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吸血少女は男に戻りたい!  作者: 秋野 錦
第2章 迷宮攻略篇

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第69話 深い業を背負いし者、その名はケモナー

「それでねー、体が重いなーと思ってふらふらしてたら急に眠くなってねー」


「……うん」


「そんで力尽きてぶっ倒れて、気付いたら知らん奴らに囲まれててさ。いやー、ビビッたね」


「……そっか」


 こくこくと相槌を打ちながら話を聞いてくれる獣人の少女。

 彼女は名前をリン・リーと名乗った。あんまりお喋りなタイプではなかったけど、特に強く拒絶してくる訳でもないので普通に話をすることくらいは出来た。

 そんで今頃になって気付いたんだけど、私って同年代の相手には急に砕けた態度を取るタチらしい。内弁慶の亜種みたいな? 特にリンは私の琴線に触れまくる可愛らしさだったからぜひとも仲良くしたいところだ。


 藍色の髪を短く束ねたリンは私の話を聞きながらせっせとテントの増築を進めている。どうやら時間までにテントを張っておくように指示されたらしい。

 あ、勿論私も手伝ってるよー。

 可愛い女の子一人に仕事を押し付けられないからね。


「……痛っ」


「傷、痛むの?」


「う、うん。ちょっとね」


「……待ってて、包帯変えるから」


 あう……手伝うつもりが仕事を増やしちゃった。

 これぐらいの傷、吸血モードになれば一瞬で治るはずなのに今はそれが出来ない。パーティのメンバーに私が吸血鬼だってばれるわけにはいかないからね。

 あの状態の私は角が生えるわ、目が光るわで目立ちすぎる。少なくとも皆と一緒にいる間は大人しくしていよう。


「取ってきた。そこに腰掛けて」


「うん」


 段差に腰をかけ、足やら腕やらに包帯を付け替えてもらう。

 動きにくいけどこればっかりはしょうがない。


「……怪我だけじゃなくてルナには魔力欠乏の症状もあった。今日一日は魔力を使わないようにして」


 私の方を見ないままリンはそう忠告してきた。

 魔力欠乏。要は魔法の使いすぎってことだね。魔力が枯渇してくると、魔力を生み出すとされている心臓部に強い負担がかかるらしい。

 前回、起き抜けに魔術を起動しようとして痛みが走ったのは多分、それが原因だと思う。結構な鈍痛だったからリンの言うとおり、今日は安静にしておこう。


「ありがとうね、リン」


「…………別に」


 リンは無表情のまま、治療を終え立ち上がると再びテント増設の作業に戻っていった。手伝おうとしたら「大人しくして」と言われ、仕方なく作業を見守ることに。


「…………(←見つめる)」


「…………(←見つめられる)」


 いやー、それにしても……生命の神秘だなあ。

 ふわふわした獣耳、ちょこちょこ動き回るその姿は小型犬を思わせる挙動だ。実に可愛らしい。いくらでも眺めていられそうだ。


「…………(←見つめる)」


「……そんな見られてるとやりにくいんだけど」


「ご、ごめんなさい」


 怒られてしまった。どうやらリンは職務に忠実な忠犬らしい。

 猫と犬なら断然猫派だったけど、これは宗派変えもありうるか?

 しかし……本当によく働くな。リンは。

 私が眠っている間もずっと何かしら仕事をしていたみたいだし、疲れないんだろうか? 獣人族は体力に秀でた種族だとは聞いているけどそれにしたって限界はあるだろうし。


(…………辛く、ないのかな)


 この作業のことだけではない。

 奴隷としてこき使われるその現状に悲観はないのだろうか?

 私は抗った。拒絶した。そんな扱いには耐えられないと、ついには主人を罠に嵌めてまで自由を求めた。リンにはそういった感情はないのだろうか?


 聞いてみないことには分かるわけもない。

 だけど……そういう他人の本音に迫るのは正直怖い。


 もしもリンが自由になりたいと主張したら? 私はそれを聞いてどうする?

 結局、中途半端に関わるべきではないのだ。こういう根の深い問題に関しては。これはウィル達の問題であり、私が関与すべきではないと割り切るしかない。


 ……納得のいかない部分はあるけどね。

 奴隷だからって一人のけ者にして、皆がご飯食べている間も作業させるなんていくらなんでも可哀想だ。


 でもそういう感覚ってのはきっと普通じゃないんだろうな。

 この世界には奴隷と呼ばれる存在がいて、粗末に扱われている。

 その現実を私は痛いほどに知っている。身に染みて知っている。

 奴隷側だったから、身内びいきに似た感情を抱えているのは否定できない。だけどそれでも奴隷という存在に対して私の思うところは大きい。

 とはいえ、今はどうすることも出来ないのだけれど。


「おーい、ルナ! そろそろ戻ってこないと飯全部なくなっちまうぞ!」


 遠くから私を呼ぶウィルの声が聞こえる。立ち上がって見ると、こちらに手を振るパーティの面々が写った。

 私は一度、リンをこのまま置いていくべきか逡巡して……


「……行って」


 小さく、しかし確かに聞こえた声。それはリンのものだった。


「……いいの?」


「私に気を使う必要はない。行って」


 再び、今度はより強い催促の言葉。

 こちらを見ようともしないリンの背中は明らかに私を拒絶していた。

 だから……


「……何してるの?」


「後でウィルには謝らないとね」


 私は改めてその場に腰を下ろし、リンの作業が終わるのを待つことにした。


「…………」


 リンは一度だけ私を見て、それからすぐに作業に戻っていった。

 私の行動をリンは深く追求しては来なかった。私もわざわざ言葉にしたりはしない。

 私はいつだって私のしたいように生きている。今はただ……もう少し、この可愛らしい獣人族の女の子を眺めていたくなっただけだ。

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