダーとして、俺含めての五人の命を助けてくれたことに本当に感謝する。ありがとう」

と、物凄く丁寧に感謝の言葉を僕に述べたのだった。気まずい。

だから、僕は多少の申し訳なさを含め、気まずさを含め、こう返したのだった。

弱みに付け込むような形で。ただ、この一言が大きくこの僕の物語を左右することになったのは間違いがないと思う。

だから、結果論だけで言えば、このアイデアは悪くなかったはずだ。


「どういたしまして、って言いたいところだけど、感謝されるくらいなら行動で示してほしいって思うんだよね。別に君たちを助けたことは気にしてはいないんだけど」

だから、ちょっと悪役ぶってこう言った。

少しだけ緊張感が広がる。波紋のように、ついさっきまでの時間を取り戻すかのように。

剣を、杖を、武器を構えたくなるような威圧感。それを僕は取り出す。使いこなす。


「だからさ、ハイト博士って人を探すことを手伝ってほしい――――「知ってるぜ、その博士。名前論提唱者、ヴァイス・ハイト。『知識欲』の『二つ名』持ちだな」

えっ、ええ。もしかして、かなり有名な人だったのか? じゃあ、僕が二年間探してきたのは何だったんだ? 探し方が悪かったのか……。

でも、でもでも、リーさんもハイト博士がどこにいるかまでは知らないかもしれないし油断は禁物だ。ただ、これだけ情報が集まればずっと探しやすくなって、すぐに見つかるとは思うけど……。

そう、僕は色んな考えを張り巡らしていた。今後の為に。だけど、全ては無駄骨だった。骨折り損のくたびれ儲けだ。


リーさんが言葉を発する。

「そして、そのハイト博士がいる街に今、俺たちは向かってたんだ」

ね? 無駄だったでしょう?


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