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吸血少女は男に戻りたい!  作者: 秋野 錦
第2章 迷宮攻略篇

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第57話 人生とは予想外の連続だ

 大発見だ。

 とてつもない大発見を私はしてしまった。

 このフェリアル大迷宮に落ちてから、ずっと私を苦しめ続けてきた空腹問題……これについに終止符が打たれたのだ。


 これまで辛かった。

 蛇を食べたり、鳥を食べたり、良く分からない生き物を食べたり、水で空腹を誤魔化したり……けれどもう、そんなことはしなくて良い。しなくて良くなったのだ。


 というのも新しく手に入れた『変身』スキル。

 これがまた役に立ってくれたのだ。

 いやー、ごめんね。最初、使えないスキルなんじゃね? とか思っちゃって。君は他のスキルの中でも1、2を争う優秀さだったよ。


 特に今回、食料確保の方法を確立出来たのは嬉しい。

 あ、いや別に分離した自分の体を食べるとかっていう完全自給自足方法じゃないよ? 一応やってみたけど、消費する魔力の方が多いせいか全然お腹膨れなかったし。


 それに自分の血で作ってるせいか、吸血モードにもなれなかった。

 これでなれたらそれこそ無双出来てたんだけどね。惜しい。

 そうじゃなくて、私が目をつけたのは変身体(蝙蝠)の持つ『吸血』スキル。これが本当に便利だった。


 間単に言うなら、そこら辺の虫の血液を蝙蝠が摂取することで私にも還元されるという大発見を私はしてしまったのだ。

 私は気持ち悪い思いを一切することなく、エネルギーだけを集めることが出来る。まあ、食べた蝙蝠を一度体に戻す必要はあるけど、エネルギーを摂取することだけを考えるならこんなに楽なこともない。

 実際に私が食べる必要がないからね。

 血を吸った時のあの甘美な味わいを感じられないことだけは残念だけど、これ以上蛇とか鳥とかを生食してたら変な病気をもらいそうだし、安全面も考えて今後はこの食事方法を採用しようと思う。


 私自身は何も食べない訳だからお腹空かないのかな、とか思ってたけどそんなことも全然なくここ一週間近くはずっとこの方法で続けられている。

 食べ物がなくても、血さえあれば私は生きていけるみたいだし。食糧事情が大幅に改善されたのはここ一番のグッドニュースだ。

 流石は吸血鬼ってところだね。


 今思えば昔からどんな料理でもあまり美味しいと感じたことがなかったのは、この辺の事情が関係していたのかもしれない。

 吸血鬼の主食は血液。

 人間の食べ物は代替品でしかなく、私にはそもそも不要なものだったんだ。だからこそ、どんな料理も味気ない料理にしか感じられない。お父様の作ったものをしっかり味わえないっていうのは、私にすればかなりショックなことだけどこればっかりは仕方がない。

 吸血鬼の宿命として受け入れよう。


「……ふむ。この辺りの地形は大体把握したかな」


 気を取り直して、マッピングを再開する。

 今は現在位置の把握のため、周辺を歩き回っているところ。

 実際の地形と、地図の地形を照らし合わせて現在位置をあぶりだそうってことだね。これがなかなか難しいんだけど。

 私の測量が下手なのか、地図の読み方が下手なのか、またはその両方なのか一週間かけてもまだ現在位置の割り出しには成功していない。


 残り2、3個までは絞り込めたんだけど、そこからはどこも似たり寄ったりでより正確な情報が必要になってきた。だけど道具もない状態で、そんな正確な測定が出来るわけもなく、現在途方に暮れているってわけ。


「そもそもこの地図がどれほど正確に記されているのかって問題もあるよね。そこから疑いだしたらキリないんだけど……」


 思ったより簡単に脱出できるかも、なんて思っていただけにこの足踏みしている状況には歯がゆさがある。

 これからは思い切って行動範囲を広げてみるべきかもしれない。

 土蜘蛛とばったり出くわさないよう、それほど遠くには行った事なかったわけだけどこのままじっとしていても始まらない気がしてきた。


 進むか、留まるか。

 その二つの選択肢で、どっちを選ぶかなんて決まってるよね。


 当然……私は進むぜ!

 前か後ろかと聞かれたら前。

 上か下かと聞かれたら上。

 男か女かと聞かれたら、やっぱり女を選びたい!


 ……いや、自分の性別ではなくてね? 人生のパートナー的な意味でね?

 どうも最近、意識から外れてたからここらで一度ネジを巻きなおそう。

 私は男、私は男、私は男……そして、将来の夢は男に戻ること!


 良し。大丈夫。私はまだ自分を見失ってないぞ。

 ずっと一人で、こんな薄暗いところにいたら精神的にも不安定になりかねないからね。こうして自分の原点を確認するのは多分大切だ。


 気合も入れなおしたところで……探索、再開しますか。

 えっと、まだ行ってない方向は確か……こっちか。

 うわ、また随分足場が悪いところだな。細かい段差が幾つもあって、かなり危なそうだ。走ったらこけるね。間違いない。これまで以上に注意して進もう。


「んー、結構狭いな。これなら土蜘蛛もいないだろうけど、行き止まりになってないかちょっと心配」


 私が選んだ道は進めば進むほど、先細りしていくように道幅が狭くなっていた。それでも私が手を広げて進んだとしても十分な広さがあるけど、これだけ道幅が狭いのは始めての経験だ。

 戦いになれば、影糸が使いやすくて私には有利かもしれないけどね。


「さーて、鬼が出るか蛇が出るか……いや、鬼は私か」


 自分でセルフ突っ込みを入れながら進む。

 最近独り言が多くなってきた気がする。

 寂しい人みたいだ。実際、ボッチなんだけどね。


 友達になれそうな奴がこの先にいたりしないかなー。しないよねー。きっと。これまでの経験的に。

 この迷宮の生物は基本的に食うか食われるかの関係だ。

 歩み寄った瞬間にカブリとやられるに決まっている。

 どんな奴が出てきても、油断せずに行こう。うん。


 …………なんて思っていた時期が私にもありました。

 新しく進む道の先に待っていたのは……


「にぃー、にぃー……」


 なんと、生まれたばかりの子猫だったのだ。

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