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吸血少女は男に戻りたい!  作者: 秋野 錦
第2章 迷宮攻略篇

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第55話 術式限界

 強制的に全裸にさせられた私は、落としていった服やら荷物やらを回収して改めて上階へと上がって来ていた。

 蝙蝠の体では持ち上げることが出来なかったので、一部の荷物はかつての敵である白鷹に持ってきてもらった。

 いや、要は自分の体の一部を白鷹に変身させたって意味なんだけどね? かつての敵は今現在も敵です。次会ったらまた食料にさせてもらおう。うん。

 あ、そうそう。変身の欠点を見落としていた私はもう一度、『変身』スキルの性能を確かめるために変身した状態で鑑定をしてみたんだ。

 そしたら……


【変身体・蝙蝠

 体力:10/10

 魔力:10/10

 筋力:10

 敏捷:10

 物防:10

 魔耐:10

 スキル:『吸血』】


 いやもうなんとも言えない貧弱モンスターが誕生していたよ。

 ははっ、このステータスの低さよ。ここまで低いと我ながら笑うしかないわ。


 でも、一つだけ良かったのはこの状態でも唯一、『吸血』スキルだけは生きているっていうことだね。

 確かにこの体、一体一体は弱いけどまとめて襲い掛かればそれなりの脅威になることは我が身を持って経験してる。このスキルを使えば私が直接血を吸わなくても吸血モードに入れるかもしれない。


 少しずつではあるけど……うん。私は確かに強くなってる。

 こうやって戦略が増えるたび、成長している自分を実感できるのは素直に嬉しい。

 言ってもそのほとんどは敵から構想を得たものばかりだけど。


 影糸のヒントは土蜘蛛から、蝙蝠への変身はそのまんま蝙蝠群から、操魔法・舞風は白鷹から、レベルアップに関しても蟻共がいなければここまで急成長は出来なかっただろうし、結果的には彼らに助けられているとも言える。


 ……え? スライム?

 あー、そういやそんな奴もいたな。

 全く役に立った記憶ないし、忘れてたわ。

 正直、どうでもいい。経験値的にもそんなに美味しくなさそうだしね。

 はぐ○メタルになって出直して来い。そしたら相手してやる。


「さて……この辺かな?」


 記憶を頼りに歩いていると、唐突に視界が開けて大広間に出た。

 ここは忘れがたき土蜘蛛との決戦の場所。転移トラップにより、移動させられた広間だ。

 私が上階まで上ってきた理由はこの広間に来たかったからだ。下手したらまた土蜘蛛と出くわす可能性もあるけど、吸血モードの私なら何とか【戦略的撤退】が出来るだろう。

 土蜘蛛と出くわすリスク。

 それと引き換えにしてでも私が手にしたかったのは……


「……あった」


 それは地図。

 ガンツのパーティメンバー全員が持っていたこのフェリアル大迷宮の地図だ。

 どうせなら武器も手に入れておきたかったのだけど、どうやら死体と一緒にどこかへ運ばれたらしくどこを探しても見つからなかった。


 まあ、誰が持って言ったかは明白だし、取り返しに行こうとは思わないけど。

 当初の目的である地図を手に入れたことだし、ひとまずはこれで満足しよう。

 この場所は気持ち悪いから、ひとまず落ち着ける場所まで移動して……と。


「さーて、頼むよー。ここから出られるかどうかは君にかかってるんだからね」


 薄暗い洞窟内で地図を広げる。吸血鬼でなかったら、この暗さにまずやられてただろうね。本気で何も見えないから。私の場合は夜目が利く体で本当に助かってる。


「えーと……確か転移させられた場所は……」


 転移系のトラップが厄介な理由は自分がどこにいるのか分からなくなり、地図が意味を成さなくなるからと言われている。

 だが、師匠の下でそれなりに術式理論を学んだ私から言わせれば全く分からないということもない。少ないながらも手がかりは残っているはずだ。


 まず、私達が転移させられた場所を把握。

 中層の入り口から僅か10分程度の場所だ。この辺りは彼らが何度も確認し合っていたから私も覚えている。

 そして、肝心の難題。私達は一体どこに飛ばされたのかということだけれど……これもまた少し考えれば範囲は絞られてくる。


 魔術や魔法と言うものは何でも自由に世界を変えられる術ではない。

 そこには確固たる仕組み(ルール)が存在し、制限が組み込まれている。

 私の魔法にしたって様々な制約が付きまとっている。その際たるものが射程だね。火系統は『変質』、水系統は『付与』、風系統は『移動』、土系統は『維持』、光系統は『干渉』、闇系統は『収束』にそれぞれ特化している。


 私は風と闇にしか適性がない。

 だから火系統魔法で空中の大気を媒体に炎を生み出したり、水系統魔法で石ナイフの切れ味を増して名刀を作ったり、土系統魔法で物質を硬化して耐久力を上げたり、光系統魔法で他人の術式に干渉しそれを打ち消したりということは出来ない。


 どんなものにも制限はある。

 それは超常現象を生み出す魔法だとしても。

 その理屈で考えるのなら……


「この転移トラップにもまた、何らかの制限があるってね」


 特にこういう術式を前もって組み込む魔法陣には融通が利かない部分がある。別の機能を求めるなら術式そのものを解体し、書き直すしかないからだ。


「恐らく私達の魔力を強制的に組み上げて、術式を発動させているんだろうけど……これほどの大魔術だ。"射程"にも制限がないとおかしい」


 私はさきほど作っておいた石ナイフで指先を切り、血を流すと地図の上にざっと円を描く。それも私達が転移トラップに嵌まった場所を中心に。


「射程は長くても10キロメートルってところかな。流石にこれ以上の距離を運ぶには使われた魔力量が少なすぎる。加えて、今現在の地点が『深層』であることを加味して考えれば……」


 私は更に描いた円の内側、その中でも『初層』、『中層』と呼ばれるエリアを除外して考える。そうして残ったのは『深層』……つまりは私の現在位置だ。


「……なーんて。一発で判別できれば最高なんだけどね」


 流石にそこまで上手くはいかない。

 絞り込んだとはいえ、まだ候補は幾つも残っている。

 後は現在の地形と、地図の地形を照らし合わせてしらみつぶしに探していくしかない。まるでパズルのピースがぴったり嵌まる場所を探すかのように。

 まだ先は長そうだ。

 だけど……活路は見えた。


「ふふ……どうやら思ったより早くこんなところとはおさらば出来そうだね」


 上機嫌に地図をたたみ、私は歩き出す。

 迷宮攻略篇の終わりも近いと、そう信じて。






 だが……このときの私はまだ知らなかったのだ。

 この時点ですでに、私は一つの大きな勘違いをしているということを。

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― 新着の感想 ―
馬鹿だからなぁ…… 地上に戻っても裏切った可能性のある師匠の所とかにホイホイ行きそう ポジティブという名の馬鹿だから……
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