第7話 ルナ・レストン、3歳
私が生まれてから3年が経った。
3年、そう3年だ。
この間、奇跡的に私が吸血鬼だとばれることはなかった。
それもこれも、あの日気付いた抜け道を利用してのこと。
持っていた5つのスキルの内、私が目をつけたのは『苦痛耐性』のスキルだ。
私はとにかく最優先にこのスキルの熟練度を上げることにした。
熟練度が上がればその分苦痛に強くなれると踏んでのことだ。
え? 熟練度を上げる方法? んなもんちょこっと太陽で肌を焼けば済むことよ。全身だと死ぬほどきついけど、体の一部ならまあ耐えられない事もないからね。
我ながら無茶すぎる解決方法だと思わないでもないけど、それしか方法がなかったのだから仕方がない。そうして苦痛耐性を上げたおかげで、今は結構太陽の光も平気になってきている。
とはいえ、日の光を受け続けるにも限界はあるけど。
大体3分を超えたあたりから痛みが増してきて、10分以上となると痛みに耐え切れなくなってくる。それを超えると体が文字通り溶け始めるから注意が必要。
一度溶けかけたときはマジで焦った。
けどこれぐらい耐えられるようになればちょっと肌が弱い子で通すことが出来る。いやあ、苦痛耐性様様ですわ。
あ、ちなみにこの世界のスキルに鑑定というものはないみたい。
というか普通の人たちはスキルという概念すら知らないらしい。
どうやら鑑定もヘレナさんの言っていたシステムスキルに分類されるもののようで、普通の人には使えないスキルのようなのだ。これなら鑑定から吸血鬼バレすることもないので一安心だ。
それ以外にも吸血鬼なんだから吸血衝動に駆られたりしないのかなって心配もあったけど、今のところそういうのはきてない。生まれてこの方一度も血を飲んだことがないけど、別に問題はないっぽいね。一体どこら辺が吸血鬼なんだか。あっ、日の光に弱いあたり吸血鬼だったわ。その性質いらねー!
という訳でひとまずの解決を見せた吸血鬼問題だったけど、最近は別の問題が浮上してきている。
というのも……
「あーん、ルナちゃん今日も可愛いっ!」
ぎゅうううっ、と私の体を抱きしめるのはティナ・レストン。私の母親だ。
「お母様、離して下さい。苦しいです」
「もうちょっとだけ触らせてっ! ね? いいでしょう?」
駄目だ。いつものことながらこの人、私から離れる気がないらしい。
目下の悩みは、まさしくこの母親に関してだ。
隙あらば抱きつき、よしよししてこようとする。
まあ、美人に抱きつかれて嫌な気はしないけど、いかせん母親だからね。しかもこれが毎日となれば嫌気が刺すってもんよ。
「お母様には落ち着きが足りません。もっと大人らしくしてください」
「むう。ルナちゃんに怒られた……」
しょぼんと肩を落とすティナ。ちょっと言い過ぎたかな?
でもこれくらい言わないと離してくれないからなー、この人。
「うん。ルナちゃんエネルギーも補充したし、そろそろお店の方に出ようかな?」
「頑張ってください。お母様」
「……行かないでー、って泣きついてもいいのよ?」
誰が言いますか。
というかルナちゃんエネルギーって何だよ。
ちらちらとこっちを何度も確認するティナが完全にいなくなったのを確認して、一息。
ふう、ようやく一人になれた。
最近、ティナの絡みが露骨になってきたからなあ。何か対策したほうが良いのかも……はあ、これも全て私の外見のせいだ。
両親の顔立ちから期待を持っていた私の容姿、実際見てみると予想以上だった。
可愛らしさと精悍さを足して2で割ったような中性的な顔立ちに、プラチナブロンドの髪。蒼色の瞳はまるで宝石のよう。加えてミルクのように白い肌と相まってまるでお人形のような姿だ。まだ体が出来てないからちょっとバランス悪いけど、成長したらかなりの美人になると思う。
今はまだ小さいから可愛らしい印象が強いけどね。
以前、うちが経営している定食屋に顔を出したら店の客が私を見て、凄く盛り上がっていたのを覚えている。「天使だ!」とか「お人形さんみたいっ!」とか。
まあ、悪い気はしないよね。
それと他にもいくつか分かったことがある。
まず一つ、どうやら吸血鬼という種族はかなり珍しいらしい。この世界には色んな種族があって、主なところだと『人族』『長耳族』『地人族』『魚人族』『獣人族』『巨人族』辺りかな。
どれも族ってついているくらいだからそれぞれに社会を形成して、力を合わせて生活してる。それとは別に私の『吸血鬼』みたいに個体で活動する種もいるみたい。吸血鬼以外だと『精霊』もそうだね。
そうやって色々な種族がいるのは実にファンタジー的で嬉しいところなんだけど……実は私、人族以外をまだ見たことないんだよね。どうもこの世界、それぞれの種族は共生していないみたい。
その辺が文明レベルの伸び悩みに繋がってる気がするけど、こればっかりは仕方ない。私一人でどうにかなる問題じゃないし、見た目的な違いって結構受け入れ難いものがあるのも分かる。
それより私が気をつけなくちゃいけないのは、私が吸血鬼だってバレたらまずいってこと。予想した通り、一般的に人族は他の種族を『亜人』と呼んで排斥している。
亜人……つまり人未満の生物ってことだね。
うん。バレないように活動してて正解だったよ。
これからも注意していこう。