山賊
「レン、大丈夫か! どうしてこんなことになったの」
「リーさんとソウさんとシルさんが道の先で襲われている商隊を見つけてしまって。それに俺らも冒険者の端くれだからって言って、人数的にも勝てないと分かっていたのに助けに入ったんです」
レンは目の前の山賊から目を外さないように気を付けながら、経緯を伝えてくれる。
今、山賊たちを数える限り、見える範囲では十五人だ。でも、ふつうに考えれば何人かがさらに隠れているだろう。
「へへへっ。イイ姉ちゃんが来たな。あとでいただたきたいぜ」
「それは同感だが、リーダーに確認してからだろ」
「ばれなきゃいいだろ、はは」
下衆な笑いがあちこちで響く。うるさい。だが、これで森の中にも敵が隠れていることがよく分かった。
でも、不思議だーーーー、と思考を進めようと思ったのだが、そこに割り込むようにして、僕にだけ聞こえる声でメルさんが小声で呟く。
「君の『二つ名』か『真名』で何とかならないか? さっきの土砂崩れとかで」
「何とかはなるかもしれないですが、あんまり気が進まないですね。『星の二つ名』は持っていることを広めない方が良いのでしょう?」
「それはそうだけど、何事も優先順位というものがあるじゃない。人命最優先だよ」
メルさんは真剣な表情でものすごく当たり前のことを言い放った。それに、メルさんは諭すような口調だったが根本的に『二つ名』を使うかどうか、人を助けるかどうかなんて僕が決めることだろう。そこが気に食わない。
まあ、でも、最悪の事態になる前までには必ず使う、僕はそう心に留めて、さっき止められた思案を再開する。
よく考えなくとも不思議な点がいくつかあるんだよな。例えば、血を出して倒れているのは商隊だけで男三人衆は気絶している点とか。レンさんがいくら魔術師だとはいえ、一人で十五人以上を相手にして耐えている点とか。
さらに言えば、甘混感乱魔法で一番、最初に狙われたのは僕だっていうことだ。つまり、この山賊たちは少なくとも僕のことにだいぶ前から気付いてはずだ。
ということは、メルさんや僕がしばらくすれば帰ってくることも簡単に推測できるはず。
なのに、なぜ、待ち伏せや先制攻撃がなかったのだろう?
それらをすべて含めて考えると、一つの結論にたどり着く。
「レン、『真名』は使ったの? 攻撃はした?」
メルさんはどこまで攻撃が通じるのかをレンから聞き出す。相手の実力をしりたいのだろう。
「いや、まだ何もしていないです。そのおかげで睨み合いだけですんでいるんです。先に対応したリーさんたちは多分、手を出してしまったんだと思います」
「つまり、リーたちは軽くあしらわれたってわけだ。それに商隊には、ふつう、護衛が付いているはずだからそいつらもあし……いや、殺されているかもね」
メルさんは血まみれで倒れている商隊の人たちを遠目に見ながら言う。
「つまり、こいつらは――――」
メルさんも僕と同じ結論にたどり着いたみたいだ。
山賊たちが僕かメルさんのどちらかが目的だという結論に。
そして、たぶん、これはただの勘だが、山賊は僕が狙いなのだろう。
「――――君を狙っている。私は心が読めるからね」
やっぱりか。ただ、それを聞いて僕は確信した。
山賊たちの裏、黒幕こそが僕を狙っていることに。山賊はただ踊らされているだけだ。
そこまで僕は考えて――――答え合わせをするようにゆっくりと前を見た。足音を聞いたから。
山賊たちの中から歩み出るのは一人の黒服の男。
「ああ、我が主の一人、『ポラリス《北極星》』様。『アークトゥルス《熊を護るモノ》』様が御呼びです。ついてきてくださいませ」
そう言って一礼し、山の斜面にぽつんと見える洞窟を手で指し示した。




