第53話 女子三日会わざれば刮目して見よ
《経験値が一定基準に達しました。レベル上限を解放します》
《レベルが一定基準に達しました。スキル『変身』を解放します》
お? 何だ何だ。なんか今までとは違うパターンで来たぞ?
レベルが上がるとスキルも獲得出来るのか。ほほう……それは良い事を教えてもらった。
まあ、まずは何はともあれステータスの確認かな。
【ルナ・レストン 吸血鬼
女 9歳
LV5
体力:182/182
魔力:4879/5470
筋力:312
敏捷:372
物防:290
魔耐:210
犯罪値:212
スキル:『鑑定(79)』『システムアシスト』『陽光』『柔肌』『苦痛耐性』『色欲』『魅了』『魔力感知(17)』『魔力操作(63)』『魔力制御(24)』『料理の心得(12)』『風適性(19)』『闇適性(23)』『集中(10)』『吸血』『狂気』『再生(8)』『影魔法(10)』『毒耐性(5)』『変身』】
ふむ、ステータスの伸びは今まで通りか。
それなりに熟練度も上がっているし良い感じ。
だけど……あれだけ戦ってまだ魔力が4800も残ってるとか鬼かよ。どんだけスタミナあるんだか。再生やら影魔法やらでどんどん魔力使ってたはずなのに。
まあ、一般人が100前後であることを考えれば使いすぎってくらい使ってはいるんだけどね。それでも分母がでかすぎるせいで、いまいち消費している実感がない。
後は……そうだ。新スキル『変身』に関しても調べておかないと。
【変身:変身できる】
はい、いつもの不親切設計どーもでーす。
ったく……鑑定は便利なんだけど、ここんところだけ何とかしてくれないもんかね。
《スキル『鑑定』の熟練度が一定基準を超えました。詳細情報を追加します》
……お?
え? 何、このタイミングで? まさかの願ったり叶ったり? 熟練度……ああ、そうか。今確認してみたらやっぱり鑑定の熟練度が80になってたよ。
これまで20刻みで機能が拡張されてきてたからね。そろそろ新機能が実装される時期だと思ってたんだった。最近は熟練度が伸び悩んでいたからすっかり忘れていたよ。
さてさて、では一体どう変わったのか……試させてもらおうっ!
【変身:吸血鬼の種族スキル。魔力を消費し、体の一部または全身を別生物に変身させることが出来る】
お、おおっ!?
鑑定が、鑑定が……出来る子になってるっ!
すごい……今までの不親切説明から遥かに進歩してやがる。これは使える。使えるぞ! もう文章を読むだけでこのスキルの使い方がほとんど分かってしまうくらいだしね!
使うには魔力が必要。
変身は体の一部だけでも可能。
変身できるものは生物に限定される。
大切なのはこの辺かな?
いきなり全身を変身させるのはちょっと怖いし、まずは一部分から変身させてみようかな。となると、問題はどんな生物にするかだけど……うーん。やっぱり吸血鬼って言ったらアレかな?
よし……やってみる!
「むむむ……」
右手を差し出すように広げ、左手はイメージを強化するため額に。
傍から見ればかなり痛い人のポーズだ。
だけど、そんなポーズを取った甲斐もあり……私の右腕はバタタタタッ! と羽音を奏でながら宙へと飛び上がった。
「おおっ!」
私がイメージした生物。
それは蝙蝠だ。
やっぱり吸血鬼の眷属と言えば蝙蝠だよね。
完全に体から分離させられるかどうかだけちょっと不安だったけど、成功したようで何よりだ。
(ふむ……どうやら私の体以上に大きい生物にはなれないみたいだね。蝙蝠の数も失った体に比例しているし。変身スキルにも限界はある、か)
加えてどうやらこのスキル、案外魔力消費が大きい。
スキルも魔法や魔術と同じ魔力を元に動いている以上、元の魔力性質に依存する。つまり、スキルにも向き不向きがあるということ。そしてこの『変身』というスキルを効率よく使うには『変異』を司る火系統の魔力性質が必要なのだろう。
私の場合は火系統にそれほど適性がないから、それに関連して消費魔力も増えてしまうんだろう。水とか光に比べればまだ適性あるほうなんだけどね。
そういう事情もあり割とミニサイズの蝙蝠に『変身』したのだが、右腕の肘から先程度の肉体では3、4匹程度に分離するのが限界だった。肩まで変身させれば一気に倍に増えるところを見るに、総体積は増減できないらしい。
これも一つの制約。
つまり龍とか、虎とかにはなれないって事。
今の私のサイズを考えるに、変身出来たとしても小動物くらいがいいところだろう。うん……微妙に使えないな。このスキル。
変身したところで、今の私以上に強い生物になれないのなら正直言って死にスキルだ。もちろん、細い道を通れるようになるとか使えるには使えるんだろう。だけどなあ……あっ!!!!!
違う! 違う違う! 私は馬鹿か!
このスキルがあれば……凄いことが出来るじゃないか!
まずい。そうと決まればこんなところでのんびりしている場合じゃない!
その『事実』に気付いた私は踵を返し、元来た道を走り出す。
新スキル『変身』。それはとてつもない可能性を持ったスキルだと、遅れながらもようやく私は気付いたのだった。




