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吸血少女は男に戻りたい!  作者: 秋野 錦
第2章 迷宮攻略篇

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第72話 人生楽しそうに見える奴は基本的に楽観主義者

 私がウィル達のパーティに参加して一週間が経った。

 最初はどうなることかと思ったけど、それなりに機能して見えた。

 魔物相手にはノワールが盾役、魔術を使えるウィスパーが後衛、前線はウィルとクリスが支えジルとレオンが援護。リンは周囲の索敵と撤退時の殿として後詰に配置されている。

 すでに完璧な布陣のわけだが、そこに遊撃として私が加わったことで更に磐石の態勢を見せた。


「いやー、しかしルナが魔術師だったとは驚いたぜ。その歳で良くあそこまで使いこなせるもんだな。役に立てるか分からないとか言っておきながら、一番役に立ってるんじゃないか? ええ、おい?」


 バンバンと私の背中を叩きながらウィルが絶賛してくる。

 魔術と言っても隙の多い影魔術、しかも射程が5メートル程度しかない欠陥魔術だってのに偉い信用の仕方だな。まああれだけ足止めしてくれる人がいるなら確かに硬い装甲も貫ける魔術は有効なんだろうけどさ。


「ノワールにも一番きついところを担当してもらってるし、雑務も含めてリンがいなけりゃチームとして回らねえ。こりゃ男共の面子が丸潰れだな! あはははっ!」


「その丸潰れの面子の中にはウィル様も含まれている事をお忘れなく」


「今日はいつになく辛らつだなあ、ノワール。何か嫌なことでもあったのか? あ、もしかして女の子の日なべらっ!?」


「デリカシーが皆無ですか、あなたは」


 ウィルの顔面に肘鉄を入れたノワールが飄々と語る。

 それを見て手を叩いて笑うのがレオンとジル。他の面々は冷ややかな視線を向けていた。

 うん……能力的には噛み合っていても性格はばらっばらだわ。この人たち。


 ちなみに今、私はみんなの食材を預かって調理している最中だ。ほとんど最年少の私が一番料理美味いってどういうことなのかと小一時間くらい問い詰めたい気分だが仕方ない。

 別に料理作るのが嫌いなわけじゃないし。

 師匠のところにいた二年半でもう慣れちゃったよ。


「だけど実際のとこ、このパーティで功労者を立てるならルナとリンがワンツーフィニッシュなのは間違いないよな。戦闘以外ではお前らほんと、役にたたねえし」


「「「お前(ウィル様)にだけは言われたくねえ(ないです)」」」


 はは……本当に良いチームだ。


「あ、リン。そろそろ火を止めるようウィスパーに伝えてきて。その間に私は食材運んでおくから」


「……分かった」


 何もしない組(ウィル、ノワール、クリス、レオン、ジル)で誰が一番家事が下手かを言い争っている間に私達料理組(私、リン、ウィスパー)で支度を整える。

 ちなみに少し気になっていたリンのご主人様はなんとウィスパーだった。ウィルだとばかり思っていたけど少し意外。でもウィスパーは犯罪値に反して割と気の効くところがあるし、私が受けていたような扱いはされていないからむしろ安心かもしれない。今も料理を手伝ってくれているしね。まあ能力的にどうしても必要だったんだけど。


 ウィスパーは魔術師なのだが、得意系統は土系統……その中でも魔法陣の運用に関する知識が豊富だ。自作の魔法陣を幾つか持参しており、その中には調理用の発火魔法陣もある。

 本来発火には火系統の魔力性質が必要なのだが、その点は自前の魔鉱石で代用している。そんなに大きな石じゃないから本当に簡単な魔術しか使えないんだけどね。

 魔法陣にある術式を通してようやくライターの火が使えるようになる程度だ。

 だけどライター程度の火だとしても、迷宮での生活にはなくてはならない。今までずっと生で食ってたのが馬鹿らしくなる簡単さで火が灯るのは感動的ですらある。


「料理できたよ」


「おおー! 待ってました!」


 そして今日もまた宴にも似た食事が始まる。

 騒がしいことこの上ないのだが、不思議と落ち着く自分がいた。

 やっぱり私にはこっちの方が性に合っているらしい。


「よーしよし。今日の成果は魔鉱石の原石が少しと、魔物の素材だな。ノルマは確保できたってところか。そろそろ荷物の限界も近いし、一度帰還するか」


 その食事の途中、毎回行っている成果確認の場で唐突にウィルが言った。


「そうですね。今回は結構長引いてますし、そろそろ潮時かと」


 続くノワールがちらりと私に視線を向けてきたのを見逃さなかった。

 どうやら私に気を使ってくれているらしい。良い人や。


「反対意見がなければ明日からは帰還に向けて動くぞ。何か意見があるなら今の内に言っておけ」


 それからパーティ内でルートや配分について軽く触れていたが、基本的に誰も帰還方針に異を唱えるものは居なかった。


「良し。それなら決定だな。明日からは迷宮脱出に向け、動くことにする! 以上、各自休憩! 解散!」


 ウィルのはきはきとした声が響く。

 それから私達は交代で睡眠を取る事になった。二人一組で見張りをする決まりなのだが、一組あたり二時間、それぞれ合計六時間ずつ睡眠を取る形だ。

 私は最年少と言うことで優遇されそうだったのだが、そこは希望を通す形で一番最初にしてもらった。というのも、長い迷宮生活の賜物かそれとも吸血鬼としての性質なのか私はあまり睡眠が必要ない体のようなのだ。


