第68話 人ならざる者
ノワールの許可を得た私は焚き火に集まり、他のメンバーから自己紹介を受けた。
「クリスだ。よろしく」
「俺はレオンだ。よろしく頼むぜ、子猫ちゃん」
「私はジル。ちなみにその料理は私の自信作だから、味は保証するわよ」
「……どうも」
うわわ……こんな一度に色んな人に囲まれるとか何時ぶりだろ。
しかも全員年上……うう、人見知りスキルが自動発動しそうだ。というかすでにしてるんですけど。
でも全員良い人そうで良かった。最初はちょっと疑ってたけど、何かするつもりなら私が眠っていた間にするだろうし、ひとまずは信用しても良さそうだ。全員頼りになりそうな風格を持ってるしね。流石ノワールが優秀と言うだけあるメンバーだ。
でもなんだろう……今ちょっとステータスを確認してみたら三人とも普通の冒険者って感じのパラメーターだったのにこの溢れ出る安心感はどこから出ているんだ? 一人一人が一騎当千の兵みたいな風格すら感じる。特にリビングデッド的な魔物相手には無双しそうなオーラがあるぞ。
「おい、ウィスパー。お前も自己紹介くらいしろよ」
焚き火に集まり、話し合う私達を少し遠くから眺めていた長身の男にウィルがそう言って催促した。ウィルに言われてようやくウィスパーという名前らしい男は小さく会釈して……また一人黙り込んでしまった。
「あー……まあ、あれだ。アイツは無口な奴なんだ。誰に対してもあんなだから気を落とさないでくれ」
ふーん。あの人も人見知りするタイプなのかな。
個人的に仲良くなれそうな予感。この人も鑑定してみようかな。
視線をウィスパーに合わせ、鑑定をしようとして……失敗する。鑑定の弱点として、人物鑑定は相手の顔が見えないと出来ないという欠点がある。ウィスパーはフードを目深に被っているせいで、その顔立ちが良く見えない。まあ、あの人は後で鑑定することにしよう。
それより今は少し気になることがある。
誰かに聞いてみたいんだけど……誰に聞こうか?
①ここはリーダーであり、一番優しそうなウィル。
②事情を話してから急に穏やかになったノワール。
③寡黙な仕事人イメージでお父様にも通じるところがあるクリス。
④軽薄なレオン。
⑤思ったより美味しくなかったスープの調理人、ジル。
⑥未だ名前しか分からない謎の男、大穴でウィスパー。
ここ結構大事だぞ。
これがギャルゲーならルート分岐しているところだ。
まあ④と⑥がないことだけは確かだけど……うーん。ここはやっぱり無難にウィルにしとくか。一番親切にしてくれたし、ああいうタイプは頼られて悪い気はしないだろう。
ということで、
「……あの」
「ん? どうした?」
ウィルの服を引っ張り、気になっていたことを聞いてみる。
「このパーティって七人なんでしょ? あと一人は?」
「ああ、そのことか。もう一人は……うーん」
ウィルは何かを言いかけて、私の顔を見ると急に言いよどむ。
何だ? 何か私に言いにくい事情でもあるのだろうか?
「えっと、ルナは今何歳なんだ?」
「9歳だけど」
「そっか。その歳で迷宮に挑戦なんて凄いな。それで最後の一人なんだが……その娘はルナと歳も近い女の子だ」
おお。マジか。それはちょっと嬉しいな。
この中のメンバーはノワール以外20歳越えてる人ばかりだから平均年齢が下がってくれるのは個人的に助かる。うん。是非仲良くしよう。
「だけどその子はルナとは事情が違う。無理に仲良くしようとかは考えなくていいからな?」
………………ん?
それはどういう意味だ?
ウィルの言い方はまるで仲良くするなと言っているみたいだった。というかそうとしか聞こえなかった。事情が違うってのはどういうことなんだろう。
「気になるなら見て来れば良い。今は後ろの簡易キャンプで作業しているはずだから。ああ、それと倒れているルナを見つけてくれたのは彼女なんだ。一応、それだけ伝えとくよ」
最後の女の子とやらが気になった私はウィルの勧めに従い、焚き火から少し離れた位置に用意されているテントの元へ向かった。
私を最初に助けてくれたって言うのも引っかかったからね。このパーティの人たちと付き合っていく上でどうしても確認しておきたかったこと。それは私が吸血鬼だとバレていないかどうかということだった。
最初に発見したのがその女の子だというのなら、まずはその子に探りを入れてみるべきだろう。眠りに落ちた時、すでに吸血モードの持続時間もそれほど残ってはいなかったら、多分気付かれてはいないだろうけど念の為にね。
さて……どこにいるかな?
きょろきょろと周囲を見渡して人影を探す。すると……いた。見つけた。
どうやら新しいテントを増設しているのか、杭を持って何やら奮闘している様子。というか何で一人でやらされているんだ? ウィル達も誰か手伝ってやればいいのに。
「あの……」
呼びかけようとした瞬間、こちらの気配に気付いたらしい女の子はビクッと体を震わせて振り向いてきた。そして……その少女の風貌を見た私はかつてない驚きに包まれていた。
他の六人に比べ、明らかに質素な服装。首元に巻かれた首輪にはとある術式が組み込まれていた。それは私にとって記憶に新しく、忘れられない忌々しい術式。
──それは奴隷を生み出す絶対遵守の術式だった。
奴隷の女の子は驚く私にさっとフードを被って顔を隠すような仕草を見せた。
だけど少しばかり手遅れだった。私は彼女が隠そうとしたものをばっちり視界に収めてしまっていた。
私が驚いたのは彼女が私と同じ、奴隷だったから……ではない。
「貴方……もしかして……」
フードに隠される寸前、私は見た。
少女の頭頂部に生えていた人工物とは思えない獣耳を。
「獣人族、なの?」
それは人族の社会で暮らしてきた私が始めて目撃することになる獣人族の少女。アリスのハーフとは違う。純度100%、混じり気なしの異種族だった。




