第79話 それぞれの対応
私が吸血鬼だということがバレてから皆は大きく分けて三つの態度を取るようになった。
一つはノワールを筆頭とする拒絶派だ。
クリス、ジルもこちらのタイプ。三人とも私とは一切口を利こうとしない。歩いていても一定の距離がある。それなりに経験を重ねた冒険者である彼らには私が脅威として写っているんだろう。時たま警戒心を含んだ視線が向けられるのを感じていた。
もう一つはウィスパーがまさにそれの平常派。
まるで今までのやり取りが全くなかったかのように対応が変わらない人たちだ。これにはウィルも含まれる。まあ、彼の場合立場上公平を保つ必要があるっていうのもあるんだろうけどね。
そして最後が……
「ルナ、傷はもう大丈夫なのか? 結構派手にやられていたみたいだが……」
「平気。傷ならもう全部修復したから」
「そっかそっか。それは良かった。でも何かあればすぐに俺を頼れよ? いつでも力になってやっから」
にかっ、と笑みを浮かべてそう言うのは接近派のレオンだ。
前から絡んでくる奴だとは思っていたけど、私が若干孤立し始めたのを見て更に絡んでくるようになった。
もしかして……と、思わないでもない。レオンは私達のパーティの中でも特に年齢が低いし前回の台詞を取っても『男として』とかそういうワードが強調されていたように思う。
味方してくれるのは正直嬉しいんだけど……そういうのはちょっと困る。
いや、本当に嬉しかったんだよ? あの時、この面子の中で全面的に私の味方をしてくれたのはレオンだけだったわけだし、もしもレオンがレオ子だったら間違いなく惚れてたよ?
でもレオンはなあ……男だし。
友人としては凄く感謝しているけど、そう言う目で見られるのだけは止めてもらいたいところだ。
「……ルナ、悩んでるの?」
「え? あ、うん。ちょっとね」
私の隣を歩くリンちゃんが私の顔色を覗き込みながら聞いてくる。
どうやら自分のせいで吸血鬼だと発覚したことで罪悪感を抱えているらしい。そんなこと全然ないのにね。そもそもリンがああしてくれなかったら私、死んでたし。感謝こそすれ、恨む気持ちなんて一ミクロンたりとも存在しない。
だけどそれを面と向かって言ったりはしない。
だって……
「……何かあったら言って。出来る限りのことはする」
「り、リンちゃん……」
それを伝えちゃったらこの『リンちゃんマジ天使状態』が終了しちゃうかもしれないじゃない!
私のことを心配してくれるリンちゃん……マジかわ……。
普段は素っ気無い態度を取るくせに、こういうときだけ近づいてくるなんてどんだけ私キラーなのよ。ドストライク! 大好物だよこんちくしょー!
だ、だけど気をつけなければまた『色欲』の発作が来てしまう。
意識して自重しなければ……。
「そ、そういえばリンはどうして私を助けてくれたの? 結局聞きそびれちゃってたんだけど……」
「……言わなきゃ駄目?」
「駄目じゃないけど駄目ー!」
主に私の頭が!
あばばばっ、あまりの可愛さに脳みそがやられるぅぅぅ!
上目遣いでそんなこと言わないでぇぇぇ、色欲出ちゃうからぁぁっ!
「……どっちなの。まあ、いいけど」
一度だけため息を漏らしたリンは、ゆっくりと口を開く。
「……人族以外の人間を見たのは本当に久しぶりだった。だからちょっと……嬉しかった。ただ、それだけ……」
リンはどことなく寂しげな表情でそう言った。
それはもしかしたら私がアリスに感じていた仲間意識と同じものなのかもしれない。同族を見つけた……"人外"の共感覚。それをリンは私に感じていたのだろう。
それが分かったから私は今までみたいにリンを茶化すことが出来なかった。今回ばかりはどうしても。
だってその気持ちは……痛いほどに分かってしまったから。
「……そっか」
「……うん」
吸血鬼と獣人族。
種族は違っても感じる心は一緒だ。
この人族の社会の中では私達は同じく爪弾き者。どうしたって異端者として扱われてしまう。そんな極少の少数派に属する私達はいつでも求めている。理解ある他者を。
そして……
「……リン?」
リンはようやく見つけたのだろう。
この迷宮で人生初めての理解者を。
「…………き、気にしない」
ぎゅっ、と握られた手のひらからそのことが伝わってきた。
真っ赤な顔をしながら俯き歩くリンに……私は温かな気持ちになるのを感じていた。
願わくば……この小さな友人に幸福な未来が訪れることを。
この世界の神様がポンコツだと分かっていながら、私は祈らずにはいられなかった。