 一日中活動しても全く眠くならないこともざらだ。そんな体だから出来るだけ見張りを受け持ちたいってわけ。先に見張りをしておけば、早く目が覚めたってことにして起き出せるからね。

 というわけで最初の組にしてもらったのだが……


「……あ」


「……よろしく」


 私の相方はどうやらリンだったらしい。

 いつもの無表情のまま、焚き火をじっと眺めている。

 基本的にこの子は主人と同じで喋らない。なので一緒に時間を潰すには少々きつい相手だ。出来ればウィルかノワールが良かったけど、あの二人は最早鉄板の組み合わせだからなあ。

 ノワールが譲ってくれるとは思えないし。と言うか絶対ノワールはウィルのことが好きだよ。間違いないね。

 そのことをリンに聞いてみても、


「……知らない」


 取り付く島もない。もう少し話を広げようとかしてくれませんかねえ。


「リンはそういうの興味ないの? ウィルは格好良いし、強いし、優しいし、それなりの優良物件だと思うけど?」


「好きとかそう言うの……良く分からない」


 まあ、確かにまだ8歳だしそう言うものかな。

 むしろ9歳の癖にそんなことを気にしている私の方がませているのかもしれない。だけど許して欲しい。これでも精神年齢はおっさんなんだ。


「それに私は……奴隷だから」


「え? 奴隷だからって恋しちゃ駄目なんて決まりはないよね?」


「……普通に考えて、色々無理でしょ」


「んー、そうかな」


 出来ないこともないと思うけどなあ。

 例えば禁断の主従恋愛とか?

 いやウィスパーとリンの無口コンビでそれはないわ。ぷぷっ。


「……ルナは自由で良いね」


「自由の定義にもよるでしょ、それ。こんな地下迷宮に囚われた私のどこが自由だってのよ」


「……私から見たら少なくとも自由に見えるよ。少しだけ……羨ましい」


 ポツリと漏れたリンの本音。

 それは確かに私の耳に届いていた。


「私が自由に見える、か」


「……何?」


「いや、確かに私は自分勝手に生きてきた自覚はあるんだけどね。振り返ってみれば人生間々ならないことばかりだったなあって思ってさ」


 魔力が暴走したことから始まり今日までの日々は何一つ私の人生設計にはなかった展開だ。まさかこんな遠いところまで来る羽目になるとは夢にも思っていなかった。


「だけどそれでも私が自由に見えるって言うんなら……それはきっと私が自由であろうとしてきた結果なんだと思う」


「…………?」


「つまり何事も望まなければ、行動しなければ掴めないってこと。自分で欲しいものがあるのなら降ってくるのを待つんじゃなくて、自分から取りに行かなくちゃね」


「でも……もし手に入らなかったら?」


「始める前から失敗を恐れてたら何も始まらないよ。人生を楽しむコツは適度に楽観的になること。これ、私の人生論ね」


「…………」


 リンは私の言葉に思うところがあったのか、深く考え込む。

 ぴこぴこと獣耳だけが上下に動いているのが非常にチャーミング。


「ルナは……後悔したことない? 自由に生きようとして、上手くいかなかったことは?」


「それは愚問だね。私の人生、上手くいった試しがないよ」


「……駄目じゃん」


「でもね」


 私はリンに視線を合わせ、柔らかく笑みを浮かべて見せる。


「上手くいかなくても後悔したことはないよ。いつだって私は自分を曲げたことはないからね。もしその結果死ぬことになったとしても……私はそれを受け入れるよ」


「…………」


 リンの瞳が私をじっと見つめてくる。

 言葉の真意を探すように。


「だからリンもさ、何か欲しいものがあるなら口に出しなよ。もしかしたらどこかのお人良しが助けてくれるかもよ?」


「…………」


 リンは私の言葉を受け止め……さっと視線を逸らした。

 ……って、あれ?


「……ルナは馬鹿だね。私はそこまで能天気にはなれない」


「あれー? おっかしいなー? 今完全に、イイハナシダナーって空気だったじゃん? あれー? 私の気のせいだった?」


「……そろそろ見張りに専念する」


「つまり黙れってこと!? ごめん! そんなにうるさかった!?」


 瞳を瞑って、聴覚に意識を集中させるリン。

 どうやら本当に見張りに専念するつもりらしい。

 ちぇっ、もうちょっと暇つぶししていたかったけど仕方ない。

 収穫もあったことだし、良しとしよう。


 しかし……リンの瞳、綺麗だったな。


 先ほど見つめあったときのことを思い出す。

 リンは人見知り、というか人と目を合わせるのを極端に嫌う。だから今まで気付かなかったのだけれど……リンの瞳は私のものと同じ、綺麗な瑠璃色をしていた。

 ちょっとした共通点を見つけ、少しだけ嬉しくなった私は鼻歌を歌いながら見張りを続ける。そして……


「……うるさい」


 当然のようにリンに怒られるのだった。

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― 新着の感想 ―
え、意外。中身腹黒な似非熱血野郎がこき使ってんのかと思ったら違うんか でも子供の奴隷なのに疑問抱かずこき使ってるあたり人族がいかに傲慢かわかるな。 いやまぁ、回数重ねるうちに何言っても無駄みたいな結論…
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